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第5話 出発

ちょっと長くなりました。




 俺たちはこの神殿のような空間を出た。


「どゆこと?」


 クレアが言った。

 他の二人もポカンとしている。

 何が何だか理解出来ていない顔だ。


「インフェルノ様、これはどうゆうこと?」


 クレアはドラゴンの方を振り返った。

 他の皆もその方向へ振り返る。


「はっはっはっはっ。良い反応である。我は暇であったからな、寝床を拡大していたのだ。これで民を他の島に避難させる必要はなかろう。

 はっはっはっはっ。」


 なるほどこの空間はそう言うことだったのか。

 見た目は厳ついが、温情なやつなのかもしれない。


 それにしてもこの空間を作り出すのは凄まじい。


「フッ。すごいな。」


 アリスが呟いた。


「ははは。それは素晴らしい。きっと民は喜ぶことでしょう。」


 ザックが言った。


「この空間真っ暗だけど。その辺は大丈夫なのか?」


 俺はドラゴンに聞いてみた。


「真っ暗だが、それがどうかしたのか?」


「え?光は?」


「ん。なるほど。考えておらぬかった。はっはっはっはっ。我は百年近くここにおったからそんなこと忘れていてもしょうがなかろう。」


 皆が呆れた顔をしている。


「まぁ良い。いずれ使える時が来るかもしれぬ。光などどうにかなるであろう。」


 空なんか作れる能力あるのか?

 でもこの世界にはありそうな気がする。

 そんな予感が俺にはした。


「フッ。まぁいい。行くぞ。」


 アリスが言った。

 俺はその後について行く。


 やはりこの空間は広い。

 薄暗い空間が遠くまで続く。

 最奥までは見ることができない。

 俺達は歩き続けた。


 なぁイリス、こいつらの魔素量はどうだ?


 《名称クレアの魔素量はマスターの現在と同程度。名称アリス、名称ザックの魔素量は隠蔽のため確認できません。》


 クレアは俺と同程度の魔素量なのか。

 じゃあ、こいつが王になればいいじゃん!


 《問題ありません。》


 問題大ありだわ!

 何が問題ないんだ。


 《すみません。よく分かりません。》


 いや、そこはちゃんと答えろよ!

 おいs〇ri!


 《私の名称はイリス。名称s〇riではありません。》


 知っとるわ!

 こうなったらオーラとはなんぞやを直接聞いてみるしかない。


「なぁインフェルノ。」


「どうしたのだ。」


「オーラってなんだ?」


「オーラか。そうだな、我が感じる存在感というか、凄さというか。そんなとこだ。」


「つまり?」


「直感だ。」


「は?」


 おいおい、直感だと!?

 直感で俺を魔王なんかにしたのかこいつは……


「まぁそう怒るでない。この感はちゃんと経験値を積んでおる。伊達に長い間生きておらぬ。そう気にすることでもない。そなたは王にふさわしき者よ。」


 そう言われて俺は悪い気はしなかったが、自分にその資格があるのかやはり分からない。

 まぁ王になってしまったものは仕方がない。

 だが死ぬ事のないように気をつけよう。


 くそ…… やはり魔王なるべきでは……

 でもならなかったら魔王契約とかで世界が破滅。

 あぁぁぁぁ。

 せっかくの二度目の人生がそんな終わり方は嫌だな。


 もうなったことはしょうがないんだ、俺よ。


「まぁ分かった。すまん。」


「謝ることは無い。」


 その後は無言が続いた。

 時間がたって、階段がある所まできた。

 ドラゴンはここでお留守番らしい。


「では行ってくるが良い。」


「行ってくる。」


 そう言って俺は三人の守護者と共に階段を上がった。





 ------





 長い階段を登り終え、入口の大きな広間を通り、俺が入ってきた大きな扉を開け、外に出た。

 ザックはどこから持ってきたのか知らないが、茶色の皮のカバンを持っている。

 空は明るく、太陽の位置的に、もうすぐで昼ぐらいの時間のようだ。


「そうか。」


 アリスが呟いた。


 こいつがフッって言わなかったのはこれが初めてか?

 まぁそんなのどうでもいいが、まぁ確かに目の前の景色は、彼らには受け入れ難いだろう。

 彼らの城下町は破壊されてしまっているのだから。


「…………」


 クレアとザックは無言のまま、歩き始めた。

 俺はその後ろをついて行く。


 このまま無言では俺も元気を失いそうだ。

 何か喋らないと……


「そのケイオス街ってのはどうなんだ?」


 俺は質問をしてみた。


「ケイオス街というのは、ここ魔人の国とアーケド帝国に挟まれた街であるよ。」


 ザックが答えた。


「そこは国ではないのか?」


「国ではない。そこは冒険者のたまり場のような所だ。東の山脈付近はよく魔物が出現するのだよ。冒険者はそれを討伐して賞金を稼ぐってことだ。」


「魔物っていうのはなんだ?」


「そんなことも知らないの?」


 クレアが言った。

 そして呆れた顔をした。

 俺はまだこの世界の知識は赤ちゃんレベルだからしょうがないじゃないか。

 俺はこの世界に来たばかりなんだよ!

 と叫びたいがこれはまだ秘密だ。

 我慢我慢。


「すまん。何も知らないんだ。」


「それは重症ね。」

「それは重症だな。」


 クレアとアリスがハモった。

 そんな言葉でハモらないで。


「あのね魔物は知性がない生き物よ。だいたいは食用とかにされるわ。あとは毛で服をつくったり、硬い皮膚は防具になったりするわ。」


「やはり魔物の食料と言ったらビックブルだ!あれは美味しい。」


 いきなりアリスが元気になった。

 俺を見つめている。

 こいつ食べ物が好きなのか?


「そ、そうか。それはどんなやつ?」


「そいつはでかくて角が二本ついてる魔物だ。そいつのステーキは最高だ。くそっ。早くそいつを食べたい。」


 唇を噛み締めている。

 あ、こいつ飯大好き女子か。

 なんだそれ。


「いや、私はクイッククラブの方が良いな。」


 ザックが言った。


「それはどんな?」


「捕獲するのは困難。硬い甲羅が身を包んでいて足が十本ある魔物だ。その甲羅の中にはぷりぷりの肉が詰まっていてそれはもうたまらんよ。」


 今こいつの顔、偏差値1みたいな顔して頭がぽわぽわしている。

 あー、これは牛と蟹か?

 多分そんな気がする。


 この二人ほんとに幸せそうに話するな。

 元気になったようでまぁよかった。


 クレアは呆れたような顔で彼らを見ている。


「はぁ。ほんとあなた達は食べることが好きね。」


 俺はこんな話を聞いていたら久しぶりに食べ物を食べてみたくなった。

 この世界にも美味しい食べ物があるようで安心した。

 しかし俺は、食べることを必要としない生物。

 つまり食べることは意味が無いこと。

 だから俺はご飯が食べれない?

 しかも俺には鼻がない。

 つまり料理のいい匂いがかげない!


 《食べるという行為は可能です。》


 お、まじか!

 それなら安心だ。

 匂いはないが味は堪能できるだろう。

 さらに人間の街へ行くことが楽しみになった。


 アリスは牛。

 ザックは蟹。

 クレアの好きな食材は何なのか気になった。


「クレアは何が好き?」


「私?そうね。皮肉にもそこの彼女と同じかしら。まぁバランスがいい料理ならなんでもいいわ。」


「フッ。貴様は私と同じか。よかろう。」


「何で、あんたの許可がいるのよ。」


 こんな性格だけど、料理のバランスを考えるやつなのか。

 以外と真面目なのか?


「バランス重視なんていが……」


 鋭い視線と殺気を感じた。


「何?馬鹿にしてるの?」


「いや、何でもないです。」


 こぇーー。

 超こぇーー。

 機嫌を損ねる発言には気をつけよう。




 それから俺たちは歩き続けた。

 だがずっと景色が変わらない。


「おかしいわね。」


「あぁ。これはおかしいね。」


「これはおかしい。」


 三人が全員異変を感じている。

 俺は全く何も感じないのだが。

 ここら辺が全部森だということは散々知っている。


「どうしたんだ?」


「魔物がおらんのだ。」


 ザックが答えた。

 この土地は範囲結界で守られているから生き物がいないのは当たり前じゃないのか?


「結界で守られてるから生き物がいないってインフェルノが。」


「今なんて言った!?」


 三人が同時に聞いてきた。


「だからこの国を覆うぐらいの結界がはられてるって。」


 それを聞いた三人はさらに青ざめた。

 え、これ知らなかったの?

 めちゃくちゃ大事な事じゃないのか?


「フィーラ様はそんな巨大な結界を……それは素晴らしい。とても素晴らしい。しかし今の私達にとっては大変な障害になります。」


「フッ。盾の勇者とは私の想像以上のものだったということか。さすがフィーラ様。」


「結界は素晴らしいけど、今の私達はピンチだわ。食料がないのだもの。」


 俺は食料は必要ないから大丈夫だ。

 フィーラにはちゃんと様をつけているのが気になるが、こいつらにとっては本当に大ピンチだ。

 こいつらも周囲の魔素で何とかならないのか?


「周囲の魔素ってやつじゃダメなのか?」


「それは知ってるのね。確かに魔人にとって魔素はエネルギー摂取の一つ。人間も多少は取り入れて生きているわ。まぁ生命の源のようなもの。だけどそれだけじゃ生きていけない。魔人が魔素だけで元気に生きられるのはせいぜい七日程ね。」


 何も食べず七日ももつのか。

 魔人の生命力は人間よりはるかに高そうだ。


「なぁ。どれくらいでケイオス街につくんだ?」


「このペースだと十日はかかるね。」


 ザックがドヤ顔で言った。

 君達死亡じゃん。


「うん。それはやばい。みんな走ろう。」


 三人はコクッと頷き、共に走り始めた。




 俺の体は前世の自分と比べ物にならないくらい身軽だ。

 目の前には大自然が広がる。

 木と木の間をすり抜けるように走る。

 風を感じる。

 木が俺の横を次々と通り過ぎていく。

 この感覚、この疾走感はたまらない。

 はまりそうだ。


「このペースだと五日ほどで着きそうだ。今日は日が落ちるまでこの速度で行こう。」


 ザックが言った。


「分かった。」


 俺は走り続ける。

 目の前に木が倒れていても華麗にジャンプしてかわす。


 だが隣の女性二人は違うようだ。


「あぁ、もう鬱陶しいわね。」


「フッ。邪魔だ。」


 シュキン


 二人とも腰に身につけていた剣を引き抜いた。

 そしてクレアは目の前の木を切り刻み、アリスは軽々と一振で障害を粉砕した。


 こいつらめちゃくちゃだ。

 真顔でやるからもっと怖い。

 おっさんは俺と同じように華麗にかわしている。

 おっさんはまだマシな人で良かった。

 少し安心した。


「はあああっ!!」


 隣でアリスは木をバシバシ切り倒しながら進んでいっている。

 そのせいでいろいろな方向に木が倒れる。

 もちろん俺の方にも。


「バカ! やめろ! こっちに木を倒すな!」


「フッ――」


 悪い笑みを浮かべた。そして、


「はあああ!!」


 そのまま勢いはおさまることなく彼女は切り倒し続ける。


「おい、何がフッや!」





 俺たちはそのままその勢いで走り続けた。

 そして日が落ち、辺りが暗くなってきたので休憩をすることにした。小枝と落ち葉を適当に集め、そのまわりに、座るのにちょうどいい丸太で囲った。


「疲れた。」


 肉体的な疲労はないが精神的に疲れた。

 其れは何故か、もちろん隣の女性二人のせいである。特にアリス。

 クレアよりマシだと思っていたが、ただの勘違いだった。


 俺は後ろを振り返る。

 そこには、奥まで一直線に木がなぎ倒されている景色があった。

 ここまでくると、逆に凄い。


「アリスは凄い怪力だな。」


「フッ。褒めても何も出てこないぞ。」


 ぜんぜん褒めてないっつーの。

 褒めてないと叫びたかったが、疲れていたので辞めた。

 もう気にするのはやめよう。気にしたら負けだ。

 俺は空を見た。

 オレンジ色を通り越し、もうほとんどが紫色だ。


「どうした。空なんか見つめて。疲れているのか? 私の膝に横になるといい。」


 膝をポンポンと叩きながら、微笑みかけている。


 ん? 

 何か不思議な言葉が聞こえたのだが。

 私の膝? 

 今の一瞬で別世界に移動したのか俺?


「褒美はないと言ったが、撤回しよう。ほら、ご褒美だ。」


 膝をポンポンとしている。


 これは現実か?


 俺は辺りを見渡す。

 後ろにはなぎ倒された木々。

 丸太に座る三人の守護者。

 うん。何も先程と変わりのない景色だ。


 ここはやはり現実世界だ。

 じゃあ、こいつはまじで何を言っているんだ?

 頭のネジがいきなり外れたちゃったか?


 いきなり膝枕とかどういう展開だよ。


「アホか。」


 俺はそっぽを向いた。

 ほんとに訳が分からない。

 こいつの思いどうりにされるのはごめんだ。


 別にちょっと可愛いと思ったとか、照れたとかでは無いからね!


「フッ。照れているのか? 可愛いやつだ。」


「あんたちょろいわね。」


 クレアが言った。


 照れてないっつーの。

 くぅぅ……なんか悔しい。


「うるさい。照れてない。」


 他に言い返す言葉は出てこなかった。

 俺は疲れているのだ。

 もうこれ以上相手をしていたら禿げそうだ。

 髪があったら。


 だから俺は気持ちを切り替えた。

 辺りはもう暗い。

 ザックは落ち葉を広い集めている。


「火を起こすのか?」


「その通りだよ。」


「どうやって?」


「それは私に任せなさい。」


 そう言って、拾った落ち葉を持ってきて、俺たちの中心に置いた。


点火(ファイア)。」


 そう言うと、目の前の小枝と葉が燃えだした。


「ま、魔法!?」


「そう魔法だよ。」


 これが魔法か。

 というか、この世界には魔法があるのか! 

 能力もあって魔法もあって…… まるでゲームとかマンガとか小説とかの世界だな。


 いいじゃないか、最高じゃないか。


 ん、待てよ。俺は魔王だ。ゲームとかで言う勇者の敵、ボスキャラだ。


 勇者にいつか駆逐されるのかな。

 やっぱ魔王なんかになるんじゃなかったー。

 逃げたいなー。

 でも逃げ出したら世界は終わりかー。

 普通のモブキャラとかに転生したかったなー。


 やぁ、兄ちゃん。今日は何の用だい?


 とか、もうその言葉だけしか喋れなくていいからさ、危険の少ないところに住みたいよ。

 そんなただの一般市民の商人が、影で魔法を習得していって、だんだん最強になってって、遂には魔王を打ち負かす! の方が燃えるなー。


 まぁそんな妄想はやめよう。


 そんな妄想の世界から俺は抜け出し、ザックの顔を見た。

 ドヤ顔である。

 うん、魔法凄かったからそのドヤ顔は許そう。


 魔法は使えればとても役にたつだろう。魔法を習得できるならしておきたい。


「魔法って便利だな。俺にも使えるか?」


「もちろん君なら魔法を習得できるでしょう。城に魔法書があったはずだ。それをまず読んでみるといい。」


「なるほど、分かった。」


 魔法を理解できるか心配だが、帰ってから魔法を習得することにしよう。


「次はテントを立てる。手伝ってくれないかい?」


「いいよ。けどそのテントは?」


「それも任せたまえ。」


 彼の皮のカバンから大きな布を取り出した。


「そっちを持ってくれないかい。」


 木にロープを結んだり、ロープとロープを結んだり、布をはったりして、言われたとうりテントを組み立てていくとできた。

 三角錐のようなテントだ。

 それを二つ作った。


「炎を見ていたら眠たくなってきたわ。」


「ふむ。私もだ。」


 女性陣は眠たそうだ。

 確かに炎を見ていたら癒される。

 だけど俺は睡眠は必要ない体なのだ。

 故に眠気はない。


「――私も寝るとしようか。無駄なエネルギーの消費は避けたい。」


「魔物はいないんだし、見張りはいらないわよね。

 じゃおやすみなさい。」


「私もおやすみ。」


「おやすみだ。」


 クレアとアリスは左側のテントへ、ザックは右側のテントへ入っていった。


 俺は取り残された。

 このまま俺だけ眠らないのは不思議に思われるだろう。


「じ、じゃあ、俺もおやすみ。」


 俺も右のテントへ入った。

 地面には布をしいてある。

 その下が芝生のおかげでふかふかだ。

 案外気持ちいい。

 だが真上はテントで夜空の星々が見えない。

 俺は少しテントから頭を出し景色を見た。

 こんな景色は前世では見られなかっただろう。

 周りに光が少ないおかげでよく星が見える。

 俺はそれを見ながら夜明けを待った。






 一番に起きたのはクレアだった。

 やっぱ案外こいつ…… クレアが起きたので俺も起きた。


「あら、おはよう。はやいのね。」


 彼女は立って体をぐーっと伸ばしている。


「おはよう。クレアもね。」


 テントがゴソゴソした。ザックが起きた。


「おはよう。」


 アリスはと言うと、綺麗に真っ直ぐな姿勢で気持ちよさそうに寝ている。


「――彼女はなかなか起きないから待とう。」



 俺たちのテントを片付け、彼女が寝ているテントの屋根の布も片付けた。

 もう十分明るいが、アリスは目を覚まさない。


「おーい。朝だぞー。」


「スー。スー。」


 うん。起きない。


「おーい!」


「スー。スー。」


「起きろ!」


「んぅ……起きたぞ。」


「もう朝だぞ。行くよ。」


「んぅ……」


 少しだけ体を起こした。


「ちょっとまt……」


「おいまた横になるな!」



 アリスを起こし、最後の布をカバンにしまい出発することにした。その頃にはアリスは元気を取り戻していた(強気な女性に戻った)。


「フッ。では行こう。」


 はいはい、また昨日のやつね。

 今日も彼女が通った場所は木が倒れている。

 もう何も言う気は起こらない。


 それから俺たちは走り続けた。


 二日目は途中に池があり、顔を洗ったりした。俺はお面を顔のように洗った。女性陣に変な目で見られたのは言うまでもない。


 三日目はついに結界の境目まできた。山脈の手前までが結界で覆われていた。その境目付近にテントをはり、明日に備えた。


 四日目は結界をぬけ、ついに魔物と遭遇した。


「ふむ。あれはジャイアントアントだ。」


 ザックが言った。


 つまりこれはでかい蟻だ。



 《名称ジャイアントアントの記録を保存します。完了しました。》


 イリスは魔物の姿と名前を記録しているらしい。


「フッ。こんなもの障害にもならない。」


 彼女が振るった剣で、ありさんは真っ二つになった。

 仲間がやられて怒ったのか、奥からまたしてもありさんがやってきた。


「あんたのせいでいっぱいきたじゃない。」


「上等だ。」


 六七匹の群れへ突っ込んでいくアリス。

 ありさん達は、ぶっ飛ばされ、真っ二つにされ、とにかくめちゃくちゃにされている。


「なんだかありさん達が可哀想。」


「ありさん?」


 クレアが言った。


「ん? ジャイアントアントが可哀想。」


 名前が長いな。


「確かにこの景色を見るとな。だが、市民にとって魔物は恐ろしいものだ。あのジャイアントアントも人に危害を加える魔物の一種だ。」


 ザックが言った。


 確かにあの大きさのありに一般人が襲われたら怖いに違いないだろう。

 前世はありに噛まれてプクっとはれる程度だが、この世界では噛まれたら腕を噛みちぎられそうだ。


「アレン、終わったぞ。」


 そんなことを話していると彼女が戻ってきた。


「おつかれ。ありがとな。」


「フッ。これくらい私に任せるがいい。」


 アリスはありさんと戦えて満足そうだ。

 戦いと言っても一方的であったが。


「まだ終わってなさそうよ。」


 クレアが目を向けた先には巨大な魔物がいた。

 目が八つあり、足が八本ある。

 めちゃくちゃ蜘蛛だ。

 こちらをじっと観察している。


「これは珍しい。デススパイダーだ。」


 ザックがなんか言っている。

 ん? 

 デスだって? 嫌な名前なことだ。


「怖い名前だな。」


「これは魔物の中でも上位種と言ってもいいだろう。」


「これはまずそうだな。」


 アリスは食べることしか考えていないのか?


「だがアレン。私に任せろ。」


「ちょっとまって。私もやるわ。」


 こいつら戦闘狂すぎだ。

 まぁやっつけてくれるならありがたいけど。


「フッ。一人で十分だ。」


「あんた一人だけずるいわ。」


「……しょうがない。」


「君たち待ちなさい。私も参戦する。」


 ザックも戦闘参戦の意思表示をした。


「まぁいいわ。三人も必要ないでしょうけど。」


「……しょうがない。」


「じゃ行くわよ。」


 三人はデススパイダーに向かってはしって行った。

 デススパイダーの戦闘能力は分からないが、あの三人にかかれば倒すことができるであろう。


 だがそんなことはどうでもいい。

 俺は一人置いていかれた。あの三人は俺の守護者だ。だが、今、周囲360度誰もいない。

 いったいどうゆう事だ? 

 何が俺を守るだ。

 みんなただの戦闘狂じゃないか! 


 あんな美しい顔をして倒れていたフィーラはいったいどんなやつだったんだ? 

 フィーラも本当はこいつらと同じ性格の持ち主だったのか…… 


 いやいやいや、あんな美しい女性がこんな性格のはずがない! 

 俺はそんなことは認めないぞ。

 あの美女は間違いなく、清楚で思いやりがあって笑顔が可愛い女性のはずだ。


 いやまてよ、よく考えればフィーラは盾の勇者だ。

 つまりフィーラが防御役で、こいつらが攻撃役だったということか。


 でも、なぜこんな戦闘狂を守護者にしたのかは理解し難いが…… あぁもういい! 


 けど一個わかった。

 俺らのパーティーには俺を守るやつがいない! 

 これはダメだ。

 俺が死ぬ。

 勇者に駆逐される!


 はやめに俺を守ってくれる防御役の子を見つけなければ……


「はああああ!」


「フンッ。」


 デススパイダーと戦っている。

 クレアが一瞬にして足を切り落とし、ザックが魔法で蜘蛛を燃やし、アリスがとどめに頭を切り裂いた。

 魔物の上位種が三人にこてんぱんにされた。




 うん。早く防御役の子を……










 俺達は走り続けた。

 それからもいろいろな魔物と出会ったが、全て三人が片付けた。

 何度か俺の周囲から人が消える謎の現象が起きたが、戦いが好きな奴らだからしょうがないと諦めた。

 そもそも俺を守れというのは烏滸がましいと、そう思い始めた。

 だが、防御役がいないのはパーティーとして不安だ。


「今日はここら辺で休もう。」


 ザックが辺りを見渡し言った。


 山の山腹ら辺で今日は早めに休むことになった。

 この山は標高が高く、頂上は雪が積もっているため、休むことが難しいらしい。

 明日は一気に山を越えて、ケイオス街に行く予定だ。


「今日はここまでか。」


 後ろから魔物のクロコダイルを片手で引きずりながらアリスがやってきた。


「今日は食料があるので食事にしよう。」


 ザックが言った。


 ワニの丸焼きでも食べるのかと思ったら違った。

 皮のカバンから調理器具と調味料を取り出した。

 ナイフでワニを解体し、一口サイズの大きさに肉を切る。

 フライパンに魔法で火をつけ、そこに油を引き、十分に温まるまで待ち、温まったらそこに切った肉を入れる。

 一分半ほど焼いたら肉をひっくり返し、反対側も一分半ほど焼く。

 調味料の、塩、コショウを取り出し、適量をまぶす。


「はい、召し上がれ。」


 めちゃくちゃ美味しそうなのだが。


「んぅ〜。いい匂いね。」


「いい匂いだ。いただくぞ。」


「私もいただくわ。」


 俺は鼻がないから匂いがしない。クソ。早く身体情報を得ないと。


 《フィーラの能力を受け取る際、身体情報を得ることができると思います。》


 そうなんだったら、フィーラから能力貰えば良かったか? 

 こいつらからは得られないのか?


 《身体情報を得る際、体の組織を分解する必要があります。》


 体の組織を分解? 

 イリスはフィーラをどう扱うつもりなのだろうか。

 恐ろしい応えが返ってきそうなので、それについては聞くのはやめた。


 それはつまり死んじゃうってことか?


 《その通りです。》


 それはいけませんね。

 嗅覚を得るために人殺しなんかはしたくない。

 ここは我慢して味を楽しみましょう。


「いただきます。」


 俺はフォークで肉を食べた。


 もぐもぐもぐ…… ん? 

 もぐもぐもぐもぐ…… ん?   



 味がしないんだが。

 いや、え、どゆこと? 


 《食べるという行為は可能です。》


 え、それそう言うこと? 


「どうだね? クロコダイルのステーキは?」


 ザックに聞かれたが、俺は素直に言うことにした。


「俺、味覚がないみたい。」


「なんだと?」


「それは重症ね。」


「それは重症だな。」


 うん、これは重症だ。

 なんでこんな美味そうな料理が目の前にあるというのに…… 

 イリスの嘘つきだ! 嘘つきだ! 

 ご飯を食べるの楽しみだったのに……


「なら貴様が食べるのはもったいない。」


 そうアリスに言われた瞬間、俺の皿の上にあった肉が消えた。

 正確に言うと高速でアリスの空の皿と入れ替わったのである。


「すまん。ちょっと散歩してくる。」


 俺は皿を置いた。


「あらそう。」


 俺は彼らがいる場所の周辺を散歩することにした。もう薄暗い。

 夜の山は不気味で奥に吸い込まれそうな感じがする。

 俺は楽しみにしていたものが失われたこの虚無感を落ち着かせたい。

 俺は野原に座った。

 後ろに手を付き空を見る。

 木々の隙間から月が見えた。


「地球と変わらないな。」


 そんなことを思っていると……


 ドスン、ドスン、ドスン


 奥からこちらに何がやってきている音がする。

 魔物のジャイアントアントだ。

 本日二度目の遭遇だ。


「魔物かよ。」


 俺は今、無気力だった。

 ジャイアントアントはこちらに近づいてきている。


「イリス。どうにかできるか?」


 《肯定。攻撃体勢に移行。マスターのサポートを行います。》


「俺も能力の使い方に慣れておかないとな。」


 俺は重い腰を持ち上げ、立った。


 そして、能力「金属操者」で片手に剣を現出させた。


「――やるか。」


 地面を蹴る。

 その一蹴りで俺は急激に加速した。

 砂煙が上がる。

 一瞬にして、ありの目の前まで到達した。

 ありは俺を遅れて視界に入れ、動作をおこそうとしている。


「遅い。」


 俺は剣を振りかざした。

 ありは自身が切られたという自覚が起きないほど刹那の時間だっただろう。

 ありは綺麗に真っ二つに割れた。


「なるほど。こういうことか。」


 俺は夜暇で、みんなにバレないように、能力を使いこなす練習をしていたのだが、実戦は初めてだ。

 イライラが、少しだけスッキリした。

 ただの八つ当たりだが。


 まぁ、気持ちは少し良くなったのだ散歩して正解だ。そうして俺はみんなの所へ戻った。







 五日目の朝が来た。

 今日で街に着く予定だ。

 俺達は食料を確保できたが、早く街で休みたいという総意でこのペースで進むことにした。

 ザックが言った通り、山頂付近は雪が残っている。それを越え山を下り、野原に出た。


「ついにだ!」


 遠くに街が見えた。


「もうすぐだな。」


「早く休みたいわ。」


「早くご飯を食べたい。」


 俺は人に会いたい。


「ここからは人間がいる。あまり目立たないように歩いて行こう。」


 ザックの言うとうりだ。


「分かった。」


「フッ。その必要はない。」


「ダメだ。」


 三人が口を揃えて、アリスの肩をつかんだ。


「ムッ。仕方ない。」


 俺達は歩いてケイオス街に向かった。











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