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第3話 魔王と勇者

 どれほど歩いただろうか。

 この空間は暗く、洞窟ですごしていた俺でさえ先までは見えない。

 ドラゴンはどしどしと歩いている。

 一歩が大きいからずるいのだ。


 そんなことを考えていると。


「ついたぞ。」


「いや、何もないのですが。」


 そう言葉を発したが間違いであった。

 突然目の前に巨大な円形の魔法陣が現れたのだ。

 魔法陣のよく分からない文字がゆっくりと回転している。

 するとそれは眩く光った。


 次の瞬間目の前にまた空間が現れた。


「入るがよい。」


 つれて行かれた先は巨大空間の最奥地だったのである。

 そこには別の空間が広がっていた。

 大理石がふんだんに使用され、両脇には石柱がずらっと並んでいる。

 まるで神殿のようだ。


 その部屋の中心の台座に、白い布をまとった美しい金髪の女性が横たわっていた。

 首には青色の宝石のついた首飾りをつけている。


 俺は今の状況が全く理解出来ていなかった。


「この女性はどなたですか?」


「この方はこの地の女王であった者ぞ。また元勇者でもあった。だが既に死んでおる。」


「え……」


 俺はこの女性が死んでいるとは思わなかった。

 気持ちよく寝ているように見える。

 イリスはわかっていたようだが……。

 教えてよ!


「もう助からないのですか?」


「あぁ。もう助けることは出来ぬ。この様に美しいままの姿だが、既に百年はたっておる。魂もとうの昔に消え去っておるのだよ。」


 話の流れ的に、女王を助けてくれー! 

 って感じかと思っていたのだが違うみたいだ。


「なぜあなたは俺をここにつれてきたのですか?」


「まぁまて、それはある日の事であった。」





 ------






 魔人の国、ダンタルテ王国は魔族の代表として最前線で、東の山脈とケイオス街を越えた先にあるアーケド帝国と戦争をしていた。

 今現在もこの戦争は継続されている。


 魔王は本来、最前線に出向かず、あらゆる指示を出すために王座に座っているのだが、その日は前衛が突破された箇所があったため、体勢を立て直すために魔王自らが剣を振るったのだった。


 そして彼は、美しい女性を抱えて城に戻ってきた。

 その女性は金髪でとても美しい。

 その美しい顔に、着ている甲冑はどうも似合っていない。


「今日からこいつは俺らの仲間だ。」


 そう言ってきたのは魔人の王、アーヴァイン・ヴォン・ダンタルテその人だった。

 綺麗な長い髪が腰ほどまで伸び、凛々しい顔がある男だ。

 一見若造にも見えるが、実際は長くこの地に安寧をもたらした人である。

 我は王の友であった。



 そうは言っているが、その女性から感じられるオーラは異彩を放っていた。

 その女性から放たれているとは思えないほどの膨大なオーラだ。

 胸にある甲冑の紋章に目がとまった。

 それは古き時代の勇者の紋章であった。

 その宝具を身にまとえる者は、勇者のみ。


 つまり……


「その者は勇者ではないか!」


 我はその時が今までで、最も驚いた時かもしれん。


「あぁ。そうだとも。わっはっはっは。こやつはな、独り身で俺にかかってきやがったんだ。

『あなたは、何故人間と敵対するのか』

 って聞いてきたから、自論を述べたのだ。そしたら、『私は間違っていた。そなたに我はついて行く。いや、ついて行かせてください』

 ってな。わははは。で、つれてきたのだ。」


 いつも元気な王だが、今日はいつも以上に元気であった。


「勇者などとは危険だ。罠かも知れぬぞ。」


「殺気はないから大丈夫だろ。わはは」


 確かに殺気は見えない。

 勇者とあれば、我らの首を経つもの。

 それが何故……


「お主はなんと彼女に言ったのだ?」


「俺は人間と敵対しているのでは無い。

 お前の王と敵対しているのだ。敵対する故は、追い求める理想が異なるからである。

 お前の王の理想は、人類が地上を支配し平和となること。

 俺の理想は、知性あるものが協力関係を築き、平和となること。そこには人間もいる。この道に続く人間が現れることを信じている。

 だが思想が異なる者は、いずれぶつかるもの。俺達、魔人にも、お前達人間のように、家族があり。友があり。街があり。国がある。生きているのだ。

 俺はこの民を守る。それ故に俺は王を倒す。それ故に俺はこの道を正す。

 ってな。わははは。

 彼女は最初から心に迷いがあったようだからな。響いたのではないか?わははは。」


「お主らしい理想であるな。昔から変わっておらぬのう。ははは。」


 その昔からの考えは、我も共感していた。この地に一種のみが生きるなど、退屈に間違いない。


「ところで、なぜ彼女は気絶しておるのだ?」


「よくぞ聞いてくれた我が友よ。わははは。

 彼女がな、

『そなたの理想は正しい、私は魔人は悪であると、人の脅威であると教わった。だが、実際に戦場を前にして魔人も、人と同じく恐怖していた。まるで人間のようだった。そこから私は自分に迷いが生まれた。そして今確信した。私は間違っていたと。だが、力無き者が理想を語ることは、ただの戯れ。それ故、私はそなたを見極める。』

 って言って、剣をとったのだ。だからボコボコにしてやったのだ。わははは。」


「そうか。(苦笑い)」


「だが、勇者も伊達ではないな。力もそうだが、こやつの治癒力は素晴らしい。怪我は、すぐに元通りだ。まぁ体力は削れてるから寝かせてくるわ。」


 そう言って満足そうに彼女を抱えて歩いていった。


「やはりあやつは面白いやつよ。」


 彼女に対して少し不安はあるが、王を信じることにした。




 次の日、我は彼女の気持ちを知りたく思っておったから、尋ねてみることにしたのだ。

 名前はフィーラ・アレストリア。

 王直属の守護騎士。

 つまり勇者であった。

 王直属の三人の勇者は知っているが、そのどれでもなく、四人目の勇者であった。


 三人の勇者はそれぞれ、弓、剣、槍というそれぞれ得意な武器を保持していた。弓の勇者、剣の勇者、槍の勇者とも呼ばれていた。


「そなたは何の勇者なのだ?」


「私は盾の勇者です。勇者の中で唯一の防御に特化した者です。」


「盾の勇者であるか。何故そなたは我らの側につくと決めたのだ?」


「私はあまりにも相手を知りませんでした。戦場で目にした敵は私たちと何も変わりなかった。

 両者とも、互いが互いに緊張し、恐怖し、生を諦めるもの、生きたいと本願する者、武勲をたてると心に決める者がいました。

 私はその時どちらかが死ぬ必要はないと思いました。共に生きる事ができる道があるのではないかと、互いが互いを認め許せるのではないかと。まさか魔人の王がそのような考えを持つとは思っていませんでしたが。」


 彼女は笑った。


「王家の人とはどうなのだ?」


「私は王家と血は繋がっていません。

 一人で人の地から離れた所で暮らしていた時に、王家のもの達が私を尋ねてきました。

 その者達から、私は困っている人を助けることが出来る力があると知り、私は勇者として、王の側近となりました。しかし、私は表舞台に立つことはなく、城で毎日を過ごすことになりました。王は血が繋がっていない者を嫌っていたからです。

 かと言って、私を野放しにするのは危険だと思い、城に閉じ込めていたんだと思います。ただ、酷い思いをさせられるといったことはありませんでした。

 外に出ることは叶いませんでしたが、城の中は快適でした。

 ところがこの度の戦いは外出できる許可を与えられました。外出と言っても戦場でしたが、そこに私が行くようにと命令がありました。魔人の王が現れたので、私を犠牲にして戦力の情報を得ようと思っていたのでしょう。

 一応騎士達に、剣術の心得は教わっていましたので。」


「なるほど。だから盾の勇者と名が轟いてあるぬかったのか。話してくれてありがとうよ。好きな時に外を堪能しなさい。この付近の自然は美しいことよ。」


「ありがとうございます。」


 彼女は美しく微笑みながら窓の外を眺めた。





 それから彼女は、外への散歩が日課となった。

 また、魔王の手伝いも日課となった。

 掃除、洗濯、料理、まるで家政婦のようだ。

 ずっと城に閉じ込められていたために、家事スキルが磨かれていた。

 いや、磨かれすぎていた。

 彼女の作る料理は美味で、魔王も喜んでいたものだ。

 メイド達は躍起になっていたがな。


  だがそんな日常は、突然崩れた。

 勇者が裏切ったことを知った帝国は、これまで以上の圧力をかけて仕掛けてきた。

 遂には魔王自らまたしても、赴かなければならない状況まで押されていた。


 魔王は、フィーラを戦場には一度も連れていくことはなかった。

 同族同士の殺し合いをさせたくなかったのだろう。


 だから、あの時も勇者を城に残し、最大戦力で戦場へ向かった。


 我は、魔王にこの地の防衛を任された。

 それから、フィーラとアリスをよろしく頼んだと。


 アリスの本名は、アリス・ヴォン・ダンタルテと言い、養子としてこの城に来た子供だ。


 我は、この二人とメイド達とで、王の帰りを待っていたが、それから二度と王達はこの城に帰ってくることはなかった。



 その戦いは、第三次人魔大戦と言われ、両者とも深い痛手をおった。

 帝国側は、勇者三人が深い傷をおい、数年の安静が必要な状態になった。

 魔人側は王を失ったため、国の建て直しが必要だった。


 その時、王として名をあげたのが、フィーラだった。

 本来、アリスが王として名をあげるはずだったが、まだ幼すぎたし、そもそも王となる器を持つとは言い難かった。


 フィーラは、何も出来なかった自分を許せなかったのだろう。

 彼女は奮起して、国を建て直し、その頑張りで民から信頼を勝ち得た。

 国は瞬く間に強大な軍事力を持つ国へと変貌した。

 アーヴァイン時代の国の戦力までは行かないが、最強の軍事国家となった。


 我は彼女に尋ねた。


「そなたは、人を殺せるか?」


「私は、確かに人を殺すことをまだ恐れています。だけど、誰かがこの戦いを終わらせなければいけません。覚悟は出来ています。」


 彼女の言う通り、彼女には覚悟があった。

 彼女ならやるべき事に進むことができると。

 魔王アーヴィンの求める理想は正しいと信じ、道を見失いはしないだろうと。


 そして彼女は自分自身の信念を貫いた。


 しかし帝国も甘くはなかった。

 まだ、彼女には荷が重すぎたのかもしれない。


 第三次人魔大戦から九年後の第四次人魔大戦で彼女は死んだ。


 その戦争は、帝国も軍事力を取り戻していた。

 特に三人の勇者が復活していたことが大きな敗因だろう。

 帝国に対して極めて劣勢だったため、この城近郊まで被害が及んだ。


 フィーラは民に被害が及ぶと思い、南にある島に移らせることにして、城周辺を無人とした。

 


 最終決戦の時、彼女は自分を犠牲にして、能力『範囲結界』と『聖魔法』を行使して、この城とこの国の土地を覆うかのような二つの結界をはり、フィーラ統括の守護者三名とフィーラの能力を、この道に続く次なる王へ託すために封印した。


 盾の勇者の名の通り鉄壁な結界がはられた。

 結果、この領域には誰も侵入することが不可能となり、より自然豊かな土地となった。


 彼女が封印をした後、我は城周辺にいる帝国軍を全権能をもって一掃した。


 帝国は、その後も幾度となくこの結界を破壊しようと侵攻してきたが、この結界を突破することは未だに出来ていない。





 ------





「そこでだ。そなたよ、貴様が次なる王ぞ。」


「……へ?」


 部屋が静寂に包まれた。


 

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