第1話 最初の一歩
目が覚めた。
いや、目が覚めたというか意識は戻った。
ここはどこだ。
何も見えない。
何も感じない。
何も動かない。
何か忘れているような。
あ、俺銃で撃たれて、死んだのか?
いや、でも今意識はある。
そんなことを考えていると、次第に視界が晴れてきた。
「ん、なんだあれは……」
目の前で火山が噴火した。
音は聞こえないが、ものすごく大きな噴火だ。
河口付近から石が外に飛んでいっている。
「は?」
こっちに石が飛んできた。そしておれにぶつかった。
いっったぁあ!……く、ない……
ちょっと痛いがそこまで痛くない。
でも何かがはずれた感覚だったが……
まぁ大丈夫だったからいっか……
ってそんなことより!
俺はもう一度、目の前に広がる景色に意識を向けた。
え、え、え、本当にここはどこだ? 何あの火山。
赤い空に、キノコ雲がもくもくとのぼっている。
こんな所全然知らないんだけど……
俺は死んで……
これはあれか、よくある死んだら転生しちゃいましたってやつか。
でもなんか転生したてに目の前で大変な事が起きてるんだけれど。
いや、まじで冗談抜きでやばくない?
火山から少し離れているけど、全然危険区域内だと思う。
早くここから遠くに逃げないと……
それにしても、視界はマシになったが体が全然動かない。
声も出ないし何も聞こえない。
脊椎をやってしまったのかな、いやそしたら声はでるか……
もうよく分かりません。
とゆうことで、いろいろ力をいれて、本来うんちが出るかもしれないぐらい頑張ってみたが、俺はここから動けないようです。
それからもっとやばいことがあります。
それはさっき噴火した時の火山灰が、だんだん俺の周りに積もっていっていることです。
どうしよう。
口が火山灰で塞がれて窒息死とか?
いや待てよ、声がないのは口がないからか?
じゃまさか耳も体もないとか?
目はあるのかな?
やっぱりさっぱり分かりません。
まず自分の姿をみたいのだが……
自然様はそんな俺を無視するように、俺は火山灰に埋まった。
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何十年経ったのだろう。
いや、数百年かもしれない。
俺はこの世界の景色をたくさん見てきた。
たくさんと言っても周囲は森であったが。
まぁ、それはともかく俺は、雨に打たれ、風に運ばれ、川に流され、何故か今洞窟にいるのだが、今目の前にある水晶を見て分かったことがある。
反射して映っている俺が石なのだが。
とっくの昔に自分は人間であることを諦めていたし、ここの世界は俺が元いた世界ではないことも分かっていた。
だからすぐに自分の姿に納得することができた。
あ、俺石だったか。
ってそんな軽い感じだった。
ずっと自分が何者なのか悩んでいたが、それがわかってとてもスッキリした。
宇宙に果てはあるのか並に気になっていたからね。
この体はとても便利で、暑くても寒くても平気でいられるし、食事も睡眠も不要なようで、体力的疲労は感じないのだ。
「石に転生しちゃったか……」
俺は心の中で思った。
その時、
《dygch@,:/¥&vhh……確に/::&。能りybffm@4ん化しmcf@58:。》
「うわっ え、え、?」
突然俺の頭に機械音的な声が聞こえた。
《音声設て……fbbu@、記憶情報確認。
低出力音声確認中。データ確認終了。
音声データ決定。アップデートします。完了を確認。自己改変開始。魔術式の再構築開始。
主の意識との再コネクト開始。
周波数融合。完全同一化確認。
最終段階移行。伝達素粒子安定。
全ての安定を確認。オールクリア。》
俺の頭は真っ白になっていた。
《能力、並列思考を獲得しました。》
「な、なん、なんだ?」
《マスターの記憶する情報量が限界値を超えたため記憶情報を代行して管理します。》
「え、あ、はい。」
《すべての記憶情報を復元しますがよろしいですか?》
「いやちょっと待て待て待て。お前は誰だ。テレパシーか??」
《私はマスターの能力です。》
「いや能力ってなんだ?能力なんて存在するのか?」
《能力とはマスターの力です。私が存在する事よりこの世界は能力が存在すると思われます。》
「そ、そうか。でもなんで今なんだ?」
《マスターが私を望んだため、記憶情報が過多になったためと推測します。》
確かに俺はずっとどんな生き物でもいいから声が聞きたかった、話したかった。
そう、俺はこの世界に来て一度も生き物を見ていないのである。
草とか木は見たけどね。
「まぁ確かに、こんなに長い間ぼっちだったからそんな願いが叶ってもおかしくないかな?」
《すみません。よく分かりません。》
Si〇iかよってものすごくツッコミたくなった。
「Si〇iかよっ。」
つっこんでしまった。
《すみません。よく分かりません。》
やっぱりこいつSi〇iみたいだ。
久しぶりに笑った。
《すべての記憶情報を復元しますがよろしいですか?》
「いいけど それってわ……」
《承認を確認。直ちに実行します。》
どうやら復元したくてたまらなかったらしい。
「それって忘れてたことを思い出せるとか?」
《その通りです。》
それは単純に凄い。
普通に凄い。
自分がこんな能力をもてたことに嬉しくなった。
大切な記憶を忘れないで入れることはいいな。
辛いことは忘れたいけど。
《記憶情報の復元が完了しました。》
「はやっ。てか俺以外に生き物って存在すると思う?」
《記憶情報よりこの世界は地球の環境と似ているため生物が存在する確率は高いと推測します。》
確率が高いのになんで見たことがないんだろう。
俺はものすごく生き物を探しに行きたいと思った。
「でも見たことないんだよなぁ。あと質問なんだけど目が見えて耳とか聞こえないのはなんでだ?」
《この世界の植物は魔素を取り込んで循環させています。
マスターはこの魔素の流れを感知していたため視覚は働いていました。音は魔素では感知出来ません。》
「なるほどねぇ。魔素ってやつが生きていくのに必要なエネルギーみたいなもんか。」
《その通りです。》
「耳聞こえるようにとかできる?あと声とかも。」
俺の記憶をどうちゃらこうちゃらできるやつみたいだからもしかすると、と思って聞いてみた。
《可能性はあります。マスターの身体情報を入手します。よろしいですか?》
「まじか!お願いします。」
もしかしたら耳が聞こえるようになるかもしれない。そう考えるとわくわくしてたまらなかった。
《承認を確認。実行します。》
《完了しました。》
《続いて身体改変を行います。よろしいですか?》
久しぶりだこんな気持ちは。
こんなに気持ちが高揚するとは。
「お願いします!」
それはすぐだった。
なんと俺がヒトの形に近い口と耳のある銀色の何かになったのである。
《すみません。ヒトの身体情報不足により、完全なヒト型にはなれませんでした。》
「いや、凄いよ凄いよ!」
洞窟の雫が落ちる音が聞こえた。
「ありがとう。」
涙は流さなかった。
いや流れなかった。
《マスターに答えるために善処します。》
「あぁ。頼むぜ相棒。」
《すみません。よく分かりません。》
クソッ。
雰囲気が台無しだ。
やっぱりこいつはSi〇iだなと思った。
「お前の名前はイリスだな。」
《名称イリス。これを承認します。》
「よろしくなイリス。」
そう言って少し微笑みながら俺は前へ歩き出した。
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如月育真が死んだ。
「亮君、そろそろ行かないと。」
今日は、育真のお葬式があるのだ。
棚に小学生の時の写真だろうか。
育真と亮が2人、笑顔で写っている。
育真、お前はあの時俺達を守ってくれたおかげで俺らの命がある。
感謝してもしきれない。
お前は今有名人だぜ?
なんたって世界で指名手配されてた悪いやつをぶっ倒したんだから。
本当凄いやつだ。
ネットじゃ、勇者だ英雄だとかだってさ。
お前は俺の自慢の親友だ。
本当に、ありがとう。
そう心で彼は思った。
そして涙を拭って誓った。
この世界で強く生きていくことを。
この命を無駄にしないことを。
「そうだな。行こうか。」
亮は力強く歩み始めた。