なろう劇場 聖女追放編
「卑しい平民の分際で聖女を騙り、俺の寵愛を得んとした悪女め。俺はこの偽聖女との婚約を破棄し、ここにいる本物の聖女との婚約を結ぶ! 偽物になどその血でこの場を汚す価値もない。ただちに国より去るがいい!」
第二王子の宣言に、パーティに集まっていた貴族達は息を呑んで立ち尽くした。
聖女が偽物だったからでも、突然の婚約破棄や追放の衝撃でもない。宣言と同時に第二王子が崩れ落ち、まったく動かなくなったからだ。
隣にいた本物の聖女とされた貴族令嬢の喉から空気が漏れる小さな音が、静まり返った会場で皆の悲鳴を代弁するかのように響いた。
すぐに我を取り戻した護衛役の騎士達が慌てて第二王子の周囲を警戒し、そのうちの一人が侍医を呼びながら第二王子を抱き起す。
しかし第二王子は宣言した時のまま、瞬きも呼吸もしていない。侍医の到着を待つまでもなく、死亡しているのは明らかだった。
騎士達は警戒しながらも不思議に思っていた。
何者かに襲撃された、ということはないはずだった。当然倒れる以前から警戒していたし、その様子を見ていても何かをされた形跡がない。凶器の類も、外傷もない。
にもかかわらず前触れさえないままに第二王子は死んでしまった。
可能性があるとすれば、毒か呪いによる暗殺だろう。
やがて駆け付けた侍医も首を傾げた。
第二王子は死んでいるが、死因がわからない。毒の類も真っ先に疑ったものの、死体に何の異常も痕跡も見当たらず、生きてさえいれば至って健康だと太鼓判を押すほど優良そのものの肉体だ。
もし未知の毒だとしたら、まったく検知できない驚異的な代物だ、と恐怖さえ覚えるほどだった。
そして宮廷魔術師長は騎士達と侍医の様子を見て顔を青ざめさせた。
騎士を見れば襲撃者などいないのは明らかだし、侍医を見れば毒によるものでもないことは察せられた。
となれば呪いの類を疑うのが魔術師の仕事だが、魔術的な何かの干渉さえも感知できなかったのである。
外的要因も内的要因も魔術的要因もなく、突然人が死ぬはずがない。因があるから果が生じる。原因がないのに結果が生じることなど、普通に考えてありえないことだ。世界の理に反している。もし摂理さえ越えて命を奪えるような存在がいるとするならば、それは神しかいるまい。
そしてまさに今ここで神に、神の愛し子たる聖女に、正面から喧嘩を売った馬鹿がいた。
第二王子は神罰を受けたのだ。
これ見よがしな派手な落雷や、説教ぶった神託など必要ない。
神の怒りに触れれば、防ぐことはおろか察知することさえできずに、人間など容易く命を散らす。
人としてどれだけ剣の腕を磨いても、癒しの術を心得ても、英知を極めても、大いなる神の前では塵芥に過ぎないのだ。
今死んだのは第二王子だけ。
しかし神罰の範囲はどこまで及ぶのか。他の王族や、もしかしたら国や国民にまで、さらには人間という種族全体に及んだとしても不思議はない。それに抗うことさえ叶わない。
これからの人類は、いつどこで誰が死んでも不思議ではない生き地獄となる。
「これが聖女……? そんなまさか、これでは死神では――」
二人目は宮廷魔術師長だった。




