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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十四章【黒】

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第94話【救いの手を差し伸べられますか?】

「…東雲ッ!!」 


 西村駿が白銀の剣で東雲桜へと斬りかかる。桜は夢殺しの力を使用し、その剣をかき消して、駿の体に黒い霧で具現化させた槍を刺そうとしたが、


「させるかよ!」

 

 木村玄輝が東雲桜の懐に潜り込み、手に持つ剣で斬り上げて阻止をする。夢殺しは無意識に発動されるものではなく、使用者が意識しなければ発動されないこと。それは雨氷雫から助言として、伝えられていた。


【邪魔だぁ!】 


 ポベートールが桜に近づく駿と玄輝を、大鎌で刈り取ろうと横払いを仕掛ける。


「智花、頼んだぞ!」

【グゥッ…!?】


 しかし一冊の魔導書がポベートールの背後に忍び寄っていたことで、後方からレーザーによって身体を撃ち抜かれ、少しだけうろたえた。


「フィストブロォォウ!!!」 

  

 そこへすかさず白澤来が渾身の右ストレートを、ポベートールへと叩き込み。屋上から屋外へと吹き飛ばした。


「桜ちゃん…!」

「桜!」


 波川吹と鈴見優菜が槍と双剣を構えて、東雲桜に斬りかかる。ポベートールが離れたことで、確実に桜の体の動きが鈍くなっているようだ。


「来るなぁ…!!」

「ぐっ…!?」

「きっついな…!」


 東雲桜の黒い霧による薙ぎ払いを繰り出したが、西村駿と木村玄輝が剣で受け止めたことにより、双剣と槍による攻撃が東雲桜の体に直撃する。


【小賢しい…!】


 吹き飛ばされたポベートールが黒い霧に紛れて、玄輝たち四人へと不意討ちを行おうと大鎌を振り上げたが


「邪魔よ」

【ぬぁッ!?!】


 神凪楓が銃剣でそれを受け流し、飛び蹴りで屋上の入り口の方へと蹴り飛ばした。


「そこで大人しくしていなさい…!」 


 飛ばされてきたポベートールを、エドヴァルド・グリーグが作曲した"抒情組曲"をスローに弾いて、動きをかなり鈍くさせる。


「一曲付き合ってもらうからね!」

【体が、動かない…! オマエたちの創造力ごときに、何故このオレが…!?】


 金田信之がポベートールを捕獲したことで、東雲桜に残りの総員で交戦が出来るため、全員で一斉に桜へと接近した。


「東雲、目を覚ませ!」

「う、ぁああーー!!」

「桜ちゃん!」


 やみくもに黒い霧で攻撃をし続ける桜を取り囲み、何とか押さえようと試みるが、


「くっ…。七人がかりでも無理なのか!」


 軽々と振り払われてしまう。神凪楓は東雲桜の体の至る所を観察し、


「この黒い霧が力の根源よ。全員で攻撃を仕掛けて、弱らせればきっと…!」


 玄輝たちにそう指示をした。一種の賭けとなってしまうが、物は試しだと東雲桜を纏う黒い霧目掛けて皆で攻撃を次々と叩き込んでいく。

 

「邪魔だ、みんな邪魔だ。わたしの目の前から消えろ、消えろ、消えろっ!!」


 桜はもがき苦しみながら黒い霧を屋上へと何度も叩き付け、床にヒビを入れる。 


「やばくないか…!?」

「全員、今すぐ屋上から飛び降りなさい…!」

 

 玄輝たちは屋上から飛び出して、グラウンドへと体が落下し始めると共に、真白高等学校はそのまま崩れ去り、瓦礫の山へと変わっていってしまう。


「みんな、息を止めて!」 


 グラウンドの地面に体を打ち付ければ一大事となるため、金田信之が全員にそう伝えると、落下地点に水を創り出し、


「あそこに飛び込んで…!」


 その中へと飛び込ませた。水により衝撃が少しだけ和らいだことで、体への負担をかなり減らし、水中から顔を出して、崩壊した真白高等学校を確認する。


「桜ちゃんは…?」


 水面からグラウンドへ体を乗り出して、瓦礫の山一つ一つに目を配ってみると、


【オマエたち、随分と調子に乗り過ぎたな…!】


 ポベートールが東雲桜を守るようにして、黒い霧で囲っていた。桜が無事だったことには安心したが、ポベートールの威圧感が先ほどまでとは大きく違っていることに警戒心をより一層高める。


「陰に隠れてばかりのどこかの臆病者よりはマシよ」

【ケッケッ…! 言うじゃないか!】


 周囲に漂っていた黒い霧が全てポベートールに吸収されていく。力の源なのか、吸収されればされるほど、創造力が向上していくようだ。


【悪夢の神であるこのオレを本気にさせるとどうなるか…】 


 グラウンドの地中が大きく揺さぶられる。玄輝たちはその場に立ち膝をついて、何が起こるのかと辺りを窺がっていると、


【オマエたちにはそれをとくと味わってもらう】 


 地中から真白高等学校と同等の巨人や、図体の大きな獣、羽の生えた人型の生物など、俗に言われる悪魔や妖怪、天使たちが次々と姿を現した。


【"災厄の日"の再来だ…!】 


 西村駿たちは背中を預け合って、歩み寄ってくる化け物たちを睨みながら武器を構えた。


「どうする? こいつらを相手にしながら、桜たちを相手になんてできないぞ」

「そんなこと分かっているわよ。今、必死に考えているんだから少し黙ってなさい」 


 神凪楓は周囲の化け物たちに隙がないかを観察していたが、隙どころか向こう側の景色すら見えないほどの化け物の量に囲まれていることを知り、軽く舌打ちをする。


「ここで立ち止まっていたらタコ殴りにされるだけや…! 少しでも動いて量を減らした方がええに決まってる!」

「やむを得ないわね。それでいくわよ…!」

 

 玄輝たちは襲い掛かってくる化け物達を次々と迎え撃つ。胴体を斬り裂き、頭部を捻りつぶし、血飛沫を身に受けながらも果敢に武器を振るった。


「…っ」


 楓は空からによる天使の攻撃によって、頬にかすり傷を受ける。血を手で拭った時、嫌な予感がし試しに【再生】を使おうとしたが、


「…やっぱり夢殺しの能力が適用されているのね」


 受けたかすり傷一つも治せないことで、木村玄輝たちに大声を上げてそのことを伝える。


【ケケッ…"災厄の日"が訪れたとき、人間たちはそんな力など使えなかったんだ。オマエたちも、死による恐怖から情けない声を上げて逃げ惑え】


 数が一向に減らない。何故減らないのかと誰もが考えていたが、ここは東雲桜のユメノ世界であり、ポベートールは桜のユメノ使者。あれだけの創造力があれば、無限に化け物たちを生み出すことが出来るのだろう。


「駿、上だ!!」

「っ――!?」

 

 駿は白澤の忠告通り上を見てみると、巨人が踏み潰そうと足を上げているではないか。西村駿は避けようと急いで駆け出したが、


「楓…!」


 神凪楓が丁度そのタイミングで巨人の真下へと移動してしまったため、動かす足を止めて逆方向へ走り出す。


「二人とも、危ないッ!!」


 巨人の足が迫る中で神凪楓を背後から抱きついて、庇うようにして巨人へと背中を見せた。


「標的、ロックオン」 


 しかし迫りくる危機は爆風と共に巨人が倒れたことで、何とか重傷は免れる。その最中にミサイルのようなものが飛んでくる光景。それを目にした玄輝は上空を見上げてみる。


「援護に参りました」


 そこには完全武装をしたミラが上空で漂っていた。ミラは玄輝たちの姿を確認すると、機関銃や爆撃を繰り返して、化け物たちを一掃していく。


【何だアイツは!? オレは聞いていないぞ…!】


 ポベートールもミラの存在は知らなかった。それもそのはずで、四童子有栖が今まで密かに玄輝たちのユメノ世界へと忍ばせていただけだからだ。


「私が残滅します。西村駿、あなたたちは元凶を叩いてください」

「すまないミラ! ここは任せたぞ!」

  

 西村駿たちはミラに感謝をすると、一斉にポベートールへと接近する。


【ナメるなよぉ…!!】


 ポベートールは二人に分身すると駿たちを大鎌で挟みこむようにして、薙ぎ払いを放つ。駿と玄輝は二手に分かれることにし、右へ玄輝・楓・信之・優菜。左へ駿・白澤・吹・智花でそれぞれの方向へ回避をする。


「ガッシー!」

「任せてよ…!」


 玄輝の掛け声と共に信之は、ショパンが作曲した"革命のエチュード"を演奏して、玄輝たちの周りに防壁を張り巡らせた。


【ケケッ…! オレ様に勝てるのか?】

「その笑い方、癪に障るのよ…!」


 神凪楓が銃剣でポベートールの大鎌を受け流しながら、一進一退の攻防を繰り返す。それを見た玄輝は、剣の矛先をポベートールに向けるようにして構え、


「一閃…!」 

【ぐぎぃっ…!?】


 見よう見まねでポベートールの胴体に流し斬りを入れた。


「…優菜!」

「分かった!」


 玄輝が声を上げると、上から優菜が魔法剣を握りしめ、自身のユメノ世界で見せた魔法剣士の技である【奥義 二重螺旋】を繰り出す。突き刺して、抜いてを乱雑に繰り返しながら、斬撃を何十回とポベートールに食らわせた。


【ぐ、ぐ…ッ!! 何故、オマエたちの攻撃がここまで通る…!?】

「まだ分からないのか?」


 西村駿たちの方を見ると、白澤が乱打をして、波川吹が双剣で斬り刻み、智花がレーザーで体を貫き、駿がトドメの一撃を刺すように、ポベートールの偽物の体を消滅させていた。


「…よく見てろよ」


 木村玄輝は化け物と戦っている際に、受けた傷をポベートールに見せながら、


「再生」

【な…!?】


 そう呟くと、夢殺しの能力が全く効いていないのかすぐに元通りの状態へと治療されてしまう。


【な、何でだ!? 夢殺しは発動をしているはずじゃ――】 

「夢殺しは、"創造力による効果"を全て無効にする。よく考えてもみれば、その能力の効果は"たった"それだけだったのよ」


 八人は創造力ではない、別の違う力を右手に溜めてみせる。それをポベートールは知っていた。災厄の日、人間たちが抵抗しようと身に着けた力。


【霊力に、魔力に、法力、妖力…だって!?】 


 木村玄輝、西村駿は"霊力"、神凪楓は"法力"、鈴見優菜、内宮智花、金田信之は"魔力"、波川吹、白澤来は"妖力"。全員が、創造力とは別の力を身に着けていたのだ。


【そんな力を一体どうやって――】


 ポベートールは四色の蓮の存在を思い出す。雨空霰、雨氷雫、月影村正、朧絢。あの四人が何かしら手を加えたに違いない。


「俺たちは霰たちに、創造力の変換の仕方を教えてもらった。この力がいつか必要になるって言われてな」

「…まぁユメノ世界に介入するまで、オレたち全員が力の変換を出来るようになっていたことは知らなかったけど」


 雨空霰たちは黒霧と戦う前に対策を取っていた。それは木村玄輝が教えられた創造力の変換。実はあそこで黒霧かと疑われて交戦したのは玄輝だけでなく、八人共全員戦っていたのだ。

 

「仲間内で秘密にさせた理由は『もし仮にお前たちが個別で黒霧に襲われたとき、この力を身に着けていたことがバレてしまえば元も子もないから』…とか言ってたな」


 遥か先を読んだうえで、どんなケースにも対応ができるように。順調に黒霧を打ち倒すための計画は進んでいた。霰の精密な計算と、人知を越えた知能だからこそ、この展開へと持ち込むことが出来たのだ。


【…四色の蓮。少し警戒を怠り過ぎたか】

「あの四人は常にあなたたちを警戒していたわ。日常生活から、ユメノ世界の隅々まで――私たちの分までもね」 


 無人島でバカンスに行く際に雨氷雫を付き人にさせたことも、東雲桜の前で自身が参加しないと表明したことも、四色の蓮にとっては全て台本通り。玄輝たちもそれを後から聞かされて、度肝を抜かれていた。


「夢殺し。その能力が唯一の取柄であるお前が、どれだけ足掻いても俺たちには勝てない」  

「これ以上、僕たちと交戦しない方が身の為だよ」


 ポベートールが怒りによって手に持つ大鎌を小刻みに震わせる。西村駿たちはポベートールがどのような行動に出るかを警戒していると、



 バキッ…



 上空で創られた複数のユメノ世界に大きなヒビが入った。


【…龍神様たちが勝ったのか!?】

   

 ユメノ世界が破壊されるということは、それを創り出した四色の蓮が敗北したか、自分自身でユメノ結晶を叩き割ったかのどちらか。


「……頼むわよ」


 崩壊をしたユメノ世界から各々人型の何かが物凄い勢いで落下し、土煙で辺りの視界を奪った。どちらかが負けている、緊迫感に包まれながらも聴こえてきた声は、


「――これで終わりだな」

「私が一番乗り?」

「いや、俺の方がほんの数秒早かった」

「まぁまぁ、勝ったんだからどっちでもいいだろ?」

 

 雨氷雫たちの声だった。雨空霰はルシファーの背中にダガーを刺し、雨氷雫は龍神に銃を突き付け、村正は二刀流の剣を地にひれ伏すめぐみの首の近くに差し、絢は空亡に刀の剣先を向けながらそこに立っていたのだ。


【そんな…! 龍神様たちがやられるなんて…!!】

「何だ西村? まだ終わっていなかったのか」


 龍神たちが光の塵となり消えていくと、霰たちは武器を持ち直し、ポベートールへ視線を集める。蛇に睨まれた蛙のように、後ずさりをしてしまっていた。


「ポベートール、もう打つ手はないんだろう?」

【ぐ、ぐぐぐ…っ! オマエたちが、オレの邪魔をするのなら…】


 怒りに満ち溢れた声でそう言いかけると、ポベートールから轟音と衝撃が放たれると共に、東雲桜の体に黒い霧が吸収されていく。半身だけ黒く染まっていた体が、一気に全身へと変化してしまう。


「東雲っ!!」

【これでもう助からない…! オマエたち諸共道連れだ…!】 

「…力の暴走。このユメノ世界ごと崩壊させるつもりか」


 雨空霰は力を暴走させようとしているポベートールに急接近すると、痛恨の一撃を背中に叩き込んで、東雲桜から離れさせる。

 

「ポベートールは俺たちがどうにか相手をする…! お前たちは東雲桜を助けてやってくれ!」


 霰たち四人は東雲桜とポベートールの間に、巨大な壁を創造すると、そう言って壁の向こうへと消えてしまう。


【蜉ゥ縺代※蜉ゥ縺代※】


 東雲桜の体は完全に黒い霧で汚染されてしまっている。喋る言葉もこちらが聞き取れないほどバグったかのように支離滅裂なものだ。


「――!?」

 

 作戦を考えようと瞬きをした一瞬の間に、神凪楓の目の前まで桜が接近をし


「かはっ――!?!」


 回し蹴りを腹部に打ち込んで、数メートルほど吹き飛ばした。力の源である黒い霧を全て体に吸収したことで、身体能力も先ほどより桁違いのモノへと向上しているのだ。


「目を覚ませ!」


 西村駿は創造力を霊力に変換すると、剣にその力を込めて東雲桜へと斬りかかる。


【蜉ゥ縺代※蜉ゥ縺代※蜉ゥ縺代※蜉ゥ縺代※】

「っ…!?」


 正気を失っている桜はその剣を素手で掴むと、そのまま大きく西村駿ごと振り回して、瓦礫の山へと投げ飛ばした。


「ガッシー! 動きを止めてくれ!」

「分かった…!」


 ポベートールの動きを止めることに成功した"抒情組曲"を演奏して、東雲桜の動きを鈍らせようと信之は試みるが


【蜉ゥ縺代※…!】

「え…?」

 

 周りの音すら聞こえてないことで、全く効果を発揮することが出来ず、桜に剛速球で投げられた岩に直撃して、その場に倒れてしまう。


「オレが桜を引き付ける…! 背後から一斉に攻撃しろ!」


 正面からでは勝ち目がないと考えた白澤が桜の目の前に自ら立ち、防御をする姿勢を取って攻撃を受け止めようとする。


「白澤くんのことは私が援護をするから! 玄輝くんたちで叩いて!」


 内宮智花が魔導書を辺りに散りばめらせて、最大出力のレーザーを放とうと力を溜める。桜は白澤に攻撃を集中させて、何度も何度も連撃を繰り返していた。


(一発一発が、砲弾のように重い…!) 


 白澤は腕にガントレットを装着しているのに対して、東雲桜は素手。叩き込まれる殴打からガントレットに伝わる衝撃は並大抵のものじゃなかった。


「白澤くん…! 下がって!!」


 智花の声を聞いた白澤が後ろに飛び退くと、桜の周囲から膨大な量のレーザーが放たれて、東雲桜の姿を覆いつくす。


「これで、少しは、大人しく…」 


 力を使い果たした智花がその場に座り込んでしまう。創造力を全て魔力に変換させて放った一撃。これで東雲桜に大きなダメージを与えられているはず。


【蜉ゥ縺代※】

「嘘、でしょ?」


 桜はほぼ無傷。  まるで何事もなかったかのように、内宮智花の目の前で足を振り上げて、智花の顔を蹴り上げようとしていたのだ。


「智花…!!」


 白澤がそれを庇うようにして智花の前に立ったことで、そのまま蹴り上げられ、智花と共に正門近くの花壇まで飛ばされていく。


「くそぉ! こうなったら三人で別々の方向から一斉に攻撃するんや…!」


 波川吹の言葉通り、右後と左後の死角、正面から三人で武器を構えて接近をする。


「…たすけて」 

「「「――」」」 


 自分たち以外の誰かが助けを求める声、それがハッキリと耳に入ったため、一瞬だけ気を抜いてしまう。


【蜉ゥ縺代※】


 そして、正面から双剣を振るおうとしていた波川吹の胸倉を掴み、玄輝と優菜を巻き込みながら振り回して投げ飛ばし、グラウンドに背中を強打した。


「…どうしろってんだよ」


 木村玄輝が打つ手を見出せずに、起き上りながら言葉を漏らす。神凪楓たちも呼吸を荒げながら、何とか東雲桜の前に立っているようだ。


「…私は力なんてもう残ってないわよ」

「……俺も剣すら作れるか曖昧だ」

 

 八人全員、怪我の再生に力を全て使い果たしたようで武器すら留めることが難しくなっていた。生身の体で東雲桜を止めることなど無謀に等しい。


「一体どうすれば…」


 すると、行き詰っている西村駿たちを嘲笑うような声が周囲に響き渡り、光の塵が桜と駿たちの間に収束し始める。


「ワタシたちが力を貸してやろうか?」


 声と共に光の塵が象ったその姿は―― 


「アメ…!」

「それにイトナも…!」


 ナイトメアへと融合してしまったアメとイトナだった。力を完全に取り戻していないのか、体が半透明となってしまっている。


「四色の蓮とやらがあの四人をぶっ倒してくれたおかげで、少しだけ姿を現すことができたと思えば…。見るに堪えないほどボロボロじゃねぇか」 

「仕方がないだろ! 桜を正気に戻そうにも、太刀打ちが出来ないんじゃ…」

「それなら、わたしたちにまかせて」

   

 イトナはそう返答をすると、アメと東雲桜の近くまで歩み寄った。


「どちらにせよワタシたちの体は崩壊する」

「このくろいきりをみちづれに」


 二人は片手を東雲桜にかざして、黒い霧を自身の体に吸収し始める。


「そうか。イトナとアメの力ならあの黒い霧を…!」


 アメとイトナは創造力の影響を受けず、黒い霧を浄化する力を持っているのだ。この力を使えば、東雲桜を纏う黒い霧を晴らすことが出来るかもしれない。


「全員で桜を押さえるぞ!」


 暴れ狂う東雲桜に八人で飛びかかる。黒い霧がアメとイトナに吸収されていけばいくほど、東雲桜の肌に色が戻りつつあるようだ。


「"桜"、戻ってこい…!!」


 西村駿が東雲桜の名を必死に叫びながら体を押さえつけ、正気に戻るように懇願する。他の七人も必死に東雲桜へとしがみついて名を呼んでいた。


「うっ…ぁあぁぁっ…」

 

 黒い霧が完全に抜け切ると、見慣れた姿をした東雲桜が呻き声を上げながら地面に力なく倒れた。  


「桜…っ!」


 西村駿はすぐさま抱きかかえて、安否を確認する。


「…大丈夫、気絶をしているだけよ」


 東雲桜の容態は呼吸も安定しており、怪我を負ってもいないため、気絶をしているだけだと見て取れた。その場にいる全員がその様子を見てホッと安心して安堵したが――

 

「まだ…だ…!」

「うぅぅっ…!?」


 アメとイトナが体を震わせながら、その場で苦しそうな声を上げる。


「くそっ…たれが!」

「アメ、一体何を言って――」

「吸収した力が、そこで寝ているソイツに、戻ろうと、暴れてるんだよっ

!!」


 東雲桜から吸収した黒い霧が、イトナとアメの体の外へ出ようと体内で暴れているのだ。それを抑えるのに、二人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「このまま、ワタシたちを、殺せ…!」

「――!」

「この力ごと、あの世へ連れてってやる…!!」


 それを促すかのようにアメとイトナの目の前に、赤黒い剣と白銀の剣が創り出され地面に突き刺さる。


「早く…しろぉっ!!」

「で、でも…」

「ワタシはなぁ…!? 感動の場面なんて、望んでいないっ…んだよ!!」

 

 躊躇をしている木村玄輝の隣で、西村駿は地面に突き刺さっている白銀の剣を抜いて、


「…分かった」

「駿!?」


 強い眼差しを剣先と共にイトナへと向けた。


「アメとイトナは俺たちを、桜を助けようとしてくれているんだ。その想いをここで無駄には出来ない」

「へっ…! 想いなんて、反吐が出るぜ…!」


 木村玄輝はアメを見つめながら、赤黒い剣を引き抜いて、剣先を向ける。本来の目的は東雲桜を助けることだけ。その目的のために数多くの者たちが協力をしてくれた。そのチャンスが巡ってきた今、それを水の泡にしてはならないのだ。


「しゅん、はやく…!」

「少しは、役に立てぇ…! ザコがぁっ!」


 西村駿と視線を合わせると、同時にお互いの剣をアメとイトナへと突き刺す。


「…ワタシとの約束を、これからもきちんと守れよ――ザコ」

「……アメ」

「ありがとう…。さっかーも、しゅんも、だいすきだからね…」

「イトナっ…!」



 イトナとアメの体は白い霧となり、空へと天高く昇っていく。最後に駿と玄輝の耳に入ったその言葉は、何よりも綺麗で、儚い感情。玄輝と駿は唇を噛みしめながら、剣をその場所の地面に突き刺して、背を向けた。


「玄輝」 

「…何だ?」

「俺たちがもっと強ければ…。正しい判断が出来れば…。アメとイトナを助けられたと思うか?」


 唐突な西村駿の質問に、木村玄輝は何も答えられない。手遅れなことを今更考えたところで意味をなさないだろう。


【ギャァァァア…ッッ!!】  


 悲鳴が聞こえると、駿たちの前にそびえ立つ壁が突き破られ、ポベートールが吹き飛ばされてきた。東雲桜を抱き上げている西村駿を守るようにして、木村玄輝たちは駿の前に立つ。


「…東雲を助けられたようだな」


 壁の向こうから雨空霰たちが、ほぼ無傷の状態で姿を見せる。その後ろには先ほどまでベルフェゴールたちと戦っていた黒百合たちの姿もあった。どうやらこの人数でポベートールを一方的に嬲り殺しにしていたらしい。 


【た、助けてくれぇ! オレはこんなところで死にたくは――】

「お前はそうやって命乞いをする人間を助けたことがあるのか?」

【ぐぎぎぎぃぃ…!!?】


 月影村正がポベートールの背中に二刀流の剣を一本ずつ突き刺して、身動きが取れないようにする。


【そ、それは…】

「俺が知る限りでは、一度もそんな場面に遭遇したことはない。少しでも温情を与えてもらえると思ったら大間違いだ」


 村正が突き刺した剣を乱雑に引き抜くと、雨氷雫が銃をポベートールに向け、


「――絶望はこれで終わり」 


 ポベートールの頭部を、一発の弾丸で吹き飛ばした。

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