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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十四章【黒】

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第92話【絶望は続きますか?】

「雨空霰っ…! お前ともう一度殺り合えるなんてあたしは嬉しいぞ…!」

「黙れ!」


 目にも止まらぬ速さで、ルシファーの黒い剣と霰のダガーによる攻防が行われる。霰がここまで真剣な表情を浮かべるのは初めて見た玄輝は、彼が本気なのだと悟る。


「村正くーん! 久しぶりだねぇ~?」

「お前とは二度と顔を合わせたくはなかったな…!」


 二刀流による連撃をめぐみに絶え間なく浴びせ続けるが、めぐみを囲む障壁のようなものによって弾かれてばかりだった。


「空亡! 相変わらず強いなお前は!!」

「……」

 

 朧絢と空亡は刀同士で閃光かの如く、火花を散らしながら刀と刀を交えている。雨空霰は全体の様子を一瞬で把握すると、


「壊れろ…ッ!」

「おおっと!!?」


 村正が相手をしているめぐみの元まで接近して、障壁を蹴りで粉々に破壊した。霰が自分から標的を変えたことで、背後を狙おうとルシファーは剣を構えたが


「どこを見ている?」

「面白い…! 今度はお前が相手か…!」


 先ほどまでめぐみの近くにいたはずの月影村正が、ルシファーの背後に回り込んで二本の剣を振り下ろし、牽制をする。ルシファーは即座にその二本の剣を受け止め、蹴りを放ち距離を取った。


「今度こそ貴様の能力を貰うぞ、雨氷雫」

「能力なんて興味ない。私は前と同じようにあなたを殺すだけ」


 龍神が水晶玉に手をかざすと、雫の上空からいくつもの雷撃が落ちる。それを雨氷雫は回避しながら、引き金を引いて何百発も銃弾を撃ち出し、龍神の元まで急接近をした。


「断言する。あなたたちには勝ち目がない」

「随分と余裕そうだな? 私たちに一度勝っていることで、妙な自信でも付いたのか?」


 雨氷雫の銃撃と殴打の連携技を捌きながら、龍神は鼻で笑いながら軽視する。


「違う、前の時とは状況が大きく変わっているから」


 雫は何を考えているのか、右手に握った銃を空亡の方へと向けて、振り返りながら引き金を何回か引いていた。自分を目前にして自殺行為をしている雫に、少しだけ険しい表情を浮かべた龍神は、


「哀れな。そこまで落ちぶれたか」


 一段と強力な雷撃を放つため、力を溜めていたが、


「お前の相手は俺だぞ?」 

「――!!」

 

 視界の外から朧絢が龍神に向かって抜刀してきたことで、それを中断し後方に飛んだが、少しだけ反応が遅れ刀が服を掠めた。


「霰、アイツらはまだ来ないのか…!?」


 月影村正がルシファーと剣を交えながら、霰に向かってそう叫ぶ。


「予定より遅れると言っていたからな…! もう少しだけ辛抱するか、こいつらをさっさと片付けるかのどちらか好きな方を選べ…!」

「え、もしかして仲間を呼んでいるの? ボク困っちゃうな~」


 雨空霰は倒れている神凪楓を見ながら返答をすると、東雲桜が良いことを思いついたかのように手を一拍だけ叩いて


「あ、先に西村くんたちを始末しちゃおうよ。四色の蓮もあの人たち相手に動けなさそうだしさ」

 

 そんな提案をポベートールにした。ポベートールは【ケケッ、それもそうだな】と賛成すると、ルシファーを除いた"真・七つの大罪"を呼び出す。


「やっとあたしらを呼び出してくれたんだね?」


 そこに現れたのは災厄の日で雨空霰たちが交戦した七つの大罪たち。その姿はどれも人の形をしているが、そのうちに秘めた恐ろしさは嫌というほど肌に伝わってくる。

 

【ベルフェゴール。あいつらをやっちまいなぁ!】

「させない…!」

  

 雫はそれに気が付き、止めようとベルフェゴールたちに攻撃を仕掛けようとするが、


「……」

 

 空亡が何としてもそれを阻止しようと立ち塞がる。霰たちもどうにか助け出そうとするが、各々の相手によって動きを止められてしまう。


「アイツら、早く来てくれないと…」


 ダガーでめぐみの様々な能力による攻撃を弾いていると、上空から白い光の柱が玄輝たちの目の前に降り注ぐ。


「…何だい?」


 ベルフェゴールがその光の柱を前にして立ち止まり、様子を窺がっていると、


「――御免あそばせ、遅れてしまいましたわ」


 黒百合玲子が率いる五奉行がそこに立っていた。


「遅いぞ黒百合」

「間に合ったのですから上々ですわよ」


 玄輝たちは五奉行がユメノ世界に干渉をしていることに対して、息を呑むことすら忘れてしまっているようだ。


「西村たちを連れて逃げろ…! ここは俺たちが引き止める!」

「言われなくてもそうするつもり。お前たちが戦っているその相手、こいつらよりも相当強そうだしね」

 

 ベルフェゴールたちを甘く見るかのような発言を霧崎真冬がすると、すぐさまサタンが黒色の大剣で真冬に斬りかかるが、


「――ほらね、こうやって馬鹿みたいに突っ込んでくるでしょ?」

「グハァ…ッ!!?」


 霧崎真冬は二本の曲刀でそれを受け流して、飛び蹴りでサタンをベルフェゴールたちの元まで吹き飛ばす。


「わたくしたちの邪魔をするつもりなら…。少しだけお相手してさしあげますわ」


 五奉行はそう呟き、自分たちの背後にユメノ使者を呼び出した。 


「"ラファエル"、あの方たちを蹴散らしてくださる?」


 ラファエルと呼ばれる白い長髪の男は、リボルバー形式の銃を二丁召喚して、ベルフェゴールたちに発砲する。黒百合も両手にオートマチック式の拳銃を二丁持つと、優雅に舞いながら引き金を引いていた。


「あんた、面倒くさいね」


 ベルフェゴールが大剣を片手に弾丸を防ぎながら、黒百合玲子に接近をする。


「させないよ~?」


 しかし両手剣を持った柳未穂が、その大剣を斬り上げてしまう。


「"ミカエル"さん~!」


 未穂がその名を呼ぶと、両手に槍を持ったミカエルがベルフェゴールに追撃する。


「色欲のアスモデウス、参ります」


 援護をしようとアスモデウスが花びらを身に纏いつつ、鞭を巧みに扱いながら黒百合たちへと攻撃を仕掛ける。


「"ガブリエル"、斬り捨てるわよ」


 松乃椿はガブリエルと共に刀による一閃を繰り出し、アスモデウスの鞭をバラバラに刻んでしまう。


「えーい! みんなみんな、死んじゃえー!」


 レヴィアタンが水で生成された針を雨のように、黒百合たちの元に降り注がせる。柏原瑞月はそれを防ぐために、


「"ウリエル"、あたしらを守りな!」


 頑丈な巨体を持つウリエルを傘のようにして覆わせれば、降り注ぐ針たちは成す術もなく、水滴と変わり果てる。


「行くよ、"サリエル"」


 巨大な鎌を手に持つサリエルと、曲刀を二本持つ霧崎真冬。彼女らは体の小ささを生かして、レヴィアタンの背後へと一瞬で回り込み、


「背伸びも出来ない子供が、調子に乗るな」

「きゃあっ!?」


 曲刀と鎌で斬り捨てた。


「…ほう、"七元徳"かのぉ?」 

 

 黒百合玲子が操る"節制のラファエル"。柳未穂が操る"博愛のミカエル"。松乃椿が操る"純潔のガブリエル"。柏原瑞月が操る"堅忍のウリエル"。そして霧崎真冬が操る"慈悲のサリエル"。マモンがそれらを見て、"七元徳"という言葉を口にする。


「なるほどなぁ…! オレたちと正反対の偽善者ってことか!」

「お前、うるさいよ。私が一番嫌いなタイプだ」

 

 その言葉にイラっときた真冬がサタンのことを睨みつける。しかし黒百合がそれを制止させ、


「わたくしたちはこんな場所で遊んでいる暇はありませんの」


 戦っている雨空霰を見ながら、大きく指を鳴らす。


「雨空霰、そろそろアレを実行しますわよ」

「了解」


 その掛け声を合図に、雨空霰と黒百合玲子はユメノ結晶を片手に取り出す。


「黒霧、この戦いの続きはまた後でだ。先にこいつらを片付けさせてもらうぞ」


 四色の蓮は現在戦っている龍神たちと。黒百合たちは玄輝たちと共に東雲桜の創り出したユメノ世界から姿を忽然と消した。


「消えた…!?」

【桜、これはどういうことだ!?】

「分からないよ…! だって、ユメノ結晶はわたしの手元にあるのに…!!」


 東雲桜は自身の手に、ユメノ世界を象るユメノ結晶を取り出す。彼女がそれをポベートールに見せた瞬間、


「――詰めが甘いな」


 消えたはずの雨空霰が、東雲桜の手元にあるユメノ結晶をダガーを投げて破壊した。


【オマエ、図ったな!!】

 

 そう、雨空霰たちは消えたわけじゃない。木村玄輝たちや敵諸共、東雲桜たちに姿が見えないように透明化させたのだ。黒百合と霰が手にしていたユメノ結晶は、それに似せた偽物。


「アッハハ、現実世界ならわたしと張り合えると思ってるの?」

 

 崩壊していくユメノ世界の中で、東雲桜はただ笑っていた。勝ちを誇るかのように、敗北など知らぬような顔をして――



◇◆◇◆◇◆◇◆



「――」


 玄輝は東雲桜の部屋で目を覚まし、辺りを見渡した。ベッドの上に横たわっているはずの東雲桜の肉体は、そこにはない。


「楓、目を覚ませ…!!」


 玄輝の声で西村駿たちもすぐに目を覚ます。楓の肩を必死に揺さぶって呼び掛けてはいるが、全く目を覚ます気配がない。


「楓ちゃんは…」

 

 智花が良からぬ予感がして、そこで言葉を止める。全員が沈黙する中で、衣服が土で汚れた雨氷雫が、仰向けに倒れる楓の容態を窺った。


「…生きている。もしユメノ世界で死にかけていたのなら、今は無理に起こさない方がいい」

「それなら、良かった…」


 玄輝はふと西村駿の方を見てみれば、ただただ項垂れていた。東雲桜が黒霧だったという衝撃と、イトナを失ったショックで、立ち直れないでいるらしい。


「東雲桜はどこ?」

「分からない。おれが目を覚ました時にはもういなかったんだ」


 ユメノ世界にいるとき、現実の肉体は無防備のはず。それなのにどうやって現実世界の自分を移動させたのか。


「…遅かった」

 

 桜の部屋がとんでもない力でノックをされると、雨氷雫はその場に立ち上がり、臨戦態勢に入る。


「今からこの島を出る。私に付いてきて」


 雨氷雫が何をそんなに急いでいるのか、その理由は扉が破られるとすぐに理解できた。


【縺阪∴繧】


 日本語でも英語でもない奇妙な言葉を発しながら迫ってくる部隊の軍人たち。その瞳は真っ黒に染まり、動きも言動も全てに恐怖を感じさせられてしまう。


「優菜様…!」 


 血塗れの咲が部屋に入ろうとする軍人たちに足払いを仕掛けて、その場に転ばせる。優菜はそんな咲を見ると、思わず飛び出そうになった悲鳴を抑えた。


「咲、この島を出て真白町まで行かないといけない」

「何があったのかは分かりませんが…。島を出るのなら外にフェリーがあります」


 雨氷雫が目を覚まさぬ神凪楓を抱きかかえる。その最中に各々のスマートフォンを手渡しながら、別荘の出口まで走らせた。


「咲ちゃん。その怪我、大丈夫なの?」 

「平気です。こういうことには慣れていますから」


 背後から【縺阪∴繧縺阪∴繧】と呻き声を上げ、あの軍人たちが追いかけてくる。軍人として体を鍛えているからか脚がとてつもなく速いため、すぐに追いつかれてしまいそうだった。


「――!?」


 後ろに気を取られていると、真上から一人の軍人が飛び降りて、真ん中で走る鈴見優菜へと掴みかかろうとする。突然のことで体が動かず思わず目を瞑ってしまう。


「どきな…!」


 それが起きたのは僅か数秒の間。クラーラが目の前に姿を現し、膝蹴りを自身の部下に叩き込んで、廊下の隅へと投げ飛ばした。


「クララ!? こんなところで何やってんだよ!?」

「やっぱりね。白澤っていうのは、ジムでよく会っていたアンタのことだったのか」


 スポーツジムで会っていたクララが軍服を着ているのを見て、白澤が驚きの声を漏らす。しかし再会を喜んでいる場合ではない。


「アンタらを始末しようとここに来たつもりが…。どうやらハロウィンパーティーにでもなっちまったのかい?」

「…あなたに力を貸してほしい。ここで起きていることを全て話すから」

「最初からそのつもりさ。これじゃあ、任務にもならないからね」


 雨氷雫がクラーラに協力を求めると快く了承する。道中で心強い味方が出来たことで、雫たちに襲い掛かる部下たちを、クラーラはお構いなしに殴り倒していく。

  

「そんなに本気で殴ってもいいのですか?」

「アタシの部下は全員殴り慣れているから安心しな。ちょっとやそっとで、くたばるような根性はしてないよ」


 別荘の外へ出てみると、暗闇に紛れてブラッドが棒立ちでフェリーの前に立っていた。


「ブラッド、アンタも目を覚ましたのかい?」

「……」

「そういえばアンタ…。アタシをおいて逃げようとしたね?」


 話によれば咲と雫はブラッドとクラーラを気絶させ、個室に閉じ込めておいたという。クラーラが目を覚ました頃にはブラッドは既に部屋から脱出し、どこかへ消えてしまっていただとか。


「…あなた様はこれからどうするおつもりですか?」

「……」

「私たちはこの島から真白町へと帰還します。一緒についてくるのなら、この一件が終わるまで私たちに手出しをしないでください」


 ブラッドは言葉を発することもなくしばらくの間、咲の顔を見つめた。そしてフェリーの鍵をクラーラに投げ渡し、船着き場の近くに寄せてある一台のフェリーに乗り込む。


「…交渉成立ですね。それでは早く町に戻りましょう」


 クラーラがフェリーに鍵を差し込むと、玄輝たちは急いでフェリーに乗り込んだ。一早く真白町に戻らないといけない、そんな胸騒ぎが玄輝たちを焦らせる。


「本部、こちらクラーラ・ヴァジエヴァ。聞こえるかい?」


 フェリーを発進させると、クラーラは通信機に呼び掛けて本部との連絡を試みようとしていた。


『ジーッ…ジジー…』


 通信機が壊れているのか、本部から全く反応がない。クラーラは妙に感じて、もう一度大声で応答を願おうとしたところで、


『私の声が聞こえるか…!』

 

 玄輝たちにとって聞き覚えのある声が通信機から聴こえてきた。


「…アンタは? 本部の人間かい?」 

『私はレーヴ・ダウンに所属する研究者、四童子有栖だ!』


 四童子有栖。その名を聞いて、玄輝たちの視線がその通信機に集まる。クラーラはその反応を見て、顔見知りなのだとどことなく察していた。


「アタシの部下たちが気でも狂ったかのように襲ってきた。ブラッドもアタシもこれにはお手上げだ。本部から次の作戦指示を貰いた――」

『指示なんてもはや関係ない…! 真白町は、この国は――"大混乱"の真っ最中だ!!』


 四童子有栖の言葉を聞いたクラーラは、眉間にしわを寄せる。


「…それはどういうことだい?」

『君の部下だけじゃない…! この国の人間たちもおかしくなっているんだ!』


 玄輝たちは無人島から離れたことで電波が繋がっていることを思い出し、スマートフォンを取り出して、ネットニュースを目にした途端、


「――酷い」


 そこに写し出された惨状に自身の目を疑った。瞳が真っ黒に塗りつぶされ、化け物のような形相へと顔が変わっている。それも一人や二人だけでなく、十人、百人…いや一万人以上の数の人間が豹変している。 


『西村駿たちはそこにいるだろうか?』

「ああ、ここにしっかりといるよ」

『――良かった』

 

 四童子有栖はその返答で安心したのか、少しだけ冷静になり、無線機を握るクラーラへとこう伝言を頼んだ。


『ミラを君たちの端末に転送させたと伝えてくれ。そこにユメ人に関する情報が全て書かれていると』

「…アンタはこれからどうするつもりだい?」


 クラーラのそう問われると、有栖は黙り込んでしまう。死ぬか生きるの戦場を何度も潜り抜けてきたクラーラにはすぐに理解した。四童子有栖が"自己犠牲"を覚悟しているときの声色だと。

  

『私は彼らの為に全力を尽くした。これ以上できることは何もない』

「だから死ぬつもりだと?」

『生きてい――りは生き――る――りだ』


 ノイズ音が激しくなったことで、何者かによって妨害をされている。そう睨んだクラーラは舌打ちをして、通信機を蹴り上げ破壊する。


「四童子有栖という女から伝言を預かった。この伝言を聞きたいのなら、アタシたちに何が起きているのかを話しな」


 雨氷雫はクラーラとブラッドからの注目を浴びながらも全てを説明した。今までに起きていたこと、ユメ人のこと、ユメノ世界のこと、黒霧という敵のこと。そして人々をおかしくさせる力をその黒霧が本格的に使い始め、現実世界を支配しようとしていること。

 

「黒霧は人間たちを"夜驚症"に陥れて操ろうとしている。これを止められるのは、木村玄輝たちだけ」

「にわかに信じ難い話だけど…。こんなものを見せられてしまったんだから、信じるしかないね」


 雫は雨空霰たちと連絡が取れない状態でいることに不安を覚えていた。よほどのことがない限りやられることはないとは思うが、夜驚症で操った人間を数で押し寄せられてしまえばその可能性も十分にあり得るからだ。


「問題はどこにいるか。それが分かれば苦労は――」

「真白高等学校だ。東雲はそこにいる」


 西村駿が「間違いない」と確信し、東雲桜の居場所を述べた。


「…どうしてそう思うの?」

「根拠はない。ただ僅かでも良心があるのなら…。思い出が残っている真白高等学校で、全てを終わらせようとすると思っただけだ」


 目的地が決まると、雨氷雫はクラーラとブラッドの目を見る。二人とも、東雲桜を殺してでも止めようとしている目だ。


「…雫、俺たちにもう一度チャンスをくれ」 

「チャンス?」

「東雲を助け出すチャンスだ。話し合って、必ずこんなことは間違っているって…。考えを改めさせる」


 その言葉を聞いた波川吹は耐えられずに、西村駿の胸倉を掴んで、


「何を言うとるんや!? わいたちは裏切られたんやぞ…!? 桜は躊躇わず殺そうとしてきたんや…! それなのに、どうしてアイツを助ける必要があるんや…ッ!?」 


 情けない顔をしている駿に、怒声を浴びせた。

 

「…波川吹の言う通り。わざわざ待ち構えているユメノ世界へ介入しなくてもいい。東雲桜の肉体を殺せば、それで全てが解決――」

「ダメだっ! そんなことをしたら、今まで俺たちが見てきた東雲を否定することになる…!」

「ほんまに見損なったで! お前は国の存亡よりも、全ての元凶を取るつもりなんか!?」


 駿には波川吹だけでなく、優菜たちも呆れてしまっていた。今まで冷静に物事を判断してきた駿が、こんな時に無責任な発言しかしなくなっているのだ。


「…いや、おれも桜を助けたい」

「玄輝…?! 何を言ってるの!?」


 駿を庇うような発言をした玄輝に、信之が声を上げて驚く。玄輝は駿が、今まで辛そうな表情を見せてこなかったことを知っている。そんな彼が今はとても辛そうな、苦しそうな表情をしていること。もし東雲桜を助けられなければ、永遠にその責任を背負って生きていく。


「…玄輝」

「雫、おれからも頼む。もう一度だけチャンスをくれ」


 雫は以前、霰から"お前と木村玄輝が似ている"と言われたことを思い出す。当時は理解が及ばなかったが、玄輝の真っ直ぐな瞳を見て、やっとのことで納得をした。


「――分かった」


 ――仲間を想う心、そこが似ているのだと。


「でもチャンスは一回だけ。それに東雲桜のユメノ世界へ干渉するための準備も必要。成功の確率は低いし、失敗する可能性もある。それでも助けるつもり?」

「あぁ助ける。俺は桜を見捨てることは出来ない」


 白澤が拳を強く握りしめると、西村駿と木村玄輝の肩に背後から両腕を掛ける。


「…オレも付いていくぜ! 見捨てるなんて、なんにも楽しくないからな!」 

「白澤…」


 優菜と智花も顔を見合わせて、胸の前で手を握りしめると、


「私たちも行くよ。少しでも可能性があるのなら、私は桜ちゃんを助けたい」

「いいのか…?」

「うん、私もまだ信じてあげたいもん」


 西村駿の顔を見上げながら強く決意をした。


「怖いけど…。僕も行くよ」

「ガッシー、お前もいいのか?」

「…いいよ。僕はみんなの力になりたいから」


 金田信之が木村玄輝の服の裾を掴む。その様子を見た波川吹は「正気か!」としばらくフェリーの上でうろたえていたが、


「あー、行けばええんやろ行けば!」

「…すまない、吹」


 頭を掻きむしりながら、渋々自身も付いていくことにする。


「楓は――」

「…行くわよ」


 話を全て聞いていたのか、神凪楓は頭を押さえながら起き上がるとそう答えた。八人全員の意見が一つにまとまったタイミングで、真白町の近くにある灯台が見えてくる。


「それじゃあ、これからの動きを伝える」 

 

 黒霧の正体は東雲桜。その真実が一同を迷わせていたが、仲間だったことには限りない。そんな強い意志を各々抱きながら、雫の口から説明される"作戦"を静かに聞くことにした。

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