表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十四章【黒】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/145

第89話『役目は何ですか?』

「なんや今の爆発音は…!?」


 耳を劈くような爆発音によって目を覚ました玄輝は、ベッドから飛び起きて個室の外へと顔を出すと、駿たちも何があったのかと焦るような様子で話し合っていた。


「外から聴こえたが…何かあったのか?」

「取り敢えず、智花たちと合流しようぜ! 何があったのか知っているかもしれないだろ!」 


 白澤来の提案に他の四人は賛成すると、女子部屋まで駆け足で向かう。その最中にも外から銃の発砲音らしき音が途絶えることなく聴こえてきたため、これは一大事なのだと確信する。


「大丈夫か…!?」

「あ、駿くん…!」


 優菜たちの部屋がもぬけの殻だったことで、手分けをして一つずつ部屋を虱潰しらみつぶしにしていると、東雲桜の個室に優菜たちが集まっているのを西村駿が見つけ出した。


「桜ちゃんが…!」


 急いで東雲桜の容態を確認してみると、怪我はしておらずベッドの上で安らかに眠っているだけだったが、


「まさか、目を覚まさないのか?」


 全く目を覚ます様子がなかった。どれだけ揺さぶられても、爆発音を耳にしても目を覚まさない。その場にいる者たちの頭の中で、考えたくもない一つの結論に辿り着いてしまう。


「ユメ人。東雲桜はユメ人になっている」

 

 雨氷雫が静まり返る部屋の中でそう呟いた。 誰もが「そんなまさか…」とその可能性を否定したかったが、目の前で目を覚まさない桜を見てしまえばそう認めざる負えない。


「ここにいたのか…!」


 別れて探していた玄輝たちが桜の部屋の中へと姿を現す。話は聞いていなかったものの、その部屋の雰囲気を察すると、ベッドの上で眠っている桜を見て、顔が強張った。


「優菜、咲はどこにいるんだ?」

「どこにもいないの。普段は何かが起きたら絶対に私の前に姿を見せるのに…」


 これからどうするのか、その考えすらまとまらない状態で個室の扉が開き、


「動くな」 


 迷彩柄の特殊部隊らしき人物たちが木村玄輝たちに銃を向けた。  


「え、どうして軍の人が?」


 玄輝たちはますます状況が分からなくなり、その場に硬直してしまう。


「これは確認だ。今から名前を呼ばれた者は手を上げろ」

 

 冗談でもドッキリでもない。そんな高圧的な態度に、玄輝たちは無意識のうちに頷いた。


「木村玄輝、金田信之、神凪楓、鈴見優菜、内宮智花、西村駿、白澤来、波川吹――」


 自身の名前が呼ばれると、言われた通り手を上げる。その場で手を上げなかったのは、警戒をしている雨氷雫と目を覚まさない東雲桜のみだ。 


「お前たちにはこの国の存続のために――」


 一斉に銃の引き金に手が掛けられる。

 その瞬間に、雨氷雫は傍にある木の机を玄輝たちの前に倒して防壁にし、


「――ここで消えてもらう」


 全員を伏せさせて、撃ち出される弾丸による被弾を回避した。


「ど、どうして僕たちが撃たれてるの…?!」 

「そんなの私にも分からないわよ…!」

  

 木の机に全員で頭を伏せて隠れながら大声で叫ぶ。雨氷雫は至って冷静に、発砲音の回数を聞きながら、 


「私がアレを食い止める。あなた達はこの部屋でバリケードを作って隠れていて」 


 呼吸を整えて、玄輝たちにそう指示をする。


「で、でも…! 雫さんだけじゃ、あの人たちには…」

「私は大丈夫。あなたたちは、あなたたちにしか出来ないことがあるはず」

 

 心配をする智花を安心させるように頭へ手を乗せると、ベッドで横たわる東雲桜に視線を向けた。


「待ってくれ! おれたちがユメノ世界へ助けに行っている最中に、この部屋へ入って来られたら…」

「絶対に通さない」


 雨氷雫は発砲音が止んだタイミングで「私を信じて」とだけ言い残すと、防壁として使用していた木の机を軍人たちの懐まで飛ばし、


「――」


 振り向きざまに玄輝たちに向けて、口を動かして何かを伝える。そして一番近くに立っていた軍人の一人に突進を仕掛け、部屋の外へ弾き出した。そのタイミングで西村駿と神凪楓が近くの棚やタンスなどを扉の前まで運んで、言われた通りバリケードを作り、


「…桜を助けに行くぞ」


 動けないでいる玄輝たちの瞳を見て、そう言った。

 

「…ドリームキャッチャーはあるんか? あれがないとユメノ世界に干渉は――」

「あるよ」


 金田信之が寝間着のポケットから、一つのドリームキャッチャーを取り出して全員の前に見せる。


「ガッシー、どうしてそんなものを持って…」

「前に自宅へ荷物で届いて…。これが何なのか皆に話そうかなって思ったんだけど、この服のポケットに入れたまま忘れてたんだ」


 こんな偶然があっていいのか。と全員が目を疑ったが、その偶然が重なったおかげでユメノ世界へは干渉が可能となった。


「…じゃあ、これはここに置くよ」


 信之はドリームキャッチャーを東雲桜の近くに置くと、全員でその周りを囲むようにして、その場へ腰を下ろして目を瞑る。


「みんな、東雲を助けるために力を貸してくれ」


 薄れゆく意識の中で、ハッキリと西村駿の声が聞こえてくる。誰もその声に返答をしなかったが、全員がその場で大きく縦に頷いていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「……連絡が途絶えたのはそういうことだったんだね」 


 クラーラは別荘へと足を踏み入れてみると、自身の部下が至る所に倒れて、すっかりとのびてしまっていた。


「――!」


 別荘の中を探索しようとした瞬間、二階から雨氷雫がクラーラ目掛けて落下をしながら踵落としを繰り出したが、


「アタシにはその不意討ちは効かないよ」

「…ッ!?」


 足首を掴まれ、放り投げられたことで別荘の壁に叩き付けられた。

 

「アンタかい? アタシの部下を全員やっちまったのは…」

「…部下は大したことがなかったけど、あなたは段違いの強さ」


 大して怪我を負っていないのか、平気でその場に立ち上がり、見据えるようにしてクラーラの顔を見る。  


「アンタ、"人を殺したこと"があるね?」

「…あなたには関係ない」

「目を見れば大体分かるのさ。ソイツがどんな道を歩んできたのかが」


 雫自身もクラーラが只者ではないことを先ほどの一撃を受け止められて、重々に理解をしていた。もしかしたら自分よりも手練れである可能性も否めない。


「私のことはどうでもいい。もしこれ以上先に進むつもりなら、私はあなたのことを止めるだけ」 

「生憎上からの命令なんだ。アタシはここで引き下がれないね」


 言葉を交わすだけ無駄。両社ともそれを互いの言葉で確信させられると、一呼吸を入れた後に走り始めた。


「アンタがどれだけ腕っぷしに自信があるのかは知らないが――」 

(この馬鹿力…!?)


 雫の蹴りをクラーラは左腕で受け止めて、力で押し返す。雨氷雫は軽々と自身の利き足での蹴りを退けられたことで、近くに転がっているナイフを拾い上げ、クラーラの太ももに目がけて投擲した。


「どこを狙ってるんだい?」


 クラーラは体を少し逸らして、それを難なく回避する。


「手加減のつもりかい? 殺すことに長けているであろうアンタが、殺すことなくアタシに勝てるとでも?」

「私はもう誰も殺さないと約束をした。だからその約束を破るわけにはいかない」 


 雫は辺りに転がっている拳銃を二丁だけ拾い上げると、マガジンを抜いて、誤って発砲しないように細工をした。


「その約束のせいで死んじまっても、アタシを恨むんじゃないよ」

「あなたは勘違いをしている。約束は生きているからこそ守れるもの」


 雨氷雫は弾丸を装填していない二丁拳銃の型で、改めてクラーラの元まで接近をする。


「面白い戦い方をするじゃないか…!」


 右腕による拳の振り下ろしを、片手に持つ拳銃で受け流しながら、もう片方の拳銃でハンマー部分を脇腹に叩き込む。この二丁拳銃による格闘スタイルはクラーラも目にしたことがなかったため、苦戦を強いられていた。


(これがこの女の戦い方、幾分か力も増しているようだね…!)


 自身のスタイルを満遍なく出せたおかげか、先ほどの蹴りや腕っぷしとは比べ物にならないほどの力を雫は発揮していた。クラーラは流れを変えるために一旦距離を取り、辺りに視線を張り巡らせながらどう追い込もうかを考える。


「あなたの戦い方。"クラヴ・マガ"でしょ?」

「…へぇ、よく知ってるじゃないか」


 クラヴ・マガ。イスラエルで考案された近接格闘術で、一切の無駄を省いたシンプルかつ合理的な格闘技。この近接格闘術は、脅威の排除、怪我の防止、防御から攻撃への素早い転換、反射神経の利用、ダメージを受けやすい部分を狙うこと。近くにある道具や物体の利用…というような六つの基本理念で編み出されている。


「あなたはロシアの特殊部隊。どうしてこの近接格闘術を――」

「その話はNGだ。アタシのプライバシーに関わるからね」


 黒色の軍用ナイフを自身の脚に装着しているホルスターから引き抜くと、巧みに手の中で転がせながら、雫と再び向かい合った。 


「アンタは真白町で出会った白髪のヤツと同等に、戦いを楽しませてくれそうだね」

「…そう」


 白髪のヤツというのは月影村正のことだろう。雫はすぐにその人物の正体が分かったが、口に出すことなく素っ気ない返答をするだけにした。


「ぐぅ…ッ!?」


 再び戦いが始まろうとした時、別荘の窓ガラスが粉々に粉砕をして、咲が呻き声を上げながら、雫の足元に転がってくる。


「優菜の従者、何があったの?」

「――少しだけ厄介な奴に絡まれただけです」


 咲は体中が斬り刻まれていた。そこから血が溢れ出し、木の床を赤く濡らしていく。


「ブラッド、アンタの方はまだ片が付いていないのかい?」

「…殺し屋?」


 黒いコートに顔を半分だけ覆いつくすガスマスク。何よりも右手で逆手持ちをしているダガーナイフが血塗れだったことで、雨氷雫はそう強く確信したのだ。


「……」


 ブラッドは言葉を一切発さない。ただ目の前の標的を殺すことだけしか考えていないようだ。


「雫様、優菜様たちは…?」

「ここから先を通らせない限り、身の安全は確保できる」


 咲は口を手で隠し血反吐を抑えながら、その場に何とか立ち上がる。雨氷雫はこれだけ流血をしているというのに、平気で立ち上がる咲の生命力に少々驚いていると


「…これぐらい何ともありません」


 一丁の銃を両手で構え、ブラッドに銃口を向けた。 


(流石に私でもこの二人を同時に相手は出来ない) 


 それはつまり、怪我を負っている咲がやられてしまえば、こちらの負けだということ。それだけは避けなければならないと咲を止めに掛かるが、


「――私を信じてもらえませんか?」


 雫が玄輝たちに向かって放った言葉と全く一緒の言葉で、それを阻止される。雨氷雫は咲の顔をしばらく見つめると、


「…分かった、けどこれだけは忘れないで。あなたが死ねば悲しむ人もいること」


 咲に拳銃のマガジンを二つ渡し、クラーラたちと向かい合った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ