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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十三章『夏』

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第87話『無人島でバカンスですか? 中編』

「「「………」」」

「…皆さま、どうされたのですか?」

 

 海鮮類が豊富に取り揃えられた夕ご飯の時間。楽しいひと時になるはずが、女子五人も男子五人も"大浴場事件"のせいで会話が弾むことなく全員が黙々と箸で食事を摘まんでいるだけとなってしまっていた。


「…男子たちが私たちの風呂場を覗き見たから気まずくなっているだけ」

「そうだったのですね。それについては仕切りの壁が未だに調整中だったことを皆様に伝え忘れていた私に否があります。申し訳ありません」

「咲ちゃんは悪くないよ…! 悪いのは玄輝たちで…」


 男性陣を責めるかと思えば、自身に否があると言い出した咲を優菜が援護する。最も心外なのは"玄輝たち"と、まるで木村玄輝が主犯のような言い方だ。


「…俺たちが悪い。少し冷静さに欠けていた」

「何でやろ…? 何でわいはあんなことをしたんや?」 


 自身の罪を深く反省する五人は、後悔するような表情へと豹変していた。この顔を数十分前の駿たちに見せてやれば、止めることが出来たのだろうか。


「駿様方の気持ちも分からなくはありません。私は女性の身ですが、優菜様の霰な姿を見てみたいという思考に至ったこともありますので…」  

「だ、だろ!? やっぱり男としてあの場はああするべ――」

「手が滑った!」


 そう言いかけた白澤来の頭を玄輝は掴んで、海鮮スープの中へと思い切り叩き付ける。これ以上、事の発端に話をさせれば大変なことになってしまう。


「僕たちが悪かったよ…。ついつい楽しいからテンションが上がっちゃって…」


 男性陣全員で頭を下げて、改めて女性陣に謝罪をする。正直なところ、この程度で許してもらえるとは思っていなかったが、


「それじゃあ、私たちの言うことを一つだけ聞いてくれたら許してあげるよ」

「ゆ、優菜ちゃん…!? いいの!? そんなことで許しちゃって…!?」 

「私にいい考えがあるんだ。女子集合!」


 何か考えがあるようで、条件付きで許しを貰えるチャンスを得た。優菜は四人を集めると、ごにょごにょとその考えとやらを話す。


「…それいいかも」

「まぁそれぐらいキツイことをさせるのはアリね」

「私も異論はないよ」


 桜たちはその考えに賛同をすると一瞬で表情が明るくなり、玄輝たちと再び向かい合う。玄輝は優菜が見た目以上に、腹黒いことを知っているため、今すぐこの場から逃げ出したくなっていた。


「それで~…私たちの提案を男子諸君は呑んでくれるの?」

「ちょっと待ってくれ。俺たちも話し合わせてほしい」


 西村駿によって男子集合の号令がかかり、全員で円を作ってどうするかを話し合う。


「問題は、優菜たちが何を考えているかだな」

「元凶のオレがこんなことを言うのもなんだが…。素直に要求を呑んだ方がいいと思うぜ。あれ以上怒らせると死ぬ可能性がある」

「僕も白澤の考えに賛成だよ。もう股間を潰すのは懲り懲りだもん」


 白澤と信之が要求を呑むという意見を強く推すと、波川吹と木村玄輝でその意見をこう反対する。


「冷静になるんや。あんなことをしでかしたわいたちに、易々と救いの手を差し伸べると思うんか? 相手は悪魔か鬼やぞ」

「おれも吹の意見に賛成だ。人は時間が経てば少しは機嫌も良くなる。それまでの辛抱だろ?」


 ちょうど二対二で別れたことで、残った西村駿の意見ですべてが決まる状態となった。重大な選択肢を迫られる中で駿の出した答えは、


「…要求を呑もう」

「自分正気なんか…!?」

「許してもらえるチャンスがあるのなら、これほど恵まれていることはない。何よりもこの嫌な空気を続けたくないからな」


 話し合いは終了。西村駿たちは再び女子たちと向かい合い。


「分かった。それで許してもらえるのなら喜んで要求を呑もう」

「よし! それじゃあ契約成立!」


 優菜が駿の返答を聞くと咲に何かを耳打ちする。

 咲は「御意」とだけ答えると、階段を上ってどこかへ行ってしまう。


「それで、俺たちは何をすればいいんだ?」

「うーんとね…」


 雫を除いた女子たちがニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている中、優菜が口に出したその言葉。それは――


「――"女装"だよ」


 悪魔のようなおぞましい笑顔で死の宣告を告げられ、玄輝たちは無人島に響き渡るほどの大声でそう叫んだ。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「第一回、肝試し選手権ー」 


 咲が懐中電灯を自身の顔に照らしながら、玄輝たちを驚かすようにそう高らかに宣言しているが、棒読みの時点で全く怖さも感じない。


「玄輝様方、どうされました? そんなにげっそりとされてしまって」

「お前、分かってて聞いてるんだろ?」


 肝試しをした後に待ち受ける女装のせいで、男性陣はテンションが駄々下がりだった。逆に女性陣はかなり盛り上がっているようで、夕食のときとは人が違うのではないかと疑ってしまうほどだ。


「それでは肝試しのルールを説明させていただきます」

「は? わいたちのことスルーされてるで?」


 咲は答えだけ聞くと、何事もなかったようにルール説明を始める。歳上は敬うものと言われているが、咲の場合は敬っているのは優菜ただ一人らしい。


「二人一組でこの無人島の中心にある井戸まで向かってもらいます。そこで分かるようにこのシールを張ってきてください」


 全員に一枚ずつ赤色のシールが渡すついでに、十本の紐を一本ずつ引かせる。玄輝はどれでもいいと思いながら、適当に一番隅のものを引いてみると、先端が赤色の紐だった。

  

「紐の先端の色が一緒の人、それが二人一組のペアとなります」


 全員で何色かを確認しながら、二人一組を組んでいってみると『西村駿&東雲桜』『波川吹&鈴見優菜』『白澤来&内宮智花』『雨氷雫&金田信之』『神凪楓&木村玄輝』という五組のペアが構成された。


「何でよりによってあんたなのよ…」

「それはこっちのセリフなんだが…」


 玄輝と楓は顔を見合わせて、互いに嫌悪感を漂わせる。そんな二人を他所に咲はせっせと肝試しに挑むペアの順番をこう伝えた。


「それでは一番目に西村駿様たち、二番目に白澤来様たち、三番目に鈴見優菜様たち、四番目に木村玄輝様たち、そして最後に金田信之様たちという順番にしましょう」

「それは順番に何か意味があるのか?」

「いえ、適当です」


 問いに対しての答えを聞くと、雫と咲を除いた全員が「適当かよ!」とお笑い番組でよく見られるずっこけ方をする。


「行くぞ、桜」

「う、うん…。わたし、怖いの苦手だからエスコートしてね」


 西村駿は東雲桜に引っ付かれながら、森の中へと入っていく。数分立つと、森の奥から桜の悲鳴が聞こえてきたため、入り口で待つ玄輝たちは軽く身震いをしていた。 

  

「それでは白澤来様たち、どうぞお進みください」

「智花、楽しんで行こうぜ!」

「た、楽しむものじゃない気がするけど…?」


 全く怖がる様子のない白澤来に智花は不安を覚えながらも、そのまま森の中へと足を踏み入れる。


「…咲ちゃん、前の人が遅くて合流したりしないよね?」

「その点はお任せください。叫び声を聞いて、距離を測っていますので追いついたり追い抜かれたりはしません」

「え?」


 人間を超越しているのではないかと疑ってしまう発言が咲の口から飛び出し、もう一度聞き返そうとしたところで、森の奥から智花と白澤の叫び声が聞こえてきた。


「それでは優菜様方、どうぞお進みください」 

「ゾンビとか幽霊とか出てこないかなー?」

「これはホラゲーちゃうぞ…!」 


 ホラーゲームをやってきたからか随分と余裕そうな表情で森の中に入っていく優菜に、びくびくしながら優菜の後に続く吹。その二人を見送ると入り口に残されたのは、玄輝ペアと信之ペアだけとなった。


「………」

「もしかして怖いのが苦手なのか?」

「そんなわけないじゃない! これぐらい平気よ!」


 神凪楓は強がりをしていると一瞬で理解する。本当に怖くないのなら、きょろきょろと辺りを見渡したりしないだろう。


「おおぉぉぉおおぉぉぉーーーーん!!?」


 遠くから波川吹の雄叫びが聴こえると、いよいよ玄輝たちの出番となる。


「玄輝様方、どうぞお進みください」

「さっさと終わらせるわよ…!」

「早歩きで進むとはぐれるぞ」 


 森の中へ一歩でも足を踏み入れると夏場だというのに、少々肌寒く感じてしまうひんやりとした空気が二人の体全体に伝わった。


「…野生の動物とかいないよな?」

「いるわけないじゃない。この無人島には私たち以外の生き物の気配すらないんだから」


 イノシシやクマに出会ってしまえば、恐怖を感じる前に大怪我を負うことになる。神凪楓は懐中電灯で前方を照らしながら、そんな玄輝の心配を一刀両断した。

  

「最悪よ…! また大浴場で汚れを流さないといけないじゃない!」


 森の中だということもあり、土が海辺のようなさらさらとした砂ではなく、生粋の土。サンダルを履いてきたことで脚がどろどろに汚れてしまい、イライラしながら玄輝の先頭を歩いていると


「楓、道端に何かあるぞ」


 前方に大きな何かが転がっているのを見つけ、神凪楓を呼び止める。


「…何よあれ?」 


 人型をしているということはマネキン人形だろうか。木村玄輝は楓よりも前に立って、慎重にその正体を確認することにした。


「ね、ねぇ? 別に調べなくてもいいと思うのだけれど…? さ、さっさと通り抜けた方がいいわよ」 

「少し見るだけだ」


 震え声でそう提案をする楓に玄輝はそう返答し、目を凝らして何が転がっているのかをよく見てみると、


「――」 


 人間の腐りきった死体だった。眼球がもろに飛び出て、ウジ虫が至る所に付着している顔。それを見てしまった玄輝は声を出せないまま、その場で固まってしまう。


「…ど、どうしたのよ? それは何だったの?」

「み、見ない方がいいぞ。これはかなり精神的に来るからな」


 玄輝は神凪楓の手を握って、その腐乱死体のある場所からさっさと去ろうと、道なりに進もうと歩き出す。


「別に手を握らなくても、私一人で歩けるわよ…」

「いや、さっきのアレのせいでおれの心臓が止まりかけたんだ。少しだけ繋ぎ止めてくれ」


 玄輝は神凪楓の手を握りながら、どうにか平静を保とうとしていた。確かにあんなものを見せられたら誰でも叫び声を上げてしまう。


「どうやら難所はさっきのところらしい。後は無人島の中央にある井戸にこのシールを貼るだけ――」


 そう言いながら背後で歩いている神凪楓の方へ振り返ると、


「――あ」


 楓のすぐ真後ろに先ほどの腐乱死体が大きく両手を振り上げて、今にも掴みかかろうとしていた。


「きゃぁぁぁっ!!」


 腐乱死体、所謂ゾンビに地面へ押し倒された神凪楓は懐中電灯をその場に落として、悲鳴を上げながら必死に抵抗をする。


「くっ付くんじゃ…って何か私の体の上でうねうね動いているわよ!?」


 暗くて見えないのだろうと思うが、それはきっと腐乱死体の顔に付いていたウジ虫だ。何度か殴打音が聴こえてきたが、身体能力の高い神凪楓でも全く引き剥がすことが出来ないらしい。    


「きゃああっ!?! どこを舐めてるのよ!?」


 ゾンビだからといって食らいつくと怪我をさせてしまうため、ただ目標となる相手を舐めるだけらしい。そんな場面を見せられて、何とも下品な演出だと木村玄輝は妙に落ち着いてしまっていた。

 

「助けてよぉ…っ!」

「――!!」


 しかし神凪楓のその弱り切った一言で玄輝はすぐに我へと返った。何を呑気に見ているんだ、と自身に喝を入れると玄輝は突進をして、楓の事を押し倒している腐乱死体を吹き飛ばし、


「走るぞ…!」 


 楓の手を離さないように強く握りしめて、一目散に走り出す。まさか腐乱死体の二段構えだとは予測できなかった。これなら不意を突いて必ず驚かせることが出来るだろう。


「もぉー、最悪よ! 泥と唾液塗れじゃない!」


 神凪楓の懐中電灯は捨ててきたため、玄輝が手に持つ懐中電灯の光だけが頼り。暗闇に包まれた森の中を、必死に駆け抜けると、


「着いたぞ!」


 森に囲まれるかのように、井戸が中央でポツンと置かれている場所まで辿り着いた。きっとこの場所がゴール地点だ。


「四人分の赤いシールが貼られているな」 


 それはきっと西村駿たちと白澤来たちの四人だろう。とにかく少しでも早くこの肝試しを終わらせたい一心で、神凪楓と木村玄輝は赤いシールを二枚、井戸の蓋に貼り終える。


「出口はこっちらしいわよ」


 看板に【→】という矢印が大きく書かれているのを見つけ、二人は再び手を握り合うと、森の中を突き進む。


「……そういえばさっきの礼を言ってなかったわね」

「いや、いいんだ。おれは楓が目の前で襲われているのに、すぐに体を動かせなかった。感謝をされる資格もない」


 神凪楓はそう答える玄輝の悲しそうな背中を見ると、繋いだ手を少しだけ強く握って


「…ありがとう、少しだけカッコよかったわ」


 口をごもごもさせながら小さな声で感謝の気持ちを伝える。それを機にお互い照れてしまったのか、口数が減ってしまい、森を抜けるまで一言も会話を交わさなかった。 


「木村玄輝様、神凪楓様。ご到着です」


 森を抜けて砂浜へ出てくると、咲がクラッカーを鳴らしてパチパチと軽く拍手をして、肝試しクリアを祝う。


 砂浜には座り込んでしまっている東雲桜を心配する西村駿。仰向けに倒れて気絶している白澤来を突っついている内宮智花。ゲッソリとした表情で体育座りをしている波川吹を指差して笑っている鈴見優菜が待っていた。


「玄輝と楓も…って、どうして楓はそんなに汚れて…」


 暗くて分からなかったが、神凪楓は体中泥とねっとりとした唾液のようなものに塗れており、西村駿はその姿を見て心配をする。


「あれ? 楓ちゃんと玄輝が手を繋いでる?」


 遠くで見ていた優菜がそれに気が付き指摘をすると、すぐさま楓と玄輝は手を振り払い、間の距離を取った。


「主催者…! よくもあんな仕掛け人を用意してくれたわね!?」

「…仕掛け人ですか?」

「ええ、そうよ! リアルな死体メイクをした変態ゾンビのこと!」


 声を荒げる楓を見て、咲は「ふむ…」と腕を組んで少しだけ考え、



「――楓様、この無人島には私たち以外の人間などいませんよ?」



 そう返答した。その回答には神凪楓と木村玄輝も「え?」と二人で声を合わせて、何かの間違いではないかと反論をするが、


「いえ、間違いではありません。この無人島に上陸したのは、あのフェリーに乗っていた私たちのみです」 

「え、じゃあさっきのは…」


 玄輝と楓の顔が青ざめる。それと同タイミングでに金田信之が雄叫びを上げながら、森の中から一人で飛び出してきた。


「…信之様どうされたのですか?」

「ほ、本物の死体があったんだよ…!」


 やっぱり幻じゃなかった。その場に四つん這いになりながら状況を説明する信之の話を聞いた咲はペアである雫の行方を尋ねるが、


「お、置いてきちゃった…」


 ビビり散らかして森の中へ一人残してきてしまったらしい。 


 ズサッ――


 何かを引きずる音が森の奥から聴こえてきたことで、全員がそちらの方へ一斉に視線を向けた。


 ズサッズサッ――


 玄輝と楓はあのゾンビがやってきたのだと思い込み、海辺まで後ずさりをしてしまう。夜の海の水温はとても冷たく、楓と玄輝の体温を下げるのに十分だ。


「何?」 


 何が現れるのかと緊迫した空気の中、森の奥をひたすらに見つめていると、そこから姿を現したのは、あの例の腐乱死体を引きずっている雨氷雫だった。その光景を目にした優菜たちはすぐに口を抑えて、その酷い腐敗臭を嗅がないようにする。


「雫様でしたか。そちらの引きずっているものは――」

「森の中に落ちてたから、ここまで持ってきた」


 持ってくる必要ないだろ、と玄輝は心の中でツッコミを入れる。よくあの無残な腐乱死体をここまで引きずって来れたものだ。


「この死体は…本物ですね」

「そいつよ! そいつが私たちを襲ってきたの!」

「腐敗がここまで激しいのなら、立ち上がることはおろか指一本すら動くことはありません。何かと見間違えたのでは?」


 咲は腐乱死体を観察しながら、神凪楓の話を真っ向から否定する。襲われたことは事実だと玄輝も必死に訴えるのだが、現実的に考えてそれはまずあり得ないと咲だけでなく、駿たちも否定した。


「なら、おれたちが見たあれは…」

 

 その真実は結局分からないまま。あれはきっと"怪奇現象"、と二人はあの出来事をそう自己解決するしか方法がなかった。 



◇◆◇◆◇◆◇◆




「ふっふっふっ、ついにこの時がやってきたね!」


 宴会場のように広い部屋、そこで鈴見優菜が偽物のマイクを手に持って高らかにこう叫んだ。


「第一回、女装選手権ーー!!」  

「「「いええーーい!!」」」


 女性陣は大きな拍手を優菜へと送る。肝試しを終えると待っているのは、罪を洗い流すための禊。玄輝たちはどんよりとした空気に包まれながら、広い部屋の隅で埃のように集合していた。


「これは私たちが覗きをされた腹いせに、男子たちを女装させるわけじゃなくて! 誰が最も可愛くなれるかを競い合うためにする選手権だからね!」

「……どう考えても腹いせやろ」

「何か言った?」 


 波川吹は「何でもありません優菜さん」と土下座をしながら、言葉を撤回する。これで分かると思うが、今の女子たちに歯向かえるものなど、男子の中に誰一人としていないのだ。


「コーディネートをするのは、ファッションセンス抜群の智花ちゃんと桜ちゃん! 審査員は楓ちゃんと雫さん! そして私は司会を務めさせていただきまーす!」


 テレビ番組のようなノリで優菜が着々と女装選手権?というワケの分からない企画を進め始める。玄輝たちは笑みを浮かべた智花と桜に更衣室まで連れられていった。


 一時間後――


「それでは男子諸君の準備が整ったらしいので、詳しい説明をしまーす! まず審査員の配点は一人十点満点! つまり、合計二十点満点で点数が付けられます!」 


 神凪楓もノリ気なのか楽しそうに手を振り上げているため、雨氷雫はそれを横目で見ながら心の中で「私は何をやっているのだろう?」と溜息を付いてしまう。


「それではトップバッター! 『ロマン派からやってきた天才作曲家』、ガッシー!」


 金田信之がステージ上に姿を現すと、雫以外の女子たちが笑いを堪えるようにして腹を押さえていた。


「や、やぁ! 僕は音楽の天使! ガッシーだよ!」


 白いワンピースに長髪のウィッグ。ガリガリな体のラインが見えてしまうその異端さに、雫は表情を歪めてしまう。決め台詞も"天使"とかなり寒い。


「果たしてガッシーさんの点数は…?」


 雫は渡されたホワイトボードに三点と書いて優菜に見せる。それに対して神凪楓は二点という酷評をホワイトボードに書いていた。


「あーっと…!? ガッシーちゃんの合計点数は…五点! 非常に残念な結果となりましたー!」

 

 金田信之はやり切ったとでも言わんばかりにステージから捌けていく。そんなことに達成感を覚えないでほしい。

  

「続いて~『俺は女を落としてない。女が勝手に落ちるだけ』…西村駿~!!」


 二年一組の核ともいえる存在。そんな人物がOLの黒い服とストッキングを履いてステージに堂々と現れたのだ。これもまた女子たちから好評で、笑いが巻き起こった。


「私の人生はバラ色よ!」


 恥ずかしがらずにやり切ろうとする精神はやはり西村駿らしいとは思うが、やっていることは側から見れば生粋の馬鹿だろう。

 

「点数は~?」

 

 雫は七点をホワイトボードに書いて提示する。楓は六点と先ほどの信之よりも遥かに高い点数だ。


「合計、十三点ー! 現在トップだーー!」


 西村駿もやり切った感を出しながら、ステージから捌けていく。何故そこまでキメ顔で去っていけるのかが理解できない。


「お次は~…『お帰りなさいませご主人様! お食事にしますか? お風呂にしますか? それとも私の笑顔ですか?』…白澤来ーー!」


 まだ続くのかと雨氷雫は呆れながらステージの上へ視線を向けると、そこにはメイド服を着た白澤来がいつも通りの笑顔でその場に立っていた。


「あなたの心に~…! 右ストレートを決めちゃうぞ♪」


 マズイ、このままでは吐き気を催す。何故こんなものを見ていて、桜たちが吐き気の一つも覚えないのかが不思議でならない。


「それでは点数をどうぞー!」


 雨氷雫は辛抱しながら一点と書いて提示をすると、神凪楓は零点という点数を出した。


「あー、合計点数が一点! これは暫定で最下位です!」


 白澤来は最下位だというのにやっぱり前の二人と同じようにやり切った顔をしている。ユメノ世界で戦って勝つことよりも、女装に達成感を覚えないでほしい。


「次のエントリー者は~…。"怠惰怠惰で友達いない"、玄輝ーー!」


 眼鏡をかけ女子制服姿の木村玄輝が怒りに身を震わせながら、ステージに現れる。女性陣は相も変わらず笑っており、雨氷雫だけが唯一無心でその玄輝の姿を見ていた。 


「や、休みはいつもアニメショップへ行っています…」


 アニメ好きなオタク系の女子をモチーフにしているのだろう。それにしても、随分と偏見を交えながら失礼なことをする。


「点数どうぞ―!」


 雨氷雫は八点と書いてホワイトボートを見せる。神凪楓は五点と点数が書かれた右下に小さく「きちんとやれ」と記されていた。


「合計は十三点! 駿ちゃんと同率一位だー!」


 雫は玄輝に向かって心の中で「その怒りを忘れてはいけない」とメッセージを送ると、いよいよ最後の一人となり少しだけ安心をする。


「最後に残ったのは~…。『おおんと唸る暴走バイク』、波川吹ーー!」


 波川吹は近所のおばちゃんがよく着ているような服装だった。最後の最後でふざけたことで、女子たちはその場で床を叩きながら大爆笑する。


「わいも歳やから若い子たちには勝てへんなー!」


 お決まりのようにセリフを言ったのだが、イマイチ受けなかったようで辺りがしーん…と静まり返る。そんな場の空気によって、波川吹は怒りの沸点を越え



「なんなんやこれはぁぁぁぁぁぁ!!?」


 

 無人島全体に響くほどの怒声を上げた。


(時間の無駄だった…)


 題して「第一回 女装選手権」は西村駿と木村玄輝の同率一位で幕を閉じ、男性陣と女性陣はそれでお開きにし、男子部屋、女子部屋、それぞれの部屋に帰ることにした。

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