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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十三章『夏』

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第84話『夏休みは何をしますか? 霰編』

「…誰かに見られている気がするな」


 雨空霰は自室のベッドで寝転び、スマホを弄っていた。その最中にどこかから視線を感じ、部屋中を見渡す。しかし特に人影も見当たらないため、首を傾げつつスマホを再び弄り始める。


「そろそろ、アレを考えるべきなのか?」


 ふと思い出したことがあり、体を起こして自室の机へと移動をする。机の引き出しを開けば、そこには木村玄輝と神凪楓の破壊された机の写真。掲示板に貼られた【ユメに怯えろ】という貼紙の写真。そして体育祭のステージ発表時に断線していたケーブルの写真が並べてあった。


「西村たちへの嫌がらせ。まずはこれが全て同一犯なのかを考えるか」


 頭の中でパズルを組み立てるようにあらゆる記憶を思い出して、一歩ずつその答えへと辿り着いていく。


「…ケーブルの断線で少し引っ掛かるな」


 破壊された机の状態は、事細かく分解をされて、修復は不可能といっても間違いないだろう。だが、ケーブルの断線は少しだけ雑だ。何よりも一本だけしか切られていなかったことに違和感しか感じない。本当に邪魔をするつもりなら、その辺りの他のケーブルも切り捨てれば良かったはず。  


「主犯に協力した人物がいる。そう考えれば繋がるか」


 もし仮に主犯となる人物がその状況で動けなかったとする。ならば代わりに何者かが主犯に手を貸して、ケーブルを断線させることを企んだ。それならば、ケーブルを一本しか切らなかったことに納得がいく。


「問題は机や椅子を壊した方法だ。あそこまで細かく壊すのなんて単独犯では無理だろう」


 神凪楓と木村玄輝の机や椅子の破壊された跡を見るに、工具を使われている個所もあったのだ。そこまで手を加え、迅速に破壊するのには一人だけでは厳しいはず。


「複数犯…?」


 ふと脳裏に五奉行が浮かんだ。

 だがその憶測はすぐにかき消した。


「…アイツらは確かに西村たちを敵視しているが、そこまで卑劣なことをやる連中じゃない」


 五奉行は言葉で西村たちを貶すが、実際に二年一組に対して目に見える妨害をしたことなど一度もなかった。霰が確信するその根拠は体育祭のしっぽ取り。五奉行たちは正々堂々と真正面から作戦勝負で戦っていたからだ。


「ユメノ世界について漂わせる警告。あれは西村たちが独創者だということを知っている人物だけだ。それを知るのは……」


 ――黒霧。真白高等学校に七つの大罪の主犯格である黒霧が潜んでいる。そう考えるのが妥当かもしれない。


「まだアイツは手を出してきていない。機を窺がっているのか、それとも既にこちら側に手を出しているのか…」


 学校の名簿をコピーした書類を取り出して、一年生から三年生まで生徒一人一人を確認してみる。


「…後藤巧、安藤健也、二階堂伏見、白金雨音」

 

 怪しいものがいないか、書類の隅々まで調べてみる。ぱっと見、まったく誰なのか見当もつかないが何か大事な個所を見落としている気がする。このままだと取り返しのつかないことになるような――


「一度、考えるのを止めよう」


 それが一体どういうものなのか分からない。スマホを見てみると、内宮智花から『今日はありがとう』というメッセージが届いていた。 

 

「夏休みも始まったばかりだというのに…色々と厄介ごとが多すぎだ」


 最も厄介なのが、鈴見優菜の従妹だというあの少女。後方にいる大学生二人を確実に突き手で"殺そう"としていたのだ。あの目つきと身のこなしからして只者じゃない。


「…気分転換に出掛けるか」


 自室から一階へと降りてリビングを覗いてみると、いつも通り村正と絢がゲームで対戦しており、それを雫が眺めている光景が見えた。


(…相変わらず馬鹿なことやってるな) 


 その三人の後姿を鼻で笑いながら、玄関で靴を履いて家の外へと出る。迎えてくれたのは真っ青なら空に眩しい太陽。行く宛てもなく、ただぶらぶらと考え事をしながら、真白町の都会と言われている場所まで歩くことにした。


(平和ボケ…か)


 雨空霰は"殺し屋"だった頃の自分を思い出す。あの頃は頼まれればどんな目標でも構わず殺していた。それが子供であろうが、女であろうが、善人であろうが、札束を積まれれば誰であろうと関係はない。


(この事実を知るのは雫たちだけ。そんな話を西村たちに打ち明けることなんてできない) 


 人を殺めること。それは罪を犯すことだ。霰の事を罪人だと知れば、西村駿たちは迷わず今までの関係を断ち切るだろう。そうなれば二年一組にもいられなくなる。


「…あ、すみません」

「………」

  

 交差点の中央を考え事をしながら歩いていると、黒いコートを身に纏った人物と肩がぶつかり、霰は謝罪の言葉を述べる。相手は少しだけ視線を霰に向けると、興味を示すことなく、そのまま歩いて行った。


「――待て」

 

 雨空霰は何かに気が付くとその人物を呼び止める。


「……」   


 呼び止められた黒いコートの人物は、背を向けたままその場に無言で立ち止まった。


「どうして刃物を持っている? それもただの刃物じゃない――"殺し向き"の刃物を」

「……!」

 

 霰の言葉に少しだけ驚いたその黒いコートの人物は、霰の方へ顔だけ向ける。


「その独特の気配の消し方はどこで習った?」


 雨空霰はその黒いコートの中で、微かに聴こえた金属音で刃物だということを汲み取ったのだ。それに加えて、霰もその黒コートと同様に気配を消しながら歩いていた。一般通行人とはぶつかるはずがない。つまりそれは、ぶつかった相手が"一般人"ではなく、何かしらの手練れだということになる。


「………」

「…答える気はないか。まぁいい、この町はお前のいるべき場所じゃない。問題を起こす前に自分の故郷へ帰るんだな」


 黙ったまま口を開かないその黒コートの人物に忠告だけすると、真っ直ぐ目的もなく歩いて行った。


「何だったんだアイツ…」


 この町に似つかわしくない風貌。こちらが無意識に危険視してしまうほどの雰囲気。長年見てきたからこそ分かる。アイツはどこからどう見ても"殺し屋"だ。


(…ここぞとばかりに厄介ごとが増えていくな)


 猛暑の夏に外でひたすらに歩き回るのも疲れるため、その辺に建っていた『ニュアンス』という名前のデパートに入って、館内地図を探す。


(アイスクリーム屋さん…そこでアイスでも食べながら休憩するか) 


 地図に書かれたフードコートの位置を覚えると、エレベーターに乗り込んで四階のボタンを押した。


(電化製品…そういえば家にドライヤーがなかったな)


 そんなどうでもいいようなことを考えていると、エレベーターの扉が開いてフードコートの景色が目に入る。休日だということもあり沢山の人で賑わっているようだ。


「いらっしゃいませー!」

「ホッピングシャワーとクッキー&バニラのダブルでお願いします」


 アイスクリーム屋さんへと辿り着くと、自然と目に入った二つの種類を注文して、五百円玉を財布から取り出す。


「スプーンはお付けしますか?」

「あー…お願いします」


 コーンの上にテニスボールほどの大きさのアイスが二種類乗せられ、店員さんから霰に手渡しをされた。


「ありがとうございましたー!」


 雨空霰はプラスチックの小さなスプーン右手に、アイスクリームを左手に持ちながら、どこか座れる席がないかを探す。


「あー…ここに座るか」


 空いている場所を見つけると椅子が向かい合った席の片方に一人で座って、アイスを食べようとスプーンを突き刺そうとした瞬間


「うわぁぁぁーーん…っ!!」

 

 子供の泣き叫ぶ声が耳に入り「何事だ」と声の聞こえる方へ視線を移してみると


「…転んでアイスを落としたのか」


 まだ小学生にも満たない少年がその場に転んで、アイスをコーンから床にぶちまけてしまっていた。清掃員が速やかに床を掃除しているが、少年を泣き止ませようとはしていないようだ。


「……本当に厄介ごとばかりだな」


 雨空霰はスプーンを机の上に置くと、その少年の元まで歩み寄り


「これあげるよ」


 と自らのアイスクリームを少年の手に持たせた。


「い、いいの…?」

「いいよ。お兄さんはいつでもアイスを食べれるし」


 嗚咽を上げながらそう尋ねてくるため霰は軽く縦に頷いて、手を振りながら先ほどの席に戻る。周囲の視線を感じるが、霰はつい偽善者面をしてしまった自分を悔やんでいた。 


「相席いいだろうか?」

「…ああ、気にせずどうぞ」


 頬杖を突きながら綺麗なプラスチックのスプーンを眺めていると、向かい側から女性が相席を求めてきた。特に断る理由もないので、快く許可することにした。


「君は良いことをしたはずなのに、なぜ後悔をしている?」

「お前は初対面にも関わらず、面白いことを聞いてくるんだな」


 向かい側に座る女性はアイスコーヒーに差したストローを加えながら、雨空霰の事に興味を惹かれているようだ。霰からすれば相手に興味など微塵も無い為、俯きながらただプラスチックのスプーンを弄っているだけ。


「俺なんかが良いことをしても偽善と思われるだけだろ。だから後悔していたんだよ」

「偽善かどうかはどうでもいい。君のあの行いで少年が救われた。それは紛れもない事実だろう?」

「昔、お前に似ているようなヤツに同じことを言われたよ」


 顔を上げてみるとやはり"こちらの世界に住んでいる"四童子有栖だった。仕草や声、何一つ違わない有栖を見て、思わず苦笑いをしてしまう。


「名乗り遅れた。私の名前は――」

「四童子有栖、真白高等学校の養護教諭として務めているんだろ?」 

「ほう、私もそれなりに名が広まっているらしいな」


 朧絢から事前に四童子有栖の存在は聞いていた。神凪楓や東雲桜以外にも、こちら側へ"存在"しているとは予測が出来ていたため、然程驚きはしなかったが、


「で、俺に言いたいことはそれだけか?」

「君に興味を持った。少しだけ私の話を聞いてくれないか?」


 あちらの世界でもこちらの世界でも、四童子有栖は変わらないらしい。特にやることもないので、仕方なくその話を聞くことにした。

 

「君は"パラレルワールド"の存在を信じているか?」

「ああ、信じているよ」


 その質問に対して、即座に霰がそう答えると有栖は少しだけ目を開き、驚いていた。あまりにも予想外の返答だったのだろう。 


「…お前も信じているのか?」

「その通りだ。私はそのパラレルワールドについて研究をしていたのだから」


 四童子有栖は、現実離れした研究題材を見つけるのが唯一の楽しみ。常日頃から興味の惹かれる話を様々な人たちから聞き出そうとする。たとえそれが初対面の相手だったとしても。


「私がこの題材に惹かれたワケはとある少女の発言」 

「はぁ…」  

「『私の住んでいた世界は化け物たちに浸食されていた』というものだ」

 

 雨空霰が四童子有栖の話を聞いた途端、プラスチックのスプーンを真っ二つに折る。聞き覚えのあってはならない話なのだ。 


「その少女は身体中傷だらけで保護をされた。そして何度も手当たり次第に『怪物が…! 神が襲ってくる!』と連呼をしていたらしい」

「……」

「…どうした? 顔が怖いぞ」


 あまりにもあの世界と酷似しすぎている証言。そのせいで雨空霰の表情は鬼のように強張っていた。醸し出す雰囲気も和やかなものから、鋭く周囲に寄せ付けないようなものとなってしまっている。


「…気のせいだ」


 霰は自身を落ち着かせながら、そう答えた。有栖は不思議そうに観察をしながら、話をこう続ける。

 

「私はその少女の話を聞いて、こう推察する。私たちの住むこの世界以外にも沢山の世界が存在するのではないかと」

「…その少女は今どこに?」  

「富豪に引き取られたらしい。それ以降の行方までは分からないが…」 


 雨空霰はその情報を聞き出すと、その場に立ち上がる。四童子有栖は「どうした?」と霰の様子を窺がっていたが、


「…予定があるから、俺はもう行くよ」

「そうか、時間を取らせて悪かった」


 その言葉を聞くと引き止めることはせず、そのまま霰の事を見送った。

 

(俺たち四人以外にも生き残りがいた…? あの状況で? 確かにカウントは最後の最後まで四という数字だったはず)


 霰は普段よりも歩くスピードを数倍速くして、雫たちが待っている自宅まで急ぐ。このことを一早く伝えなければいけないのだ。


「聞いてくれ…!」 


 自宅まで十分も掛からずに辿り着くと、玄関の扉を乱雑に開けて、リビングの方へと顔を出す。しかし電気は消えており、人の気配すら感じない。


「…出掛けたのか?」


 スマホで時間を確認してみると夕方過ぎだ。もしや夕飯を食べに外食しに行ったのではないか。霰は溜息交じりに「タイミングがな…」と呟きながら、リビングの扉を開けてみると、


「「「おめでとーーう!!」」」


 火薬の破裂音と共に、色とりどりのビニールテープや紙吹雪が宙を舞う。そこには、クラッカーを持った雨氷雫、月影村正、朧絢が立っていた。霰はイマイチ状況が掴めず「は…?」と呆気に取られる。


「今日はお前の誕生日だろ!」


 今日の日付は七月十四日。そういえば自分の誕生日だったと気が付いた霰は、雫たちだけでなく波川吹、神凪楓、内宮智花、西村駿もリビングで拍手しているのを見つける。


「…何で西村たちも?」

「わいが呼んだんや。この三人には任せられへんからな」


 波川吹と雫たちの間に何があったのかも気になるが…。そんなことよりも四童子有栖から聞いた話の方が重要だ。


「俺の誕生日なんてどうでもいい…! そんなことよりも話を――」


 そう言いかけた瞬間、村正に頭を叩かれる。

 

「お前が生まれた日よりも大事なことなんてないだろ」

「――」

 

 村正にそう言われた瞬間、目の裏に熱い何かを感じてしまい思わず視線を逸らした。その一瞬の出来事で、霰が泣いていたことを知っていたのは間近で見ていた三人だけ。 


「…そうだな。誕生日なんて祝ってもらったことないから嬉しいよ」


 笑顔を振りまきながら感謝の言葉を述べる霰に、朧絢が包装された四角い箱を手渡しする。


「俺たち三人で買ったプレゼントだ! 開けてみてくれ!」


 雨空霰は言われた通り、中を確認するために包装紙を破いてみると、


「…ドライヤーか?」

「霰が家にないって前に言っていたから」

「ぷっ、あっははは…!!」


 マイナスイオンも浴びせてくれる最新型のドライヤーだった。それを見た雨空霰はドライヤーの箱を持ちながら爆笑をする。


「何がそんなに面白いんだ?」

「だってさ…! ドライヤーが欲しかった理由は、雫がいつも髪を乾かさずに風呂から出てくるからだぞ…!? 別に俺が使うわけじゃないんだよ…!!」


 霰が腹を押さえながら笑っているため、雨氷雫がムスっとした表情を浮かべる。朧絢と月影村正はその理由を聞いて「そういうことか」と納得をした。


「確かに、霰が使うわけがないよなー!」

「まぁこんなことだろうと思ったが」  

 

 リビングに机が綺麗に並べられており、そこには"雨空霰"と名前が書かれたケーキや、豪勢な料理が揃えられられている。


「これは誰が…?」

「俺が楓と智花に頼んで作ってもらったんだ」

「そんで俺は飾りつけと皿並べを手伝ってもらうために、駿と吹を助っ人に呼んだんだ!」


 "夢"のような光景だ。いや、もしかしたらこれは本当に夢なのかもしれない。霰は自身の頬を軽くつねってみる。


「智花、玄輝たちは既に呼んでいるが…。桜たちはどうだ?」

「さっき連絡したら、大丈夫だって言ってたよ?」


 流石にここまで盛大に祝われるのは自分のキャラに合わない。雨空霰は額を手で押さえながら、ソファーに腰を下ろした。


「…楽しんで、霰」

 

 雨氷雫が霰の隣に座ると、懇願するかのような声でそう伝える。 雫はいつも考え事ばかりをしている雨空霰が、純粋に心の底から気休めになるような誕生日パーティーにしたいのだ。


「ありがとな」


 雫の気持ちを受け取った霰は、自然な笑みを浮かべながら感謝を伝えた。



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