第83話『夏休みは何をしますか? 楓編』
『…はい?』
「私よ。余りものがあるからあげるわ」
神凪楓は夜食に肉じゃがを"偶然"余分に作ってしまったため、近くに住んでいる月影村正の部屋までパックを持って、訪れていた。
「助かるが…。今日の朝も余りものをくれただろう。そろそろ分量を考えた方がいいんじゃな――」
「黙って受け取りなさい」
楓は無理やり村正に肉じゃがの入ったパックを押し付けると、素っ気なく自室へと帰っていく。村正はそんな楓を見送りながら「…まぁ、食事が楽になるからいいか」と欠伸をしながら扉を閉めた。
「全く…。借りを返さないと気に障る性格は、自分でも面倒くさいと思うわ」
神凪楓はため息交じりにそう独り言を呟くと、リビングのソファーに倒れ込む。楓が退院した日に村正に迷惑を掛けていたことで、神凪楓は毎日のように余りものを村正へと渡しに行っていた。
「それと私に成り代わって実力テストを受けたってなによ…!? どういう神経してるのかしら…!?」
体育祭の日、久しぶりに学校へ登校すると、受けた覚えもない実力テストの答案を返されたのだ。楓は嫌な予感がし、すぐさま雨空霰を問い詰めると、
『あー…俺がお前に変装して受けたんだ』
と悪気もなさそうに答えたため、楓は霰の頭を渾身の力で引っ叩いた。
「あーもぉー! 何で夏休みなのに頭を悩ませないといけないのよ!」
スマートフォンを確認してみると、金田信之から『録音したい』という訳の分からないメッセージが届いている。楓はイライラしていたことで返事をすることなく、スマートフォンをソファーへ放り投げた。
「…よく考えてみたら、休みに入っても勉強以外にやることがないじゃない」
頭の中で"するべきことリスト"を組み立てた結果。課題、勉強、兄のお見舞い、そしてバイト、この四つしかやることがなかった。勉強に集中しようと、趣味を作らなかったことが裏目に出たようだ。
「ピィー!」
「はいはい出してあげるわよ」
家で飼っている『スイカ』というインコが大きな声で鳴いた。「ここから出してくれ」と言わんばかりに、鳥かごの中で暴れ回る。楓は鳥かごの入り口を開き、『スイカ』を部屋に放した。
「あんたはいつもどうやって暇を潰しているの?」
「ピィ?」
右手の人差し指の上に乗りながら、毛繕いをしているスイカにそう尋ねる。当然だが、言葉は通じるはずもなく、スイカは楓の顔を見て不思議そうに眺めるだけだった。
「昨日のやつ、ここに置いておくぞ」
「ああそうね。そこらへんに置いて…って!? 何であんたが私の部屋にいるのよ!!」
余りものが詰め込まれていた空のパック。それを村正が洗い場へと置いている姿が目に入り、彼女は立ち上がって指摘をする。
「いや、鍵が開いていたからこれだけでも返しておこうと」
「鍵が開いていてもノックぐらいしなさいよ! 常識外れにも程があるわ!」
実際はそんなことよりも独り言を連発していた時と、飼っているインコに話しかけている光景を見られていないかが重要だった。スイカは楓の右指から村正の肩に飛び移り、じーっと見つめながら興味津々のようだ。
「大丈夫だ。全部は見ていない」
「全部じゃなくても見てるじゃない! あー、最悪よもう!」
ソファーにうつ伏せになって赤くなった顔を隠す楓を、村正とスイカは互いに顔を見合って、どうしたものかと頭を掻いた。
「…お前、暇なのか?」
「ええ暇よ! やることがなくて暇なのよ! 何か問題でも!?」
村正はやけくそになっている神凪楓へ、哀れむような視線を送りながら、
「そう自棄になるな。家でしっかりと休息するのも大切だぞ」
肩に乗っているインコを彼女の背中に乗せると、リビングから出ていこうとする。
「…待ちなさい」
「何だ?」
しかし楓はうつ伏せになったまま、村正のことを呼び止めた。
「私とユメノ世界で戦いなさい」
「断る」
彼は流れるように即答し、再びリビングを出ていこうとする。
「それなら…!」
神凪楓はその返答を聞くと、勢いよく起き上がる。そして背を向けた村正に向かって、右足による飛び蹴りを食らわせよう試みた。
「お前は何がしたいんだ?」
だが村正は欠伸をしながら、その飛び蹴りを軽々と片手で受け止める。楓は掴まれた足を戻そうとするが、あまりにも強く握られていることでバランスを崩し、その場に尻餅をついてしまった。
「あんた、やっぱり強いわね。現実でこれだけ強いなら、ユメノ世界も相当でしょ?」
「結局、お前は俺に何を求めている?」
村正は楓の足を離すと、手短に用件を問いただす。すると神凪楓は村正を目の前にして正座をし、
「私を、私を鍛えてほしいの」
丁寧に額を床に付けて、そう頼み込んだ。その行動には村正も少しだけ動揺をしてしまう。不思議なことに、彼は懐かしむような表情をしていた。
「なぜ俺なんだ? 霰たちもいるだろう?」
「何となくよ。誰かに鍛えてもらうのなら、あんたが適任だと思ったの」
村正は少しだけ考える素振りを見せる。楓が頭を下げる行動に出ること自体、よっぽどなこと。本当に強くなりたいと望んでいるから、プライドを捨てて村正へ頼み込んでいるのだ。
「霰は私たちに自分を磨けと言った。確かに駿たちにはそれが最も効果のある方法。だけど、私は"変わり過ぎてしまった"のよ。そんな方法じゃ、更に強くなんてなれない」
「正直に言わせてもらうが、お前はこれ以上強くなんてなれない。どれだけ汗水たらして特訓しても、今のまま変わらないだろう。それでも鍛えてほしいのか?」
村正は明らかにした神凪楓の想いを聞いたうえで、そう問いかけた。しかし楓は引き下がることも、うなだれることもしない。
「私は必ず強くなってみせる。なんと言われようと絶対に。だから私を鍛え――」
「…分かった」
ついに折れた村正は溜息交じりに承諾すると、神凪楓の頭に手を乗せて、
「俺に教える立場が出来るかは分からんが、やるだけやってやる」
「…助かるわ」
強くなりたいと望む楓の事を受け入れた。神凪楓は下を向いたまま、一言だけ感謝の言葉をぼそりと呟く。
「今日の深夜、俺のユメノ世界に干渉しろ。俺は今から出かける用事があるからな。帰ってきたら連絡をする」
村正はそれだけ伝えると、玄関から自分の部屋へと帰っていった。一人残された神凪楓は「ふぅ」と落ち着きを取り戻すと、鳥かごの上で怯えるスイカを見つけ、
「驚かせて悪かったわね」
頬を優しく指で撫でながら、鳥かごの中へと入れた。
「今のうちに準備しておきましょ」
入浴を済ませるため、制服を脱ぎながら洗面所へと向かう。その最中に、机の上でスマホの画面が点灯していることに気が付き、覗き込むようにして確認をする。
『今日は助かった。また何かあれば連絡をしてくれ。 四童子有栖』
そこにはSMSで四童子有栖から、そのようなメッセージが届いていた。
『お構いなく』
たった一文の返信をし終え、制服の上着をソファーに投げ捨て、カッターシャツのボタンを外しながら、洗面所の鏡で自分の姿を見る。
「零が今の私を見たら、何て言うのかしら?」
戦う時に邪魔だった長髪は切り捨て、甘えきった自分を変えようとこの性格で上書きをした。この姿を見て、兄である神凪零は褒めてくれるのだろうか。
「過去の自分を捨てたおかげで、それなりに強くなれた。その代わりに失ったモノは、数えきれないほどあって……」
考えるだけ無駄だ。楓は両頬を叩いて、カッターシャツ、制服のスカート、黒のニーソックスを洗濯カゴの中に投げ入れて、下着姿となる。
「悪い、返し忘れた皿が――」
「…え?」
「あっ…」
返し忘れた皿がまだあったのか、村正が再び姿を見せる。彼の視線が向いた先には扉が全開の洗面所。そこを覗いてしまったことで、お互いに目線が合い、二人揃って硬直する。
「すまん、悪気はなか――」
「あんたは、あんたは絶対に殺してやるわぁーーッ!!」
その後、包丁を持って暴れ回る神凪楓を相手に、月影村正は逃げ回りながらひたすらに「落ち着け」と声を掛け続けるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「上手く干渉が出来たようだな」
「…ふんっ!」
「何度も謝っただろう。それに俺はお前の体に興味なんて―――」
それを聞いた楓が「は?」村正の事を睨みつける。彼は言いかけた言葉を、再び喉の奥に呑み込んで抑えると、わざとらしく辺りを見回した。
「…取り敢えず、何もない白い空間にしたがこれで良かったか?」
ユメノ世界を創造するのに村正は、『特訓ができる環境』というものがいまいちイメージが湧かず、このように障害物が一切ないただ白い空間にしたのだ。
「私はこんなユメノ世界を創れないのだけど?」
「自分のユメノ世界を創り出すには、それなりの創造力が必要だ。お前も知っているとは思うが、空間一つだけでも質量はかなりのものだからな」
創造する"モノ"は、質量が多ければ多いほど創造力が必要となる。楓の現段階の創造力では、空間を創り出すことは不可能だ。
「…って、空間に質量があることは何故か分かるよな?」
「"ループ量子重力理論"とか"CDT理論"の話でしょ? それぐらい分かるわよ」
噛み砕いて説明すれば『質量やエネルギーが存在する場所のことを空間』と呼ぶからである。色々と説はあるが、空間を創り出すのに質量が必要だということは確実だ、と神凪楓も重々理解していた。
「空間が広ければ広いほど、必要となる創造力は増える。お前を見る限りでは、空間一つを創り出せるまでの域には達していないようだ」
「でも空間を創り出せばいいんでしょ? それなら小さな空間を創ればいいじゃない」
「よく考えてみろ。その小さな空間を創り出したら、お前が入る隙間はあるのか?」
確かに小さな空間なら神凪楓にも作れるかもしれない。しかしその小さな空間へ仮に楓が転送されてしまった場合は、
「その空間に入っていない部分は"消滅"だ。自分の創り出したユメノ世界で、自殺をするだけだぞ」
「…恐ろしい話ね」
『その空間に入る体の部分しか残らない』。つまり創造力が低い状態で、たとえ小さな空間が創れたとしても、ユメノ世界へ意識が飛んだ瞬間に即死する可能性が高いということ。
「…そんな重要なこと、どうして私以外のアイツらに教えないのよ?」
「あくまでも俺の視点だが…。小さな空間を創り出せる可能性があるのは、お前しかいない」
西村駿たちの創造力では、小箱サイズの空間も作れない。村正曰く、大型バスを創り出せるようになれば、空間の創造も出来るようになるらしい。神凪楓は半信半疑になりながら、試しに大型バスを創造しようとする。
「創造すれば、いいんでしょ…!」
「まずまずだな」
楓は創造力を一点に集中させて、見事大型バスを創造することに成功した。だが創造し終えると、その場に座り込んで疲れ切ってしまう。
「この程度で創造力も限界か?」
村正は涼しい顔で、楓の創り出した大型バスに向けて右手を突き出す。
「これぐらい出来てもらわないと困る」
するとその大型バスの上空から、更に三台の大型バスが降り注ぎ、一番下の大型バスがぺちゃんこに潰れてしまった。村正の創り出したバスには傷一つ付いていないが、楓の創り出したバスはもはや見る影もない。
「知っているとは思うが、創造力がその創造した"モノ"の強度を決める。お前の創造力が俺より低いから、このバスは壊れたんだ」
「…重さで、壊れたの間違いじゃないかしら?」
何とかその場に立ち上がって、銃剣を創造すると村正の創り出した大型バスに斬りかかるが、
「――!?」
「傷跡すらつかない、か。思っていたよりも創造力が低いんだな」
そのバスは鋼鉄の装甲でもしているのか、神凪楓の銃剣の刃が一瞬にして欠けてしまった。
「そうだな、試しに俺を斬ってみろ」
村正は楓の方へ体の向きを変えて、そう伝える。甘く見られているのも癪に障るので、遠慮せず村正に向けて全力で銃剣を薙ぎ払った。
「創造破壊」
「きゃ…っ!?」
神凪楓の銃剣が自身の身体に触れる前に、デコピンで相殺をする。たったそれだけで、彼女が持っていた銃剣は粉々に粉砕した。
「中指一本で破壊が出来るほど柔い武器か。これは少し基礎を詰まないとダメそうだな」
月影村正が腕を組みながら、どう鍛えようかと考える。楓は悔しさが募り、もう一度銃剣を構えた。
「あんたの、全力を見せなさいよ」
「いや、お前を相手に全力を見せる必要はないだろう」
「言ったわね…!」
その発言にイラっときた楓は、銃剣を構え、村正に向かって突進技を仕掛ける。自身に斬りかかってくる楓に呆れつつも、彼はその場で回避を始めた。
「こっちだって戦いを何度も経験してきたのよ…! コケにされて、黙っていられるわけないでしょ!」
「――変わらないな」
"変わらない"という言葉。それは神凪楓が強くなりたいと望んでも、結局はこうなってしまうという意味なのか。それとも楓の事を昔から知っていて、変わらないと言っているのか。その真意は不明のままだったが、
「俺の全力が見たいのなら――」
期待に応えようと村正は微笑して、空間の空気と音を大きく揺るがせた。彼女はその威圧に気付いてはいたが、負けじとひたすらに攻撃を仕掛ける。
「――見せてやるよ」
「……ッ!?」
そして自身の周りを包み込むように、"衝撃"を纏った。銃剣は僅かに触れただけで、光の塵へと変わってしまう。
「お前が戦ってきたことぐらい、俺だって知っている」
「…あんたのその力は」
「だが残念なことに…。俺は、いや俺たちはお前の数倍、数百倍以上の戦いを経験してきたんだ」
衝撃はやがて波となって、その白い空間の壁や床を易々と削り取る。
「お前は勘違いをしている。俺がなぜ、ここで全力を出さないのかを」
村正から感じ取れる創造力、威圧、覇気。それらがあの黒霧と同等、もしくはそれ以上のもの。神凪楓は身動きが取れず、銃剣すらも創り出せず、その場に棒立ちの状態。
「それは全力を出せば、ユメノ世界を崩壊させてしまうからだ。だから波川吹のユメノ世界では、下手に力を使わなかった」
衝撃が楓の頬、腕、脚を掠める。たったそれだけで、切り傷を負い、真っ赤な血が滲み出た。
「お前たちは黒霧と戦うと決意した。その意志は褒めてやれる。けど、本気の俺を前にして一歩も動けないようなら――」
刹那、村正の姿が楓の視界から消え去る。どこに行ったのか。彼女は辺りを見渡そうとし、
「――"死ぬぞ"」
たった一言。楓の背後から耳元で囁かれた。心臓を突き刺されたかのような感覚。彼女はその場にへなへなと座り込む。
「…大型バスを容易く創造できるようになること。それが当分の目標だ」
生み出した衝撃が一瞬で消失すれば、先ほどの威圧感も彼から同様に失われる。村正はその場に座り込んだ楓の腕を掴み、無理やりその場に立たせた。
「あんたは、どうやってそこまで強くなったのよ?」
「昔の俺には、師匠がいたんだ。その師匠のおかげで、ここまで強くなれた」
村正は椅子を二つ創造して、片方に楓を座らせると自分ももう片方の方へと腰を下ろす。
「その師匠っていうのは、一体どんな奴なのよ?」
「…お前に、似てたかもな」
何かを思い出すように、村正は虚空を見つめている。神凪楓は"自分に似ている"と言われ、是非ともお目にかかってみたいと考えたが、
「師匠は命を懸けて俺たちの道を作ってくれた。命の恩人でもある」
師匠と呼ばれる存在が、既に亡くなっていることを知り、楓は開こうとした口を閉ざしてしまう。村正もやはり大切な存在を失っている。楓がその強さの中に感じた"寂しさ"は、間違いではなかったらしい。
「絢、雫、霰…。あいつらも俺と同じ道を辿っている」
「一体何があったのよ? あんたたちをそこまで強くして、追い込んだ出来事って…」
村正はそれを楓に答えることはなかった。口に出したくないほどの出来事。彼女は少しだけ申し訳なさが込み上げる。
「わ、悪かったわよ。何があったかは話さなくていいわ」
「話したくないわけじゃないんだ。ただ、このタイミングで話すべきなのかと思ってな」
楓はその言葉の意味を理解できない。だが村正の迷っている表情を見て、自分に関係することは何となくだが察することは出来た。
「もう深夜の二時を過ぎている。話はここまでだ」
「…どうして現実世界の時間が分かるのよ?」
ユメノ世界と現実世界の時間帯はバラバラのはず。それなのに村正はハッキリと時刻を把握しているのだ。
「俺がこのユメノ世界を創るときに、現実世界と同じ時間軸にしたからだ。このおかげで時計を創造すれば――」
村正は片手に懐中時計を創造して、その時刻を神凪楓に見せる。確かに時計の針は深夜の二時を回っていた。
「…最後に教えて。半端な創造力で、ユメノ世界を創ること以外に危険な行為は何があるの?」
「霰がこう言っていた。命の宿るもの。つまり動物や虫、そして人間を創造する場合は自身の"創造力"ではなく、"生命力"を削るということだ」
創造力とは違う生命力。それは言葉の通り、独創者自身の寿命を削り、新たな別の生命を生み出すのだ。少しでも使用すれば、命を危険に晒してしまう。
「待ちなさいよ。ならユメノ世界で、人間の偽物を大量に生み出したりしているのはおかしいじゃない? あの量を生み出せば死んでもおかしくは――」
「"自身のユメノ世界であれば生命力は消費しない"。消費する場合は、誰かのユメノ世界に干渉をしている場合だけだ」
木村玄輝のユメノ世界で、ベルフェゴールが金田信之の偽物を大量に生み出せたのは自身のユメノ世界だから。頭の中で辻褄が合った楓は、頷きながら納得をする。
「物質は創造力を使用して、"再生"は身体に疲労を積み重ねて…。そして生物を創造するには"生命力"を使用するのね」
「お前のお仲間さんたちにも、その事をきちんと教えてやってくれ。俺たちからは口出しをしないからな」
「どうしてよ? あんたたちは味方なんでしょ?」
村正は首を左右に動かしてそれを否定する。
「霰はそう考えていない。今回だってお前たちを助けたのは、黒霧を倒させるためだからな」
「そこまで強力な力を持っているのに…。霰の指示であんたは動いたの?」
「ああ、そうだ」
それほどの力を持ちながら、雨空霰の言うことを聞いているのは何故なのか。神凪楓はそれを遠回しに尋ねる。
「霰は俺でも歯が立たないほど強い。きっと黒霧ってやつにも勝てるだろうな」
「…何で自分の手で倒さないのよ?」
「そこまでは分からない。俺にも霰の考えていることは読めない」
雨空霰の本気。それは一体どんなものなのか。楓は少しだけ気になったが、現実世界で何度も見せた規格外の身体能力に加えて、国のトップに立つ高校の実力テストを点数調整しながら、楓自身になって誤魔化した実力。ユメノ世界を崩壊させるだけでは済まない。
「だが前に、霰はこんなことを俺らに話していた」
村正は思い出すように、神凪楓の瞳を見つめながら、
「"俺たちは黒霧を軽視し過ぎているかもしれない"…ってな」
霰の黒霧の見解をそう告げた。




