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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十三章『夏』

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第80話『夏休みは何をしますか? 白澤編』

「おう! 元気か薬?」

「うるさいよ兄さん」


 妹である白澤薬が耳を塞ぎながら白澤来の横を通り過ぎる。

 時刻は真昼間。白澤来は夏休みに入ったことでウキウキ気分に駆られ、これから何をしようかと考えていた。


「筋トレでもするか!」

  

 ユメノ世界での戦いに備えて自分を鍛え上げようという結論に至った白澤来は、ナップサックに汗拭きタオル、財布、スマホ、スポーツ飲料を入れて、階段を降りる。


「そういえば兄さんに言うことがあった」

「何だ?」

「私、夏休みの間は母親に家庭教師を雇ってもらうから」


 学業に励もうとする妹に対して、白澤来は親指を立てて「おう頑張れよ!」と応援の言葉を送り、玄関を潜り家の外へと出た。


「よっしゃ! このジムに通って強い男になってやるぜ!」


 真白町に新しくオープンされたスポーツジム『マッスルどう』。

 白澤来は陽気に鼻歌を歌いながら、入店をする。

 

「ようこそマッスル道へ。こちらへご来店するのは初めてですか?」

「おう! 初めてだ!」

「それではまず会員証の発行を行いますがよろしいでしょうか?」

「いいぜ!」


 こんなにテンションの高い白澤来を相手にして、一切動じることなく冷静に対応をする受付のスタッフは、一枚の紙とボールペンを白澤の前に差し出して、一つずつ記入欄を確認し会員証の発行作業を始める。


「白澤来様、ですね。プランはどうされますか?」

「どんなプランがあるんだ?」

「開店時間ならばいつでもご利用できるマスタープランや、昼だけのご利用のお昼プランなどがありますが…」


 白澤来は何種類かのプランに目を通すと、即座にマスタープランを選択して、月の利用料について説明を受け、会員証を受け取った。


「それでは手続きが終わりましたので、ジムの方を自由にご利用ください」

「サンキュー!」

  

 月八千円という利用料に加えて、ジムの着替えセットをレンタルするために月千円、合計でおおよそ一万円の出費をした白澤。だが、彼はあまり金銭面を気にしていないようで、スポーツジムで自分を鍛えることしか頭にないようだ。


「このロッカーだな」


 ロッカーにナップサックや貴重品を入れて、トレーニングウェアに着替え始める。ロッカー室には新しくできたスポーツジムがどんなものかとお試しに来店している体つきのよい男性が数多くいた。


「うおー! 筋トレの機械が沢山あるぞ!」


 ジムの内部はトレーニングマシンを数多く取り揃えており、白澤来は気分をさらに上げてしまう。ジムを歩き回って、様々なトレーニングマシンを見ながらどれにしようかと決めかねていると


「ん…?」


 この辺りでは滅多に見ない金髪の女性がランニングマシンの上で走っていた。神凪楓かと思ったが、それにしては図体が違い過ぎる。楓は髪を一つ結びにしていないし、何よりも青色の瞳をしていない。


(日本人じゃなさそうだな)


 海外からこの真白町に移住してきたのだろうか。

 白澤来は気に掛けながらも、近くのランニングマシンで走り込みをしようと上に乗る。スイッチを押して、スピードやモードを選ぶタイプなのだが、白澤は機械に弱いため、訳が分からず適当にボタンを押していると


「うおぉっ!?」

 

 初速で時速20キロで設定をしてしまい、突然のことで脚が動かずそのまま後方に一回転して、頭を床にぶつけてしまった。 


「いってて…」

「あんた、大丈夫?」

  

 周囲の人がくすくすと笑っている中で、あの金髪の女性が白澤来に手を差し伸べる。白澤はその手を掴みながら「助かるぜ」と感謝の言葉を述べて、その場に立ち上がった。


「ジムに通うのは初めてなのかい?」

「そうだぜ。強くなりたくて通い始めたんだけどな…」

「あっはは! いいじゃないか! アタシはそういうの大好きだよ!」


 金髪の女性はけらけらと笑いながら白澤の背中を強く叩く。

 白澤はおかしな女性だと愛想笑いをして、もう一度ランニングマシンに挑戦しようとする。


「良ければアタシがスポーツマシンの使い方を教えてあげようか?」

「いいのか?」

「いいさ! アンタは面白い奴だからね!」


 白澤来は手取り足取りその金髪の女性に教えてもらうことにする。

 様々な種類の使い方を教えてもらった白澤来は、一つずつ試しに使用して覚えるというやり方で、何とか一人でも扱えるようになった。


「助かったぜ。言い忘れてたが、オレの名前は白澤来だ」

「アタシの名前は"クラーラ・ヴァジエヴァ"だ。よろしくな白澤」


 クラーラ・ヴァジエヴァ。

 やはり海外から日本へ移住してきたようだ。白澤はクラーラ・ヴァジエヴァという非常に言いにくい名前をどう呼ぼうかと考え


「よろしくな"クララ"!」 

「クララ? それはあだ名かい?」

「ああそうだぜ! クララはいつも何て呼ばれているんだ?」


 クララは「普段は…」と思考に浸ると白澤来にこう答えた。


「何て呼ばれているかは教えられないが、名前で呼ばれることは少ないね。アタシはそういう仕事をしているから」

「コードネームみたいなやつとかか?」

「まぁ、そんなところだ」 


 白澤は「カッコいいな!」と羨ましがるような反応を示しているため、クララは白澤に肩を組んで


「アンタ、何か格闘術習っているだろう?」

「ボクシングをやってるが…何で分かったんだ?」

「筋肉の付き方で大体分かるよ。それよりもボクシングかい? ならアタシと手合わせしてくれないかい?」


 クララは白澤がボクシングを習っていることを知ると、出会ってから一番の笑顔を浮かべて手合わせを申し込む。白澤来は女性に拳を振るうのは遠慮したいと断ろうとしたが


「アタシは結構腕は立つ方でね。強くなりたいアンタの練習相手にはなると思うが……どうだい?」 

「そうだな…防具を付けてやるのなら構わないぜ」


 期待の眼差しをクララが向けてくるため、仕方なく安全を配慮したうえでの手合わせという条件を付ける。このスポーツジムには武道場が備え付けられているらしく、そこまでクララに案内をしてもらう。


「ちなみにボクシング歴は何年ぐらいだい?」

「十年近いぐらいだったかな? クララは何の格闘術を使うんだ?」

「それは見てのお楽しみさ」


 武道場へ辿り着くと、白澤来は棚に置かれている赤色のヘッドギアを頭部に装着し、武道場の西側へと立った。クララも青色のヘッドギアを装着して、武道場の東側へと立ってその様子を窺がう。


「相手をその場に倒した方が勝ちでいいね?」

「ああ、いいぜ!」


 互いに一礼をすると、それぞれ構えに入る。

 白澤来の構えは一目でボクシングだと分かるが、クララの構えはあまりに自然体すぎるもので、一体どのような格闘術なのかが不明だ。


「さぁ、打ってきな!」


 白澤はクララに接近をし、半分程度の力で右フック、左フックを連続で繰り出した。しかし、クララはそれを容易く避けて


「強くなりたいのなら半端な力なんて必要ないよ…!」

「なら次は全力で行くぜ…!」


 怒声を上げてきた。

 そこまで言うのならと白澤来は全力でクララへと殴り掛かる。

 

「パワーはあるじゃないか!」 

(オレの拳を体の動きだけで回避してるのか…!?)


 白澤は確かに全力を出しているはずが、クララはまるでそれを嘲笑うかのように苦戦することもなく、両手を使わずして回避しているのだ。十年近くボクシングをやってきた白澤の拳を避けられるのは、白澤来と同等かそれ以上の実力の持ち主のみ。


「いいねぇ…! アタシの目に狂いはなかったよ!」 

  

 このクララという女性は後者の方だろう。

 白澤来はすぐにそう直感した。動きに一切の無駄がないうえ、白澤と視線を外そうとしないのだ。この女性は白澤よりも多くの修羅場を潜り抜けてきたに違いない。


「今度はアタシの方から行くよ!」


 白澤の右ストレートを半身だけで避けると、右手の掌底打ちを顎へ一撃だけ入れて、流れるように首へとエルボーを食らわせる。


「……ッ!!」


 そのまま後方に倒れるわけにはいかず、カウンターの右アッパーをクララへと放つが、それも左手によって受け流されてしまう。


(やべぇ…全く動きが見えなかった)


 半身避けからエルボーまでの一連の動作を捉えることが出来なかった。

 白澤は予想通り只者ではないことを再確認し、改めて息を整えて気合を入れる。


「さっきのを受けて倒れないなんてね。流石ボクシングをやってきただけあって、打たれ強いね」

「お前の事を甘く見過ぎていたぜ。クララ、ここからが本当の勝負だ…!」

「望むところだよ…!」


 何十発、何百発、拳を振るったのかは分からない。

 しかし気が付けば白澤来は武道場の天井を見上げながら、仰向けで倒れていたのだ。そんな白澤の側にクララは腰を下ろしてこう言った。


「アンタの負けだよ白澤。中々やるじゃないか」

「お前は強すぎるぜ。こっちが一方的に攻撃したのに、宙を殴るばっかりだ」 


 自身のユメノ世界でミラと戦った時を思い出してしまう。

 あの時もこのような光景だった。一方的な攻撃を繰り返したが、結局は最後に負けてしまったのだ。そんな記憶が甦り、大きなため息を付く。


「白澤、どうしてアンタは強くなりたいんだい?」

「…オレは仲間の為に強くなりたいんだ」

「仲間の為にかい?」


 ユメノ世界の話は出来ないため、その代わりに紫黒高等学校で起きた出来事について話をする。もっと力を蓄えていれば、あの場をいとも簡単に潜り抜けることが出来たと。


「なるほどね。アンタはアタシの弟子と似ているよ」

「弟子なんているのか?」

「あぁいるさ」


 クララはその人物について話を始める。

 その人物の父親が偶々クララと知り合いだったことで、父親がクララの事を自身の娘であるその人物に一度紹介をしたらしい。元々クララの話を父親から聞いていたその娘はすぐにクララヘ弟子入りを申し出ただとか。 

  

「その弟子とやらは強いのか?」

「見違えるほど強くなったよ。でも、アタシからすればまだまだひよっこだね」


 楽しそうに自身の弟子の事を話すクララの表情は、とても穏やかで優しさに満ち溢れていた。そんな表情を見せられて、白澤の頬も思わず綻ぶ。


「クララよりも強いヤツなんていないかもなー」

「いや…最近この町でアタシと同等に、もしかしたらそれ以上に強いかもしれない奴と会ったからね。威張り倒してられないよ」


 クララよりも強い。

 そんな人物がいるのかと白澤は驚いていたが、ふと武道場の時計を確認してみるととっくに夕刻を過ぎてしまっていた。


「やっべぇ…! 夕飯に間に合わねぇ!」

「帰るのかい?」

「あぁ! 家族が家で待ってるんだ!」


 怒られる前に帰らなければ。

 白澤来はヘッドギアを棚に戻すと、一人残ったクララに手を振って


「またここに来るからな! そん時はまた試合しようぜ!」

「いつでもアタシが相手になってあげるよ! じゃあなー!」


 武道場を駆け足で去っていった。

 その場に一人残されたクララは「やれやれ」といって立ち上がり 


「このスポーツジムはアタリだね」


 青色のヘッドギアを棚へと戻した。 


 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「いやぁ~! 面白かったな玄輝!」 

「面白くねぇよ! 楓たちに迷惑を掛けてただろうが!」 


 次の日の夕方。

 白澤来は学校の補習帰りに木村玄輝、金田信之の二人とラーメンを食べて、ゲームセンターへと訪れていたのだが…そこで神凪楓に迷惑を掛けたことで、木村玄輝に引きずられて無理やり店の外へ連れてこられていた。


「じゃあ、そろそろ解散にするか!」

「あー…やっと解放される」

「あのラーメンのせいで、ちょっと気分が悪くなってきちゃったよ…」

  

 ゲームセンター前で解散することにし、金田信之と木村玄輝は右の道へ、白澤来は逆方向の左の道へと別れ「また今度な」と手を振りながら帰宅路についた。


(あーあ…夏休みは楽しいことだらけだぜ)


 ヘッドホンを鞄から取り出して、耳に付けるとお決まりのEDMを聞きながら、道を歩いて家へと帰る。長い帰り道も夜の散歩だと思えば、楽しく思えるのだ。


(お…? あれって優菜じゃないか?)  


 前を歩いている女性の後姿に見覚えがあった白澤来は早歩きでその女性に追いついて、顔を覗き込んでみると


「きゃっ!? …って、なんだ白澤くんか」

「おう優菜! 今は帰りか?」

   

 よく見てみれば鈴見優菜の隣で、中学生ぐらいの少女が一緒に歩いていた。

 こちらを警戒しているようにも見えるが、きっと人見知りなのだろうと白澤来は自己解釈する。  


「うん。ちょっと買い物に…」

「そうなのか!」

「白澤くんは?」

 

 白澤は今日一日の出来事を笑い話として優菜に話す。

 鈴見優菜は道中笑っていたが、従妹らしき少女は全く笑わずただただ白澤の事を睨んでいるだけだった。


「その子は従妹なのか?」 

「え? う、うん…夏休みだから遊びに来てて…」 


 優菜は何かを隠そうとしているのか、視線を逸らしながら適当にはぐらかす。 

 詮索するのは良くないと判断した白澤は「やっぱりな!」と納得をするように頷き


「オレの名前は白澤来だ! よろしくな!」


 自己紹介をして、その少女へ手を差し出した。

 

「私の名前は咲です。以後お見知りおきを」


 咲と名乗る少女と白澤来は握手を交わすと、優菜に「良い子だな」と賞賛の言葉を述べる。


「そ、そうかなぁー?」

「敬語がしっかりとしてるだろ? オレより頭がいいかもしれないな!」

  

 鈴見優菜はそんな白澤の自虐ネタに「ははは…」とから笑いをする。

 咲は一片たりとも笑ってはくれない。白澤からすればそんな咲は、若干雨氷雫に似ているような気がした。


「話は変わるが、八月上旬の無人島は何で行くんだ?」

「フェリーだよ。案外近くの場所に浮いているから、一時間ぐらいで到着すると思う」

「へぇー! オレ、初めてフェリーに乗るぜ!」


 海の上を縦横無尽に駆けるフェリーを想像し、白澤は子供のように無邪気な笑顔を浮かべる。優菜が説明するには、その無人島には宿泊するための別荘もあり、自分たちしか人がいない空間となるらしい。


 美味しい海鮮料理、綺麗な浜辺、木々が生い茂る自然。

 その無人島では誰にも邪魔されることもなく、ありとあらゆるものを堪能出来るのだ。年頃の高校生ならば、"夢のような"イベントだ。


「あ…お金はいいのか? 無人島に招待されるのなら色々とお金が掛かるんじゃ…」

「それについては大丈夫だよ。お父さんが「恩を返すため」とか言って、支払わなくてもいいって」

「…恩なんてあったか?」


 鈴見優菜は紫黒高等学校の生徒達に拉致されたことを父親に話したらしい。

 それを助けてくれたのは西村駿たちだということも伝え、結果的にその恩返しをするためと今回の無人島へのバカンスを快く承諾したのだ。


「あれぐらい気にしなくていいのにな」 

「でも、あの時に白澤くんたちが助けに来てくれなかったら…きっと私はここにはいないだろうし…」

「感謝するなら駿にした方がいいぜ。オレらが殴り込みに行けたのは、あいつの判断力のおかげだからな」 


 あの場で西村駿は、問題を大きくしないためにはどのように行動を起こせばいいか…それを数分で判断して、行動に移した。もし、駿がいなければ白澤来と波川吹は助けに行こうなどという考えに至ることはなかったのだ。

 

「ユメノ世界では玄輝たちにも助けてもらったし…。何か私は助けられてばっかりだなー…」

「でもよ優菜のおかげでオレが助かった時もあったんだぜ」


 白澤は智花のユメノ世界でベルゼブブと戦った時のことを優菜に思い出させる。

 大量の巨大な虫が集結したとき、優菜の力でなければ対処に時間が掛かったこと。その場に優菜がいてくれたからこそ、白澤が、白澤たちが助かったのだ。

  

「優菜がオレたちの仲間として戦ってくれている。それだけでも十分なほど助けになっていると思うぞ」

「…ありがとう、白澤くん」


 優菜は白澤に感謝をすると、咲の方へと視線を向ける。

 咲は先ほどまで白澤のことを睨んでいたが、その言葉で少しだけ認めたような視線へと変わっていた。


「まぁそんなに考え込むなよ! 気楽にいこうぜ!」


 その後、白澤来と鈴見優菜たちは別れ道となるまで互いにハマっているソーシャルゲームについての話をしながら帰ったのであった。

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