第78話『夏休みは何をしますか? 優菜編』
「…むにゃ…? 今何時…?」
鈴見優菜は夏休みの初日。
昼過ぎまで睡眠、そんなとんでもない私生活を送ろうとしていた。前日に徹夜でソーシャルゲームをしていたことで、寝る時間が早朝近くなってしまったのだ。
「ふぁぁ……今日から夏休みで良かった」
重い体をベッドから起こすと、喉の渇きを潤そうとリビングまでゆっくりと向かう。たまたま冷蔵庫の中には、大好きな桃ジュースがあり「ラッキー」と呟きながらコップに注いで一気飲みをした。
「そうかぁ…お父さんは仕事だったぁ…」
眠気が覚めない鈴見優菜はリビングのソファに横たわると、テレビを付けて昼のニュースを見ることにする。
「んー…やっぱり智花ちゃんの話題で持ちっきりだなぁー」
どの報道番組でも必ず内宮智花が引退することについての内容ばかり。
もうそろそろ飽きていた鈴見優菜は、テレビゲーム機の電源を入れるためにコントローラーをソファーの引き出しから取り出した。
ソファーに引き出しなんてあるのかという声も聞こえた気がするが、このソファーは特注品で作ってもらったもので、このようにわざわざ動かなくてもいつでもゲームが出来るようにするために注文したのだ。
「何やろうかなー…」
朝食も昼食も取っていない鈴見優菜は空腹を感じてしまい「あーあ、食事を誰かが用意してくれたらなぁ…」という空言を吐いていると
「こちらはトマトと卵のサンドイッチにオレンジジュースです」
「おおー! ありがとー!」
ソファーの前の机に美味しそうなサンドイッチとオレンジジュースが置かれたことで、鈴見優菜は横たわったまま食事を取ろうと手を伸ばしたが
「……え!? ちょっと待ってよ!!」
見知らぬ声が聞こえたことで、一気に目が覚めてソファーからガバッと体を起こし、キッチンの方を確認してみる。
「え、えーっと……誰ですか?」
そこには先ほど優菜が使用したコップを洗っている水色髪の"メイド"が立っていた。慎重になる優菜に対して、そのメイドは普通に顔を上げて
「本日から鈴見優菜様の身支度を任せられた使用人です」
そう答え、洗い物へと視線を戻した。
「あ…そういえば…」
自室でゲームをやっている時に父親が「使用人を雇った」と言っていたような気がする。その時は丁度、大事な場面だったこともあり適当に返答をしていたが、まさか今日から家にいるとは予想していなかった。
「…名前は何て言うの?」
「私の名前は咲です。今後ともよろしくお願い致します」
「…歳は?」
上の苗字も気になったが、それよりも咲と名乗る使用人の歳が気になってしまう。
見る限り、優菜と変わらぬ幼い顔つきをしているが…
「今年で十四歳です」
「ちょ、ちょっと待って!? 十四歳…っ!?」
咲の口から自分より四つほど下の年齢が飛び出して、思わずその場に立ち上がり、叫んでしまう。優菜が高校二年生とするならば、咲は中学二年生、こんな少女を使用人として採用した父親は一体何を考えているのか。
文句の一つでも言ってやろうと決意したところで、咲に対して鈴見優菜はここにいるべきではないことを伝えようとする。
「まだまだ幼い咲ちゃんが、こんなところで使用人をしていちゃダメだよ。中学校に通って、友達を作って…楽しいことがこれから沢山あるんだから」
「……それは私がここにいてはいけない、ということですか?」
鈴見優菜は「うん」と小さく縦に頷いて肯定する。
咲はその言葉をきちんと受け止め、あっさり「分かりました」という返答をした。案外人聞きが良い子なんだなと優菜は気を抜いて関心をしていると…
「それでは短い間でしたが、ありがとうございました」
キッチンに置いてある包丁を手に取り、自身の首へと躊躇いもなく突き刺そうとした。その光景を目にした鈴見優菜は、反射的に「やめて…ッ!」と声を出してしまう。それによって包丁の先端が首に突き刺さる寸前で、咲が手を止めた。
「どうかしましたか?」
「何でこんなことをしようとするの…!?」
惚けた様子で自身を見ている咲の元まで詰め寄り、手に持つ包丁を奪い取って元の位置に戻す。そして、咲の手首を強く掴むとリビングのソファーに無理やり座らせた。
「何をしているのですか? ソファーが汚れてしまいますよ?」
「そんなことどうでもいいよ…! 教えて! さっきはどうしてあんなことをしようとしたの…!?」
ここまで声を荒げてしまうのは自分のユメノ世界以来。
優菜の感情をここまで高ぶらせてしまった原因は、目の前で一人の少女が自らの命を絶とうとしていたから。その姿は全てを諦めていた以前の自分と似て非なる者だと感じたのだ。
「優菜様にとって、私が不必要となったからです」
「不必要って…私はそんな酷いことを言ったつもりは…」
鈴見優菜はその時、あることに気が付いてしまう。
それは咲の瞳が、恐怖も喜びも悲しみも…何も感じさせないほどの無気力感によって支配されていたからだ。
「優菜様に不必要と判断されれば、私がこれ以上生きている価値など無に等しいのです」
「咲ちゃん…」
声色も表情も自殺を図ろうとする前と何ら変わりない。
しかし目の前のソファーに座っている咲という少女は、優菜の「いらない」というたった一言で自らの命を投げ捨てるつもりなのだ。
「私の言うことだったら何でも聞くの?」
「はい。優菜様の仰せのままに」
「…ならこれだけは約束して」
優菜は咲の隣に座ると、咲の両頬に手を添えて自身の顔と向かい合わせる。
「これからは何があっても絶対に自分の身を大切にして。命を粗末にしたら私が怒るからね?」
「……御意」
使用人として受け入れたくはないが、受け入れなければ一人の少女の命が失われる。優菜は後々父親を問い詰めることにし、取り敢えずは咲をこの家で住まわせることにした。
「このサンドイッチ、美味しいね」
「勿体ないお言葉です」
十四歳の使用人。
ユメノ世界のような出来事に、鈴見優菜は思わず目を背けたくなり、ゲーム機のコントローラーを手にしてゲームの世界にのめり込もうとする。
「………」
(…凄い見られてる)
咲はゲーム画面が映し出されたテレビではなく、ゲームをプレイしている優菜に視線を向けたまま、ソファーの後ろでずっと立っていた。
(……あれ? これからどこへ向かえばいいんだっけ…)
背後から咲の視線を感じる為、集中しようにも気が散ってしまい、ゲームの内容が全く頭に入ってこなかった。次なる目的地についての大事なイベントを見逃してしまったことで、どうしようかと悩んでしまう。
「優菜様、その村長曰くラストステージとなる場所まで辿り着くには、東にある森へと向かい、妖精の力を借りなければならないそうです」
「そ、そうなんだ…」
咲がゲームの画面もしっかりとチェックしているとは思わず、優菜は少しだけ戸惑いながら、言われた通り東にある森へと進むことにする。
「優菜様、その森は順序良く進まなければ永遠に森の中を彷徨い続けることになります。森に入る前にセーブしておくことを推奨します」
「う、うん…分かった」
鈴見優菜が現在プレイしているゲームは終業式の日。
つまり前日に発売したばかりの新作RPGだ。徹夜をして、物語の終盤まで進めているため、ネット上の攻略サイトにも載っていない未知の領域のはずなのだが…
「優菜様、次は右の角を曲りましょう」
「そ、そうだね…」
咲は優菜よりも先の情報を知っていた。
攻略サイトを見るのが嫌いだからこそ、誰よりも早く自分で考察してクリアしたい。そんなゲーマー特有のプライドを持っていたが、咲があまりにもペラペラと情報を喋り続けるため「やめてほしい」と口に出すことが出来ず、どんどん物語を進めてしまう。
「ね、ねぇ…どうして咲ちゃんはそんなにこのゲームについて詳しいの?」
「はい、それは私が優菜様の所持しているあらゆるゲームを実際にプレイして、全て頭の中に記憶しているからです」
「……え?」
鈴見優菜は購入したゲームが並べられた棚を見る。
その量は膨大なもので、幅と高さがそれなりにある棚二つ分埋まるほどだ。この量を全てプレイして、頭の中に記憶しておくことが出来るのだろうか。
「…【B&B】のラスボスの名前は?」
「"闇の教皇 ネロ・グラッジ・ディアボロス"です」
「……【チケットモンスター】に出てくる"ラッコチュウ"がレベル50の時の最高実数値は?」
「上から順に142,117,101,112,112,156です」
全問正解。
優菜は本当に自身がプレイしたゲームの情報を全て記憶しているのだと、驚いてしまいスラスラと答える咲を見ながら、コントローラーを持つ手を止めてしまう。
「…本当に全部プレイしたんだね。どれだけ時間を懸けたらそんな…」
「十本同時にプレイしていましたので、一週間も掛かりませんでした」
鈴見優菜の十八年というゲーム人生を一週間以内で全て終わらせた。
変わっていることは先ほどの出来事で十分に理解していたが、ゲームまで全てプレイする必要はあったのかが謎だ。
「どうして私のやっていたゲームを全てプレイしたの…?」
「優菜様の使用人として努めるのですから、好きなもの、嫌いなもの、就寝時間、起床時間、あらゆることを理解しておかなければならないと思いまして」
思い返してみれば、咲は優菜が空腹を感じたタイミングですぐにサンドイッチを出してきた。鈴見優菜のことを注意深く観察していなければ、成せない所業だろう。
「…どうして私の使用人になろうと思ったの?」
「それは私が…」
質問に返答をしようとしたが、突然口を閉じて黙り込んでしまう。
優菜は咲が口を開くまでゲームを進めることにし、コントローラーを強く握った。
「「………」」
テレビから発せられるゲームのBGMや効果音だけがリビングに響き渡るだけの時間。そんなひとときがしばらく続くと重い口を開いて、こう言い直した。
「…総帥の娘である優菜様に仕えれば、不自由のない生活が出来るから、というのが大きな理由です」
「そうなんだ…」
表情は崩れず、視線も逸らすことない。咲はポーカーフェイスの鏡といっても過言ではないだろう。
(…言えない事でもあるのかな?)
だが、咲は言えない何かを隠している。
今のも咄嗟に思いついた嘘だということは優菜にも分かり切ったことだった。
「咲ちゃん」
「はい」
「…どこかに座ってていいよ」
咲という少女を信用していないわけではない。
けれど、詮索をしなければならないことは確かだ。一体彼女が何者で、何故父親はこの子を使用人にしようと考えたのか。
優菜は咲の視線を感じる最中、机の上に置いてあるオレンジジュースを飲み干して、ゲームに集中することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「優菜様、お出掛けですか?」
鈴見優菜は父親の帰りが遅くなることを見越して、外食をしようと私服に着替えを済ませていた。その様子に気が付いた咲はそう尋ねると、リビングに飾られている柱掛け時計を確認して
「夕刻が近づいております。ご夕飯はどうされますか?」
「うーん…外で食べてこようかなって思ってるけど…」
「承知しました。それでは私もご同行させていただきます」
優菜は「ちょっとそれはなー…」と遠慮がちに断りを入れる。
メイド服姿の少女と外の町を歩くこと時点で目立つこと間違いなしだ。優菜は自身の身分を隠した状態で、一般的な生活を嗜むことを望んでいるため、咲と出歩くだけでその望みは儚く散ってしまうだろう。
「ですが優菜様の身に何かあれば、倉治様の面目が丸つぶれとなります。それだけはどうしても避けたいのです」
「私は大丈夫なんだけどなー…」
何としてでも止めようとしている咲を無理やり押し通すのも気が引ける。
鈴見優菜は「そうだなー…」と腕を組んで考えていると、古い服などが収納されているタンスが目に入り
「あ…それなら私の古着に着替えてほしいな」
「…私が、ですか?」
「うん、その格好だと目立っちゃうからね。私服に着替えてくれるなら、一緒に付いてきてもいいよ」
優菜はタンスを開いて、中学生の頃に着ていた私服を何着か取り出し、咲へと見せる。どれが一番似合うかというファッションセンスは内宮智花とは違い、ほんの少ししか心得ていないため、数撃てば当たる作戦で色々と咲に服を着させ
「…これでいいかな?」
アウター、トップス、ボトムスと共に中学生らしさを感じさせるコーデが完成した。咲は着慣れていないのか、ゆっくりと鏡の前で回りながら自身の姿を見る。
「それじゃあ…いこっか」
「…御意」
言葉遣いも直してほしかったが、それは癖となってしまっている以上は無理だろうと渋々諦める。優菜は戸締りをしっかりと確認して、一階へ降りるためにエレベーターへと二人で乗り込んだ。
「咲ちゃんは何か食べたいものでもある?」
「いいえ、特にはありません」
「…お腹空いてないの?」
「はい、全く」
咲が食べ物や飲み物を口にした瞬間を今日一日見たことがない。
流石に倒れてしまうのではないかと優菜は心配をしてしまう。
「私のことは気にしないでください。優菜様はご自分のことだけ考えて、私に何か申し付けて頂ければいいのですよ」
「そんなこと言われても…」
優菜の為ならば命を捧げるだけあり、自分のことなど一切気にしていない様子。
そんな自己犠牲など優菜は許す訳もなく
「自分の身を大切にしてってさっき言ったでしょ? そんな大事な命令をもう忘れたの?」
と少々厳しめに咲へ問いただすと
「私の記憶力は乏しいもので…」
惚けるようにそう答えた。
百本以上のゲームを全て一週間以内に終わらせて、その情報を全て記憶しているというのに何を言う。優菜は文句の一つでも言ってやろうと口を開いた時
「ところで優菜様。外食と言っても、どこまで行かれるつもりですか?」
「特に考えてなかったけど…ゲームセンターの近くにあるファーストフード店とかかな?」
「その場所ならば、ここからの近道を知っていますので付いてきてください」
近道などあるのかと疑問に思ったが、案内してくれるのならと咲を先頭にし、後に続いてみることにした。
「通常のルートよりも五分短縮のルートです」
「五分…」
確かに通常よりも五分早く辿り着いた気はするが、五分ぐらいならいつもの道でも良かったと優菜は小さく呟いて、ファーストフード店へと足を踏み入れる。
「何を食べようかな…」
「カロリー消費も考えて、右から三番目の"野菜詰め合わせバーガー"はいかかでしょうか? あちらなら一日に取れるカロリーを抑えられます」
「カ、カロリー…」
そんなもの生きていて一度も気にしたことがない優菜は、カタコトになりながら咲のカロリーという言葉を復唱してしまう。
「優菜様の体重は少しずつですが増えつつあります。現在の体を維持するには食生活に目を向けた方が…」
「や、野菜詰め合わせバーガーにしようかなー!」
優菜は"トリプルチーズバーガー"を食べようとしていたのだが、咲の冷静な分析によって注文する際に"野菜詰め合わせバーガー"へと変えてしまう。突然大声を出した鈴見優菜に店員も少々驚いていて呆然としていたが、すぐに我へと返って、レジ打ちをした。
「他にご注文は?」
「えーっと…"野菜詰め合わせバーガー"をもう一つお願いします」
「優菜様、二つ以上食べるとカロリーオーバーに―――」
鈴見優菜は咲の口を片手ですぐに塞いで「以上でお願いします」と注文を終え、レジに表示された料金を支払う。咲は何か物言いたげな表情で優菜を見ていたが、それに気が付かないフリをして、野菜詰め合わせバーガーが入った袋を受け取ると、急いで店の外へ出た。
「優菜様、カロリーオーバーです」
「違うって…! こっちの一つは咲ちゃんの分なの!」
優菜は袋から野菜詰め合わせバーガーを一つ取り出して、咲へと手渡した。
予想外の出来事だったのか、咲は「私に…?」とその場で硬直してしまう。
「どうして私に…? 私は使用人の立場で…」
「たとえ使用人でも、私と咲ちゃんは同じ人間でしょ? お腹が空くのは一緒だと思って」
鈴見優菜は野菜詰め合わせバーガーを口に運びながら、咲へと食べるように促す。
咲が少しだけ躊躇をしているのを見て「これは命令!」と優菜が更にきつく言うとやっとのことで手に持った野菜詰め合わせバーガーへとかじりついた。
「美味しい?」
「…それはとても」
優菜はスマートフォンを取り出して画面を点けると、父親から『無人島の件は八月上旬なら大丈夫だぞ』というメッセージが届いていた。すぐに『ありがとうお父さん』という返信を返して、PINEを起動し、作成されたグループに
『私のお父さんが、八月の上旬なら大丈夫だってー!』
という連絡をして、鞄にスマートフォンを入れて、咲の方を見てみると
(……もう完食してる)
優菜よりも先にハンバーガーを食べ終えていた。
やっぱりお腹が空いていたのかと咲にバレないように少しだけ微笑んでいると
「この野菜詰め合わせバーガー、先ほどの店で表示されていたカロリー量よりも大きな誤差があります。優菜様、やはりそれをこれ以上口にするのは止めておいた方が…」
「だ、大丈夫だよ」
十四歳らしからぬ発言をしてきたことで、思わず頬を引きつってしまう。
「優菜様、これからのご予定は?」
「…取り敢えず、今からゲームセンターに行って…家に帰ったらベースの練習して…」
大雑把な予定を咲に説明しながら、近くのゲームセンターへと来店して、アーケードコーナーへと訪れる。
「すみません。十八時以降は十六歳未満の方は出入り禁止でして…念のために同伴の方の学生証を見せてもらっていいですか?」
「はい、これ学生証」
蜂蜜が大好きな某熊のキャラクターに似た男性スタッフが声を掛けてきたため、優菜は自身の学生証を見せて、十八歳だということを証明した。
「確認しました。それでは二十一時まで遊べますのでごゆっくりー」
男性スタッフは確認し終えると、それだけ言い残してクレーンゲームのあるエリアまでのんびりと歩いて行く。優菜はお目当てのACゲームの席に座ると、電子カードを通して、クレジットを投入する。
「…適当にマッチングしよう」
3vs3の全国対戦モードを選ぶと、キャラクター選択へと移る。
優菜はいつも通り、お気に入りのピンク髪の美少女キャラクターを選択して、マッチング完了まで待機していると
「そのキャラクターは上級者向けのものですね。優菜様は扱いなれているのですか?」
「まぁねー、結構長い間使ってるしもう慣れたかなー」
優菜のプレイしているゲームを全て嗜んでいるだけあり、キャラクターの特徴についても咲は全て把握しているようだ。マッチングが完了し、対戦が始まると優菜は右と左で別れたコントローラーを握って、集中をする。
「…強攻撃が飛んできます」
「知ってる…!」
キャラクターそれぞれにコンボ、所謂繋ぎ技というものがあり、それをミスすることなく成功させれば大ダメージが与えられる。そのコンボを全て理解していれば、相手の攻撃も避けやすくなるのだ。
「ここで奥義を発動するんですか?」
「逆にここで発動して掛けなきゃどうせ負けちゃうからね…!」
奥義を発動するまでの時間、身動きが取れなくなってしまう。
そこで優菜のキャラクターを守ろうと、他の仲間たちが上手い具合に身を呈して相手の攻撃を防ぎ
「これで勝ちだね…!」
奥義の発動に成功し、相手プレイヤーたちにトドメを差した。
「一か八かの賭けでしたが上手くいきましたね」
「仲間のフォローが上手かったおかげだよ」
続いてもうワンクレジット投入しようかと、財布を取り出したとき、背後から何者かに肩を組まれる。
「楽しそうじゃねぇの」
「オレたちとも遊ぼうぜ?」
耳や鼻にピアスを入れた大学生ぐらいの二人組。
面倒くさい奴らに絡まれたと優菜は腕を振り払って、その二人から距離を取った。
「おいおい連れねぇなあ?」
「こんな時間に一人で遊んでる時点でお前もオレたちと同じなんだからよぉ?」
いつの間にかこのゲームセンターもこんなに治安が悪くなっていたようだ。
紫黒町の不良たちが真白町で最近事件を起こしている話を耳にしていたが、ここまで浸食されているとは思っていなかった。
「このお方に近づいた瞬間、あなた方は後悔することになります。後悔する前に家に帰ることを推奨しますが…」
「何だこのガキ? 中学生か?」
「なぁ嬢ちゃんよ? オレたちは優しいから今なら見逃してやるよ」
二人組の大学生たちは咲の頭に手を置いて、からかうようにしてそんな警告をする。咲は口を閉じたまま、目の前でけらけらと笑っている大学生二人を睨みつけているだけだった。
「こんなガキは放っておこうぜ? おれ達の目的はあの子だろ?」
「そうだったな。なぁ、オレたちとカラオケにでも行って遊ぼうぜ?」
咲より背後にその二人が進もうとした途端、咲が即座に背後を振り返り、その大学生たちに向かって手を突きだそうと……
「何をしているんだ?」
気が付けば雨空霰が両手と咲の姿を背中で隠して、大学生二人の背後に立っていた。突然背後から声を掛けられた二人組は「うおっ!?」と声を上げながら、後退りをする。
「奇遇だな、鈴見もいたのか」
大学生二人は脅してやろうかと考えたが雨空霰の背後の方から、男性スタッフが電話を掛けながら向かってくることに気が付き、全力疾走でゲームセンターの出口まで駆けていった。
「どうしてここに?」
「どうしてって…やりたいゲームがあったから、ゲーセンへ遊びに来ただけだよ」
霰は背中から両手を見せると、電話を掛けている男性スタッフに手を振った。
よく見てみればその男性スタッフは年齢確認をしてきた男性スタッフだ。どうやら電話を掛けているフリをしているだけで、実際にはどこにも繋がっていないらしい。
「このゲームセンターにもああいうタチの悪いやつもいるから気を付けろよ」
「うん、霰のおかげで助かったよ」
「それにしても…この子は誰だ?」
今まで背中に隠れて見えていなかった咲の姿は、霰がその場から動いたことによって見えるようになった。ほんのわずかだが視線が少しだけ虚ろになっているような気がする。
「えっとね…私の従妹なんだけど…」
「従妹…か」
使用人だという事実など打ち明けられないため、従妹という設定にして誤魔化すことにする。霰は納得がいかない反応をしていたが、
「あー…確かに、少しばかり"似ている"かもな」
咲の顔を見ながら、優菜にそう伝えた。
「変な奴に絡まれないように早めに帰れよ」
雨空霰はあの男性スタッフにお礼を言いにいくのか、出口とは真逆の方向へ歩いて行った。優菜はその後姿を見つめながら、咲に早めに帰ろうと提案をすると
「…そうですね。私も優菜様の意見に賛成です」
虚ろな視線を優菜へと向けて、その提案を快く承諾する。
鈴見優菜はそんな咲を不思議に思いながらも、そのままゲームセンターを後にしたのであった。




