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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十三章『夏』

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第76話『夏休みは何をしますか? 玄輝編』

 夏休みが始まった初日。

 木村玄輝は昼過ぎまでいびきを立てながら眠っており、規則正しい生活をしろと鬼の角を生やした母親に叩き起こされていた。


「…今日はバイトだったな」


 午後からバイトだったことを思い出し、遅い朝食を取ると私服に着替え、足早に家を飛び出した。向かう道中でギンギンと照らしてくる日光によって、若干バテながらも勤務先の裏口から挨拶をしながら店内へと足を踏み入れる。 


(なんか、夏休みに入った気分じゃねぇな…)


 勤務先は徒歩で十分程度の場所に建っている居酒屋だ。

 大披露目になるほど有名ではない居酒屋で、知る者こそ知る穴場。そのせいで大体働き疲れた常連客しか店には訪れない。


 そんなひっそりとした居酒屋だからこそ、木村玄輝は下手に人が来なさそうだと考え、バイト先として志望したのだ。


「おう! 最近暑いから、ちゃんと水分補給しろよ!」


 見るからに熟練者でもあり熱血タイプでもある居酒屋の店主が、木村玄輝に注意喚起を促す。玄輝は普段の陰気臭い声ではなく、ハキハキとした明るい声で「分かりました!」と返事をした。

 

「いい声だ! そんじゃあ、まずはこっちの作業を手伝ってくれ!」


 未だ高校生の身のため、最大まで働くことの出来る時間は午後の二十二時まで。

 時給は千円ほどで、一日働けばそれなりに稼ぐことができる。時給が高いだけあり、かなり辛抱強くなければすぐに辞めてしまうような場所だ。


「いらっしゃいませーー!!」


 玄輝は仕込みを終えると、声を張り上げて常連客を迎え入れていく。

 酔っ払いの介護や、嘔吐物の掃除も全てを受け持つ店員は偉大なんだと崇めてほしいと心の底で思いながらも、訪れるお客様たちの対応をする。


「おし! 玄輝! 今日はもう上がりの時間だ!」 

「あ、はい! お先に失礼します!」


 必死に働いていれば、時間はいつの間にか二十二時前を差していた。

 木村玄輝は更衣室で私服へと着替えると、店主に「お疲れ様でした」と挨拶をして裏口から出ていく。


「……あー疲れた」


 独り言を呟きながら、音楽を聴くためにイヤホンを取り出して耳に付ける。

 ついでに道中でお菓子でも買おうと、帰り道沿いに建っているコンビニへ入店すると


「あ…玄輝くん?」

「ん? 智花か?」


 お菓子コーナーで小さなカゴを持つ、私服姿の内宮智花と鉢合わせをした。

 その小さなカゴの中には、様々な菓子商品が大量に詰められている。


「こんな時間にどうしたの?」

「…いや、ただお菓子を食べたいと思って立ち寄っただけなんだが…」


 手に持つカゴを見られていることに気が付き、すぐに背中へと隠す。今更食べることが好きだということを隠されても困る、と玄輝は頭を掻いてお菓子コーナーへと視線を向けた。


「…智花のオススメは何だ?」

「え…? 私のオススメ?」

「お菓子についても詳しそうだからな。オススメとかあれば教えてほしいと思って」


 内宮智花は少々驚きながらも、質が良く値段がそこそこするお菓子ではなく、ごく普通の値段の菓子を指差して「酸っぱい系ならこれで…甘い系なら…」と次々と玄輝に紹介をしていく。


「やっぱり詳しいんだな」

「…そうかな?」


 智花は若干照れ隠しをしながら、お菓子の紹介を続ける。

 モデルの仕事をこなしている時よりも、生き生きとしている智花を見て、モデルを辞めたのは正解だったんだなと改めて実感させられた。


「それじゃ…これとこれを買おうかな」


 内宮智花に勧められた菓子二つを手に取って、左側のレジへと持っていく。

 右側の店員は大量の菓子が詰められた小さなカゴを持ってくる智花を見て、明らかにぎょっとしているようだった。


「あざいましたー!」


 雑なコンビニ店員の感謝を聞きながら、外へと出て智花の会計が終わるまでしばらく時間を潰そうとスマホを起動して、『夏休み』というグループの『お喋り』を見てみると


『私のお父さんが、八月の上旬なら大丈夫だってー!』


 鈴見優菜が日程についての報告をしていた。

 玄輝はスマホのカレンダーに、来月の上旬を空け忘れないようにメモをする。


「待っててくれたんだ」

「流石に一言もなく帰ったら失礼だと思ってな」

 

 内宮智花と途中まで道が一緒なこともあり、適当に話をしながら静寂な道を進む。帰る最中だというのに待ちきれないのか、コンビニで買ったばかりの飴玉を口に放り込んで玄輝と会話をしていた。


(…そういや、おれのユメノ世界でもこんなことがあったな)  

 

 智花が玄輝の自宅まで迎えに来て、一緒に学校まで登校するはめになったユメノ世界での出来事。飴を頬張る偽物の内宮智花と共に道を歩いていたが、今は本物と内宮智花と並んで歩いている。

 

「玄輝くんは…駿くんのことをどう思ってるの?」

「…アイツのことか?」


 どうしてそんな質問をするのか。

 視線で訴えようとしたが、智花は星空を見上げて視線を合わせようとはしない。木村玄輝は過去にあった苦い思い出を、話すべきか話さないべきかと迷ってしまう。


「玄輝くんと駿くんは…昔からの幼馴染なんでしょ?」

「…どうしてそれを知っているんだ?」

「何となく…かな? 四月の頃から二人を見ていたら、どこか似てるなーって思ったんだ…」


 木村玄輝と西村駿が似ていると語る内宮智花に、玄輝は「どこが似ているんだ?」と尋ねてみる。


「仲間の為に必死になるところ…とか?」 

「それは誰でも必死になるだろ…」 


 玄輝は内宮智花に反論をして、似ている個所ではないと否定をする。

 友人の為に命を懸けようとするのは、人として当たり前の行為だ。玄輝はそれを当たり前だと思っているからこそ、智花の言葉に納得が出来なかったのだ。  


「私は、玄輝くんも駿くんも尊敬してるよ」

「…アイツはともかく、おれは尊敬の対象にならないだろ」

「あの時、優菜ちゃんの目を覚まさせてくれたのは玄輝くんたちなんでしょ?」

 

 鈴見優菜と内宮智花が紫黒高等学校へ連れ去られたとき、現実世界で助けに来たのは西村駿たちだった。だが目を覚まさない優菜をユメ人から救ったのは、木村玄輝たちなのだ。

 

 当時は何も知らなかった智花だったが、自分がユメ人となり全てを理解したとき、親友である優菜はユメ人になっていたことを知った。


「もし…玄輝くんたちが優菜ちゃんを助けてくれなかったら…私は一生、自分に罪を背負わせて生きていくことになっていたと思う」

「……でも、おれのせいで楓に大きな傷を負わせてしまった。そのせいで入院をして…」


 木村玄輝のその発言に内宮智花は首を横に大きく振って


「…大丈夫だよ、玄輝くんのせいじゃない。楓ちゃんだって今はこうして退院できているんだから、結果オーライだと思う」

「……そうか」

「それと…玄輝くんは、さ」


 智花は何か躊躇をしながら言葉を繋げている。

 その表情は暗がりでよく見えなかったが、声色からしてどこか後ろめたい事を聞こうとしているらしい。

 

「…怖く、なかったの?」

「怖いって…?」

「…ユメノ世界で戦うこと」


 怖いかと聞かれれば怖いと答える。

 いつ死んでもおかしくない世界。現実と同じように死んでしまえば二度目はない世界。夢の中だというのに融通が利かないうえ、死ぬか生きるかギリギリの地点で毎回戦わなければならない。 


「そりゃあ…怖いさ。たとえユメノ世界に何度も干渉したところで、この恐怖心は消えないと思う」

「そう、だよね…」

 

 自分のユメノ世界でベルフェゴールと出会った時、西村駿の偽物が目の前で殺された時、レヴィアタンと戦った時、あらゆる記憶が今でも恐怖の種として頭に植え付けられている。


「だけど…きっと仲間が…楓がいたからああやって何度も戦いに挑めたんだと思う」

「………」

「途中からはガッシーも手を貸してくれたりしてさ。結局、おれが恐怖を感じる中で戦えたのは頼れる仲間がいたからなんだって」


 しみじみと話を続ける玄輝を見た智花は、意外な一面を見せられて黙ったまま玄輝の話を聞くことにする。


「それでも、楓はおれを助けるまで一人で戦ってきたんだって思うと…放っておけないんだよな」 

「……」

「アイツも…きっと寂しかったと思う。これが勘違いでもいい、たとえ勘違いだとしても、おれは楓に手を貸したいんだ」


 内宮智花は自然と優しい笑みを浮かべていた。

 木村玄輝はクラスの中でも目立たない存在であり、日頃から駿たちと関わるのを避けていたのだ。

 そんな玄輝からこんな言葉を聞けるとは思ってもみなかったため、普段聞くことの出来ない玄輝の心に耳を傾けることができて何とも言えない気持ちになった。


「玄輝くんは、楓ちゃんのことが…」

「…いや、それはないな。あくまでも仲間として、助けたいと思っているだけだ」


 智花が言葉を言い終える前に、その可能性を玄輝は否定をする。

 ここで明確な答えなど出せるはずがないのだ。たとえ"その答え"が真実だとしても、今はそれを言葉にするべきではない。 


「……そうなんだ」

「智花は一人じゃない、優菜や駿たちだって一緒なんだ。一人で恐怖を感じるよりも、仲間同士でその恐怖心を分け合った方がマシだろ?」

「そう…だね」


 玄輝の言葉に納得をさせられた智花は、途切れ途切れの言葉を紡いで何とか返答をする。


「でも…私たちはあの黒霧に勝てるのかな…」

「…そればかりはおれにも分からねぇ」


 以前、全員集結した状態で黒霧に挑んだが一瞬で片を付けられてしまった。

 戦力…いや創造力の差があまりにも違いすぎたのだ。これからどのようにして自分たちを強くしていくのか、雨空霰には「現実世界で自分自身を磨け」と言われたが、どのような方法で磨けばいいのかが不明だ。


「あ…私はこっちの道だから…」

「…そうか、気を付けて帰れよ」


 気が付けば別れ道である十字路まで辿り着いていた。

 内宮智花は玄輝に手を振りながら右の角を曲って、一人で暗い道を歩いていく。木村玄輝はそんな智花に軽く手を振り返すと、そのまま十字路を真っ直ぐ歩きながら、イヤホンを耳に差した。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 智花と帰り道を共に歩いた次の日。

 木村玄輝は制服姿で通学路を歩いて、真白高等学校へと向かっていた。 


「やぁ、玄輝」

 

 その道中で上機嫌の金田信之と出会う。

 信之も制服を着て、学校へと向かっている最中のようだ。


「補習頑張ろうね!」 

「何でそんなに張り切っているんだよ…」


 玄輝と信之は実力テストの成績が悪かったことが原因で、夏休みだというのに補習を受けさせられていた。無断欠席をすれば、二年一組から落とされる可能性が十分にあり得るため、汗だくになりながら学校まで足を運ばなければならない。


「よお! 玄輝とガッシー!」

「…そういえば、お前も補習を受けるんだったな」


 校門前で向かい側から声を掛けてくる白澤来に、木村玄輝は嫌な顔をしながら校門をそのまま潜り下駄箱へと向かう。

 白澤は「おいおい待ってくれよ」と玄輝に暑苦しいウザがらみをしてきた。


「おれの手が出る前に離れろ」 

「そんなイライラするなよ! 一緒に補習を乗り切ろうぜ!」

  

 下駄箱でシューズへ履き替えると、東雲桜が両手に箱を抱えて廊下を歩いていたため、白澤が「桜!」と叫んでその場に呼び止める。


「あれ? 白澤君たち…? こんな時間にどうしたの?」

「おう! オレたちは補習を受けに来たんだぜ!」


 そんなに自信満々に言えることじゃないだろ、と玄輝は心の中でツッコミを入れる。金田信之は「桜は何をしているの?」と逆に尋ねてみると


「生徒会の仕事があるから、早いとこ終わらせちゃおうかなって学校に来てたんだけど…」

「桜も大変だね…良かったら僕らが手伝お―――」


 玄輝は手を貸そうとしている信之の口を片手で塞いで、階段まで引きずっていく。終始信之が暴れていたが、補習を受けて早く帰宅したかった玄輝は、口を開かせないように片手で押さえながら階段を一段ずつ上がっていった。


「オレも補習があるから! 生徒会の仕事頑張れよ!」

「うん、白澤君たちも補習頑張ってね」


 白澤も玄輝たちの後を追いかけるために、桜とそこで別れて階段を駆け上がる。

 二年一組の教室で行われる補習に参加している人数は十人未満。数少ない生徒で行われることもあり、少しでも手が止まってしまえば先生に目を付けられてしまう。


 冷房が効いている教室内という素晴らしい環境内なのがせめてもの救いだが、夏休み中に学校へ顔を出さなければならないことが玄輝にとって何よりも辛かった。 


「よーし! 今日の補習はこれで終わりだ!」


 二時間ほどの補習を受けた玄輝はすぐにシャープペンシルや教材を鞄にしまって、帰宅しようと試みる。だが金田信之と白澤来に呼び止められてしまい、その試みは失敗に終わった。


「何だよ…? おれは早く帰りたいんだ」

「昼飯どこかで食っていこうぜ! ちょうど昼前だし!」


 信之がその意見に賛成をしていることで、木村玄輝は鞄から財布を取り出して食事代が足りるかを確認する。千円と小銭が少し、これなら豪華な定食が食べれるだろうと、スマートフォンで母親へ連絡をして、昼食を食べに行くことにした。 


「…そんでどこに食いに行くんだ?」

「僕、ラーメンの美味しい店なら知ってるよ!」


 その言葉を耳にした白澤が「じゃあラーメンにするか」と金田信之に案内を頼む。こんなクソ暑い日にラーメンを食べに行くのは少々気が引けたが、食事代が浮くからと自分に言い聞かせ、渋々その意見に了承をした。


「そんじゃあ行こうぜ!」


 その後に起きたことは話さずとも大体予想出来るだろう。


「あれ…? 確かここだった気が…」 


 天然な金田信之に道案内を頼むと、ほぼ確実に道を彷徨う羽目になる。

 あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返した結果、真白高等学校から歩いて十分程度の場所に、一時間という多大な時間を掛けてしまったのだ。


 おまけにやっとで辿り着いたラーメン屋の中へ入店すると、社会人たちの休憩時間と被っていたのか、汗だくの臭いが店内にこもっていた。

 ラーメンは確かに美味しかった。美味しかったのだが、その臭いのせいで食欲を削られてしまい、胃から込み上げる不快感に我慢が出来ず、信之と玄輝は店のトイレで吐き戻してしまったのだ。  


「うぇっぷ…もう二度とお前に店を選ばせないからな」 

「ごめんね玄輝…」


 白澤は大してダメージを受けていないのか、いつも通りの元気な様子で会計を済ませて、店の中から姿を現した。

 

「おいおい? そんなにへばってどうしたんだよ?」

「…丈夫なお前が羨ましいよ」

「ほんとにそう思う…」


 すぐにでも帰りたい玄輝。

 そんな玄輝のことなど気にも留めず、白澤来が「ゲームセンターに行こうぜ」と声を上げる。絶対に行きたくないと拒否をしている玄輝だったが、白澤が無理やり制服を引っ張りながら真白町の駅付近まで向かい始めた。 


「ゲーセンに行けば気分も良くなるって!」

「おれはうるさいのが嫌いなんだ…!」


 金田信之は顔面蒼白の状態で、白澤来の後に続いているようだ。

 どうしてこいつは逃げないんだと木村玄輝は口を押さえながら、真白町に建っている大型ゲームセンターへと白澤に引きずられながら入店する。


「ほら! めっちゃ楽しそうだろ!」 

「楽しそうなのはお前の頭の中だけだ…」


 子供のようにはしゃぐ白澤来は、クレーンゲームに入っている様々な景品を見ながら財布をズボンのポケットから取り出す。解放された玄輝は、近くの遊戯用の椅子へと腰を下ろしてゆっくりと休憩しようとしたが

  

「お客様、そちらの椅子は遊戯用のものなので、休憩をする際は屋上のフードコートで……」

「あ、すみません…」


 ゲームセンターの店員に注意をされてしまったことで、すぐにその場へ立ち上がり、金田信之を連れて、屋上まで向かおうとする。


「……? 楓か?」

「…ああ何だ。あんた達だったのね」


 しかしよく顔を見てみれば、ゲームセンターで勤務中の神凪楓だった。

 そういえば、ここで働いているんだったと過去にフィギュアを持ち帰らされた嫌な記憶を思い出す。


「楓ってここで働いていたんだね。僕、全然知らなかったよ」


 このゲームセンターで楓が働いていることを知っているのは、木村玄輝と鈴見優菜の二人だけだ。逆にあれだけ目立つ髪色で、何故噂にならないのかが不思議でならない。 


「今日は忙しいの。さっさと帰りなさい」

「ならアイツを止めてくれ」


 木村玄輝はクレーンゲームの前ではしゃいでいる白澤来に指を差す。

 その光景を目にした神凪楓は、白澤へと向けた視線を玄輝へと戻すと


「ああいうのには極力関わりたくないの」

「おい…! 待てって!」

 

 見なかったフリをして、そのまま別のエリアへと歩いていった。

 夏休みの期間に入ったことで、客数が普段よりも多いのか、ドタバタとスタッフがあちらこちらへと動き回っている。


(さっさと退散するか)


 邪魔になる前に退店しようと、景品を取ろうと必死にプレイしている白澤来の制服を掴んで、店の外へ出ようとするが


「おい待ってくれよ! どうせなら帰る前にプリクラ撮ろうぜ!」 


 玄輝の険悪な雰囲気に気が付いた白澤がそんな提案を二人にする。

 男だけでプリクラというのはむさ苦しいにも程があるだろう。金田信之は迷っていたが、木村玄輝はすぐにそれを却下した。


「頼むって…! 一生のお願いだからさ!」

「……」


 けれど白澤来があまりにもしつこいため、ついには


「玄輝、プリクラぐらい撮ってあげようよ」 

  

 信之までもがプリクラを撮ることに対して賛同してきたのだ。


「あー! 分かったよ! 撮るなら早めに撮るぞ!」


 三人はプリクラコーナーへと足早に向かい、受付コーナーで四百円を白澤来が投入する。さりげなく"一番人気"というポップが貼られている『Syu』という機体を選んでいた。


『撮影ブースに移動してね!』


 白澤来もいまいちプリクラの設定を分かっていないのか、適当にタッチパネルを操作すると、女性の声がプリクラ機の中へ移動するように促す。


『好きなポーズを選んでね!』


 ポーズなど微塵も興味がない。

 そもそもプリクラにさえ興味がない玄輝、プリクラを撮る機会がない信之、機械に弱い白澤の三人で撮ることが間違いなのだ。


『撮影するよ!』


 シャッターを切られるまでのカウントダウンが始まると、左から玄輝、白澤、信之の三人で並んで撮影される瞬間まで待つ。


『可愛く鬼のポーズ!』


 鬼に可愛いとかあるのか?と心の中でツッコミを入れながら、適当にポーズを決める。次々と迫られるポーズの指定に、玄輝たちは「これはやばくないか?」と完成するプリクラに不安を抱き始めた。


『ラクガキコーナーへ移動してね!』 


 撮影を終えると、ラクガキコーナーへ移動するようにと指示をされる。

 ここまで来れば大体予測は付くだろうが、ラクガキコーナーの使い方も理解できていない三人は、手探りで適当にラクガキを加えていく。


『プリントされるまで少し待っててね!』  


 男三人でプリクラコーナーにいる時点で不審な光景だろう。

 それを見兼ねたのか、かの有名な蜂蜜が大好きな熊のキャラクターに風貌が似ている男性スタッフが三人に声を掛けた。


「すみません。このプリクラコーナーは男性禁止でして…プリクラの印刷が終わったら出て頂けると助かります」 

「え? 男性禁止?」

 

 プリクラコーナーの入り口をよく確認してみると、男子だけのプリクラは禁止という文字が記されており、木村玄輝はしくじったと片手で頭を押さえる。


「ごめんなさい、すぐに出ます」


 ペコペコと木村玄輝が謝りながら、印刷し終えるのを待っていると、その男性スタッフがインカムで店員たちに伝えたのか、一人の店員が奥の方からこちらに向かって歩いてきた。


「小泉さん、どうかしましたか…」 

 

 そのスタッフがどうしてこんなにも良く会うのか、神凪楓だった。

 男性スタッフから玄輝たち三人組へ視線を移すと


「あ、あんたら…」

「……ごめん」


 驚きに満ち溢れた表情を浮かべていたことで、木村玄輝は思わず楓にも謝らざる負えなかった。小泉さんと呼ばれた男性スタッフは「楓っちの友達?」と神凪楓に尋ねる。


「…私のクラスメイトです。迷惑を掛けてしまい申し訳ありません」  

「へぇー、そうなんだ。まぁ気にしなくていいよ」


 男性スタッフがとてつもなく寛大な人で良かったと玄輝たちは安心して、印刷の終わったプリクラを手に取り、足早にプリクラコーナーを出る。


「あんた達…何で出て行かなかったのよ?」

「ごめんね楓。白澤がどうしても撮りたいって…」

「楓ってここで働いているんだな! 知らなかったぜ!」


 これ以上は迷惑を掛けられないと木村玄輝は白澤来の手を掴み、ゲームセンターの出口まで引きずって出ていこうとする。


「悪かったな、邪魔をして。おれらはもう帰るよ」

「お、おい! あのクレーンゲームの景品の取り方を教えてく―――」


 最後の最後まで騒いでいる白澤来を見た神凪楓は呆れながら、玄輝たちの後姿を見送り、再び仕事を再開するのであった。 

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