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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十三章『夏』

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第75話『夏休みはどこへ行きますか?』

 体育祭も無事に終わり、次の週には夏休みとなる。その為、真白高等学校では恒例の終業式が体育館で行われていた。


「で…あるからして……夏休みだからといって、気を抜かぬよう…」

 

 校長先生の話は当たり前だがとてつもなく長い。

 ただ単にお喋り好きなのか、それぐらいの量の話をしなければ仕事上ダメなのか、詳しいことは分からないが、生真面目な西村駿でも流石に飽きてしまっていた。


(要は文武両道に励めってことだろう…)  


 体育祭のおかげで、二年一組はクラス替え当初とは大きく雰囲気が変わっている。明るく、何事にも自信を持てるような、そんなクラスへと変わりつつあるのだ。


 内宮智花が体育祭で発表したあの一件も、ネットニュースや掲示板等などで話題となり、今もまだ人々の中では真新しい情報として頭に残っているようだ。

 黒百合玲子が内宮智花にどのような言葉を掛けたのかが気になるが、両親も智花の熱意に負けて、何事もなく事務所を抜けることが出来たらしい。


「…これで終業式を終わります」


 この終業式は体育館に現地集合で、出席を取るという変わった決まりのため、終わりの挨拶をすると、夏休みに入るということで半数の生徒たちが騒ぎ出す。

 夏休みのスケジュールをしっかりと事前に決める西村駿は、スマートフォンのカレンダーというアプリで部活の日程を組みながら帰ろうとするが


「駿! 夏休み、皆でどこかに遊びに行こうぜ!」


 白澤来に呼び止められたことで、日程を組むことが出来ず渋々スマートフォンをポケットに仕舞った。


「構わないが…皆っていうのは…?」

「おーそうだなー…」

  

 白澤は誰を連れて行こうかと辺りを見渡すと、談笑している智花と優菜に目を付けて


「なぁ! 夏休み中、どこか遊び行かないか?」

 

 と持ち前の笑顔を浮かべながら声を掛ける。

 優菜と智花は断る理由もないので「いいよー」と快く了承してくれたため、白澤来はガッツポーズをして大喜びをした。


「吹と楓も連れて行くか」


 ならばと西村駿は言葉を交わしている波川吹と神凪楓に声を掛けようと試みる。

 体育祭以降、吹と楓の関係は比較的に良好なものとなっていた。西村駿からすれば、それはとても喜ばしい事であり、更に仲を深めてほしいと考えているようだ。


「ええで。わいも夏休み遊びたいと思ってたところやからな」

「…私は…どっちでもいいわよ」

 

 西村駿は東雲桜も誘うために、二年二組のクラスを探していると、神凪楓が不意にこんな提案をする。


「私よりもまず、あの二人を誘ってあげたら?」 


 楓の視線の先には木村玄輝と金田信之が、夏休み前の小学生のようなテンションで、体育館を出ていこうとしている姿があった。


「玄輝、ガッシー、ちょっと話があるんやけど…」

「ん? 話って一体……」


 波川吹に背後から声を掛けられて、すぐに振り向くと、たまたま視線の先に西村駿たちが集合しているのが見えたことで、露骨に嫌な顔を浮かべる。


「……断りたいんだが」

「話だけでも聞いてみようよ玄輝!」


 遊びの誘いかとウキウキしている信之を見た玄輝は「しょうがないな…」と小さな声で呟いて、駿たちの元まで戻ってきた。


「で、話ってなんだよ?」

「オレが夏休み中に皆で遊びに行こうっていう計画を立ててるんだぜ! お前たちも一緒にどうだ?」


 白澤の説明を聞いている最中に、西村駿が東雲桜を連れてきたため、玄輝は気づかれないように更に嫌な顔をする。


「桜ちゃん! 夏休みの予定どんな感じなのー?」

「えっと…夏休みはまだ予定はハッキリとは決まってないかなー…?」


 桜の返答を聞いた白澤が「ビンゴ!」と指を鳴らして、スマホを取り出して真っ青な海の画像を全員に見せた。


「夏といえばやっぱり海だろ? 皆で海に行こうぜ!」


 玄輝は参加するか否かの返答すらしていないというのに、白澤来の中では既に参加確定となったらしい。最悪だ、と溜息を付いていると神凪楓が哀れむように鼻で笑う。


「あ、海なら私にいい考えがあるんだけど…」 


 鈴見優菜がスマートフォンの画像フォルダを開いて、真っ白な砂浜に真っ青な海が映っている一枚の写真を全員に見せる。


「ここなんてどうかな?」

「そこら辺の海よりも綺麗だが…ここはどこの海岸なんだ?」

「ここはお父さんが、私の誕生日に所有権を譲ってくれた無人島だよ」

 

 その返答に優菜以外の八人が「え?」と聞き返してしまう。

 島の一つを所有している女子高生など聞いたことも見たこともなかった。何かの冗談かと一瞬考えたが、優菜が冗談を言うとは思えない。  


「色々と聞きたいんだが…そもそも俺たちがその島に上陸してもいいのか?」

「うん、私が許可を出せば大丈夫だよ」

「よっし! なら優菜の無人島で思い切り遊ぼうぜ!」

 

 こいつは遠慮を知らないのか、と木村玄輝は勝手に盛り上がっている白澤来の背中をジト目で見つめていれば


「何の話をしているんだ?」


 雨氷雫を連れた雨空霰が駿たちの前に顔を出した。

 白澤はノリノリで夏休み中の計画を霰達に説明をしながら「一緒にどうだ?」と勧誘をしたが


「あー…悪いが俺は忙しいからパスだ」


 雨空霰は予定があると返答をし、その誘いを断った。


「だが、こいつは連れて行ってやってくれ。俺とは違って暇人だからな」 

「……? どうして私が?」 


 その代わりと言わんばかりに雨氷雫の方を親指で差して、連れて行くように駿たちへと頼んだ。雫は納得がいかない表情を浮かべていたが、勝手に話を進める霰を止めることは出来ず、結局押し負けて


「…分かった」  


 むすっとした顔をしながら、渋々了承した。

 雨空霰は「後は頼んだぞ」と何故か雫の肩を叩いて、体育館を出て行ってしまう。


「取り敢えず、連絡するための手段が必要だな」


 西村駿は最近配信された連絡アプリ『PINE』をインストールするように促すと、アカウントを作成した者から順番に『夏休み』というグループに招待をしていく。


「このアプリ便利やな」


 パイナップルの中に『PINE』と書かれているアイコンをタッチすると、『お喋り』『掲示板』『友達』という三つの要素が表示される。普段から使用していたメールとは違って、シンプルなデザインに加え、機械に弱い人でも直感での操作が可能なのだ。


「昨日の夜に配信されたばかりなんだ。俺もまだ扱いには慣れていないが…」

「……???」 

「おん、智花。そのアプリちゃうぞ」

 

 内宮智花はかなり機械に弱いらしく、まともにアプリを見つけることも出来ず、全く違うアプリをインストールしていた。

 木村玄輝は金田信之に、東雲桜は鈴見優菜に教えてもらい、神凪楓、白澤来、雨氷雫は自分の力でどうにかアカウント作成を行っているようだ。


「……よし、これで全員をちゃんとグループに入れられたな」


 西村駿は改めてグループのメンバーリストを確認してみると


 『夏休み』 

 シュン(サッカーボール)

 ユウナ(ゲームのキャラクター)

 トモカ(ケーキ)

 ゲンキ(アコースティックギター)

 ガッシー(ピアノ)

 カエデ(飼っている鳥)

 スイ(ドラム)

 シラサワ(愛用している帽子)

 サクラ(桜の木)

 シズク(アイコン無し)


 というアイコンと共に十人のメンバーの名前が書かれていた。

 それぞれ特徴的なアイコンのおかげで見間違えることはなさそうだ。


「…優菜、詳しい日程が決まったらこのグループでまた連絡をしてくれ」 

「うん、分かった」


 取り敢えず一旦その場で解散することにし、それぞれの夏休みを過ごすために体育館の外へと出て、帰宅路につくことにした。




◇◆◇◆◇◆◇◆




『四童子有栖、研究の成果はどうだ?』

「はい。今のところ得た情報は以下の通りです」


 四童子有栖は、西村駿たちから収集した情報が詰まったデータファイルを、ノートPCを使って本部へと送信する。

 月一回、成果を報告するために本部へと連絡をしなければならないのだ。もし仮に大した成果を得られていないと判断をされれば、即刻クビとなってしまう。


『……ほう。植物状態に陥った者たちをユメ人と呼び、それらを助けることが出来る高校生たちがいると…』

「そこに書かれていることは全て真実です。私は実際に彼らがユメノ世界という場所で戦っている姿を見ています」 

『………』

 

 データファイルを確認しているのか向こうから聞こえてくるのは、マウスのクリック音だけだ。四童子有栖は、この成果ならばまず反応がいいと予測していた。

 今回、得た情報は有栖自身からしても『レーヴダウン』からしても、解決へ近づくための大きな一歩なのだ。


『四童子有栖、この成果は大手柄だ』 

「…お褒めの言葉、光栄です」


 予想通り、本部からは賞賛する声が上がった。

 四童子有栖はその返答を聞いて、バレないように心の中で安心をする。


『四童子有栖、一つ問おう』

「……はい」


 どんな質問にも答えられるように様々なパターンを考えてある。

 冷静に受け答えが出来るはずだ。四童子有栖はそう強く確信をしていたが 


『その高校生たちがユメ人を引き起こしている原因として考えられないかね?』

「…え?」


 その質問はあまりにも斜め上のもので、有栖は言葉を漏らしてしまった。


『元ユメ人とユメ人、ウィルスが関係していると考えれば元ユメ人やらが完治しているとはいえ、根源となるウィルスが残っているのではないか?』 

「その考えには肯定出来ません。ユメ人が現れた頃、血液検査も含めてあらゆる手を施しました。その結果、ウィルスらしきものは何一つ見つからなかったはずです」

『ウィルスは違う。ならば何故、彼らは助けているというのにユメ人とやらの数は増えていく一方なのかね?』


 四童子有栖のノートPCにデータファイルが送られてくる。

 そこには一か月ごとに増加していくユメ人の数がグラフで記されていた。


『君を派遣した四月頃、このデータによればユメ人の人数は千人以内に収まっている。しかし、月を重ねるごとにユメ人の数が急激に増えているのだ』

「それは…その時期が増えやすい要因があったからだと…」

『それが、その高校生たちじゃないのか?』

 

 四月頃に木村玄輝がユメ人となった。

 それを神凪楓は無事助けることに成功したが、丁度その時期からグラフの線が急上昇し、一か月でユメ人の数が千人を超えてしまっているのだ。


「あり得ません。彼らはユメ人を助けているのです。数を増やす要因には――」

『彼らが助けているというのは認める。だが、助けている反面…その数倍の人数をユメ人に陥れている可能性もあるだろう?』

「…! 彼らは高校生ですよ…? そのようなこと、出来るはずが……」

『それでも、私たちには計り知れない力を持っている。もし君を騙していると考えればそれも自然だと思わないか?』


 西村駿たちがユメ人を増やす原因。

 四童子有栖はその憶測だけは決して立てなかった。何故なら、悪魔たちと戦う姿を何度も見てきたからだ。ボロボロになりながらも、戦い続けるその姿を見て、騙しているなどと疑うことは愚の骨頂だろう。 


『来月だ、来月までにユメ人の数をこの数値で押さえられなければ、彼らの処分を私たちの手で下させてもらう』

「待ってください…! それはあまりにも横暴なのでは…」

『それなら彼らがユメ人を増やす原因ではないことを、君自身の研究成果で証明してみせてくれ』


 四童子有栖は拒否など出来るはずもない。

 ここまで西村駿たちが疑われてしまえば、潔白を証明できるデータを用意すること以外の手法では、納得どころか話すら聞いてもらえないだろう。


「…分かりました」


 有栖は繋がっていた電話を切ると、急いでノートPCのキーボードに指を走らせて人工知能であるミラを起動させる。


『お呼びでしょうか?』

「ミラ、至急サーバーに保存されているユメ人に関する全データをこのノートPCにコピーをしてくれ」

『承知しました』

 

 四童子有栖はデータのコピーが終わるまで、椅子に持たれかかりこれからどう動こうかを考えた。これからの研究には西村駿たちの協力が必要となる。

 ならば今すぐにでも連絡を取り合うべきだろう。有栖はタブレットを操作して、黒百合玲子へとメッセージを飛ばした。


(政府から疑われていることは黙っておくべきだ。重要人である彼らを混乱させては元も子もない)


 

◇◆◇◆◇◆◇◆



「…」


 雨空霰は自宅のソファーに座り、一枚の書類に目を通していた。

 その書類には【迚ゥ隱槭�陦後¥譛ォ】と書かれているようだ。


「俺でも読めない…この字は何なんだ?」


 各国の言葉を覚えて生きてきた霰でさえ、その書類に記された文字を解読は不可能。そもそもこの紙をどこで拾ったのか、それさえも記憶ない。


「何か…誰かが…どこかでこの世界を―――」

 

 核心に迫るための方法。

 それを知ろうとする者は誰であろうと罰を受ける。彼はそんな気がしてしまい、その紙を二度と見れないようにビリビリに破り捨てた。


「……?」


 雨氷雫が西村駿たちと馴染めるかが心配だ。

 彼はそんな不安を抱きながらも、リビングを後にし、自室のベッドで夕方過ぎまで仮眠を取ることにした。

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