第73話『体育祭が始まりますか? 後編』
楽しいひと時はあっという間に終わりを告げる。東雲桜と談笑しながら昼食を終えた西村駿たちは再び、蒸し暑いグラウンドへと姿を現すと、二年一組の観客席には木村玄輝と金田信之が一番乗りで席に座っていた。
「玄輝、昼食はちゃんと食べれたか?」
「当たり前だろ。お前たちの方は無駄話が多かったようだが、ちゃんと休憩を取れたのか?」
「ああ、それなりにな」
西村駿と木村玄輝は互いに視線を交わしながら軽く近況を伝えると、すぐに目線を逸らして会話をその場で断ち切った。
「次の種目はなんや?」
「女子生徒全員で行う『しっぽ取り』だったと思うぜ? ほら、智花たちも入場口へ集まっているしな」
昼休憩を終えた午後の種目の一発目は『しっぽ取り』。ルールは言わずもがな、『黒』と『白』のチームに大きく分かれて、腰に付けたしっぽを取り合うというものだ。言葉だけならば可愛らしいものだが、この種目は滅多に見れない女子生徒の本性が見れる恐ろしい種目となり得る。
「おい見ろよ…五奉行が『黒』のチームに固まってるぞ」
「うわっ! おっかねぇ! こりゃあ白色の負けだな…」
グループの色分けは普通の学校ならば、種目決めの際に決まっているものだが、この真白高等学校は特殊な形式となっている。それはいざ本番前にならなければどのチームに配属するかが分からないというものだ。このようなルールにした理由は、生徒一人一人の適応力を試すためらしいが…
「優菜たちは同じグループになれたようやな」
「でもよ、あの五奉行が全員一緒っていうのがヤバいと思うぜ?」
白澤来の意見に男子たちは全員一致で共感する。女子の中で最も敵に回したくない人物は誰か?と問われたときに男子生徒の大半は五奉行と回答するのだ。
「あー…これは見物かもな」
「霰、笑みを隠せていないぞ」
満面の笑みを浮かべている霰に、西村駿は苦笑交じりに指摘をする。人数配分を整えて最終的に決まったグループ分けは
【黒】
黒百合玲子
柏原瑞月
柳未穂
霧崎真冬
松乃椿
『白』
東雲桜
神凪楓
内宮智花
鈴見優菜
雨氷雫
…というような形で落ち着いた。西村駿も女子たちの全面戦争が見れることに、霰と同様期待をしているようで、少しだけ体を前へと乗り出している。
「選手入場ーー!」
女子生徒の集団がそれぞれ西と東の入場口から姿を現し、グラウンドの中央まで集合した。これから行われる乱戦を前にして【黒】と『白』の代表者がそれぞれ、国境を示す西と東の分かれ目に立つ。
「わたくしは【黒】に誓いを立てますわ」
「わたしは『白』に誓いを立てます」
【黒】の代表者は黒百合玲子、対して『白』の代表者は東雲桜、両者ともが宣戦布告を思わせる宣言を述べると、それぞれのグループの中へと姿を消す。
「…始まるぞ」
「どっちが勝つのか楽しみだね! 玄輝!」
金田信之が空気の読めない発言をすると、木村玄輝は頭をすぐさまにひっぱたく。それと同じタイミングで、号砲が鳴り、【黒】のしっぽと『白』のしっぽを腰に付けた女子生徒たちが一斉に走り始める。
「な、なんだこれ…? 戦争か何かか?」
雨空霰が度肝を抜かれたように、頬を引きつっている。どう見ても乱戦だ。普段は大人しい女子たちが、猛獣となんら変わりない目つきをしながら、しっぽを奪い取る。息をする間もなく、しっぽを取られて敗者席へと帰っていく女子たちの姿はまるで"燃え尽きた木炭"のようだ。
「わいは時々思うんや。やっぱり女子と男子で差別するのはよくないんやって」
キャッキャウフフのような展開は何一つない。殺すか殺されるかの空間、たったそれだけを連想させる種目である『しっぽ取り』。取るものはしっぽではなく、女子のプライドだ。どこかの誰かがそんなことを言っていたような気がした。
「数は互角か…?」
『白』のグループで目立っているのは神凪楓。自身の背後を取られない立ち回りと、息をするように黒のしっぽを取っていく姿は、男子生徒たちの目線を釘付けにしていた。
そして『黒』のグループのトップは柏原瑞月。背後を取られない立ち回りをしているわけではなく、グラウンドを駆け回る速さに追いつける者が誰一人としておらず、背後を取ることが出来ないのだ。そんな柏原瑞月もまた多くの男子からの声援を浴びているようだ。
「あー…やっぱり最終的に残るのはあのメンバーだよな」
【黒】の代表者、黒百合玲子を囲むは残りの五奉行たち。『白』の代表者、東雲桜を囲むは二年一組の楓たち。雑兵とも呼べる女子生徒たちは既にグラウンドから退場し、そこに残るは集団を率いる将軍に加え、その将軍を守ろうとする副将軍たちだけだ。
「ここからが本番やな」
黒百合玲子率いる五奉行と、東雲桜が率いる二年一組の生徒…どちらが優勢となるかは誰も予測がつかない。
「みんな…! わたしは逃げ回るから、黒百合さんを集中的に狙って!」
「却下ね。その作戦だと私たちより先にあなたがやられるわよ?」
先に仕掛けるタイミングを両者とも見計らって、円を描くようにグラウンドをぐるぐると回り始める。
「瑞月、例のアレをやってくださる?」
「オーケー! 分かったよ!」
黒百合に指示を受けた柏原瑞月は、一目散に『白』の集団へと突っ込んでいく。神凪楓は通せんぼをするようにして、瑞月の前へと立つが、
「そこをどきな!」
「チッ…!」
素早い動きで楓一人を翻弄していた。このままでは柏原瑞月だけしかマークできず、他の者の桜への接近を許してしまう。それだけはどうしても避けないといけない。
「どいて」
「――!?」
しかし、神凪楓と柏原瑞月の間を雨氷雫が割って入る。気配もなく接近をされてしまった柏原瑞月は、すぐに後退して雫の姿を捉えた。
「私がアレを食い止める。あなたは攻めて」
「…頼んだわよ」
雫は相手のしっぽを一本も取ってはいなかった。この五対五の状況となるまで、ひっそりとグラウンドの隅で事の成り行きを見守っていたのだ。
「アンタはリレーの時の…」
「相手のしっぽを取れば勝ち。この種目は、そういうルールだったの?」
「…まさか、ルールを知らなかったのかい?」
雨氷雫は恥ずかしがる様子も見せず、素直に縦に頷く。ルールも知らない状態で、ひたすらに回避をし続けてここまで生き延びてきた。その実力は只者じゃない、柏原瑞月はそんな雫を微笑する。
「アンタの言う通り、相手のしっぽを取れば勝ちだよ」
「…そう、それならあなたのしっぽを取らせてもらう」
雨氷雫と柏原瑞月が対峙している頃、東雲桜は楓たち三人に指示を出していた。
「トラちゃんは黒百合さんを集中的に攻めてきて…! 智花ちゃんは攻めと防衛を両立しながら! 優菜ちゃんはわたしのことを守ってほしい!」
指示通り、神凪楓は柳未穂と松乃椿が守っている黒百合の元へと駆け出す。内宮智花は桜と黒百合の間で、攻めと防衛を柔軟に切り替えられるように立ち回れる準備をして、優菜は桜の周囲を守るようにして、辺りを警戒していた。
「わたくしたちに、勝ちを譲ってほしいですわ」
「そっちこそ、私たちに譲ってくれてもいいと思うわね」
楓は未穂と椿の隙を掻い潜って、黒百合に接近をする。だが黒百合玲子は黒髪を煌めかせながら動き回り、神凪楓の掴もうとする手を弾いていく。文学少女というイメージは強かったものの、ここまで動き回れるとは予測しておらず、楓は軽く舌打ちをしながら距離を取った。
「楓ちゃん、苦戦してるね…」
「どこか、どこでもいいから…相手の隙を見つけないと…」
神凪楓が必死に黒百合玲子たちと競い合っているのを見て、桜はこの状況をひっくり返すための策を考える。雨氷雫は柏原瑞月を止めている、鈴見優菜は防衛として役目を果たしている、内宮智花はいつでも動けるように待機している、誰かがもっと別の動きをするべきなのではないかと思考に至っている時、
「隙ありー!」
「…っ!」
背後から霧崎真冬が忍び寄り、桜の腰に付けたしっぽを掴もうと手を伸ばす。桜はすぐに足を動かしたが、掴まれるまでの時間に間に合わない。
「伏兵を忍ばせていたのか…!」
西村駿は突如現れた霧崎真冬に驚きを隠せずにいた。よく考えれば霧崎真冬は背が低く、かなりすばしっこい動きが出来る。意識をせずとも目立たないように行動することだって可能。黒百合玲子はグラウンドを回りながら、睨み合いの最中にこの伏兵を潜ませていたのだ。
「桜ちゃん…! ごめんね!」
「きゃ…っ!?」
鈴見優菜は間一髪で東雲桜を両手で突き飛ばして、霧崎真冬の一手を回避する。しっぽを取られずに済んだことで西村駿たちは一安心して、引き続き種目の成り行きを見守ることにした。
「…あいつ、何を考えてる?」
「ん? どうしたんだよ霰?」
黒百合玲子の方を見ながら、険しい表情を浮かべている雨空霰に白澤来が声を掛ける。駿や吹たちも後ろを振り返って、雨空霰の方を見て様子を窺がう。
「柳未穂、松乃椿は手加減をしている。三人掛かりなら、神凪楓一人ぐらいすぐに始末することが出来るはずだ」
「考えてみれば確かに…」
松乃椿と柳未穂の守りがあまりにも手薄すぎるのだ。厄介な楓を易々と黒百合玲子まで接近させる目的が一体何なのか、雨空霰はその事が頭の中で引っかかっていた。
「伏兵の霧崎真冬を決め手だと考えてはいないはずだ。黒百合玲子の性格上、他にも何か秘策があるんだろうな」
霰が最も不気味だと感じていたのは、黒百合玲子自らが自身を追い込む行為をしていることだった。回避する技術がいくら優れていても、体力的には神凪楓の方が上のはずなのだ。持久戦だと不利になるというのに、今もああやって直々で相手をすることのメリットが何一つとして考えられない。
「智花ちゃん! トラちゃんの援護へ!」
「分かった…!」
神凪楓が手こずっている様を見て、桜は黒百合の元へ攻めるように指示をする。それを待っていたかのように松乃椿と柳未穂は互いの顔を見合わせて、
「…まさか」
内宮智花とすれ違いで東雲桜の元まで一直線に走り出した。
智花は思わず後ろを振り返り、桜の方へリターンしようとするが、
「――躊躇、しましたわね?」
勝ち誇ったように黒百合玲子が笑みを浮かべると、鈴見優菜と東雲桜の『白』しっぽが一瞬で取られ、種目終了を告げるホイッスルの音がグラウンドに響き渡った。
「今のは一体…?」
「…アイツは、これを狙っていたんだ」
何が起きたのか理解できていない西村駿たちに雨空霰はこう説明をする。黒百合玲子が手を抜いていた理由、それは攻めとしても守りとしても両立の出来る内宮智花にその中間という指示を与えられていたからだと。
「ほんなら、ずっと智花が動き出す時を待っていたんか?」
「黒百合玲子は柏原瑞月を封じられたことで、柏原瑞月がいないという前提での作戦に変えたんだ」
アタッカーである柏原瑞月が封じられることは黒百合にとって想定外の出来事だったことだろう。それでも持ち前の適応力で自らの勝ち筋を見出して、その"状況"を作り出したのだ。
黒百合玲子は【内宮智花が攻めに回った場合】【内宮智花が守りに回った場合】とで、勝負の決め手を考えていた。
前者の場合は松乃椿と柳未穂を入れ違いで攻めに入れるという作戦。智花と楓に囲まれてやられるというリスクを背負うが、智花の性格上、予想外の行動をされれば一瞬だけ立ち止まってしまう。その一瞬で勝負にケリをつけるというものだ。
後者の場合は、霧崎真冬を自分の元に戻して、先に戦力となる神凪楓を四人がかりで仕留めるというものだった。楓を仕留めてしまえば、後は総員で攻め込んで勝敗にケリを付けられる。
「恐ろしいな。黒百合先輩は…」
「西村、お前もあれぐらい統率力を付けられるといいぞ」
拍手喝采を浴びながら五奉行たちは、三年一組の観客席へと帰っていく。対して神凪楓たちは不満そうな顔で戻ってきて、
「…してやられたわ」
「ごめんね。私があそこで立ち止まらなければ…」
「ううん…! 智花ちゃんは悪くないよ! あの人たちが強すぎただけだから!」
大きなため息を付きながら、慰め合っていた。西村駿たちも「お疲れさま」と同情の声を掛ける。しっぽ取りがお気に召したのか、学園長の雨宮徹も軽く頷いているようだ。
「次はおれらだな。ガッシー、行こうぜ」
「うん。行こう玄輝」
次なる種目は男子生徒が全員参加する『騎馬戦』。これも【黒】と『白』に分かれて、頭に付けた鉢巻を取り合う競技だ。
「霰、頑張って」
「まぁ…適度に頑張るよ」
大して負けを気にしていない雫が、自分なりの応援のエールを送る。雨空霰は微妙な表情を浮かべて、入場口へと歩いていった。
「【黒】と『白』のグループ分けを発表するぞー!」
この『騎馬戦』も当日にならなければ、自分がどちらの色に所属するのかが分からない。順番に色分けをされていくと最終的に固まったグループが、
『白』
西村駿
白澤来
波川吹
金田信之
木村玄輝
【黒】
雨空霰
月影村正
朧 絢
というものになった。またまた運が良い事に二年一組は雨空霰を除いて、一緒の『白』のグループとして騎馬戦に挑むことになったが、
「…正気か? 何故、よりによってあの三人が一緒なんだ?」
【黒】のグループに雨空霰たち三人が固まっているという事実が、西村駿たちの気分を落としてしまう。実力を知っている以上、まともに向かい合って競い合うのは勘弁願いたい。
「まぁ頑張ろう! オレは逆に燃えてきたぜ!」
「そのまま燃え尽きろ白澤」
木村玄輝はテンションの高い白澤来へ、そんな言葉をぶつけると入場口を通って、グラウンドへ移動をする。
「なんや嫌な予感がするで」
「…気のせいということにしておこう」
グラウンドの中央から東側が『白』。対して西側が【黒】。それぞれ渡された色付きの鉢巻を頭に巻きつけると、【黒】と『白』のリーダーを務める三年生が騎馬を組んで、戦を始める前のセリフを大声で叫ぶ。
「【黒】を粛清して、必ずや『白』の祝杯を挙げてみせるぞぉ…ッ!」
「『白』を堕として、必ず【黒】の祝杯を挙げてみせます…ッ!」
『騎馬戦』という種目名が付けられているが、騎馬を組むのは各色のリーダーのみだ。一発KOとなる騎馬の鉢巻を取るには、多大なリスクを背負いながら騎馬を突っ込ませなければならない。騎馬を組んでいない者たちは、群がる相手の鉢巻を奪い取り、数を減らしながら、自身の大将を前へ前へと進ませるしか、勝つ方法がないのだ。
「始めぇぇーーーー!!!!」
両グループとも配列を整えられると、体育教師が鳴らす太鼓の音が校内中にけたたましく響く。遂に始まったといわんばかりに女子たちは黄色い声援を、それぞれ思いを寄せている男子生徒に送り始めた。
「白澤…! 行くぞ!!」
「おう! 任せろ!」
駿と白澤は最前線で相手の陣地へと攻めていく。サッカー部で何度も何度も息を合わせているからか、お互いの背後を上手くカバーしつつ、相手の鉢巻を何本も掴みは落とし、掴みは落としを繰り返す。
「行くよ玄輝!」
「おい、バカか!? そのまま突っ込むと囲まれるぞ!」
信之と玄輝は相手の陣地と自分たちの陣地の境界線辺りで、黒グループと鉢巻を取り合っていた。無鉄砲に突っ込む信之を玄輝が何とかフォローを出来ているのは、ユメノ世界で何度も共に戦っているからだろう。
「わいはここで安定やな。敵の数を減らせるよう、頑張ってくれや」
そして波川吹は、大将を防衛する最後尾でのんびりと休んでいた。敵もたまに攻めてくるが、ガタイのいい先輩たちがそれを防いでくれるため、下手に動かなくても全く問題がないのだ。
「凄いよ! 『白』が優勢だ!」
「駿くんたちのおかげだよ…!」
二年一組の観客席では、神凪楓たちが『騎馬戦』を観戦していた。【黒】の鉢巻の減りが圧倒的で、白色の鉢巻の二分の一ほどまで減ってしまっている。これには『白』を応援している女子生徒も大盛り上がりのようだ。
「…でもおかしいわよ。あの三人が動かないなんて」
「……」
雨空霰、月影村正、朧絢の三人は全く行動もせず、姿も見せず、どこかへ隠れているようだった。雨氷雫は神凪楓の一言に、視線を【黒】の大将へと向ける。もう既に【黒】の陣地へと『白』に踏み入れられ、戦況は圧倒的に不利となってしまっているが…。
「そろそろ動く」
「動くって。あの三人は一体どこに…」
【黒】の大将を取り囲んでいた『白』の鉢巻が、一瞬にして地面へと落下する。神凪楓は何が起きたのか捉えることができず、目を擦ってもう一度確認をした。
「やっぱり、こっちの方がやりがいがあるな」
「おっしゃ…! やってやるか!」
「…面倒くさいな」
そこには霰、村正、絢の三人が片手に大量の白の鉢巻を持って、黒の大将を正三角形で囲むようにして立っていた。
「え…? いつの間に霰くんたちが…」
この危機的戦況をひっくり返すほどの力を持つ三人。西村駿たちも「お出ましか」と、思わずから笑いをして大将の元まで後退した。雨空霰たちがどれだけ恐ろしい存在なのかを知らぬ生徒たちは、次々となすすべなく白の鉢巻を摘まれているようだ。
「アッハハハ! ほらどんどん来いよ!!」
霰は白の陣地のど真ん中で周囲に挑発をしながら、三秒に二人のペースで『白』の人数を減らしていく。村正と絢も攻め入ってくる『白』を、大将に近づかせる前に鉢巻を取って、一切の隙を許さない。
「アイツは化け物か…ッ!? 誰か止めろ!!」
『白』の大将に指示をされるがまま、守りに徹していたガタイのいい先輩たちが霰の鉢巻を取ろうと試みるが、手を伸ばしていた時にはもう既に白色の鉢巻が地面に落ちているではないか。
「白澤、吹、玄輝、ガッシー…! 俺らで止めるぞッ!」
西村駿の呼ぶ声に反応して、散らばっていた白澤たちが一斉にして雨空霰の進行方向に立ち塞がる。
「楽しませてくれよ…!」
雨空霰の猛攻に神凪楓たちは観客席で冷や汗をかいていた。あんなにも恐ろしい存在だとは思っていなかったのか、あの楓さえも顔を真っ青にして、駿たちと鉢巻を取り合う姿を見ているようだ。
「そこまで驚く?」
「…あんたは気が付いていると思うけど、あいつは右手しか使っていないのよ?」
神凪楓が最も恐ろしいと感じていたのは、右手だけで鉢巻を取っていく姿。あの大人数を片手縛りで捌いていく技術と、身体能力は十数年程度で身に着けられるものではないのだ。
楓も内心「自分は中々デキる方だ」と自負していたが、こんな光景を見せられてしまっては世界の広さを感じざる負えないだろう。
「おっとっと――」
五人がかりでの手を捌いている最中に、霰が大きくバランスを崩す。駿たちはすぐさまもう一度、霰の頭へと手を伸ばして鉢巻を取ろうとしたが、
「――なぁーんてな」
「…っ!?」
すぐに態勢を立て直して、円を描くように五人の白い鉢巻を奪い取った。瞬きする間もなく、地面に叩き付けられた白い鉢巻を見て、五人はその場に棒立ちしてしまう。そんな彼らに霰は捨てセリフのようにこう言った。
「――ユメノ世界で戦えないヤツが、現実世界で戦えると思ったら大間違いだ」
その後の勝敗の結末は口に出さずとも分かるだろう。結果は【黒】の逆転勝ち。『白』は雨空霰たちによって全員滅ぼされ、【黒】の押し寄せで騎馬を制圧されたのだ。
「…最初から負け戦だったな」
西村駿たちは先ほどの神凪楓たちと同じように、大きなため息を付きながら観客席へと戻っていくのであった。




