第72話『体育祭が始まりますか? 中編』
『リレー』の種目が大盛り上がりで終えたことで、この後に控えるいくつかの種目もかなりの盛り上がりを迎えていた。その一部分としてまずは『スウェーデンリレー』だ。
「駿! あとはゆっくり走ってこい!」
「ああ、ウォーミングアップしてくるよ」
この種目では圧倒的な差を開けて一組が勝利を収めた。内宮智花と白澤来の存在が大きかったことで、アンカーを控えていた西村駿はランニングをする気分でも余裕で一位を取ることが出来たのだ。余裕綽綽な一組の勝利は、周囲から「おお…」というようなどよめきが上がっていた。所々から「流石一組だ」という声も上がっていたことだろう。
「玄輝、ガッシー、頑張れよ!」
「怠いんだが」
そして、次なる種目が『スウェーデンリレー』を上回る盛り上がりを見せた。その種目は『借り物競争』。小学校の運動会や中学校の運動会でよく入れられるベタな種目だが、この真白高等学校でやるからこそ別の面白さが味わえるのだ。
「玄輝! お題は何だった…!?」
「おれのお題は…って!?」
「え…? どうしたの玄輝?」
お題と言えば数多く存在するだろう。サングラスを掛けている人、明るそうな人、校長先生、様々なお題がある中で木村玄輝が引いたお題は、
(『結婚したい人』って何だよ…!?)
完全に盛り上げる為のネタとして埋め込まれたお題。これを引くべきなのは、西村駿のようなリーダー的な人物であって、玄輝のような目立たない生徒が引くべきものではないのだ。
「ガ、ガッシー…! お題を変えないか!?」
「ダメだよ玄輝。お題の紙を交換するのはルール違反だからね」
金田信之のお題の紙を見てみると、そこには『尊敬する人』と書かれている。『結婚したい人』よりも断然マシなお題を手に持っている信之に交渉を持ち掛けるが、借り物競争のルールをしっかりと覚えているのかそれを違反だと拒否する。
「それじゃあ僕は早くゴールするから、玄輝も急いでね!」
「おい、ガッシー! ちょっと待ってくれ!」
信之は颯爽と二年一組の方へと走っていく。木村玄輝はこの状況をどうするべきなのかと考えたが、そもそも『結婚したい人』なんてすぐに思いつくはずもな――
「……」
玄輝の頭の中に神凪楓の顔が過る。正直『結婚したい人』という条件では最悪だ。性格は悪いし、かなり乱暴だし、何よりも自分には釣り合っていない。
「木村ー! 急いだほうがいいぞーー!!」
雨空霰が立ち止まっている木村玄輝にそう叫ぶ。もうどうにでもなれとすぐさま二年一組の席まで駆け出して、神凪楓の姿を探す。
「ガッシーはさっき駿を連れて行ったけど…玄輝は誰を連れて行くの?」
「…楓だ! 頼むから一緒に来てくれ!」
名前を呼ばれた神凪楓は「え?私?」というような表情を浮かべているため、半ば無理やり手を掴むとゴール地点まで共に走り出す。
「ちょ、ちょっと…!? お題は何なのよ!」
「後で教えるから今は走ってくれ!」
金田信之が西村駿と共に、ゴール前の審査員の前へと立っている。玄輝は信之たちの背後へと並んで自分の順番を待つ。
「玄輝! このまま僕たち二人がゴールすれば、成績もそこそこのものになるよ!」
「そ、そうだな…」
信之たちの出番がやってくると、西村駿を審査員の前へと立たせて、紙を両手に持ち、こう読み上げた。
「僕の『尊敬している人』はこの人です!」
審査員が信之の持っている紙を確認すると、OKという合図を出して、次に並ぶ玄輝と楓へ前に出るように指示をする。
(マジかよ…!? そんな大声で読み上げるのか…!?)
しかし金田信之たちの様子を見る限り、そんな声に出して言えるような度胸を玄輝は持ち合わせてはいない。誤魔化せるかと僅かな希望を持っていたが、手に持つ紙を確認されるため、どうしようもないではないか。
「…? どうしたのよ? 早く読み上げなさい」
「そ、そうだな…よし、読むぞ…」
たった一文が口に出せない。性に合わないことをしようとすると、体が拒否反応を起こし固まってしまうのだ。信之や駿も近くで見守ってくれている中でこんなことを告白するのは、罰ゲームじゃないか。
「お、おれが『――人』はこの人だ」
「…は? なんて言っているのか、全く聞き取れないわよ。男ならちゃんとハキハキと喋りなさい」
玄輝が『結婚したい人』というお題で神凪楓を連れてきたということを本人が知ればどんな反応をするのだろうか。顔を真っ赤にするのか、本当にシラケたような顔で蔑むのか…どうせなら見下された方が気持ちは楽だ。
「お、おれが…!」
意を決して腹の底から声を出す。ここで盛大に辱めを受けてしまう運命だったのだ。玄輝は自分の人生を呪いながらも『結婚したい人』の"け"の部分まで声に発したところで、
「終了でーーす!」
甲高いホイッスルの音が運動場に響き渡り、タイムアップが告げられた。玄輝は呆気に取られたまま、手に持っている紙を見ていると、
「玄輝…! 何で早く言わなかったの…!?」
金田信之が前方から迫ってきたため、手に持つ紙をぐちゃぐちゃに握りしめて、ポケットに突っ込んだ。
「あ、ああ…なんか喉が詰まってな」
「大丈夫か? さっき凄い顔をしていたぞ」
西村駿に心配をされるが、その理由を明かすわけにはいかない。この真実は自分の中で葬り去ってしまおう。強くそう決意していると、神凪楓が木村玄輝にこう尋ねた。
「で? 結局お題は何だったのよ? "け"までは聞こえたけど…」
「お題は…その、あれだ。『結構強いと思う人』」
「はぁ…? 何よそれ?」
神凪楓は納得がいかないような表情を浮かべて、自分たちの席へと帰っていく。周囲に誰もいなくなったことを確認すると、ポケットに突っ込んだ丸めた紙を取り出して、改めて中に書かれたお題を見た。
「とんだ災難だったな…」
『結婚したい人』。本当に自分が神凪楓と結婚したいと考えているのか、それさえも分からないまま借り物競争を終えると、次なるの種目の放送が流れ始める。この先もまだ種目があるのかと疲労感を体に纏わせながら、とぼとぼと自分の席へと玄輝は戻っていく。
「『クラス対抗リレー』に出場する選手は入場口まで集まれーー!!」
昼休憩前の最後の種目は『クラス対抗リレー』だ。この種目は第二学年と第三学年の選手たちを走らせる。それはつまり、最年長の三年生と競い合わなければならないことを意味する。第二学年は四クラス、第三学年も四クラス、合計八人の走者でグラウンドを走らなければならないのだ。
「…さぁ行くよ。あたしらがトップを取るんだ」
柏原瑞月が率いる三年一組の選手たちが先頭に立ち堂々と、入場口から運動場へと足を踏み入れていく。その姿には周囲のメディアたちも、より一層シャッターの音を増幅させていた。
「三年一組の選手たちは大物ぞろいだな」
「…アイツら、圧勝するつもりね」
『リレー』と同じ男女四人の選手で組まされるが、三年一組の送り出してきた選手はかなりの注目度を浴びていてもおかしくはなかった。柏原瑞月を除いた男子生徒と女子生徒の三人は、陸上競技において全国高校総体に出場し、短距離走、長距離走、リレー走において全国記録を更新しているのだ。
「名前は忘れたけどさ、あの威張り倒しているやつは走るのが早いのか?」
「…なんなら三年一組にとって、本命が柏原先輩なんだよ」
雨空霰にそんな返答をする西村駿は苦笑いを浮かべていた。その三人を上回る存在である柏原瑞月。彼女は身体能力が関わる分野であれば、それらの競技を本職にしているプロ選手たちと同等、もしくはそれ以上の成果を発揮できるのだ。
「柏原先輩は第三走者……雫、どうにか距離を抑えられるか?」
「…やれるだけやってみる」
雨氷雫は大して興味がなさそうにそう答えを返す。第一走者は西村駿、第二走者は神凪楓、第三走者は雨氷雫、第四走者は雨空霰。この並び順で各自、ポジションへとついた。
「俺も全力で走る。だから、お前たちも全力を尽くしてくれ」
西村駿の呼びかけに三人は軽く頷くと、第一走者の名前が順々に呼ばれる。いよいよ始まる『クラス対抗リレー』。選手たちは二百メートルの運動場を一周してから、バトンを次の選手へと渡す。要するに走る量は、通常のリレーよりも百メートル分多いことになる。
「よーい…」
体育教師が手に持つ号砲が鳴ったと同時に、三年一組の生徒が軽快なスタートダッシュを切った。西村駿も負けじと地面を強く蹴り出して、向かい風を感じさせない走りっぷりを見せる。
「あー…あれは早いね」
奮闘はしているが三年一組の生徒が圧倒的な速さで外周を駆け抜けていた。西村駿は二位をキープしているが、一位との差を埋められることはない。
「楓、すまない…!」
「謝るなら後で謝りなさい」
結局、差を縮められないまま神凪楓にバトンが渡される。楓は一位になろうとは考えていなかった。三年一組の選手たちに勝つことなど現状不可能に近い、ならば二位をキープすることが最もの安全策だという結論に至ったからだ。神凪楓は後方を確認しながら、追いつかれないようにグラウンドの外周を走り、
「取り敢えず、二位をキープしなさい」
「……」
雫にバトンを渡す際、そう簡潔に伝えた。既に柏原瑞月はバトンを受け取って、グラウンドを猛牛かの如く駆け抜けている。雨氷雫は楓の言葉に返答することなく、バトンを強く握って足を動かし始めた。
「――!?」
雨氷雫が走り出した瞬間、辺りの空気が凍り付いたかのように周囲の声がピタリと止まってしまう。しかしそう感じているのは神凪楓だけだった。歓声が、実況の声が…すべてが静止し、雫が走っている音だけが鮮明に聞こえてくるのだ。
「楓!」
「…え?」
名を呼ぶ声が鼓膜を貫くように耳に入ると、すぐに辺りの歓声が徐々に聞こえ始める。何が起きたのか分からず、周囲を見渡していると
「雫が柏原先輩に追いついたぞ…!」
雨氷雫が柏原瑞月に追いついている姿が目に入った。あの距離をどうやって縮めたのか、自分だけ凍える地へと飛ばされたような感覚のせいでその瞬間を見逃してしまっていたようだ。
「霰、後は走って」
「アンカー頼んだよ! あたしらは負けられないんだからね!」
柏原瑞月とほぼ同じタイミングでアンカーの選手へとバトンを渡す。雨空霰はバトンを手で受け取ると、隣で走る三年一組の選手の顔を見ながら
「よろしく! 総体で全国記録出したんだって? 凄いね!」
「は、はぁ…!?」
営業スマイルを漂わせる笑顔で話しかけていた。余裕そうだからこそ、表情に揺らぎを見せず、同じ速度で走っているのだろう。
「アイツやばくね?」
「走りながら笑ってるけど…」
しかし、よくよく考えてみれば、隣で走っている三年一組の選手は全国記録を出している男子生徒だ。霰はその選手を相手に必死さの欠片も見せずに、前ではなく横を見ながら走っている。それらが原因で観客の声にどよめきが紛れていた。
「あ、ごめん。先行くね」
雨空霰はグラウンドを半周したところで、隣の選手にそう伝えると、走る速さを更に上げて、ゴールまで一直線に向かい始める。
「霰ぇーー!」「いけぇーーー!!」「そのまま走れぇぇーー!!!」
二年一組の観客席から大盛り上がりの歓声が運動場に響き渡る。柏原瑞月は遊び半分で走っている霰を見て、歯ぎしりの音を立てていた。三年一組としてのプライドを汚されることが許せないのだろう。
(……!!)
雨空霰がダントツ一位の状態でゴールテープを切ろうとした時、木製の杖が頭目掛けて飛んでくる。 霰はその杖を左手で弾こうとしたが、
「…ッ」
「霰…っ!」
神凪楓を正気に戻す際、果物ナイフを左手に突き刺した傷が完治しておらず、反応が鈍り、木製の杖が頭部に直撃してほんの少しだけ足を止めてしまった。その数秒で二位との差がすぐに縮まり、一位のゴールテープを先に切られてしまう。霰もすぐに態勢を立て直し、目前のゴールへと二着目でゴールインする。
「霰、大丈夫か!?」
「…ああ」
飛んできた方角には教師たちの席が並んでいるテント。運動場を囲むメディアも、どうやらこれには驚きを隠せないようで言葉を失っている。ならば、先ほどの杖は誰が投げたのか、それは霰たちだけでなくその場にいる者たち全員が理解していた。
「あー? 走ってる選手の頭に杖をぶつけるなんて正気かよ…」
――雨宮徹。あの木製の杖は自らの席に立てかけておいたものだ。杖自体、それなりに重さがあるというのにそれをここまで正確に、外すことなく頭部へと投げてきた。見た目と反して、身体機能は未だに現役のようだ。
「あ、雨宮さん、先ほどのは少しやり過ぎでは…」
「……」
真白高等学校の校長が学園長へと意見を述べると、返事代わりと言わんばかりにキツく睨み返す。脅されるように睨まれた校長は「す、すみません…!」と謝罪の言葉を放つと、すぐに身を後方へと退いていった。
「メディアも怖気づいて写真すら撮らないなんて…あいつは裏に手を回しているのか?」
「私たちも詳しいことまでは知らないわ。だけど、これぐらいのことは平気でする。それが雨宮徹よ」
邪魔が入らなければ一位を取れたというのに、二位という結果になってしまった。こんな終わり方でもやり直しなどはせず、昼休憩の放送が流れ始める。雨空霰はバツが悪そうな顔をしながら、昼食を取るために校舎内へと歩いていった。
「…お疲れ様」
雨氷雫は神凪楓と西村駿にそう言うと、霰を追いかけて駆け足で校舎内へと消えていった。楓と駿は顔を見合わせて、どうしたもんかと話し合っていると
「駿! リレーめっちゃ面白かったぞ! 昼メシ食いに行こうぜ!」
白澤来たちがぞろぞろと駿の元まで歩いてきた。木村玄輝と金田信之の姿は見当たらないが、きっと先に教室へ戻っていったのだろう。智花や優菜はリレーの最中の出来事に触れないようにしているのか、少々無理をして笑っているような気がした。
「外は暑いから、はよ冷房の効いた教室に戻らへんか?」
『リレー』で問題を起こした波川吹は、額に汗を流しながらそう提案をする。一時間ほど校舎裏で体育教師から説教をされた吹は、真っ赤な顔をして二年一組の観客席へと戻ってきた。熱中症かと心配をしたが、ただ単に叱られた怒りで顔を赤くしているだけだったらしい。
「そうだな。俺も休憩したいから早めに…」
校舎内に戻ろうと歩を進めた時、東雲桜が教師の集まる白テントから姿を現す。駿は今朝にあった出来事を思い出して、後ろを振り返り、
「……東雲も誘っていいか?」
五人にそう聞いた。勿論、拒否する理由も無いため五人は快く許可をしたが、
「駿くん、どうして急に生徒会長を誘おうとしたの?」
「確かにな。普段なら誘うことなんてしないだろ」
珍しい西村駿の行動に智花と白澤がそのワケを尋ねる。 今朝の事情が大きな理由だがそれを話すわけにもいかないため「何となく」と曖昧な返答をすると、東雲桜の側まで駆け寄り、
「…東雲!」
「あ、西村君。リレーお疲れ様!」
その場に呼び止めた。桜は普段と変わらぬ笑顔を向けてきたが、白澤たちを見るとやはり少しだけ寂しそうな表情を浮かべている。
「俺達と一緒に昼食を取らないか?」
「…へ?」
駿の唐突な誘いに、東雲桜は頭が回っていないのか両目を点にしてしまう。 そんな言葉を投げかけられるのが、予想を上回るものだったらしい。
「で、でも…わたしなんかが邪魔しちゃって大丈夫?」
「全然大丈夫だよ! 私、桜ちゃんと話してみたかったから!」
「優菜ちゃんと同じく、私も桜ちゃんと話してみたかったんだ」
東雲桜はやや謙虚になってしまっているが、鈴見優菜と内宮智花は歓迎するように両サイドから桜の事を挟む。
「吹もオレも賑やかな方が好きだからな。大賛成だぜ」
「そやな。そんなにかしこまらなくてもいいんやで」
桜の表情がパッと明るくなるのを感じた西村駿は「それじゃあ行こうか」と七人で和やかな雰囲気を漂わせながら、昼食を食べるために校舎内へと入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あーあ…あの学園長何なんだよ…」
「お前も災難だったな」
雨空霰が愚痴を溢すと、隣に座っている村正が同情しつつ、焼きそばパンを口の中へと運ぶ。霰たちが集まるこの場所は、二年一組が真下にある空き教室。そこで、雨氷雫、雨空霰、朧絢、月影村正は勝手にクーラーの冷房を付けて食事を取っていた。
「絢、村正は種目に出ていないの?」
「おう! 俺は出たかったんだけど村正が面倒くさいって言うからさ?」
「お前だけ出れば良かっただろ…」
朧絢は「それも何か違うんだよなー…」と椅子に持たれかかりながら否定をする。霰は包帯が巻かれた左手を右手で触りながら、大きなため息を付いていたため、雨氷雫が首を傾げて様子を窺がっていると
「"雨宮徹"…あいつは一体何者なんだ?」
小さな声でそう呟いた。雨氷雫は「学園長でしょ?」と意見を述べるが、霰は顔を左右に動かしながら机の上に置いてある手作り弁当を手に取る。
「正直、あの身体能力は老人の体とは思えない。それなりに重い木製の杖を俺のいる場所まで投げられることもおかしいが、あいつは俺の頭をピンポイントで狙ってきたんだ」
「俺もその瞬間は見ていたが…あの老体で出せる力とは思えなかったな」
霰の意見に村正も共感をする。あの出来事が原因で雨宮徹という人物を見る目が、かなり変わってしまったのだ。そして雨空霰はその意見の続きをこう述べた。
「もう一つは…狙う方向だ」
「…方向?」
「俺はあいつに右手を見せながら走っていただろ?」
雨空霰はゴールテープを切ろうとした直後、雨宮徹には右手側、つまり右半身を向けていたのだ。
「それなのに、わざわざ俺の左手側を狙って投げてきた。これはあくまで俺の予測だが…あいつは防がれた場合のケースも考えたうえで、負傷している左手側に寄って投げたんだと思う」
狙いやすい右半身側へと杖を投げなかったのは、防がれる可能性があったから。雨宮徹は霰が左手を負傷していることを理解したうえで、あの杖を左半身へと向けて投擲した。そう考えるのが最も有力な説だと考えられる…が
「お前が口に出した予測が全て当たっているのなら…あいつは学園長の皮を被っている超人ってことか?」
「…そういうことになるな」
月影村正はふと先日起こったことを思い出す。神凪楓の自宅へ現れたピエロの面の集団。話し忘れていたと雨空霰たちへと話題を持ち掛けた。
「ピエロの面?」
「ああ、俺は部下らしき二人を相手にしたんだが…」
「あー…もしかして、神凪がリーダー格のやつにボコられたとか?」
雨空霰の言葉を聞くと村正はゆっくりと縦に頷く。相当腕の立つ人物だった。力比べにおいては村正が本気を出しても、押し切ることが出来なかったのだ。
「んー…お前でも苦戦したんだよなー?」
「…まぁな」
「なら、俺じゃあ勝てないよなー!」
朧絢は空気を読まず、お気楽な発言をする。そんな絢に三人は苦笑しながらも、雨空霰はそのリーダー格という人物について詳細を尋ねる。
「…扱っている格闘術は分からなかったが…喋っている言葉はロシア語だった」
「ロシア語? 特殊部隊か?」
「分からない。だが、この世界に来て色んな奴と出会ってきたが…アイツが最も強かった」
村正がそこまで称賛する相手。そんな人物がこの世界にいるのかと雨氷雫は耳を疑ってしまう。朧絢は変わらずにやけながら片手にサンドイッチを持っているが、雨空霰はおかずを口に運ぶのを止め、真剣に話を聞いていた。
「相手の目的は分からないが…神凪楓を狙った犯行なら見逃せない。絢と村正は、常に神凪の身に被害が及ばないように警戒をしてくれ」
二人は承諾すると、パンの入っていたビニール袋をゴミ箱へと捨てて、空き教室を出て行く。その場に残された雨空霰と雨氷雫は、早めに食事を終えるよう食べるペースを上げることにした。




