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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十二章『博』

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第71話『体育祭が始まりますか? 前編』

 太陽の陽が鋭く照らしてくる体育祭当日。二年一組の生徒達は体操服に着替えた状態で朝早く集まり、様々な事前確認をしていた。競技に出場する選手の確認、ステージ発表の流れ…一瞬たりとも気が抜けない体育祭には精密な確認が必要なのだ。

 

「――以上で確認は終わりだな。ステージ発表の作業は、皆の力で終わらせられたと思う。男子学級委員としてお礼を言わせてくれ」

「おう! 気にすんなよ! オレたちだって駿の指示がなかったら動けなかったんだからな!」


 何故サボり代表のお前がそこまで偉そうに言えるんだ、とクラスの皆が頬を引きつりながら白澤来を見る。そんな中、木村玄輝は久しぶりにクラスへ顔を出した神凪楓の事を見ていた。


「せっかくの体育祭だ。みんな、勝つことより楽しむことを優先してくれ」


 西村駿のまとめの一言を合図に、運動場へと出るために生徒達が各自準備を始める。神凪楓も席を立ち、貴重品や飲み物等などを手提げのバッグへと入れて、教室から出ていこうとしていた。


「楓、まだ退院して日が浅いのに無理をさせてすまなかった。体調の方は大丈夫か?」 

「…退院して早々にバンド練習をさせられるなんて思わなかったわね」


 体育祭一日前の休日に、神凪楓は西村駿に学校まで呼び出されると、楽譜とマイクを手渡された。歌詞と振り付けを一日で完璧にすることなど不可能かと思われていたが、そこは楓の要領のおかげで何とか完成形まで持ち込むことが出来たのだ。


「頼むで、ほんま」


 波川吹が念押しをするように声を掛けてきたため、楓は吹を鼻で笑いながらこう言い返した。


「…あんたこそ」

「おおおん!? なんやて?!」 


 共に戦ったとはいえ、この二人の仲が悪いのは変わらずだ。それを見た駿は目の前でいがみ合っている二人を見ながら苦笑いを浮かべる。喧嘩するほど仲がいいという言葉が存在するが、どうやらこの二人は本当に仲が悪いらしい。


「早く行かないと遅れちゃうよー!」 


 教室に残ってのんびりとしている西村駿たちに、鈴見優菜が教室を出ていく際に声を掛ける。隣にいる内宮智花はステージ発表でVocalを務めることもあり、かなり緊張しているように見えた。


「ガッシー、さっさと行こうぜ」

「おう、そうだな」

「お前は呼んでねぇよ」

  

 木村玄輝は俗にいうウザ絡みを白澤にされると、金田信之と共に教室を早歩きで出ていく。西村駿も神凪楓と波川吹を先へ行かせて、教室の外へ出ると、入り口に鍵を閉めて階段を下り始める。


「あっ…西村君!」

「…東雲か?」


 東雲桜も教室の戸締りを確認していたようで、階段を駆け下りながら駿に声を掛けてくる。駿はスマホで時間を確認してみると、後五分足らずで開会式が始まってしまう時刻まで迫っていた。


「急いだ方がいいよ!」

「どうやらそうらしいな…!」


 桜と共に階段を駆け下りて下駄箱まで向かう。その最中に東雲桜が、ほんの少しだけ躊躇しながら駿にこんな話を持ち掛けた。


「西村君って、最近木村君たちと仲がいいよね?」

「そうか?」

「…教室の前を通ると、いつも楽しそうにしてるから」


 西村駿は桜がなぜそんな話をしたのかが全く理解が出来ず、曖昧な返答をする。誰よりも生真面目な性格をしている駿は、東雲桜の"その気持ち"を察することは出来ない。それは、話を持ち掛けた桜自身も分かっていたこと。


「…ううん、何でもない。今の話は忘れて」 

「ああ、何かあればまた話してくれ」


 それぞれ下駄箱で運動靴へと履き替えると、自分たちのクラスメイトが集まっている場所を探す。


「わたしはこっちだから…西村君たちも頑張ってね」

「東雲もな」 


 東雲桜は校舎から見て左側の場所へ、西村駿は校舎から見て右側の場所へと、互いを鼓舞し合いながら二つ方向へ別れた。

 

「遅かったけど…何かあったの?」

「いや、鍵を掛けるのに少し手間取っただけだ」


 智花にそう返答をした西村駿は、用意されている一番前の席へと座る。全校生徒の数はそれほどいないが、見るからに高級そうなカメラを持ったメディアや、テレビ局の腕章を付けた大人たちが白いテントの下でスタンバイをしていた。


「…凄い人の数やな」  

「そりゃあお前、ここは国のトップの体育祭なんだからな」


 たかが高校生の体育祭という規模では済まされない。真白高等学校に在校する生徒達は、この国の未来を背負うほどの実力を備え持った者たちばかり。世間では一般的にそう認識されている。


「玄輝、今年は去年よりも遥かに観客が多いよね」


 去年もそこそこの人数はいたが、ここまでメディアの目に晒されるような体育祭ではなかった。恐らく、メディアがここまで集まるのには"例の学園長"が顔を出すことと、黒百合玲子たちが属する学年が、これを機に今年で最後の体育祭となるからであろう。


「…おれはこの体育祭にここまで浪費をする価値があるとは思えないな」


 相手メディアからすれば体育祭を楽しむ気分で見に来たわけではなく、自身の企業へ引き入れたいと思える人材探し。もはやこの体育祭は『生徒達が企業にアピールをする場』でもあり、『企業が生徒達をスカウトする場』でもあるのだ。


「あ、お父さんも見に来てる」


 『鈴見グループ』の総帥でもあり、優菜の父である鈴見倉治も白いテントの下でSPを数人連れて体育祭が始まるのを今か今かと待っていた。人材を探しに来ているのかと一瞬考えたが、優菜に手を振っているのを見て考えるにただ娘の体育祭を見に来ただけなのかもしれない。


「……」

「…楓、大丈夫か?」


 神凪楓がだらけきった様子で椅子に持たれ掛かっている。駿は病み上がりで厳しいのでは、と心配をして声を掛けてみると、


「…暑いだけよ」

 

 気温の高さにバテているだけだった。現在の気温は四十度近い。テレビのニュースでも何人か熱中症で倒れて、昏睡状態に陥っているという情報を何度か聞いた。白いテントが太陽の光から身を守ってくれているというのに、蒸し蒸しとした空気と暑さが襲ってくる。


「無理はするなよ」

「…分かっているわ」

「何かあったら私に言ってね。保健室に連れていってあげるから」

  

 智花に「はいはい」と素っ気ない返事をすると、辺りを囲むスピーカーから体育教師の声が運動場に響き渡る。


「あー…また長話か」

「……」 

「お前、涼しそうだな」


 中段の列に座っている雨空霰が、隣で涼しい顔をしている雨氷雫へ、妬ましそうに声を上げる。それぞれの席の配置は一番前の席に西村駿、内宮智花、神凪楓。この配置にした理由は、退院したばかりの楓を学級委員二人でフォローできるようにするためだ。


「なんでいちいち長い話を挟むんや?」

「きっと話が好きだからだと思うぜ。オレも好きなものには全力だからな」

「…ただ単に沢山のメディアがいるからだと思うんだけど」


 その次の列に波川吹、白澤来、鈴見優菜という並び。この三人は"ゲーム"がきっかけで親交をそれなりに深めたようだ。


「別に涼しくない」

「本当か? ならどうして汗の一つも掻いてないんだよ?」


 丁度中段の列に雨空霰と雨氷雫の二人。普段通りと言えば普段通りだが、体操服姿をしている雨氷雫を見た霰が教室でしばらく大爆笑していた光景は異常だった。


「ガッシー、出番がないときは校舎内で時間を潰さないか?」

「ダメだよ玄輝! ちゃんと皆の応援をしようよ!」


 そして、数列飛んで最後列。そこには木村玄輝と金田信之が座っていた。信之は駿たちの近くへ座ろうと提案したが、玄輝はそれを拒否したため、仕方なく最後尾に座ることにしたのだ。


「…あれ? 話が終わったね」


 開会式の話が長くなるかと思えば、それほど伸びることもなく呆気なく終了してしまった。きっとあまりに高い気温のせいだろう。


「よし、各自出場する競技をきちんと把握しておいてくれ。もし体調が悪いと感じたら俺か智花に報告を頼む」


 駿は皆にそう呼びかけると、自身も体育祭のパンフレットに目を通す。


  第一種目『リレー』

 波川吹、鈴見優菜、神凪楓


 東雲桜と共に考え、作成したパンフレットの出来栄えに満足しながらも第一種目目を見てみると『リレー』だった。男女二人ずつ、四人組という条件の元で一チーム作り、合計四人の選手を出場させるものだ。


「さっそく私たちの番だね」

「ほな、いくで」

「……」

 

 西村駿は出場する選手を一人ずつ確認の元、集合場所へと向かわせる。

  

「吹! 頑張れよー!」 

「優菜ちゃん頑張ってー!」


 選手が入場すると辺り一帯から生徒達の歓声が飛び交う。入場する選手たちはシャッター音や向けられるカメラ等などによって、通常の数倍は緊張しているようだ。その証拠に歩き方が少々ぎこちない。


「あれってトラじゃね…?」 

「最近見なかったけど…」


 一部、神凪楓のことを話す者もいた。その声色に含まれるものは決して称賛を想像させるものばかりではなく、不満の声も漏れているようだ。


「…はぁ」

「何で暗い顔をしとるんや? 今は走ることに集中するだけでええやろ」


 神凪楓の表情が曇っていることに波川吹は気が付き、軽く背中を叩いた。複雑な心境に陥っている楓は視線を逸らして、教師たちが座っている白いテントの方へと顔を向ける。


「……」


 そこには夏に見合わあない和装に加えて、厳つい顔面をした翁が、他の教師たちとは一風違った椅子に座っていた。


(…あれが例の学園長、"雨宮徹"ね)


 神凪楓だけは雨宮徹という人物の顔を知っていた。それも当然のことで、良い意味とも悪い意味とも捉えられる理由で目を付けられているからだ。暴力沙汰を起こして、退学処分とならなかったのも雨宮徹のおかげでもある。


「あの人が、例の学園長?」 

「…ええ、私たち真白高等学校の遥か先を行く…国のトップを象徴する指導者よ」


 ならば、なぜそこまで楓が目を付けられているのか。それは兄である神凪零の影響が大きかった。真白高等学校にて生徒会長を努め、校内全体をまとめ上げる指揮力、その人材を我がものにしようと雨宮徹は自ら神凪零へと声を掛けたのだ。


 デキる兄に目を向けられれば、同じ血筋を持つ妹にも期待の眼差しはかかる。今まで一目置いていた神凪零が植物状態となってしまった以上、自然と雨宮徹は神凪楓に注目を向けていた。


「あの学園長が築き上げた一流の大学から優遇されるんやろ。羨ましい限りやな」 

「そういうこと言わない方がいいと思うなー…?」


 波川吹が神凪楓に皮肉を込めながらそんな発言をすると、鈴見優菜が鬼のような笑顔を浮かべて吹に詰め寄る。 

 

「な、なんや…!? わいは本音を口に出しただけ――」

「デキるというレッテルを貼られて…生きていく方が辛いわよ」


 楓はボソッと小さな声で呟いただけだが、吹と優菜にはその声がとてつもなく大きなものに聞こえた。シャッター音よりも歓声よりも…何よりも悲しく、耳に残こる声なのだろう。

  

「よーい!」


 火薬が詰められた号砲がリレーの始まりを告げる。それと同時に生徒達の歓声もより一層に高まり、選手たちがそれぞれの色のバトンを片手に運動場の外周を必死に走っていた。

 

 まず競い合っているのは入学したての一年生。ここまで大衆の目に晒されるとは思っていなかったのか、本領を発揮できていない様子だ。


「…やっぱり、レベルが高いんやな」


 真白高等学校に所属する生徒たちは、文化部でも運動能力は平均以上。それが運動部となれば、運動能力は凄まじいものとなり、このようなリレーでもかなりの見物となるのだ。


「四人でいい成績残せるように走ろうぜ」

「…そうだね、緊張するけど頑張らなきゃ」

  

 一年生のリレーはあっという間に終わる。目立って足が遅いという生徒がいないというのが最もな理由だろう。第一学年の次は当たり前のように第二学年…いよいよ神凪楓たちの番なのだ。


「アンカー、頼むで」

「…ええ、分かってるわよ」

 

 神凪楓らしくもない返答。吹はそんな反応に対して、雲行きの怪しさを感じながらも、楓を除いた優菜たちと手でハイタッチを交わして所定の位置へと移動する。


「おっ! あれって吹たちじゃね? おーい!!」

「あ、ほんとだ! 一組のみんなー! 頑張ってー!」


 内宮智花や白澤来が声を上げて、吹たちを応援する。 第一走者はバスケ部に所属する男子生徒、第二走者は鈴見優菜、第三走者は波川吹、第三走者までは運動場半周で済まされるが、第四走者となると運動場を一周しなければならない。そしてその役目を背負わされたのが神凪楓なのだ。

 

「…楓」 


 西村駿はアンカーを任せられている神凪楓を不安そうに見つめていた。

 例の学園長が座っている場所を見てから、少しだけ雰囲気が落ちているような気がする。


「よーい…」


 体育教師が号砲を上へと向ける。静寂に包まれた緊張の一瞬、この先の行く末をほぼ決めていいといっても過言ではないスタートダッシュ。


「ドン…ッ!」


 号砲が高らかにスタート合図を鳴らした。一斉にスタート位置へ並んでいる四人が駆け出す。半周百メートルの距離を五十メートル走り切った時点での順位は二位。スタートにしては上々かもしれない。 


「優菜…! 頼んだぜ!」

「分かった…!」

  

 白色のバトンが優菜へと手渡される。男子→女子→男子→女子という順番で走るため、アンカーにどれだけ負担をかけることなく手渡せるかが重要なのだ。


「あかんな…他のクラスは第二走者を陸上部で固めてるんか」


 鈴見優菜も十分に奮闘しているが、他のクラス三人は陸上部で短距離走を担当している生徒。二位だった順位は、徐々に抜かされ三位へと落ちていく。


「ごめんね…! 順位を落としちゃった…!」

「大丈夫や! わいが持ち直したる!」


 四位の選手たちとほぼ同時にバトンが波川吹へと手渡される。吹は優菜に強がりを見せながらそう言うと、すぐに土を蹴って全力で運動場の外周を駆け抜けた。


「「「一組頑張れぇーーー!!!!」」」 


 吹たちのことを応援する歓声が聞こえてくる。しかし今はそれどころじゃなかった。

 

「一位の選手が早すぎるよ…!」


 三位の選手が文化部だったこともあり、波川吹は何とか二位まで追い抜くことは出来たのだが、一位と二位との距離の差があまりにも激しかった。これではどれだけ全力を尽くしても、アンカーに多大な負担をかけてしまう。


(……!? 待て、アイツは何しとるんや!?)


 半分を走り切ったところで、アンカーを走る神凪楓の姿を見てみると、その場にうずくまっているのだ。


「楓、何をしているんだ?」

「…もしかして体調が悪いんじゃ」


 西村駿と内宮智花が不安そうに楓の後姿を見つめる。その場にうずくまる楓に気が付いた周囲の観客などもざわついているようだ。


(…こうすればいいのよ)

   

 デキるというレッテルを貼られて生きてきた楓は、今までずっと考えてきたことがあった。それは自身に向けられる期待の眼差しを解く方法。誰かに期待をされたいから勉強に励んできたわけではない。ただ、兄である神凪零を助けたいという一心で今まで生きてきたのだ。 


(あいつは…! ほんまに厄介なことを…!!)


 例の学園長が見ているこの場で失態を犯す。そうすれば、周囲から疎まれることがなくなると考えたのだろう、と吹はあの不意に放った楓の一言を聞いたからこそそう汲み取ることが出来た。


(…あの学園長から見放されるには…この方法しか思いつかないわ)


 雨宮徹という学園長は、神凪楓を待遇して我が物にしようと企んでいる。それに気が付いているのは神凪楓だけだ。神凪零は、あの学園長に何度も勧誘を受け、賄賂等を渡され、挙句の果てには脅しを受けていた。その光景をいつも遠くから見ていたからこそ、分かるのだ。


「さっさと立つんや! このドアホッ!!」


 飛んできた白色のバトンがうずくまっている神凪楓の頭に直撃する。楓はふと背後を振り返ってみると、波川吹が二位をキープしたままスピードを落とすことなく神凪楓に詰め寄り、


「何をふざけたことしようとしてるんや!?」


 胸倉を掴んで思い切り前後に揺さぶった。それを見兼ねた体育教師が吹を止めようと肩を掴むが、


「皆の走りを無駄にする気なんか…!?」


 それを振り払って再び楓に掴みかかった。


「あんた、それ以上続けたら――」

「ごちゃごちゃ言ってる場合とちゃうやろ!?」

 

 波川吹は怒声をまき散らして、落ちている白いバトンを指差す。


「早く拾うんや…! まだ間に合うんやぞ!!」


 体育教師二人がかりで波川吹は強引に引き剥がされ、運動場外へと連れていかれる。神凪楓は落ちたバトンをじっと見つめていると、


「レッテルを剥がすのは仲間の役目や…! 自分で剥がそうとしてんとちゃうぞ! "楓"…ッ!」

「――!!」


 連れていかれる際に、吹がそう叫びながら白いテントの裏へと消えていった。


「…全く」


 神凪楓は落ちている白いバトンを拾い、地面を蹴った。


「――あんたも言うようになったじゃない」


 現在の順位は四位からのスタート。一位の選手は既にゴール目前だが、二位の選手は未だに半周しかしていない。ここから一位まで辿り着くのは無理があるが


「お、おおーー! トラが追い上げたぞ!!」


 女性離れした身体能力のおかげで、易々と三位を抜いて二位までどんどん近づいていく。近づくにつれて歓声も更に沸き上がっていくようだ。


(…キツイわね)


 退院したばかりだということと、昨日に謎のピエロの面と一戦交えた際の怪我で流石の神凪楓も息が切れていた。だが、それでも足を緩めることなく全力で走る。今までは意味もなく走っていたが、走る意味が出来たのだ。


(これで…!)


 ラストスパート。二位の選手と最後の直線での気合での勝負。荒く息を上げながらも、楓は隣で走る選手よりも一歩でも多く足を動かして 

 

「――!!」


 二位の選手を追い抜いて、声にもならぬ気持ちが込み上げた状態でゴールした。


「二位だ!」

「やったぞーー!」


 二年一組の生徒達が勝利の歓声を上げる。神凪楓はふらふらになりながらも、一組の観客席を見ながらその場に背中から倒れる。意識を失っているのではないか、鈴見優菜は急いで楓の容態を窺がってみると


「楓ちゃん…?」


 気絶などしておらず、ただやり切ったような満足気な表情を浮かべていただけだった。そんな楓の顔を見るのは初めてだった優菜は、安堵しながらもこう言って手を差し伸べる。 


「…ナイスランだったよ」

「そう」

 

 神凪楓は鈴見優菜の手を握って、その場に立ち上がると自分たちのクラスの席へと帰っていった。

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