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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十二章『博』

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第70話『神凪楓は退院が可能ですか?』

「~♪」


 神凪楓は今日退院が出来ると医師に言われ、やっと病院生活から解放されると、鼻唄を歌いながら退院するために荷物をまとめていた。


「…ちょっといいか?」

 

 その病室へ姿を現したのは月影村正。村正からすれば波川吹のユメノ世界で一度だけ、偽物と顔を合わせたことがあったが、本物との面識などはない。


「…何かしら?」 

「神凪楓の退院準備を手伝えと言われて来たんだが…ここで合ってるか?」

「合ってるけど…あんた、誰よ?」 

    

 神凪楓は疑問に思い名前を尋ねると、自身が霰の友人である月影村正だということを名乗る。楓は村正の回答を聞くと興味がなさそうに「へぇ…」という反応をした。


「…性格は変わらないな」


 月影村正は神凪楓の受け答えを聞きながら、ボソッと小さな声でそう呟くと、病室の中へと足を踏み入れ、面倒くさそうに何か手伝うことはないかと聞く。


「そうねぇ…。その鳥のぬいぐるみを家まで運んでくれると助かるわ」

「は、はぁ…? 」


 それぐらい自分で運べるだろうと村正は反論したかったが、手伝えと雨空霰に言われた以上、どんなことでも手を貸してやるべきだと自分を抑え、仕方なく鳥のぬいぐるみを片手に抱える。


「それじゃ、行きましょう」

「…ああ」

 

 着替えの入った手提げのバッグを右手に持ち、左手がガラ空きだ。村正は嵌められたと額を手で押さえ、鳥のぬいぐるみを片手に抱えながら病院の廊下を歩き、エレベーターに乗り、受付で手続きを済ませ、やっとのことで病院の外へと出た。


「…何でこれをわざわざ俺に持たせたんだ?」

「私のイメージに関わるからよ」

「俺はお前のどうでもいいイメージを守れなんて、頼まれてないからな」


 どれだけ退院が嬉しいのか、初対面にも関わらず、村正と気さくに会話をする楓はかなり珍しい光景だろう。月影村正は、一杯食わされた気持ちを皮肉で仕返ししながら神凪楓の自宅へと向かう。


「そういえば…どうしてアイツは来れないのよ?」

「さぁな…用事でもあるんだろう」


 雨空霰に詳しく話を聞かされていない村正は神凪楓にそう答えるしかなかった。最近、霰は異様に忙しくしているように見えるのだ。その証拠に、構ってもらえない雨氷雫が不満気な表情を浮かべている。


「おおよぉよぉ、そこのカワイコちゃん」

「おれ達と遊ばねぇかぁ?」

「…はぁ」


 退院早々に街角で、金髪のチャラそうな男性二人組にナンパをされる。神凪楓は溜息を付くと、どうしたもんかと村正へ視線を送った。


「すまないが見逃してくれ。今は俺と遊んでいる最中なんだ」

「あぁ? 誰だテメェは!?」 

 

 月影村正がどうにかやり過ごそうと試みるが、逆効果のようで二人組に怒声を浴びせられ目前まで迫られてしまう。真白町の治安はどうしたのかと村正は文句の一つでも言いたかったが、


「頼む、見逃してくれ」


 見逃してもらえないかともう一度頼み込むと今度は頭も下げた。その行為に神凪楓は呆然としてしまう。村正がこの男たち程度で怖気づくような人物ではないと考えたからだ。例え、武力で行使されても返り討ちに出来るだろう。


「チッ…冷めちまったなぁ!」


 頭を下げられたことによって、気分が悪くなったのか、二人組の男性は村正の頭を強く叩いて、持っている飲み物を頭に掛け、どこかへ去って行ってしまった。

 

「あんた、どうして…」

「言いたいことは分かるが…。その前に何か拭く物は持っていないか?」


 神凪楓は入院中に少しだけ使っていたタオルを、手提げのバッグから取り出して村正に手渡す。村正は「助かる」と感謝の言葉を述べて、頭を拭きながら歩き出した。


「悪かったわね。私のせいでこんな目に遭わせて…」

「俺の事はいいんだ。それよりもこのぬいぐるみが汚れる。お前が持っていろ」


 楓は村正から鳥のぬいぐるみを受け取ると、空いている左手に抱える。

 

「どうして頭を下げたのよ?」

「…何がだ?」

「あんな連中に頭を下げなくても、あなたなら威嚇だけで追い払えたでしょ?」 


 村正は頭を拭き終えると、首にタオルを掛けて、どう答えようかと考える。確かに月影村正ならば楓の言う通り、少しだけ睨みつけてやればあの二人組ぐらい追い払えただろう。


「お前もそのうち分かるはずだ。何故、俺がアイツらに頭を下げたか」

「今の私には理解が出来ないとでも?」

「…そのうち分かる」


 楓が不満そうに声を上げるが、村正はその理由を答えることはなかった。神凪楓はこれ以上詮索しても無駄だと考え、話の内容を変えることにする。


「体育祭について、私に何か伝言でもある?」 

「ああ忘れていた。お前はリレーとクラス対抗リレーに出場するらしいぞ。後は体育祭の出し物でボーカルを担当させられるだとか…」

「――はぁ?」

 

 退院したばかりの病人に対する扱いがあまりにも酷すぎる、と神凪楓は月影村正に抗議をする。だがその役割は村正が決めたわけではないため「文句を言うならクラスの奴らに言え」と耳を塞ぎながら返答をした。


「ほら、お前の家はこの辺りだろう?」

「…何で私の家の場所を知っているのよ?」


 月影村正に先導されるがまま、楓はマンションの内部へと足を踏み入れた。慣れたような手つきでエレベーターのボタンを押していく村正に、違和感を覚えた楓は怪訝そうな表情で顔を上げる。


「随分手慣れてるじゃない?」

「エレベーターのボタンを押しただけなんだが…」

「なら、何で私の部屋の階が分かるのよ?」

 

 部屋の番号を教えていないというのに、迷うことなく目的地である七階を押したのだ。これには流石の神凪楓も言及せざる負えない。


「このマンションについて詳しいからだ」

「詳しいって…あんたストーカーじゃないわよね?」

「…それは自意識過剰だ」


 七階へ到着すると楓の住んでいる『701号室』へと真っ先に向かう。神凪楓は警戒しながらも、部屋の鍵を取り出して鍵穴に差して、扉を開いた。


「……」

「……?」

 

 月影村正は先に玄関へ足を踏み入れると歩みを止め、楓を手で静止させる。

 

(…何かがいる)


 村正だけが感じ取ったもの…それは空気の重さだった。先ほどまでの清々しい空気に濁りが生じているのだ。 


(リビングからか?)


 足音を立てないよう、リビングへと慎重に進んでいく。物音、呼吸音の一つさえ聞こえてこないが、確実に何かがリビングにいる。村正の長年の勘は脳内でそう訴えかけていた。


(…退院してから、何一つ良いことがないわね)


 不幸なことばかり起きる自分の人生に、心の内で愚痴を溢す。楓も村正の後に続いて、足音を立てないように心掛けていたが、全く気配を感じ取れず、村正が演技をしているのではないかと疑問に感じ始めていた。


「……」


 村正は辺りを見渡しながら、リビングのちょうど中央で歩みを止める。誰もいない…が、村正は安心するどころか逆にそれを不気味に感じていた。長年の勘が外れたとは考え深い。


「誰もいないじゃない。何を警戒していたのよ?」

「……」


 神凪楓は「無駄に神経をすり減らしたわ」と手提げのバッグを、ソファーへと適当に放り投げ、くつろごうと寝室の扉を開いたとき、

  

「――え?」


 黒マントを羽織ったピエロの面をした"ナニカ"が、寝室の扉の先に立っていた。


「下がれ!」


 村正はすぐさま神凪楓の服の袖を掴むと、すぐに背後へと引っ張り、距離を取らせる。黒マントを羽織った"ナニカ"は袖からナイフを取り出し、


「……」


 近くの壁を三回だけノックした。それを合図にどこへ隠れていたのか、同じ格好をした"ナニカ"がキッチンの陰から一人、ベランダから一人、と姿を現した。


「…俺が二人相手をする。寝室の方のヤツをやれるか?」 

「体が鈍っているから、保証は出来ないわね」


 三人に包囲されている状態。村正はキッチンとリビングの二人を、楓は寝室の方の一人を、という形で分担することにし、


「行くぞ」


 相手が同時に襲い掛かってくるタイミングでそれぞれ、前方へと飛び出した。神凪楓は寝室の方に一人を誘い出し、村正はリビングの中央へと二人を誘い出して、お互い邪魔が入らないように、位置を調整する。


「本当に運が悪いわね…!」


 一般人ならばナイフの技術など無に等しいが、目の前で襲い掛かってくる黒マントは素人ではなかった。一撃目だけでなく、二撃目、三撃目も確実にこちらの不意を突いてくるものだ。


「だったら…」


 ベッドのシーツを相手に投げることで、視界を奪おうと試みる。予想通り、被さったシーツを払おうと一瞬だけ隙が生まれたことで、背後へ回ってその場にねじ伏せようと手首を掴んだが、


「――!?」   


 信じられないほどの馬鹿力。これでは合気道の技を掛けようにもかけられないではないか。


(ユメノ世界ならともかく…現実世界でこんな化け物に力技で勝つのは不可能ね)


 今まで現実世界で出会ってきた中で手合わせをして最も強いと断言できる。ふざけたピエロ面をしているのは、こちらの気を抜かせるためなのだ。


「…あっちもあっちで大暴れしてるわね」

 

 リビングの方からドタバタと物音が聞こえてくるが、ただでさえ一人での掃除が大変だというのに、物を壊されたらひとたまりもない。

 

「全く…! こっちの身にもなりなさいよ!」


 確実にあの馬鹿力で掴まれたら、振りほどくことは出来ないだろう。だからといって、いつまでも相手のナイフを避け続けることは、鈍ったこの体ではかなり無茶なことだ。早いところ、何か打開策を考えなければジリ貧となる。

 

「…ッ!」


 ナイフが着ている服の胸辺りを掠める。ほんの一瞬だけ反応が遅れていれば、間違いなく斬られていた。一撃刺殺、それを防ぐために厄介な凶器から排除すべきだと考え、


「これでどう…!?」


 相手のナイフの突きを見切り、体全体で右腕に絡みつくようにして、関節を逆の方向へと折り曲げる。手に力が入らなくなったことによって、ナイフが床に落ち、凶器を取り除くことに成功した。


「こっからは素手の戦いよ」 


 落ちたナイフを取られないように、ベッドの下へと蹴り入れる。あらぬ方向へ曲がった右腕を、左手で逆方向へと戻して、力技で治す。痛みを感じないのか、それとも我慢しているのかは不明だが、どうやら素手での戦いでも一筋縄ではいかないようだ。


(先手は貰ったわ…!)


 初手の一撃を入れようと、接近する際に壁を蹴って勢いを付けてから、膝蹴りを相手の顔に打ち込もうとする。


「――!」


 しかし至って自然的な動作で、流れるように片手で受け止められると、首を掴まれ床に叩き付けられた。ほんの数秒だけ意識が飛んでいたが、すぐに我へ返ると、ピエロの面ごと顔面を殴打して手を振りほどく。


(コイツ、格闘術を…!)


 このような動作が出来る人物は、余程の修羅場を乗り越えていなければ不可能。相手がどのような格闘術を使用しているかは不明だが、予想以上の手練れだということは間違いない。


「…あんた、何者よ?」

「……」


 返答はない…が、恐らくこのまま真正面で戦っても勝機がないのだ。超人と言える反射神経に加え、体に染みついた格闘術。会話をしている最中に、不意討ちをする機会があれば、多少なりとも負傷させることは出来るのだが…。


「お喋りするのは嫌いなのね…!」


 どうやらお相手はお喋りが嫌いらしい。戦いたくない相手が好戦的なのは、組み合わせとしては最悪なものだ。


「ぐッ…!?」  


 合気道の動きを先読みしているのか、回避をしようとしても、相手に距離をすぐに詰められてしまい、格闘術による殴打を何発か食らってしまう。


「ぅぁッ――!?」 


 トドメだと言わんばかりに、腹部へと渾身の蹴りを放ち、壁まで吹き飛ばす。声にもならぬ呻き声と共に、その場へとうずくまる。ユメノ世界ならば【再生】で怪我を治療できるが、ここは現実世界。骨を折ってしまえば、病院に逆戻りするはめになる。


「…降参よ、私じゃあんたには敵わないわ」


 見逃してもらえる僅かな希望を信じ、負けを認め降参をした。その態度を見た黒マントは一瞬だけ動きを止めたが、再び歩み寄ってくる。


「もう降参するのか」


 だが、不幸中の幸いだったのか村正が黒マントの二人を両手に引きずりながら、寝室へと姿を現した。


「で、お前たちは何者だ? 何故、襲い掛かってきた?」 


 黒マントの二人を、残りの一人の方へと放り投げる。自身の両脇に転がっている仲間を見た黒マントは、やや驚いているようで左右を交互に見ると、月影村正の方へと視線を向けた。


「見る限り…お前だけ力量がずば抜けている。つまりこの三人の中ではリーダー格だろう――」  


 村正がその言葉を言い終える前に、床を強く蹴りすぐ側まで接近する。舌打ちをしながら、迫りくる黒マントの動きを観察し、右脚による蹴りが来ると予測したが


(フェイントか…)


 右脚による中段蹴りを放つ瞬間に、フェイントを入れてきた。そこから逆脚へと切り替えて、上段蹴りを村正の顔へと決めようとする。 


「――!!」


 月影村正はその上段蹴りをすれすれで回避すると、その場にすぐしゃがみ込んで相手へと足払いを仕掛けた。


「…! それを避けるのか!」


 しかし確実に決まると思っていた足払いは虚空を掠めるだけだった。黒マントは右足一本の力で背後へと後方回転して、それを回避したのだ。


「「……ッ!!」」


 追撃をしようと接近する村正、態勢を立て直そうとする黒マント。互いに手の平同士で両手を掴み、力比べという形態へと変化する。


(コイツ強いな…ッ!)


 村正は決して手を抜いているわけではなかったはずだが、そのまま押し切ろうとしてもたったの一歩すら前進することができなかった。相手も精一杯のようで、ピエロの面で表情は見えないものの、体を震わせて必死に対抗しようとしているようだ。


「お互いこれ以上、手負いはしたくないだろう…!」

「……ッ!」

「どうだ…!? 手を退かないか…!」


 このまま争いを継続したところで、お互いに得られるものなどないだろう。だからこそ、村正はそんな提案を持ち掛けた。


「…Pomni eto(覚えておけ)

 

 その提案に乗ろうと考えたのか、村正の手に込める力を緩めるとすぐさま両脇にいる二人を抱えて、高さが七階もある窓から飛び出し、その場を去った。


「大丈夫か?」

「ええ、まさかあんな化け物だとは思わなかったわよ」


 神凪楓は村正の手を借りてその場へと立ち上がると、リビングの惨状を確認する。辺り一帯に物が散らかり、飾っていた花瓶が割れ、ソファーに傷跡がついたりと酷い有様に楓は眩暈を覚えた。 

 

 唯一無事だったのは、入学した頃に飼い始めたコザクラインコというペットだ。緑色の体に特徴的な頭の赤色。だから『スイカ』という名前で呼んでいる。先ほどの大混乱する中で一回たりとも鳴いたりしなかったのは、あまりにも怖かったからだろうか。 


「…片づけは手伝う。それよりも先に連絡をさせてくれ」 


 村正はスマートフォンで仲間に連絡を入れている。静かになった空間に気が付いたのか、インコの『スイカ』がひょっこりと籠の下から顔を出して、楓たちとじっと見つめ始めた。


「後で出してあげるから少し待ってなさい」 


 エサや水、籠の掃除などは全て雨空霰がやってくれたのだろう。その証拠に、栄養素を気にしてくれているのか、買った覚えのないエサや土粘土が籠の中に置かれていた。


「それじゃあ、片づけを始めるか」

「…もう夕方じゃない。私一人で片づけるからもう帰っていいわよ」

「いや、いいんだ。遅くなっても問題はない」  

 

 村正はスマートフォンをリビングの机の上に置くと頭を掻く。その際に髪の毛がべたついていることに気が付き、少々言いにくそうに、


「悪いが、先に家に帰ってシャワーを浴びてきていいか」


 と神凪楓へ申し出をする。


「私の部屋のシャワーを使っていいわよ。わざわざ家に帰る方が無駄手間じゃない」

「…そうでもないぞ」 

「…? ここから家は近いの?」


 月影村正は「まぁな」と曖昧な返答をする。近いといっても十分ぐらいかかるのだろう。エレベーターなども経由しないといけないため、予想以上に時間もかかるはずだ。


「気にしなくていいわ。これで色々と助けられた恩もチャラってことにしなさい」

「いや、実はお前が思っている以上に家は近いんだ」


 楓の頭の上に疑問符が浮かぶ。どういうことなのか、いまいち理解できていない神凪楓に、ポケットから家の鍵らしきものを取り出して、付いているタグを見せた。  


「……『703号室』?」

「そうだ」

「……」


 しばしの間、沈黙の時間が続く。703号室、月影村正の住んでいる場所はマンションなのだろうか。しかし、ここから近い場所に、ここ以外のマンションなど建っていない。それはつまり、


「は、はぁ…!? あんた、この階の住人なの!?」  

「まぁな、702号室は俺の友人が住んでいる」


 月影村正は神凪楓と同じ階のご近所さんだったのだ。その真実が明かされて、今まで謎に思っていたことが全て解明される。雨空霰が楓の家にお見舞いへ来れたのも、このマンションに住んでいる村正がロックを解除していたから。迷うことなくエレベーターの階を押せたのも、自分の部屋の近くに神凪楓が住んでいることを知っていたから。

 

「でも…! 私はこのマンションであなたの姿なんて見たことないわよ!」

「俺がお前より早く家を出ているからじゃないか? 休日は用事がない限り、部屋に引きこもりだしな」


 このマンションに引っ越してきた際に、ご近所さんへ挨拶をしようとインターホンを押したが、703号室と702号室の住人は誰一人として出てこなかった。何度も訪れるのは迷惑かと思い、一度だけしか尋ねなかったが…。


「なら…何で私が701号室に住んでいることを知っていたのよ?」

「霰が教えてくれたんだ。「お前の近所の部屋が神凪楓の部屋だ」って。それまでは俺も知らなかったからな」


 村正は「じゃあまた後で」と言って、玄関まで向かって行く。近くの部屋ならば、ものの数分でまたすぐに戻ってくるだろう。 


「そういえば、どうしてお前がナンパされたときに俺があのチャラい二人組に頭を下げたのかを知りたかったよな?」 

「…? えぇ、まぁ」 

「あそこで頭を下げれば、アイツらに飲み物をかけられて、鳥のぬいぐるみを持たなくて済む口実が作れると思ったからだ」


 そう答えながら、少しだけ悪戯心を見せた月影村正は、靴を履いて、自分の部屋へと帰っていった。

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