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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十一章【タベタイ】

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第63話【本物は偽物ですか?】

「あーあ、つまらないわねぇー?」

「化け物め…っ!」


 酷く荒れた平地。そこでは六人全員が立ち膝をついて、呼吸を乱していた。全員での一斉攻撃、それすらさえも目と鼻の先にいる神凪楓には通用しない。木村玄輝は樹木に背中を押し付けてその場に自力で立ち上がると、言葉を吐き捨てた。


「神凪楓に化けやがって…! お前は一体何なんだよ…!?」    

「…私? 私はあなたたちにとっての絶望よ」


 神凪楓は木村玄輝に自身は絶望なる存在だと名乗り、今まで素手で戦っていたスタイルを片手銃剣スタイルへと変化させる。素手は痛めつける為だということを何となく理解していた一同は、鋭利な刃とこちらを覗く銃口を視界に入れると、すぐに殺される時が来たのだということを悟った。


「絶望だって…? 冗談、きついぜ」


 白澤来は神凪楓に対抗心を燃やしているのか、片手に黒い帽子を創造して頭部に装着する。楓はボロボロになりながら戦おうとする白澤来へ銃剣の銃口を向けた。


「あの世で復習することね。短命なヤツほど体が先に動くってことを」  

「白澤、避けろッ!」

 

 銃剣の引き金に指が掛かるのを見た西村駿は、腹の底から声を出して白澤へ避けるように伝える。しかし白澤来は避けようとしない。その場で立っているのが精一杯なのだ。白澤はこんな時でも余裕そうな笑みを浮かべている。


「させないよ…!」


 腹をくくる前に金田信之が鍵盤の一つを押して、水の矢を召喚すると弾丸を相殺した。最後の力を振り絞ったのか、信之は立ち膝から前のめりで地面へ顔を打ち付ける。玄輝はすぐに駆け寄ろうとしたが、そこまでの気力などもう残っていない。根性でどうにかなるものでもないうえ、人間には限界というものがある。今の六人には限界を越えろという言葉はただの掛け声に過ぎなかった。


「優菜、わいに考えがある」 

「…この状況を打破できるの?」


 波川吹は神凪楓の注意が自分達へと向いていないことを利用して、考えた作戦を鈴見優菜に伝える。


「…逃げるんや。わいたちだけでも」

「…え?」


 命が懸かっているこの状況で思いついた吹の作戦は逃走。それは仲間を見捨てるという裏切り行為でもあり、ここでの全滅を免れるための最善策でもある。鈴見優菜はそんな非道な作戦を吹の口から聞いて、呆気に取られてしまっていた。


「アイツには勝てへん。わいと優菜だけでもここから逃げて助けを呼びに行くんや」


 優菜の頭の中で様々な思考がぐるぐるとこんがらがらっていく。ここから逃げられたとしてもどうやって巨大な虫たちを掻い潜るのか、そもそもこのユメノ世界へ抜け出すには内宮智花を助けなければならないのではないか、そして助けを呼ぶといわれても自分たち以外に助けてくれる人物などいるのか。不確定要素が多すぎるその作戦に優菜が出した答えは

  

「ゲームに"逃げる"なんて作戦はないよ。それに私はもう逃げないって決めたんだ」

「ゲームと一緒にしてるんちゃうぞ…! 逃げることの何がいけないんや…!!」 


 波川吹がつい反射的に大声で反論をするとその刹那、吹の首筋に冷たい鉄の感触が伝わった。


「頭が痛くなるのよ。あんたの声は」

「吹くん…!」


 優菜が槍を創造して波川吹の背後に立つ神凪楓へと力を込めて投げ飛ばす。楓はその槍の矛をデコピンで創造破壊して、波川吹の頭上から拳骨を落としその場にねじ伏せた。 


「くそッ…! どうすればいいんだ…!」


 西村駿は自分の友人がやられていく姿を見ているだけしか出来ず、片手の拳を地面へと叩き付ける。そのタイミングと同時に白銀の剣からイトナが、ふと姿を現して立ち膝をついている駿を心配そうに見下ろした。


「だいじょうぶ?」

「…悪いな、全く大丈夫じゃない」


 目を瞑りながら悔しそうに視線を落とす西村駿を見たイトナは、木村玄輝の方へと送る視線を変えた。玄輝は初対面なのにも関わらず、こちらを見てくる少女に対して既視感を覚えてしまう。


(…待てよ? 確か優菜のユメノ世界で似ているヤツを見た覚えが)


 血の雨、蘇るトラウマ、すべてを思い出してしまった木村玄輝は身震いをする。アメだよ、と連呼してきたあのとち狂った少女。色は違うが顔つきや髪型は全く一緒なのだ。


「駿、そいつはなんだ?」

「…前にユメノ世界で俺の手助けをしてくれたイトナだ」

「気を付けた方がいい、そいつは危険だ」


 玄輝の忠告がそんなに可笑しいのか、西村駿はきょとんとした表情のまま玄輝の方を見つめていた。あまりにも滑稽な表情を浮かべているため、玄輝は眉をひそめながら西村駿に「何だよ?」と不機嫌交じりに尋ねる。


「お前の後ろにいる…その子は誰だ?」


 木村玄輝はこの時にやっと理解した。イトナという少女は玄輝のことなど見ていない。見ていたのは玄輝の背後に立つ何者かの存在。西村駿はその"何か"を見て、アホ面を抜かしていたのだ。


「やっと会えたな」

「……」  


 この声で木村玄輝はその何かの正体に確信を得る。ゾクりとするほど、嫌なモノを感じさせる背後に立つ人物…いや、人物ではなくその少女には一度だけ会ったことがあった。


「お前は…」

「ああ、なに? あの時のザコか?」

「は? ザコ…だって?」


 玄輝の事をザコ呼ばわりするその少女は純粋な趣のイトナとは真逆のものを感じさせる。性格は荒く、容姿とは裏腹に腹黒い面が多く見られるだろう。あの時に植え付けられたトラウマは、ザコ呼ばわりをされたことで、怒りに全て変わってしまった。


「ちょっとおちょくっただけで、あんなにビビるなんて…どう考えてもただのザコでだろ」 

「てめぇは何者なんだよ…! なんでおれをビビらせる必要が――」  


 黒のゴスロリ少女は玄輝に然程興味がないのか、横を通り過ぎてイトナの元まで歩み寄る。イトナはその少女に既視感を覚えるように、首を傾げながらじっと前方を見つめていた。 

  

「久しぶり、ワタシのことを覚えていない?」

「…だれ?」

「チッ、やっぱり覚えていないか」


 イトナの返答を聞くと舌打ちをし、呆れたように背後で情けなく立ち膝を付いている木村玄輝の方へと振り向いた。彼女の存在は一言で表せば"極悪の象徴"、立ち振る舞いや言動だけでなく、彼女自身が放つ妙な威圧感がそう感じさせるのだ。


「そこのザコ。イトナはあの男をパートナーとしているみたいだな」

「は…? パートナーと言われても意味が分からないんだが」

「はあー? そのおつむでよく今まで生きてこられたな」


 自分のことをイライラさせる言動ばかりで木村玄輝も限界に近かったが、それどころじゃないためぐっとこの場は抑えて、今は神凪楓をどうやって倒すのか考えることにする。

 

「何でよりにもよってお前みたいなザコなんだろ。主役のくせしてボコボコじゃねぇか」  

「……」 

「あれ? もしかしてワタシを無視してる?」


 相手にするだけ無駄だ。こんな煽るだけしか脳のない少女を相手にする余裕など微塵も無い。西村駿と視線を交わしながらこの状況を打破する策を練ろうと試みた時、


「あらあら? あんたたちは何者?」 

「…! イトナ!!」


 神凪楓がすぐ側まで接近し、イトナに向けて銃剣を振り降ろしていた。イトナは避けようともせず、下される銃剣をただ見つめているだけ。西村駿はそんなイトナを守ろうと、神凪楓に背を向けるとイトナを抱きかかえる。

   

「三流以下のヒロインキャラが手を出すんじゃねぇ…!」

 

 すると、横からドスの効いた声で叫びながら、黒のゴスロリ少女が神凪楓の顔面に飛び蹴りを食らわしてとてつもない速度で遠くまで吹き飛ばす。


「…あ? 何見てんだよ、ザコ」 

「お前、強いんだな」

「ワタシは最強なんだよ。そこらのザコに負けるわけがないだろ」        


 男勝りな口調でそう語る少女は、この危機的状況だからこそとてつもなく頼もしく見える。木村玄輝は神凪楓に対抗できる唯一の手段が目の前にあることを知り、何とかしてほしいと頼み込むが、


「あー? ワタシに対する誠意が足りないよなぁ?」  

「…は?」

「誠意、つってんだろ。土下座でもしないとワタシは動かねぇよ」

 

 その黒いゴスロリ少女は木村玄輝に土下座を強要してきた。プライドの高い木村玄輝はそんな求められ方をされ、プチンと堪忍袋の緒が切れてしまう。


「誰がお前なんかに土下座をするかよ…!! このクソガキが!」

「冷静な判断も下せないようだから教えてやるよ。この六人の中でアイツと太刀打ちできるのはワタシしかいない。ザコなお前のその判断は友達の命を取らずに自分のプライドを取ったようなもんなんだよ」  


 その言葉に木村玄輝は反論紛れに一発だけぶん殴ってやろうと手を握りしめた。だが、その黒のゴスロリ少女の背後で、西村駿が地面に自身の額を躊躇することなく擦り付ける。


「頼む、俺たちを助けてくれ。皆を、仲間を、守りたいんだ」

「駿…! こんな奴に頼み込まなくたって…」  


 玄輝は駿を止めようとしたが、その隣に立っていたイトナも西村駿の真似をしようと頭を下げようとする。西村駿が土下座をしただけでは何の素振りを見せなかった黒のゴスロリ少女は、何故かイトナが真似しようとした瞬間に声を上げてその行動を阻止した。  

 

「お前に頭を下げられたらワタシが悪者になっちまう。仕方がないから手を貸してやるよ」

「本当か!?」 

「ただし、そこで顔を真っ赤にしているザコ。ワタシはこれからお前の剣の中に住まわせてもらう。それが条件だ」


 すぐに断ろうとする木村玄輝を西村駿は目で玄輝に訴えて、言動を静止させる。 玄輝は駿が土下座をしたことを思い出し、舌打ちをしながら渋々それを承諾した。


「ワタシのことは親しみを込めて"アメ様"と呼べ」


 アメは西村駿たちを嘲笑うと、玄輝の剣の中へと吸い込まれていく。その一部始終を見ていたイトナも、西村駿の剣の中へと戻る。そして、駿と玄輝はお互い顔を見合わせながらその場に立ち上がり、剣を握り直した。


『よぉザコ。ワタシの声が聞こえるか?』

(…聞こえてるんだよ。大声で喋んな)

『おーおー! 感度良好ってやつか!』


 玄輝の頭の中にアメの声が響いてくる。正直、気に入らない相手の声が永遠と頭の中で聞こえてくるのは地獄だったが、それでも手を貸してもらわなければ神凪楓に勝てないため、仕方なく怒りの感情を抑えた。


『ザコ、ワタシが的確なアドバイスというやつをしてやる。命令通りに動けよ』 

(分かったよ、クソガキ)

『そんな余裕をこいている場合か? ほら、上から来るぞ』 

 

 アメに言われた通り、上空から気配を感じた木村玄輝は前に飛んでその場から離れると、神凪楓が銃剣を地面へと突き刺していた。西村駿は玄輝に「俺は白澤たちの様子を見てくる」と言って、神凪楓の相手を木村玄輝に一任させる。


「さっきのヤツはどこに行ったのかしら? 直々にぶっ殺したいわ」

「知らんな。家にでも帰ったんじゃねぇのか?」

  

 楓の姿が視界から消える。どこから攻撃を仕掛けてくるのか木村玄輝には捉えることが出来ない。このままでは間違いなく不意を突かれてしまうだろう。


『ワタシはここだよ! モブキャラがぁ…!』

「……!」


 だからこそアメが援護をする形で玄輝の剣を操りながら、死角からの銃剣による攻撃を防ぐ。自身に絶対的な自信を持つ楓はそれを能力値の低い玄輝に防がれたことにより、一瞬だけ隙が出来るのだ。  

 

『おいザコ! 剣を手放せ!』

(いちいちうるせぇな…!)

 

 木村玄輝は指示をされた通り赤黒い剣を手から手放すと、その剣がアメの姿へと変化して、楓に馬乗りして拳による乱打を叩き込む。


「ワタシの前から失せな…っ!」  


 その一瞬だけ生まれた隙による損傷はかなり大きいものだった。アメによる一方的な暴行、神凪楓が偽物だということを理解はしているが、どっちが悪かと聞かれれば下品な言葉遣いに狂乱の表情で殴り掛かっているアメだ。


「ヒロインキャラの癖に胸が小さいじゃねぇか!! 今時は大きいヤツしかこの消えるか生き残るかの大海原は生き残れねぇんだぞ!」


 彼女が何を言っているのか木村玄輝は見当もつかないが、戯言なのだろうということにしてアメから視線を背ける。西村駿が様子を見に行った白澤たちは【再生】を利用したおかげで、致命傷を負ってはいなさそうだ。


「ふ、ふふふ…」

「ああ? 何を笑ってやがる!? この阿婆擦れ女が!」


 偽物の神凪楓は何に笑いが込み上げているのか、殴られているというのに頬を緩めていた。そんな顔が気に入らないのか、アメは殴る拳を止めて罵声を浴びせる。


「それは寛仁じゃよ」

 

 瞬間、楓の身体中の皮膚を突き破りながら、大量の蠅が湧き出てくる。アメはすぐに馬乗り状態から宙で一回転して、距離を取ると剣の姿へと変化して玄輝の手元へと戻った。六人は同じ場所に全員で集まり、辺りを飛び交う無数の蠅たちを警戒する。


「…今更だがお前たちが本物だというのなら悪魔に襲われたはずだ。…そうだろ?」

「ああ、おれはベルフェゴール、ガッシーはレヴィアタン、優菜はアスモデウスに狙われた。逆に聞かせろ、お前たちは誰に狙われた?」   

「俺はルシファー、白澤はマモン、吹はサタンだ」


 もし玄輝か駿が偽物で嘘をついていなければ、これから姿を現す悪魔はこの場にいる者が言葉にしていない七つの大罪の悪魔であり、内宮智花を狙う最後の敵でもある。

 

「残る一匹は」


 蠅たちが一つの巨大な集合体として、六人の前で形作るように一点へとかき集められていく。そんな親玉の徐々にハッキリとする輪郭に全員が汗を垂らしながら、西村駿の言葉の先を待つ。


「…"ベルゼブブ"だ」 


 巨大な蠅。

 駿が悪魔の名を述べると、六人の前には最後の悪魔が立ちはだかっていた。

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