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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十章『節』

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第55話『テストは難しいですか?』

 

 ユメノ世界での戦いを終えた雨空霰は目を覚ます。外からは太陽の光が差しており、早朝を迎えているようだ。目を開けた先には近くのベッドに腰を掛け、顔を見下ろすような形で、雨氷雫が霰の顔へと視線を向けていた。


「…終わったの?」 

「ああ、終わったよ」

 

 霰は体を起こして、近くのベッドで寝ている朧絢と月影村正の様子を窺うと、ほぼ同時のタイミングで目を覚ましたようだ。朧絢は欠伸をしながら、村正は退屈そうにそれぞれ起き上がる。


「お疲れ。ちゃんと助けられたか?」

「んー…まぁ、それなりにな」

「俺の方もぼちぼちだ」

 

 四人は情報交換をするために、寝室からリビングへと移動する。しかし、移動の最中に会話が行われることはなかった。微かに感じる不穏な空気、閉ざされた重い口、それらが積み重なり、言葉の一つさえ発することを許されていないのだ。


「…じゃあ、最初は俺から話す」


 リビングに到着すると、霰はソファに腰を下ろして、先陣を切るように口走る。西村駿のユメノ世界での話、堕天使でもあり悪魔でもあるルシファーの話、それらを聞いた霰以外の三人は軽く相槌を打ちながら聞いていた。


「…これだけだ。次はお前らの番だぞ」


 朧絢と月影村正も、自分たちがユメノ世界での話や遭遇した悪魔たちの情報を話し始める。情報を伝えあっているようにも見えるが、四人の中では拭いきれない怪訝さによって、互いが互いを疑い合っていた。


「何か他にも言うことはないの?」


 自分を除いたこの三人は何かを隠している…そう睨んでいた雨氷雫は全員の情報を聞き終えると、一体何を隠しているのかと探りを入れようとしていた。だが三人は雫に返答をすることなく黙ったまま、時が過ぎるのを待つ。雫の口から溜息が漏れる、信頼し合っているからこそ話さなければならないと考えているが、それを話すのは少々気が引けるというところだろう。 


「…ユメノ世界で俺のことを知っている子供がいた」

「「「……!!」」」


 霰が重い口を開いて、顔を逸らしながら三人に伝える。その発言に対し、三人は少しだけ驚くと、雨空霰の次なる発言を待つように視線を集中させた。


「間違いなく初対面だ。それでも知っているということは、あの世界の生き残りなんだろう」

「…あんな地獄の世界に俺たち以外の生き残りがいたのか?」

「思い出したくもない。これ以上の詮索はやめよう」


 雨空霰が隠し通そうとしていた内容を話したことにより、次に朧絢がすっ…と軽く手を上げる。

 

「白澤来のユメノ世界に人工知能と名乗る人物が現れた。そいつはマモンよりも強く、創造力も俺が今まで見てきた中でかなり高かったんだ」

「人工知能?」

「あぁ、悪魔たちの力を自身に付与させて戦っていたんだ。確か名前は、ミラって言っていたな」


 人工知能という朧絢の発言は、周りを、霰さえも困惑させることになる。ユメノ世界に干渉できるのは人間以外の事例を四人は知りもしないのだ。システム内の電脳世界を活動範囲とする人工知能がユメノ世界へ姿を現したこと。それは自分たちの知らないところで何かが進められていることを意味するのだ。


「…話を遮るようで悪いが、次は俺の番だ。波川吹のユメノ世界で、ベルフェゴールと共に戦うユメ人が現れた」

「…」

 

 月影村正の言葉に反応したのは唯一雨空霰だけだった。それを見逃すことのない月影村正は、立ち上がりソファに座っている霰の元まで歩み寄る。


「どういうことだ? 何故アイツは波川吹がユメ人なっていると絞り込めた? お前のさしがねか?」

「俺は木村玄輝を送り込んでいない。むしろこのタイミングでユメノ世界に干渉しないように、きつくお灸をすえておいた。だから、その件に関して俺は無関係だ」


 雨空霰は村正に自身への疑惑を晴らすためにそう説明をする。木村玄輝がユメノ世界に干渉してきたのは、霰にとっても想定外の出来事。数あるユメノ世界から、悪魔が干渉しているユメノ世界を、ピンポイントで狙うことは今の木村玄輝には不可能に近い。

 

「木村は、誰かに踊らされたんだろう」


 ――誰かが裏で糸を引いている。その目的は不確かなものだが、木村玄輝を消すためか、四人の邪魔をするためか…考えれば幾らでも憶測は立てられる。


「…一気に厄介なことになったな」

「厄介どころの話? 私は何か嫌な予感がする」


 雨氷雫の言う通り、他の三人も何かが起こる予兆なのだろうということは分かっていた。ユメノ世界で悪魔に勝って、済むような規模ではなくなる。現状、彼らにさえ把握しきれないことが多く存在するということが、事の大きさを物語っているだろう。


「あー…まず考えるべきは今からのことだ。西村駿たちにある程度は説明をしないといけないからな」

「俺たちも必要か?」

「あー、うん。お前たちも今日の昼休みに二年一組の上の階にある空き教室に来てくれ」


 月影村正と朧絢は「了解」と返答すると、学校へ向かうための準備に入る。 そんな二人の姿を見ていた霰と雫は、互いに顔を見合わせて自分たちも外へ出る準備をしようと同時に立ち上がった。

  


◇◆◇◆◇◆◇◆



「なんやろな。わいらに用があるって」


 西村駿、白澤来、波川吹の三人は雨空霰に呼び出され、上の階の空き教室に向かう。白澤来もユメノ世界の件を終えると、両腕は嘘のように治っていた。これには医師も驚くばかりだったが、自然治癒力が高かったという結論で退院が可能になったのだ。

 

 それに加え、三人は自分からユメノ世界の内容を口には出さなかった。悪魔と戦ったあのユメははもしかしたら本当に夢だったのかもしれない。自分一人が勝手に見た夢なのだろう。

 

 そんな不確定要素な話を持ち掛けたら、変な奴だと思われるに違いない。三人はほぼ同じことを考えていたことにより、互いに安否を確認して心の底で無事だったことを安心するだけだったのだ。クラス内は勉強ムード、男子学級委員としてそれはとてつもなく嬉しいことだったが、木村玄輝と神凪楓の欠席に関してはその嬉しさを覆すような不安が募っていた。 


「悪いな西村、昼休みを削ってしまって」 

「…助けてもらった恩もあるからな。気にするな」


 空き教室に入ると雨空霰だけでなく、雨氷雫、朧絢、月影村正の三人も窓際に背を付けて待っていた。白澤来は絢に視線を向け、波川吹は村正へと視線を向ける。この時三人は、ユメノ世界で起きたことは幻ではなかったのだということに気が付き、顔を見合わせた。


「あー、お察しの通り、お前たちが昨晩見たのは全て本当のことだ」

「…マジかよ」


 白澤来が声を漏らす。すべてが真実だとすれば、悪魔が外の世界に出てこようと、体を狙っていたことも冗談ではなかったことになる。


「俺たち三人で一匹ずつ倒したとして…知る限り、残りの悪魔は一匹だ」

「相手は七つの大罪なんですよね? だったら、残り四匹じゃ…」

「他の三匹は既に仕留められている。心配する必要はない」


 月影村正の発言に、西村駿たちは目の前にいる四人が倒してくれたのだと勝手に思い込む。しかし、霰たちの口からそれを訂正する言葉は何一つ出ることはなかった。


「ならもう安心やな。先輩たちが残り一匹を倒せばええんやから」

「…それが、そうもいかなくなってな」


 雨空霰たちの手に掛かれば悪魔たちなど怖くもなんともない。霰たちも倒せるのなら出来るだけ早く倒したいところだったが、


「あー…うん、俺たちは俺たちで少しばかりやることがあるからさ」

「…待ってくれ。だったら、残り一匹は誰がやるんだ?」


 霰たちは曖昧な返答をし、西村駿たちへと視線を送る。何で自分たちが?とでも言いたげな顔をしているが、ユメノ世界へと干渉するための条件を三人はクリアしている。神凪楓たちが動けないこの現状で、頼れるのは西村駿、白澤来、波川吹の三人なのだ。


「わいたち三人に倒せるんか? あんときは先輩がいたからどうにかなっただけやろ」

「いいや、無知のまま戦わせようとは思っていない。雫がお前たちに戦い方を教えてくれる」  


 波川吹は木村玄輝の事を口に出そうとしたが、それに勘付いた村正に阻止をされてしまった。戦い方を教える役目を任された雨氷雫は「仕方ないから」とやや不機嫌な反応をする。本当に自分たちが戦えるようになれるのかと不安そうな表情を浮かべていると


「まー! そんな考え込むなよ! お前たちなら大丈夫だって!」


 朧絢が駿たちの肩を叩いて元気づける。絢は後輩が如何なる状況でも安心できるように、先輩としての務めを果たそうとしているのだ。西村駿たちも朧絢の心遣いを受け、少しだけ荷が軽くなったような気がした。 

 

「取り敢えずは各自二日後に控えるテストを乗り切ってくれ。ユメノ世界での戦い方はその後だ」


 気が付けば、時計の針は五限が始まる数分前を指している。案の定、昼食を食べていなかった三人はこの後の授業に対して一切集中が出来なかったため、内容が頭の中に入ってくることはなかった。


 

◇◆◇◆◇◆◇◆



 あっという間に二日が経過し、実力テスト当日を迎える。欠席を続けていた木村玄輝と神凪楓は、テスト当日になると教室内に姿を現した。木村玄輝は神凪楓の姿を見ると、少々驚いていたが、それでも楓からすれば玄輝は眼中にないように見える。


「雫、霰はどうしたんだ?」 

「…用事があるから、後でテストを受ける」

 

 霰のことを気にしているとテスト開始五分前となり、分厚い問題用紙を片手に持った水越先生が教室の中へと姿を現す。


 テストの注意点、三教科の時間配分の説明などを受けると一限の科目である数学の問題用紙と解答用紙が配布される。問題用紙は基本的に裏を向けているが、見るつもりはなくても薄っすらと問題が透けて見えるため、数名頭を抱えている生徒もいるようだ。


(…九割は取れるな)


 教室の中で涼しい顔をしながら問題を解き進めているのは、西村駿、神凪楓、雨氷雫、金田信之、波川吹、内宮智花の六人だけ。逆に必死になりながら問題を解き進めているのは、鈴見優菜、木村玄輝、白澤来の三人だ。どれだけ勉強しても苦手な科目は苦手な科目のまま記憶に一生残り続ける。特に偏差値の高いこの真白高等学校では苦手というだけで多大なハンデを背負うことになるだろう。


「止め! 全員ペンを置け―!」


 一時間目の数学の時間は六十分。問題数は全体的に見れば少なかったが、一つ一つの問題文に引っ掛けの悪意を感じる問題ばかりだった。その悪意に引っかかった哀れな生徒が、しくじったと言わんばかりに声を上げているが、


(次は国語だな)


 切り替えがデキない者は置いていかれる。失敗をしようが、成功をしようがテスト開始の時刻は待ってはくれない。切り替えのデキる者は次の教科を確認し、最後の勉強を始めているのだ。


(…やや、漢文多めか)


 国語のテストの時間を告げるチャイムが鳴ると、一斉に生徒達が問題用紙と解答用紙を表に向けて問題を解き始める。問題用紙が机の表面を擦る音や、ペンが紙をなぞりながら文字が書き進められていく音。その音だけ聞けば、現時点で上手くいっているのか、いないのかが分かる。

 

 その中でも頭を抱えているのは、波川吹、金田信之、内宮智花の三人。そして、何食わぬ顔で問題を解き進めているのは、木村玄輝、西村駿、鈴見優菜、白澤来、神凪楓、雨氷雫の六人だった。


「止め! 答案を裏返せー!」


 国語の時間は少し長めの九十分。専用の知識が無くても、問題文を読むことができれば解くことができる現代文が削減された国語のテスト。漢文と古文の地獄の詰め合わせだ。西村駿は、学年の国語の平均点は酷いものとなるだろうと心の中で考える。


(最後、英語だな)


 英語はテストにおいて最大の難関といっても過言ではなかった。この真白高等学校では海外留学をする生徒の為にありとあらゆる英文のパターンを教えている。他の学校ならば、訳も文も定型文を扱い授業を行っているが……


(…崩し文か)


 定型文など話せて当たり前。本当に必要なのはどれだけ相手に違和感を感じさせない文で自分の考えを伝えられるか、どれだけ相手の考えを柔軟に読み取り返答することが出来るか。それらを目標として掲げている英語のテストは全て日本語訳と問題用紙に記された英文に対する返答を書くというもの。そこに存在するのは一つの答えではなく、無数に考えられる答え。


(満点を取れるやつなんて、楓しかいないだろうな…)


 勿論、文が堅苦しいものであればその解答は良くて数点、悪くてゼロ点だ。生徒達の記憶力も必要だが、ジョーク発言をしている問題文に対しての柔軟な対応、どれだけの単語を把握しているのかという知識。そこには遥か高い壁が立ちはだかるのだ。西村駿は神凪楓だけが立ち止まることなく解き進めているかと思っていたが、実際は神凪楓と雨氷雫の二人だった。この二人以外は全員、降り注ぐ落石によって足止めを食らわされている。


「…止め! これで最後の科目だなー! みんな、よく頑張ったぞ!」


 これだけの課題が山積みだというのに英語の時間は六十分のみ。生徒達は答案用紙が回収されていくのを見届けながら、遠い虚空の空を見上げながらぼんやりとしていた。西村駿も英語においては自信を持てるほどではなかったが、次に控えるイベントは体育祭。それらについても考える必要があったため、駿は椅子から立ち上がりクラス全体を見渡して


「テスト終わりで疲れている皆にこんな話はしたくないが…数週間後に行事の体育祭が控えているんだ。出し物もできれば明日中に決めたいと思う。家で休みながらでもいいから何か案を考えておいてくれ」


 伝えるべきことを伝えておく。運がいいのはテスト日はすぐに帰宅が可能だということ。普段から疲れを見せない西村駿もげそっと疲れの表情を見せながら、自分の家へと帰宅するのであった。

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