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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第九章【オコリタイ】

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第51話【手がかりは見つけられますか?】

「…ああ、お前か」


 やはりと言うべきか白澤来の遺体は五奉行たちが取り囲んで処理を行っていた。背後から近づく波川吹に警戒でもしていたのか、霧崎真冬は緊張気味で振り返り吹の姿を見るとほんの少しだけ安心しているように胸を撫で下ろす。


「何か用でも?」

「白澤は殺されたんやろ? この校内にいる誰かに」


 その言葉を聞いた霧崎真冬は黙ったまましばらく波川吹を見つめる。


「その通り。でもこれを公にすれば本校舎は大混乱になる。だから黙っておいた方がいいよ」

「犯人は、犯人は見つけないんか?」  

「答えるまでもないよ。私たちは五奉行、規律を乱す者は徹底的に叩きのめすだけ」 


 五奉行。いつもはただの嫌な集団にしか見えないが、こういう時は一番頼りになるかもしれない。 波川吹はこれを利用するのに越したことはないと真冬に「ほな、わいも協力するで」と手を貸すことを申し出る。


「いい。お前の手は借りない」 


 しかし考えることもなく即答で断られてしまったため、「何でや!」と速攻で異議を唱えた。

 

「人が殺された以上、私たちも迂闊に誰かを信用することは出来ない。もし私が犯人だとしたら、この状況で最も厄介なのは私たちだからね。なら必ず何かしら手を加えようとするでしょ?」

「疑っているんか!? 白澤はわいの友人やぞ!? 殺すわけないやろ…ッ!」

「疑っていない。信用出来ないだけ。お前も犯人が校内にいることが確定している以上、信頼なんて概念捨てた方がいいよ」  


 霧崎真冬の言うことは的を得ている。こんな状況で仲良く犯人を見つけ出しましょう、なんてこと子供向け番組じゃない限り出来るわけない。自分の考えが甘かったと自覚させられた吹は「…そうやな」と納得せざる負えなかった。


「真冬、少し手を貸して下さる?」  

「あ、分かったよ玲子」


 黒百合玲子に呼ばれると真冬は背を向けて、遺体の処理を手伝いに行ってしまう。波川吹は手がかりを探そうとしたが、五奉行の邪魔はできないと考え差し当たって二年一組へと戻ることにした。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆



「…吹。少しは落ち着いたか?」

「おん。今は何とか落ち着いているで」


 二年一組の教室では波川吹を心配していたのか西村駿が教室の入り口で待ち構えていた。吹は軽く受け答えをすると、教室で暇を潰している人数が昨夜より少ないことに気が付く。


「白澤の遺体ってこの階の男子トイレの前にあっただろ? …それを怖がった生徒は皆下の階に避難したんだ」

「…そうなんか」

「どうする? 俺らも一応下の階に拠点を移すか?」

 

 霧崎真冬に「信頼というものを捨てろ」と言われた波川吹からすれば、このクラスに白澤来を殺した犯人がいるかもしれないのだ。友人を殺した犯人にビビッてそのまま下の階に逃げることなど、波川吹には到底できなかった。


「わいはここに残る。駿だけでも下の階へ移動してもええで」

「…そうか、なら俺もここに残るよ。お前だけ危険な目に遭わせたくないからな」

 

 西村駿もやはり波川吹がやろうとしていることに勘付いたのか、自分からこの二年一組の教室に残ろうとしていた。駿も吹と同様に友情には義理堅い性格をしているのだ。


「ありがとな、駿」

「お礼なんてお前らしくないぞ」


 教室に残っているのは木村玄輝、金田信之、鈴見優菜、内宮智花、神凪楓、波川吹、西村駿…そして男子生徒と女子生徒が数名。この中に犯人がいるのなら今晩も誰かを殺そうと動き出すはずだ。


「…駿、悪いんやけどこの教室で待っててくれへんか?」

「ああ、分かった」

 

 波川吹が向かった場所。そこは一階、二階、三階へと繋がる階段だった。


(…下の階から犯人が上がってくることも考えて細工しといたろ)


 犯人が再び誰かを殺すのであればこの校舎内から犯人を絞り込む必要がある。その為に吹は暗がりを利用して細い糸のようなものに防犯ブザーを括り付け、足元の階段手前に仕掛けておこうと考えたのだ。夜中に糸が切れれば何者かが一階からやってきたことが分かり、二階にいる者は全員目を覚ますだろう。


(…これなら大丈夫やな。日付が変わると同時に仕掛けたろ)


 昇り降りが可能な階段は三ヵ所あるため、一か所一か所を周りに怪しまれないように確認をし終えると二年一組の教室へ戻ることにする。波川吹は廊下を歩いている最中、どのようにして犯人を捕まえようかを考えていた。殺された白澤来はボクシング経験者であり、そんな簡単にやられたりはしないはず。それを踏まえれば相手は相当な腕を持っているのだ。


(男数人に力を借りるしかなさそうやな)


 差し詰め、木村玄輝、西村駿、金田信之の三人に協力を仰げば力は貸してくれるだろう。吹はこの先のことも頭の中に入れながら教室の中へと一歩踏み出すと、考え事をしている西村駿が早速波川吹に声を掛けてきた。


「吹。昨日貰った白澤の水と食料を知らないか?」

「おん? わいは知らんで?」

「おかしいな。白澤が寝ていた辺りに置いてあったはずなのに…見つからないんだ」


 確かに記憶を辿ってみれば白澤来は自分の寝床となる床の上に食料と水を常備していた。誰かがどこかへ移動させるにしてもこれといった理由がない…ならば何者かが盗んだと考えるのが妥当だ。

 

(犯人が盗んだんか…?)


 すぐに頭の中でそう憶測を立てたが、食料と水を盗むために持ち主本人を殺すとは考えにくい。わざわざ事の大きさを広げるだけでも犯人からすれば相当な痛手となるうえ、よりによって女性でなく男性を狙うのもかなりのリスクを負おう。


(取り敢えずは…今晩がどうなるかや。必ず犯人を見つけ出したるで)



◇◆◇◆◇◆◇◆



「よし…何とか糸は結び付けられたで」 


 時間帯は寝静まっている深夜帯。吹は一か所ずつ階段を周り、糸を張り防犯ブザーを取り付ける作業をこなしていた。夜中の校舎は定番のように不気味な空気を漂わせている。波川吹はホラー系統などが大の苦手だったが、犯人に対しての怒りでどうにか気を紛らわせていた。


(後は朝になるのを待つだけやな)


 この静まり返った校舎内で不審な物音が一つでも聞こえれば、すぐに波川吹の耳に届くだろう。波川吹は眠気を何とか抑えながら、見張りをするために二年一組の教室へと戻ろうと考え慎重に歩を進める。道中で何かが飛び出してくるんじゃないかと不安に陥りそうになったが、もし何かあれば助けを呼べば大丈夫と自分に言い聞かせているうちに、目的地である教室へと辿り着いた。


(扉の前で見張っておけばええか)


 波川吹は全員が熟睡している教室を見渡して異変がないのを確認すると、一息ついて腰を下ろそうとしたが

 

(せや、昨日と同じようにまた外で何か運び出してるんやろか?) 


 吹は昨日の深夜に見た数人で何かを運び出している光景を思い出し、窓際まで近づくと目を凝らして誰かがいないかを調べ始める。

 

(…またおるな。何をしてんやろ?)


 そこには同じ光景が映し出されていた。未だに燃え盛る炎の元まで数人で何かを引きずって持ってくると投げ入れる。その作業を二、三回ほど繰り返していた。


(……明日、調査してみるべきやな)


 波川吹は窓際を後にしようとした時、何かがコツンと軽快な音を立てたためふと足元を見下ろしてみる 


「…なんやこれ?」


 拾い上げてそれをよく見てみれば、西村駿の名前がマジックペンで書かれた空のペットボトルだった。盗まれないようにしていたなんて几帳面な奴やな、と寝ている駿の側に置いておこうとしたが 

 

(おらへん)


 陣取っていた寝床には本人の駿がおらず、毛布だけが乱雑に敷かれているだけだった。何故だろうか。心臓の鼓動が妙に早くなり始めている。

 

(どこへ行ったんや?) 


 ただの用足しだろう。いや、そうに決まっている。何かに巻き込まれているなんてあり得ない。物音ひとつ聞こえてこないし、防犯ブザーも起動していない。吹は自分を落ち着かせながら、二階の男子トイレ前まで一歩ずつ、一歩ずつ近づいていく。


(…きっと腹の調子でも崩しているだけやろ。だから、大丈夫や)  


 微かに鼻を劈く臭いを感じて、思わず歩を止めてしまう。

  

(この臭い…この臭いは…) 


 鉄の錆びた臭いと卵が腐った臭いが混ざった刺激臭。波川吹は汗をだらだらと額から流しながら、口を押えてスマホのライトで前方を照らす。



「――」


 

 声が出なかった。いや、声を出そうとしたが出せなかったと言った方が正しいかもしれない。人間は恐怖心と緊張感によって身体を同時に支配されれば、指一本すら動かすことが出来ず、防衛本能の反射さえ機能しなくなる。今の波川吹は正にその状態なのだ。

 

(何でや何でや何でや何でや…ッ!?) 


 友人である西村駿は白澤来と全く同じ現場で殺されていた。頸動脈を引きちぎられ、貪られた傷跡が体の至る所に付いており、酷似している殺され方だ。辺りに漂う腐った卵の臭いと、鉄の錆びた臭い…普通に考えれば犯人は同一人物と推理できる。


(分からへん…!! 物音ひとつ聞こえなかったはずやろ…!? なのに…何でこんな残酷な殺し方が出来るんや…!!?)


 しかし今の波川吹は冷静さを完全に失っていた。二日で友人を二人も殺されてしまったのだ。同一人物に、同じ場所で、同じ殺され方で。精神が崩壊してしまっても可笑しくないこの状況で吹はライトの点いたスマホを落として膝から崩れ落ちる。

 

「わいが、わいが何をしたんや…ッ!? どうしてわいの大切な友人ばかりを狙う!?」


 悲しみよりも先に怒りによって声を荒げながら、近くにいるかもしれない犯人に訴えかける。目の前に犯人が現れれば構わず殺してやろうと、殺意に満ち溢れた表情を浮かべる波川吹の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃなものとなっていた。今の吹は精神状態は怒りで満たされ、身体状態は悲しみで満たされているという誤作動を起こしているようだ。


 コツ…ッ


 背後からこちらへ近づいてくる足音が聞こえ、波川吹は護身用に食堂から取ってきた包丁を取り出して構える。この時間に出歩いているのはきっと犯人だ。犯人に違いない。


「シバいたるわぁぁあッッ!!!」


 包丁の矛先を暗闇へと向けると、雄叫びを上げてそのまま突進を仕掛ける。相手の姿はよく見えないが、立ち止まりこちらの形相に驚いているように見えた。このチャンスを逃がせないと包丁を前に力強く突き出し、

  

「危ないだろ」

「――!」 


 その瞬間に本人である波川吹も何が起きたのか分からなかった。気が付けば包丁を取り上げられ、仰向けに寝そべっていたのだ。そんな吹の顔を面倒くさそうに見下していたのは、


「…何だ、駿の友達か」

「もしかして、村正先輩なんか…?」


 懐中電灯を手に持った月影村正だった。先ほど吹が片手に持っていた包丁をどう処分しようかと軽く振り回しながら、どういうつもりなのか説明を求めているようだ。 


「す、すまんかった…! わいはてっきり犯人かと…」

「…犯人? 何があった?」


 波川吹は事情を月影村正に全て説明をすると、手に持っていた包丁を波川吹へと返した。危うく先輩である村正を殺しかけるところだったと波川吹は手を震わせながら包丁を受け取り、西村駿が殺されている場所まで連れていくことにする。


「…酷いな」

「白澤も駿も殺されたんや…わいは一体どうすれば…」


 月影村正は暫くの間、駿の遺体を間近で観察すると少し考える素振りを見せた。


「三つ聞かせてくれ。まず一つ目だ。本当に、この階で不審な物音一つ聞いてないんだな?」

「本当や…! 一階から誰かが上ってきたのなら防犯ブザーの音で分かるし、物音も深夜帯に入ってから一度も聞いてへん…!」 

「…二つ目だ。お前が、殺してはいないよな?」

「殺すわけないやろ…!! わいは絶対に友人を殺したりはせぇへん…!」

  

 村正は「そうか」と返答をし、波川吹に最後の質問をする。


「…三つ目だ。俺を怪しまないのか?」 

「…え?」

「こんな夜中に出歩いているんだ。怪しまれてもおかしくないだろ」

「それは…もし、先輩が犯人やったらとっくにわいを殺しているはずや。わざわざ包丁なんて返さへんやろ」 


 吹のその回答を聞いた月影村正は口を閉じたまま、波川吹に手を貸して立ち上がらせると、


「…教室に戻るぞ」

「…?」

「お前は睡眠を取った方がいい。その間は俺が見張っておいてやる」


 溜息をつきながら二年一組の教室へと歩き出した。 吹は廊下を一歩進む度に警戒していたが、


「寝るの早いな」

 

 目的地の教室まで到着すると、村正と会話することもなくすぐに眠ってしまった。緊張の糸が切れたのだと村正は窓際に敷かれている毛布を波川吹にかける。


「全く、趣味の悪い夢だ」


 そして近くの椅子に腰を掛けて、周りを起こさない声量で愚痴を溢した。

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