表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第八章【ホシイ】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/145

第49話【カウンターで挽回できますか?】

 

 白澤来は気が付けば、真っ白な空間の中で立っていた。何もない、無が広がるだけの寂しい空間。自分はマモンに負けて死んでしまったのか、そんな疑問が湧いて出てくるが、今の白澤からすれば死んでいたとしても生きていたとしてもどちらでも良かった。


「未穂姉との約束も破って…結局死んだのか、オレは」


 死んでしまったのなら仕方がないこと。ここがあの世だとするのなら、自分はこれからどのようにして生まれ変わるのだろう。昔、両親から聞いた話ではあの世で魂の修行を積めば肉体を得ることが出来るらしい。どれほどの期間が必要なのかは分からないが、これからかなり長い道のりとなりそうだ。


「何をへこたれてんだ?」

「…その声は」 


 聞き覚えのある声。白澤は振り返り声の主を視界に入れる。

 

「クスリか?」

   

 白澤クスリ。彼の大事な妹ともいえる存在がそこに立っていた。目立つような恰好を普段からしていないクスリの姿は、前に兄である白澤来がプレゼントしたヘッドフォンを首に掛け、髪が普段よりも少しだけぼさっとしたようなものだ。


「クスリ? あー…あながち間違ってはいないぜ」   

「お前、そんな喋り方だったか?」


 自分の妹の喋り方に違和感を覚えつつも「何故ここに?」と尋ねる。クスリはぼさぼさの髪を掻きむしりながら白澤来に詰め寄ると、突然胸倉を掴んで、


「兄貴のお前がしっかりとしねぇから、あたしがここに来てやったんだよ!」

「ここにって、ユメノ世界にか?」


 ああそうだよ、と胸倉から手を離して大きなため息をつく。妹の姿をしているが、中身は全くの別人。目の前にいる白澤クスリは謙虚な性格ではなく正反対の大雑把でガサツな性格だ。

 

「あたしの兄貴が大きな勘違いをしているからなぁ? それを伝えに来てやったんだよ」

「…?」

「クスリ。あいつはお前の知らないところで苦しんでいるだぞ?」


 そんなこと言われなくても知っている。白澤はそう答えると、何もしてやれない兄の境遇の想いを目の前に立っている白澤クスリへ深々と伝えた。彼女の顔は話を聞けば聞くほど、呆れた表情へ変わっていく。


「そんなんじゃねーよ…! お前はあいつにとっての憧れなんだ…!」 

「憧れ…?」  

「兄貴はほんッとうに分かっていないんだな!」

 

 彼女は白澤来を怒鳴りながら、背中を向けると額に手を置いてその場にしゃがみ込んだ。白澤は一応クスリの面影が残っている彼女を心配をし「大丈夫か?」と声を掛ける。

 

「…兄貴さ。自分だけが家族の問題で苦しんでいると思っているでしょ?」 

「どういうことだ?」


 背中を向けたまま、白澤来に冷めた声で問いかける。何を言っているのか分からない白澤は理解しようと頭を働かせていた。それでも白澤家の中で省かれているのは自分で、勝手なことばかりして両親に迷惑を掛けているのも自分。それ以外の結論はどれだけ考えても出てこなかった。


「あんたはクスリの兄貴なんだろ? だったらどうして気が付いてやれない?」

「何を…」

「兄貴、この期に及んでまだ惚けているつもりか? あんたは妹が自分の事を避けていると考えているだろうが…本当は逆だろ? 避けて…いや、逃げているのは兄貴だ。上っ面の想いだけでクスリを見て、その結果何もしてやれない…いや違うな、何もできないと勝手に思い込んで自分を攻めるだけの臆病者だ」


 彼女は言いたいことを全て吐き出しその場に立ち上がると振り返って、白澤来を睨みつける。逃げている、臆病者、それらの言葉が白澤来の心に強く突き刺さり、後ずさりをしてしまう。彼女は距離を取ろうとする白澤の胸倉を再び掴み、


「答えろよ兄貴。姉貴、いや柳未穂の元へ逃げてばかりいたあんたがクスリにしてやれることは何だ? いつものあんたならその答えはとっくに出てきているはずだぜ?」 

「……」


 その答えはすぐに浮かんではこなかった。浮かんでくるはずもない。兄として今までそんなことは考えたことがなかった。妹であるクスリが望む「気にかけてほしくない」という要望に応えることが一番の努めだと思っていたからだ。


「黙り込むなんて兄貴らしくもない。あのクソ悪魔に言われたことを根に持って、それでお得意の笑顔を絶やしちまったのか?」

「……」

「クスリはあたしは絶えることのない兄貴の笑顔を尊敬しているんだぜ? 尊敬しているだけじゃない、普段から救われてもいるんだ」


 自分が笑顔を絶やさない理由は誰かに心配を掛けたくないという気遣いと未穂姉の「いつも笑顔でいれば周りに元気を与えられる」という言葉を信じていたからだ。


「兄貴のその笑顔が見れなくなったらあたしもクスリもどうやって生きていけばいい? 頼むからこんなところでくたばらないでくれよ」 

「…そうだよな。こんなのオレらしくもないか」 


 白澤来は現実世界で愛用していた黒キャップを創り出すと深く被り、ツバに手を添えた。その姿を見た彼女は無邪気な笑みを浮かべ、白澤の背後に回り込んだ後に大きく息を吸い込み


「兄貴! 一発ぶちかましてこい!」


 兄の背中に手の平を向けて右腕を突き出す。彼女の手が白澤来に触れた途端、意識は百八十度反転し再び観客の湧き上がる声が聞こえ、眩しいほど照らされるライトが視界に入った。  


「…いってぇ」


 身体の至る所が痛み、動けない白澤は【再生】を強く念じて負傷した怪我を治し始める。この能力は非常に便利な分、何かデメリットでもあるんじゃないかと白澤来は不安に思いながら体を起こしてリングの真ん中へ視線を向けた。


「イイねェェ!? テメェは一体ナニモンだァァッ!」

「俺は敵に名前を教えるつもりはないんでね!」 


 リングの真ん中では朧絢とマモンがとてつもない熱気を発しながら殴り合っていた。マモンのパワーとスピードは計り知れない絶大なものへと成長を遂げていたが、朧絢はマモンを相手に劣ることも上回ることもなく対等に交戦しているように見える。


「…白澤ー! 大丈夫かー!?」

 

 余裕そうな笑みを浮かべ、後ろを振り返って白澤の顔を見る。白澤来はクスリの姿をした彼女に言われたことを思い出し、いつも通りの明るい調子で「大丈夫です…!」と笑顔を返した。


「絢先輩…! ソイツの相手をオレにさせてください!」

 

 白澤はガントレットとバトルブーツを創造すると、パンチの素振りをしながら絢に頼み込む。普段と変わらない笑顔を浮かべている白澤来の顔を見た朧絢は、


「…分かった!」

 

 マモンを押しのけると、白澤来の元まで退いて「今度こそ勝ってこいよ!」と背中を強く押した。妹であるクスリに似た人物と、先輩である朧絢に押された背中はかつてないほど逞しく、頼りになるものへと成長を遂げている。

 

「白澤ラァァァアアイイッ! リベンジマッチのつもりかァァ!?」

「あぁ、今度は敗けないぜ?」

 

 ゴングの鐘が鳴ると同時に、白澤とマモンが両者ともステップを刻みながら接近を始めた。

  

「フィストォォォブロォォォウウッッ!!」


 一定の距離まで近づくとマモンが強烈なストレートを白澤へと放つ。白澤はその威力を侮れば死ぬことが分かっていたため、腕でガードをすることなく小刻みに迂回をして回避をした。


「ヤルじゃねェェェェェかァァ!」

「今度はこっちからいくぜ…ッ!」

   

 白澤来はマモンのボディに何十発にも及ぶ拳を打ち込みながら、得意とするミドルキックをハイジャンプしてマモンの顔面に蹴り込んだ。全く効かないと思われていた白澤の攻撃は思ったよりも通っており、表面上のボディと頭部から破片を飛ばしながら、その場に叩き付けられる。


「イイねェイイねェェ! オレ様を破損させるなんてヤルじゃねェェェかァァッァ!」


 マモンは高ぶる感情を露にすると跳ね起き、白澤来へと無造作に拳による乱打を食らわせようとした。しかし白澤来はその乱打に対抗するかのように自分も乱打を繰り出し、拳と拳が激しい音を立てて衝突し合う。朧絢はそれを目の当たりにして、白澤来の意志が強くなり始めているのだと理解し、


「白澤、その調子だ!」


 景気づけるために声援を送る。白澤はマモンよりもパンチの速度と威力が上がり、物質で構成されているマモンの腕がビキビキと音を鳴らしながら破片を飛ばしていた

 

「そうこなくっちゃなァァ! オレ様もフルスロットルでいくぜェェェェェ!!」 


 マモンが機械の体の限界値を解除したのか、橙色のオーラのようなものを放ち始める。白澤は怖気づくことも、驚くこともなく、ただ笑みを浮かべながらマモンの姿を見つめていた。


「クライやがれェェェェェェ!!」

 

 その拳を受けずとも分かる。先ほどとはパワーとスピードが桁違いなものへと上昇しており、まともに受ければ一発ノックアウトまっしぐらだ。常識的に考えれば、そこは回避をするのが賢明だろうが白澤は違った。 


「なァッ!?」


 その拳にストレートを放ち勝負に出たのだ。ぶつかり合うその瞬間、リングの周りに建っている物や観客席、天井に張り付いているライトまでもが衝撃によって吹き飛んでいく。


「すげぇパワーだな…!」


 辺りが少し暗くなったかと思えば、天井や辺りの壁が一斉に崩壊して風景は真白町の街並みへと変化する。三日月が虚空に浮かび、残ったリングの上だけを照らしていた。


「…続きを始めようぜ?」

「テメェェェッ! オレ様の会場をぶち壊しやがったなァァァア!?」  

 

 マモンも白澤来も負傷などしておらず何事もなかったかのようにリングの上で立っている。白澤来の意志が強くなることによってマモンのパワーが弱まっているのだ。見た目はかなり破壊力のあるパンチだったが、管理人の立場として格上である白澤来の前には効きもしない。


「いいぜェェェェッ! そろそろファイナルラウンドといこうじゃねェかァァァァ!!」


 会場がすべて崩壊したというのにファイナルラウンドを告げるゴングの音が辺りに響き渡る。それを合図にマモンは切れていないリングの紐で勢いをつけて白澤来へとドロップキックを放った。白澤はそれを飛んで回避をする。そして、そのままマモンが白澤来の下を通過するタイミングを狙って


「ァァアッ!!」


 拳を振り下ろして、一撃でリングの床へと叩き付ける。かなり損傷を与えているのかマモンは苦しそうな声を上げているようだ。


「テメェェェッ! このオレ様を怒らせるなんてシにてぇのかァァア!?」

「悪いな。勝負事にも楽しい事にもオレは全力を尽くすタイプでな」 


 そんな態度をとる白澤来のことが気に入らないマモンは、機械の体を震わせながらエラー音を発していた。赤色の瞳が今まで以上に真っ赤に輝き、橙色のオーラさえも真っ赤なものへと変わっていく。


「テメェ、コロス」


 暴走している、誰もが一目でも見ればそう思うだろう。マモンは考えることを止めて、すべてのエネルギーをパワーへと変換したのだ。思考能力を捨てたマモンのパワーは絶大なもので、自身の身体にさえヒビが入るほどだ。


「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…ッッ!」

 

 狙いは甘いが、そのパワーとスピードは少しでも掠めれば肌が切れるほど強力なもの。白澤来はマモンの攻撃を捌きながら、訪れるはずのチャンスをひたすらに待っていた。


「コロスコロスコロスコロス!!」


 言語機能も完全に捨てているマモンは喋ることすら出来ないようだ。全てを捨てまでして、白澤来に勝とうとするその根性と負けず嫌いな性格は賞賛に値する。


「マモン。オレはお前みたいなヤツ嫌いじゃないぜ」

「コロスコロスコロスッ!!!」 

「戦っている時のお前は誰よりも生き生きとして、楽しんでいるように見えた」 


 そう言いながら白澤来はマモンの懐に入り込むと、マモンの壊れかけの左腕をフックで破壊した。それでもマモンは止まる様子を見せない。


「オレもお前との一対一の試合は久しぶりにワクワクしたぜ。ボクシングを続けるいいきっかけになる」

「コロスコロス…ッ!!」 

 

 次はマモンの右腕を裏拳で破壊する。マモンは両腕を失っても尚、蹴りや頭突きを利用して白澤来へと襲い掛かってきた。


「また暇があればお前と拳を交えたい。お前ならオレのいい練習相手になりそうだからな」 

「コロスッ!!!」


 白澤来はマモンが頭突きをしようと頭を振り上げた瞬間を狙い、


「けど――この勝負はオレの勝ちだ。楽しかったぜ、マモン」


 右拳によるアッパーでマモンの顎にカウンターを決めて、頭部を身体から引き離す。そこまで壊してもマモンの闘志は収まらず、身体を動かして白澤来と戦おうとしていたが、数十秒ほどで電源が切れたかのようにバタンとその場に倒れた。

 

「…やっぱりこれがオレらしいよな」

「白澤ー! すごいじゃないか! 俺はお前ならマモンを倒せると思っていたぞ!」 


 朧絢が肩をバシバシと叩いて、白澤を褒め称える。白澤来はガントレットとバトルブーツを外して、マモンの亡骸へ視線を向けた。壊れたマモンの身体は光の塵となり消えていくようだ。


「これで一件落着だな! 何とかなってよかったよかった!」

「絢先輩。これは、何が起こっているんですか? 悪魔だとか体を乗っ取るだとか、未だに信用できないんですが…」 

「今更だが敬語を使わなくていいぞ? 堅苦しいのは嫌いだからな」

「…それならお言葉に甘えさせてもらおうかな。で、絢先輩に聞きたいんだがオレは一体何に巻き込まれているんだ?」


 朧絢は「んー、そうだなー?」と悩みながらも現在起こっている七つの大罪の話や、ユメノ世界の話、そしてユメ人の話などを白澤来に説明した。


「今は駿と波川吹?ってやつが悪魔に襲われているからな。現段階で巻き込まれているのはお前だけじゃない」

「駿と吹も…!? 大丈夫なのか?」

「少なくとも駿の方は絶対に大丈夫だ。俺よりも強い化け物染みた奴が助けに向かっているからな」


 マモンと何食わぬ顔で戦っていた朧絢が化け物染みたと呼んでいる人物。その人物がどんな姿をしているのかが気になったが、それよりも気になったのは、


「オレたちを絢先輩の仲間が助けてくれているのか?」

「まぁーな。本当はお前たちを助けるつもりなんて微塵もなかったんだけど、俺らの核となる人物が助けるって決めたから仕方なく…ってところだぜ」


 朧絢はマモンの身体が消えた場所にユメノ結晶が現れているのを確認すると「これを破壊すればユメノ世界から出れるぞ」と説明をして、破壊するように促す。


(さーてと、これで俺の方はどうにか終わったな。霰はともかく心配なのは村正の方だが――)

  

 現状で最も問題視するべき対象は【最凶の人工知能】と呼ばれていたミラだろうな。 



 Greed

 END


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ