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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第八章【ホシイ】

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第47話【計算で物事は解決しますか?】

「…アナタがこの事象に関わる必要性、ゼロパーセント。今すぐその手を離した方がいいと思います」

「嫌だぜ。俺が白澤を見捨てる確率でも求めてみたらどうだ?」


 ならばとミラは掴まれていない方の手で絢に突き手を放つ。その速さは白澤はもちろん、人間には到底捉えることの出来ないものだが


「それが全力なのか?」


 絢は易々と突き手をかわすと、背負い投げで白澤のいる場所と真逆の方向へと投げ飛ばした。ミラは空中で受け身を取り、再び直立不動の状態へと入る。


「アナタは私の情報には入っていない存在です。不確定要素は取り除かせていただきます」

 

 ミラはどこで学んできたのかありとあらゆる格闘術を朧絢へと繰り出して、何が最も有効的な攻撃なのかを見出そうとする。絢は苦戦する様子もなくミラの攻撃を捌きながら、何度も何度も同じ技で投げ飛ばした。


「……次のパターンを実行します」


 ミラが攻撃を仕掛けては絢が投げ飛ばし、という一連の動作を何度も繰り返すがこれといって有効な格闘術は見つからなかった。ミラは全てのパターンを実行し終えると、次なる行動へと移る。


「フォルムチェンジします」


 そう呟くとミラの姿が光に包まれて服装が黒色のドレスへと変化する。 両手には二刀流と思わしき黒と白の剣が握られており、もはやボクシングとは関係のない戦いへと変化をしてしまっていた。


「存在を操る。それがアナタの能力ですね」

「あー…バレたか」


 ミラの言う通り絢の能力は存在濃薄(ザインテイスト)というもの。自分自身や他人の存在を「そこにないもの」として操ったり、他人の存在と自分の存在を入れ替えたりすることが出来るのだ。不意討ちや仲間を先に進ませることに関してはかなり使える能力だろう。現時点でも絢は自らの存在を白澤来という存在に変えているため、マモンたちの目には白澤来とミラが戦っているように見えるのだ。


「どうしてお前は俺の存在を認識できたんだ?」

「黙秘します。私自身の情報は私以外には教えられません」


 ミラが黒と白の剣を巧みに扱いながら絢に斬りかかってくる。二刀流の腕はかなりのものだが、朧絢からすればこの程度の二刀流かとガッカリしてしまうほどのものだった。


「…このフォルムで損傷を与えられる確率、一パーセント」

「悪いな。俺の親友にもっと二刀流が上手い奴がいるんだ」


 誰のことなのかは口に出せばこの人工知能が勝手に覚えて後々面倒なことになる。早いところミラを片づけたい朧絢だったが、雨空霰に素手で解決しろと言われているため格闘で決着を付けるしかなかった。


「フォルムチェンジします」


 再びミラの体が光に包まれると次なる姿は、白いドレスに身を纏い両手に二丁拳銃を持つという物騒極まりないものだ。朧絢は「もはや接近戦じゃないな」と苦笑交じりに呟くと、距離を取られる前に駆け出して接近をしようとする。


「おっと! お前、ガンカタを使うのか…!!」

「初見で今のが避けられる確率はゼロパーセントだと思うのですが?」


 絢がすぐそばまで来ているのを確認したミラは二丁拳銃で発砲をしながら蹴りを入れてきた。撃ち出された弾丸と放たれた蹴りを側転で、ギリギリ交わした絢を見たミラは首を傾げながら問いかける。


「初見じゃなかった…ってだけだろ」


 ガン=カタとは二丁拳銃を用いて行う近接格闘術だが、あまりにも現実離れしていることもありその存在は架空のものとして扱われている。それならばなぜ朧絢がガンカタの攻撃を回避できたのか、それは旧友である雨氷雫も同様に二丁拳銃を用いてガンカタを使用しているからであった。雨氷雫と一対一で戦ったとき、ガンカタの技は体に染みるほど受けてきたことが功を奏して、無意識のうちにミラの攻撃を回避することが出来たのだ。


「アナタの所在を私は問います」

「その問いに対する返答は黙秘だ」


 両手に持つ銃を器用に扱いながら、格闘術も交えて絢へとひたすらに攻撃を繰り返す。絢はミラの手首を掴んで弾丸の軌道をずらしながら、蹴りや殴打を捌いて対処をしていた。やはりミラのガンカタよりも雫のガンカタの方が手強いと絢は確信をすると、ミラが両手に持つ銃を軽々と奪い取りリングの隅へと捨てる。


「人工知能だからか? まるで説明書を読み込んだかのような動きだ」

「どうやらアナタにはテンプレートの動きが通用しないようですね。仕方がありませんのでオリジナルのプログラムを読み込むことにします」


 オリジナル。つまり先ほどのように堅苦しい動きはせず人工知能特有の動きをすることを意味する。人が科学の進展に利用している人工知能がいつかこのような形で自立をしてしまえば、人間は産物に触れることすら出来ないだろう。独自の文化を生み出し、独自の言語を生み出し…いつか人間とは違った"世界"を生み出してしまうかもしれない。

 

「オリジナルプログラム…【ベルフェゴール】」

「…ベルフェゴール?」


 そこに現れたミラの姿は黒いローブを身に纏い、牛の骨を示すであろう髪飾りが頭に付いていた。ドレスとは全く違うその姿に絢は目を細める。


「このプログラムを試すいい機会です。実験台となることを推奨します」 

  

 ミラは処刑人が使用する剣を取り出して、絢に向かって突進を仕掛けてくる。何かしらの剣術を使用することはおおよそ分かっているが、その剣術が一体どの部類のものなのかが分からない。絢はどんな攻撃が来ても回避できるように、脚に力を入れていた。


「首を貰います」

「西洋剣術か!」


 右から迫ってくる手首を返しながらの水平斬りを見た絢は、すぐにその場へとしゃがんで回避をする。西洋剣術ならば絢にも身に覚えがあるため、足払いでフェイントを入れると同時にミラの腹部を右足で蹴り上げてリングの紐まで突き飛ばした。


「次なる攻撃へ移ります」


 ミラは剣を持ち直すと、床へ剣を突き刺して一言そう述べた。何が起こるかと思えばミラが分離するように二人へと増殖し、別々の意志を持ちながら絢に連携攻撃を仕掛けてきたのだ。絢は「そういうヤツか…!」と微笑して、偽物であろうミラの区別をつけようと考える。


「「始末します」」


 言動に違いは見つからない。剣捌きも何ら変わりない。まるで双子のミラを相手しているかのような感覚だ。どっちが偽物でどっちが本物かなんて見分けのつけようがないだろう。


(…人工知能といえどまだ甘いな)


 しかし、朧絢はそのための打開策を既に考えていた。


「さっき蹴り飛ばしたときの汚れが黒いローブに付いているぞ?」


 分身する際に読み込んだプログラムが交戦前のデータだったのか、ローブに付着している汚れでいとも簡単に偽物か本物かの見分けがつくのだ。絢は汚れのついているローブを着た方のミラを集中的に攻撃し続ける。


「データの読み込みを失敗しました。修復を開始しま――」

「させるかよ」


 絢は全力で本体のミラを回し蹴りでリングの端まで吹き飛ばすと、追い討ちを仕掛けるように接近をして急所の鳩尾に肘打ちを食らわせた。


「プログラムの変更を推奨。ロードを開始」

「今ので確実に損傷を与えたはずだが、そもそも人工知能は痛がったりするのか?」 


 そんな些細な疑問を頭に浮かべながら、姿を変えていくミラを警戒する。 

 

「オリジナルプログラム…【レヴィアタン】」


 何度目か分からないフォルムチェンジ。次に見せた姿は戦いに不向きであろうピンク色のフリルが付いた水着姿だった。レヴィアタンというプログラムは一体どういうものなのだろうか、絢は警戒心をより一層高めて相手の先手を待つ。


「スタンバイ」


 ミラの背後に巨大な水の塊が出現したかと思えば、一瞬にして辺りを水で生成された矢が取り囲むという形になった。朧絢がその光景に思わず「マジかよ」と小さく呟くと、


「戦闘開始」


 水の矢が一斉に朧絢に向かって撃ち出された。ただでさえ数が多いというのに一本だったはずの矢が空気抵抗によって二本へ、三本へと分裂を繰り返していくため密度の高い雨のようなものへと変化していく。 

 

「これは避けれねぇだろ…!」 

 

 絢はミラの周りを駆け回りながら水の矢を体に掠らせて回避をする。白澤に流れ弾が飛んでいかないように行動範囲を狭めたが、これは自らの首を絞める行為だったと朧絢は普段滅多にしない舌打ちをして


「…"一閃"ッ!!」

   

 人工知能のですら捉えられない速度で絢はミラの横を通り抜けて背後へと移動していた。 反撃をしようと振り向こうとしたが、もう遅い。朧絢は正拳突きを背中へと打ち込んで、ミラをその場に伏せさせた。起き上らないようにしっかりと背中を踏みつけて床へと押さえつける。


「これで降参だろ?」

「…次なるプログラムに移ります」 


 ミラは絢の脚を振り払うと跳ね起きて、別のプログラムを読み込み始めた。


「オリジナルプログラム…【アスモデウス】」


 もうそろそろ飽きてきたな、絢はため息を交じりにそう言いながらもミラの次なる恰好を見てみると、目に悪い七色のドレスを纏っていた。


「攻撃開始」


 攻撃を開始する合図が聞こえ、絢はミラの瞳を見つめながら攻撃に備える。


「……」

「…?」


 けれど、ミラは全く動きもしない。ただ絢と視線を合わせるだけ。その行動に何の意味があるのかが不明な以上、下手に行動はできない。絢は相手の出方を窺がうために視線を逸らさずジッとミラの目を見つめていた。


「効果なし」

「効果なし? もしかしてアイツの何かしらの攻撃が俺に効かなかったのか?」


 この時、絢はやっとミラの狙いに気が付く。瞳だ。ミラの瞳が吸い込まれるような輝く色を発していることから、見た者の意識を自由に操れるというような効果があるのだと彼は推測した。

 

「悪いな。俺はそんな猪口才な手に引っかからないんだ」   

「……別の攻撃へと切り替えます」


 ロールプレイングゲームに出てきそうな槍を片手に創造すると、朧絢へと突き刺すために地面を蹴って一気に接近を仕掛けてくる。絢は槍を叩き折ろうと手を突き出したが、

 

「目眩ましか…!」 


 ミラは強烈な光を発して、絢の視界を奪おうとする。視界が奪われた人間はまともに歩くことすら出来ないが、絢は気配でミラの場所を感じ取り距離を取ることなく突き出される槍の柄を掴んだ。


「もうそろそろ気が付いたらどうだ?」


 槍を片手で握りつぶすようにして真っ二つに折ると、今度はミラの肩を掴む。人工知能であるミラはこの瞬間、ある憶測が確信へと変わっていた。創造力によって生み出されるものの強度は生み出した創造者の力によって大きく変わる。

 

 例えば、創造力の強い者が生み出した武器は創造力が下回る弱いものには破壊出来ない。その逆も同じだ。創造力の強いものの武器はその人物を上回っている者のみ破壊できる。結論から言えば朧絢とミラでは、


「お前が勝てる確率がゼロパーセントだっていうことにな…!」 

「…!!」 


 遥かに朧絢の創造力が上回っているということになる。絢に頭突きをされたミラは再びリングの紐へと背中を打ち付けて辺りをよろめいた。ミラは頭の中で朧絢に対する勝算を計算する。


「……」


 しかし出される解答は全て同じゼロパーセント。どんなプログラムを使っても現時点では朧絢という人間には勝てない。ミラは人工知能としてその解答を甘んじて受け入れることにしたのか、服装を最初の私服姿へと戻した。


「私の負けです。アナタの言う通り、私がこの段階でアナタに勝てる確率はゼロ。これ以上の戦いは私の為にならないようですね」

「オオォォッ!? ミラがギブアァァァアッッップ!! 勝者はァァァアーー白澤ラァァァァイイイ!!!」


 自らの存在を操っていることが原因で、白澤来の名前が呼ばれているのに違和感を覚えながらも、


「聞かせてくれ。お前は何者だ? アイツの創物じゃないのなら、お前も独創者(クレエ)なのか?」


 と最初にした質問をもう一度ミラへと投げかける。絢はどうせ「黙秘します」と即答されるのだろうとあまり期待はしていなかったが、


「いつか分かります。アナタたちが私"たち"と再び出会う確率は百パーセントなのだから」

 

 何か意味があるような言葉を残して、リングの外へと出ていってしまう。即答されるよりもモヤモヤする発言をする辺り、人工知能の性格の悪さが窺がえる。朧絢は戦いを終えて安堵しながらも急いで白澤来の様子を確認しに向かった。


「白澤! 大丈夫か?」

「絢先輩に投げられた直後に【再生】を使ったので、何とか…」


 その発言から考えるに、白澤来はリングの隅で自分とミラが戦っている姿を見ていたのだろう。変に助けに入られ怪我をされたら、足を引っ張るどころの問題ではないため白澤のその選択は正しかった。それでも白澤はどこか悔しそうにしているようだ。


「あんな子に一瞬でやられるなんて…流石のオレも自信を無くすぜ」

「そう気に病むなって! 相手は最凶の人工知能なんだから仕方がないだろ? 俺も少しだけ手こずったし…」


 実際、朧絢は素手というハンデがあったため苦戦していただけで、普段から使用としている愛用の武器を扱っていればここまで時間を掛けずに済んでいたのだ。

 

「よくココまで勝ち上がったなァァァア!? 白澤ラァァアイイ!!」

「……」

「安心しなァァアア!! 次の対戦相手はサイコーにクールで楽しい奴だぜェェエエ!!」


 ライトが一斉に消灯する。辺りが暗くなり視界が塞がれたが、リングの真ん中に何者かがいることは気配で感じ取れた。


「なぜならァァッァァァア!!」


 スピーカーからマモンの声がけたたましく聴こえてくるとライトが一気に点灯する。


「このオレ様だからなァァァァァアア!!!」


 ライトに照らされ発光するボディ。目に灯される赤色の光。赤色のスカーフ。そこに立っていたのは、白澤来の体を乗っ取ろうと企むユメノ使者――強欲を司るマモンだった。

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