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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第八章【ホシイ】

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第46話【背中を向けたらダメですか?】

「続いてェェェェェ、ラウンドトゥゥゥウッ!! 対戦相手は【破壊児 ハイト】!! レディィィィィッファイトゥォォオッッ!!」


 一分も経たずに試合開始のゴングが再び会場に鳴り響く。ハイトと呼ばれるロボットは見た目こそ最初に戦ったフライと変わらない形状をしているが、同じ手を使って攻撃を仕掛けてくるとは限らないため、最初は様子見をしようと距離を取りながら相手の手を窺がうことにした。


「何かあったら俺が援護をするからなー? 無理だけはするなよー!」


 朧絢がハイトの背後で白澤来を心配して声を掛ける。勿論、そんなことは百も承知だった。創造力の力量で負けていればどうあがいても勝ち目がないのだ。白澤はそういう時こそ変に胸を張って戦わず絢に何とかしてもらおうと考えていた。


「白澤! 来るぞ!!」

「さっきのやつと同じ突進攻撃か…?」 

 

 先ほどのロボットはジェット噴射を使用していたが、今回のハイトと呼ばれるロボットは走りながらこちらへと突っ込んできたのだ。スピードやパワーは比べ物にならないほど劣っている。白澤は余裕を持ってハイトの突進を避け、一発背後からストレートを打ち込んでみようと腕を大きく引いたが


「…っ!?」


 ハイトの背中が自動ドアのように開くと、そこから先端にドリルの付いた二本の腕がロケットパンチのように発射される。白澤は寸前の所で顔を動かしてドリルを避けると、すぐさま大きく距離を取って飛んできたドリルの行方を探した。


「白澤! 上だ!」 


 絢の声を聞くと上空を見上げる間もなく、即座に体を動かして後ろへと飛んだ。上空から迫ってきていたドリルの付いた二つのロケットパンチは、そのままリングの床を掘り進めて床下へと消えていく。


「ぐッ…!?」


 ドリルに気を取られていた白澤来は本体のハイトの動向に気が付かず、鋼鉄で出来た拳を顔面に打ち込まれて絢の立っている方へと吹き飛ばされた。かなり重いパンチを食らった白澤は若干意志が揺らぎながらもその場に立ち上がって、ハイトを見据える。


「下から来るぞ!!」

 

 ハイトを見据えている白澤に対して絢がそう叫ぶと、すぐ床下へと消えていったロケットパンチのことを思い出し急いで走り出す。今さっきまで立っていた場所を見てみると、足元から二つのドリルが突き出して上空まで飛び上がっていた。白澤来はもう少しで体に大穴が二つ空くところだったと、危機を逃れたことに安心しながら右拳に力を込め


「本体を破壊すればあのロケットパンチも止まるだろ…!!」


 殴り掛かってこようとするハイトの拳をかわしながら、腹部に向かって突き上げるように渾身の一撃を打ち込んだ。白澤は手ごたえを確かに感じてはいたが、何か嫌な予感が頭の中で過り反射的にハイトから離れる。


「…嘘だろ!?」


 接近をしていたからこそ気が付かなかったが、遠くからハイトの姿を見てみると背中からドリルの付いた無数の腕がうようよとハイトを取り囲んでおり、一部のドリルが先ほどまで白澤の立っていた場所を酷く抉っていた。それだけでなく、白澤が損傷を与えたはずのハイトの腹部が腕のドリルによって修復をされていたのだ。


「あー、こいつは厄介な相手だな」

「どうします…? あんな物騒なものを身に付けられていたら、こっちから手を出せないんですが…」

「弱点を見つければいいんじゃないか? 相手はロボット、何かしらの弱点はあるはずだ」


 絢はそう助言をしながら白澤来の体を思いっきり手で押すと、ロケットパンチに付いたドリルが白澤の髪を掠めた。絢に助けてもらった白澤は感謝の言葉を述べて、立ち止まらないようにボクシング特有のサイドステップを刻み始める。


「もう一回だけこっちから仕掛けてみます…!」 

  

 白澤は飛び交うロケットパンチをかわしながら、ハイトへと接近をして殴りかかろうとする。


(やっぱり腕の数が多すぎるな…!) 


 白澤の腕が二本に対して、ハイトの腕は数えきれないほど付けられているだけでなく、空を飛べるロケットパンチの腕も備わっているのだ。こちらが一本の腕で攻撃を仕掛けようとしたと同時に、自分の体に風穴が五つ以上空くことは目に見えている。白澤は一切隙を作れないため、接近したところでただただ回避に専念をするしかなかった。


「こうなったら…」


 ならばと白澤は先に鬱陶しいロケットパンチを破壊してから、ハイトに手を掛けようと飛び回っているロケットパンチに視線を送る。しかし、ハイトから注意を逸らした瞬間

 

「おぉッ!?」


 突然動きが俊敏になり、白澤来へとドリルの腕で攻撃を仕掛けてきたのだ。ロボット特有のセンサーか何かで注意を感じ取っているのか、白澤はそう考察をしてすぐにハイトへと注意を向ける。


(思った通りか…)

 

 白澤の予想通り、ハイトへ注意を向けると二本のロケットパンチの攻撃頻度が上がっていた。このハイトと呼ばれるロボットは白澤来が気を抜いているタイミングを狙って、仕留めようとしてくるのだ。

 

「…待てよ?」 


 ハイトをどのようにして破壊するかを考えていた白澤はある作戦を思いつくと、ハイトへの注意を疎かにしてロケットパンチへと注意を集中させた。ロケットパンチへと注意を向けたと言っても完全にハイトへの警戒を解いたわけではない。白澤は僅かな視界だけで、ハイトの腕のドリルをごく最小限の動きでひたすらに回避をしていたのだ。

 

「…俺がそろそろ手伝わないとマズイか?」 


 朧絢は攻撃を一切できていない白澤来を見て、力を貸そうかと考えていたが、

 

「でも、何か策があるみたいだな。邪魔をするのも流石に悪いか」  


 白澤来を信じることにし、離れた場所で見守っていることにした。数分ほどハイトによるドリル攻撃を避け続けていると時が満ちたとでも言いたげな笑みを浮かべて、白澤来はロケットパンチに向ける注意を今度はハイトへと向けた。


 軌道修正をしたロケットパンチが白澤来の背後から迫ってきているが、視界には勿論入っていない。白澤はハイトの攻撃を回避しながら、呼吸を整えてその時を待つ。


「……聴こえた!」 


 ロケットパンチが頭部を貫くかと思われた瞬間、突如白澤来の姿がその場から消え失せたため、ロケットパンチは目標を失いそのまま前進する。その先に立っていたのはハイト。ロケットパンチは軌道を逸らすことすら出来ないため、ハイトの鋼鉄の体にドリルが突き刺さり、甲高い金属音が辺りに響き渡る。


 その体に大きな風穴を開けるのに数秒もかからなかった。あっという間にハイトの体の穴から向こう側の景色が見える状態となったのだ。エラー音を発しながらガクンとその場に膝をついたハイト。それを待っていたかのように


「貰ったぜ…!!」


 白澤来が床下から姿を現し、ハイトの顎に強烈なアッパーを食らわして頭部を粉々にした。そう…白澤は消えたのではなく、落ちていたのだ。ロケットパンチへと注意を向けていたのはリングに白澤が入れる分の穴をハイトに掘ってもらうため。攻撃が出来なかったのではなく、ワザと攻撃を仕掛けていなかったのだ。

 

 背後から迫るロケットパンチのジェット噴射の音を聞き分けて、ギリギリでその穴に飛び込む。標的を必要とするロケットパンチは視界から突然、標的が消えれば追尾機能が解除されそのまま前に進むのみとなる。白澤はそう予測をしたうえでこの作戦を実行した。


「オオォォッ!? ノックアウトォォオオオッッ!!! 勝者はァァァアーー白澤ラァァァァイイイイ!!」


「冷や冷やさせるなよなー! 流石の俺も少しだけ焦ったぞ?」 

「すみません、でもこの方法がオレの中で一番上手くいくと思ったんです」


 ハイトの亡骸がロボットたちによって回収されていく。その光景を見た白澤はマモンの方を見上げてみるが、同じロボットだというのにまるで関心がないのか壊れたロボットにゴミでも見るかのような視線を送っていた。


「どちらにせよあのロボットたちもアイツの創物だからな。捨て駒のつもりなんだろう」 

「マモンには仲間がいないんですかね?」

「…へ? 突然どうしたんだ?」


 白澤来は心のどこかでマモンに対して哀れみの感情を抱いていた。マモンは仲間がいないからこそ、自分自身で仲間という偽りの存在を作り上げることしか出来ないのだと白澤は考えていた。悪魔に哀れみを掛けている人間など見たことがない朧絢は苦笑いを浮かべながら


「…白澤、お前って変わってるなー!」


 白澤の肩を片手で軽く叩いて思考を遮ろうとした。朧絢は自分自身をここまで育て上げてくれた恩師と相棒の存在を不意に思い出す。その恩師と相棒のおかげでここまで強くなることができ、過去の戦いに終止符を打つことができたのだ。


 けれど、自分自身が敵に哀れみを持ってしまったことが原因で失った仲間も数多くいた。その記憶は未だに絢の頭の中で時々フラッシュバックする。【敵に哀れみを掛けることは自分自身を殺すこと】、絢はこの言葉を忘れることなく今の今まで生きてきたのだ。

 

「そうですかね?」

「でも、アイツは敵だからな? 変に気にかけることはやめておいた方がいいぞ?」

    

 この時、白澤来の目には少しだけ苦しそうな笑顔を浮かべている絢の姿が映っていた。絢の過去の話など微塵も知らない白澤だったが、それでも何かがあった。それだけは見て取れたためこれ以上の詮索をすることなく「…分かりました」と一言答えると、次なる試合相手をトーナメント表で確認する。


「続いてェェェェェ!! ラウンドスリィィィィッ!! 対戦相手は【最凶の人工知能 ミラ】ァァア!!!」


 リングに上がってきたのはピンクの髪色をツインテールに結んだ白澤来と同じ歳ぐらいの女の子だった。最恐の人工知能とレッテルを貼られているということはかなりの強者だと分かるが、


「…ミラ、だっけ? オレはあんまり女の子を殴りたくないから辞退をしてくれると助かるんだが…」


 女の子を殴るのはかなり気が引ける白澤来は辞退してくれないかと提案をする。しかし、ミラの視線は白澤来に向けられてはおらず、


「そこにいる人。アナタは戦わないんですか?」 

「…! お前、俺の姿を認識できるのか?」 


 存在を隠しマモンにすら見えていないはずの朧絢をしっかりと捉えていたのだ。これには絢も驚きを隠せず、大声でミラへと問いかける。ミラは絢の問いに対して返答はせず、マモンへと視線を移していた。


「この最凶の人工知知能はァァア!! オレ様が生み出したわけでもないからァァア!! 何を考えているかが理解できねェェェッ!! オレ様にとってもテメェらにとってもイレギュラーな存在なわけだぜェェ!?」

「マモンが生み出したわけじゃない? ならお前は一体どこから現れた?」 

「黙秘します。アナタに教える必要はありません」


 朧絢に対して即答をしたミラは「構えてください」と白澤来に指示をする。よく見れば服装は一般的な女子高生が着ている私服だった。本当にロボットなのかと疑問を持ちつつも、白澤来はガントレットとバトルブーツに力込めて気合を入れる。


「アナタが私に勝てる確率、計算中」  

「先手を打つ…!!」


 白澤来は申し訳ないという気持ちを込めながら、右拳でフックをミラへと繰り出した。これぐらいの軽いフックは避けられるかと思っていた白澤だったが、ミラはワザと左頬にフックを食らったのだ。


「五十パーセント計算完了、引き続き計算します」

「白澤…! そいつはヤバいッ! 本気で攻撃を仕掛けろ!!」 


 朧絢にそう言われた白澤来は全ての力を出し切る容量で攻めて、攻めて、攻め続ける。ストレート、フック、アッパー…ありとあらゆる技を駆使してひたすらに殴る、殴る、殴る。しかし、一向に手ごたえを感じない。手ごたえを感じないどころかミラの顔に傷がつくことすらなかった。


(まさか、アイツの創造力が白澤を遥かに上回っているんじゃ…)

「八十、九十……」  


 白澤が殴れば殴るほどパーセンテージがどんどん上がっていく。どれだけ全力で殴っても直立不動で少しも動かないのだ。


「百パーセント。解析完了しました」


 ついに100%に到達した。そのことを告げるアナウンスのような声を聞いた白澤はすぐに距離を取って防御の姿勢へと入る。ミラは距離を取っている白澤の元へとゆっくり歩み寄り始めた。


「フックによる損傷、アッパーによる損傷、ストレートによる損傷、全体の損傷率、すべてがゼロパーセント。これにより私の創造力が上回っていることが判明」

(何が来る? コイツは一体何をしてくるんだ?)    


 そしてついに白澤の目の前まで近づく。白澤来は一瞬も気を抜けない状況に心臓の鼓動が速くなり息を呑みながらミラの瞳を捉える。

  

「右の脇腹、三十二度から」

「ぐッ!!」

「右肩、六十度から」 

「ぐ…ぁ!?」

 

 ミラは的確に白澤が防御しきれない場所を狙って殴打をしてくるのだ。殴打までの動作も全く捉えることが出来ず、ただただ殴られ続ける。 


「ヤバッ!! 全く防ぎきれ――」

「骨格筋を破壊します。その次は心筋を破壊します」


 白澤の防御に隙が出来るとミラはそう宣言をして突き手を腸骨と仙骨との結合点に放つ。防ぎきれるはずのない突き手は結合点に直撃し、体全体の運動機能が自分の意志で働かせることが出来なくなってしまった。


「私がアナタに勝てる確率、百パーセント。アナタが私に勝てる確率、ゼロパーセント。この状況でアナタが生き残れる確率、ゼロパーセント」

(ヤベェ、全く体が動かねぇ…ッ!!)


 ミラは心臓にだけ存在する不随意筋に向けて突き手を放とうとする。白澤来は避けたくても避けられないため、一瞬だけ死を覚悟したが、


「いいや、生き残れる確率は百二十パーセントだな」


 朧絢がミラの突き手を掴んで阻止すると、動けずにいる白澤来をリングの隅へと片手で投げ飛ばした。

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