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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第八章【ホシイ】

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第45話【ゴングは鳴りましたか?】

 西村駿がイトナと初めて出会った頃…



「…ーい! おーい! 起きろー!」

「……んあ?」 


 自分のことを起こそうとしている何者かの声によって白澤来は目を覚ます。病院内だというのに大声を出して迷惑なヤツは誰だと体を起こして、その人物の顔を見ようとしたが


「おー! 起きたか! もうくたばっているのかと思ったぞー!」


 そんなことよりも真っ先に気が付いてしまったのは自分が寝ていた場所だった。病院の一室で寝ていたはずがいつの間にか、正方形で一メートルほどの高さの架台にキャンバスマットを張った格闘技で使用されるリングの目の前に倒れていたのだ。 

 

 天井に設置されているライトのみの光で会場の中を明るく照らしているようで、観客席に座っている観客たちも汗をかいてリングの方へと声を上げていた。


「オレは何でこんなところに…?」

「そのまぁ…何だ? 単刀直入に言えばここはお前の夢の中なんだ」 

「ああー、夢の中か。それならこんな場所にいても不思議じゃないよな」


 白澤来は伸びをしようとしたとき自分の腕に痛みが走り思わず確認してみると、夢の中だというのに両腕は怪我をしたままだった。更に痛みまで感じたため白澤は隣で苦笑いを浮かべている人物へと視線を向ける。


「ここは夢の中だけど夢の中じゃないんだよなー…」

「お前の言っていることがオレには全く理解できないぜ…」

「現実味を帯びている夢って言えばいいのか? 取り敢えずこのユメノ世界という場所は痛みも疲れも現実と同じように感じるから気を付けろよ」


 何に対して気を付けろと言っているのか理解出来ない白澤来は辺りを見回して、観客たち一人一人の顔を見る。その人間味は妙にリアルだと感じるだけで収まらず、まさに現実世界の人間たちそのものがそこにいるのかと見間違えそうなほどだ。


 観客たちが流している汗も熱気も夢の中だというのに、ここまで現実味があれば感心するどころか逆に不気味に思えてしまう。


「紹介が遅れた、俺は朧絢だ。紫黒高等学校の時は危なかったな」

「あ~! どこかで見たことがあると思ったらあの時助けてくれた絢先輩でしたか…! ご無沙汰しています!」


 年上にため口を利いていたことに気が付いた白澤来は急にペコペコと頭を下げながら朧絢に挨拶をする。

 朧絢は「まあそんなにかしこまるな」と言ってやや鼻の下を伸ばしながら、手で白澤を静止していた。

 

「白澤来だったっけ? 俺の話をまずは真面目に聞いてほしいんだが…今、お前はユメ人っていう…いわゆる現実世界に戻れない存在になっているんだ」

「ユメ人? 何ですかそれは?」

「簡単に言えばユメ人はこのユメノ世界に閉じ込められるっていうことだ。このままだとユメノ使者に体を奪われるぞ」

「体を奪われるって…じゃあそのユメノ使者っていうのは一体何なんですか?」 


 こんな話を突然されても意味が分からない。自分は現時点でユメ人となっていて、危険な状態であることは理解できるが体を奪われることやユメ人となってしまった経緯が不明だ。

 

「お前の場合は特殊なユメノ使者で…一応七つの大罪に関する悪魔――」

  

 朧絢が白澤にそう言いかけた時、


「ヒャッハァァ! 野郎どもォォ!! 盛り上がってるかァァァア!!?」

 

 スピーカーが音割れするほどの大声量が会場全体に響き渡る。朧絢は耳を押さえていたが、白澤来は片腕が使えないため片耳しか押さえることができず顔を歪めていた。


「あれがユメノ使者でもありお前の体を奪おうとしている悪魔だ!!」

「悪魔!? あの馬鹿みたいに五月蠅い奴がか!?」 


 スピーカーの音で遮られないように二人とも大声を出して会話を交わしながら、声の主を探そうと顔を動かしてリングの方を捜索する。

 

「いたぞ! アイツだ!!」 


 絢が指さす方向へ白澤は顔を向ける。そこにはVIP席かと思われる場所でマイクを握りながら叫んでいる人型のロボットが立っていた。プラモデルの作りかけのようなロボットの図体の体はクリーム色。そして首には赤いスカーフのようなものを巻いている。

  

「このオレ様ァ、【強欲を司るマモン様】がァ! これからアツイ戦いを見せてやろうじゃねぇかァァア!!」


 耳を劈くような声と共に会場のライトが一気に消灯して辺りが暗闇に閉ざされる。観客たちがざわざわとする中で白澤と絢は目を凝らしてリングの上をじっと見据えていた。暗くなってよく見えないものの、先ほどまで誰もいなかったリングの上に動いている影が見えたのだ。


「ラアァァァァイイイトオォォォオオン!!」


 マモンが巻き舌を効かせながらマイクに向かって叫ぶと、消灯していたライトが一斉に点灯する。観客たちの視線が自然とリングの上へと集まると、大きな歓声で会場全体が揺らいだ。リングの上に立っていたのは二メートルを優に超えた巨体を持つ、ロボット達だった。


「ルールは簡単ッッ!! トーナメント形式でぶち当たるヤツら全員をぶっ壊せば優勝だぜェェェ!!!」 


 大画面のディスプレイに表示されるトーナメント表。そこにはロボットA、ロボットBと単純な名前が表示されている中に白澤来の名前も入っていた。マモンは自らの手を使わずに自身の生み出したロボットで白澤を消そうとしているのだ。


「オレ様のロボット達に勝てるかなァァア!?! 白澤ラァァァァイイイイ!!」

「アイツ、どうして俺の名前を…?」

「まずは一回戦だぜェェ!! 白澤ラァァアイイ!! とっととリングに上がりなァァア!!」


 白澤来はVIP席でマイクを持っているマモンへと視線を送る。部品のような瞳が紅色の光を発しながら、高らかに白澤の名前を呼ぶ姿。その姿はハイテンションというよりも頭のネジが外れていると考えた方が妥当だった。

 

「マモンのヤツ、絢先輩がいることに対して何も触れていませんが…」

「俺の姿が見えていないんじゃないか? それか"存在を認識できない"とか、ね」 


 朧絢は意味ありげなことを呟くと、白澤に「腕を治した方がいいぞ」と助言をする。そんなにすぐに腕を治せるのならとっくの昔に治している。白澤来は朧絢にそう訴えかけたが、どうやら本当に治せると思っているらしく、何を言っているんだコイツはと首を傾げるばかりだった。


「ああそうか! 【再生】の話なんて普通、分かるはずないよな!」 


 絢は話が噛み合っていない原因に気が付くと、白澤に【再生】というものが一体何なのかを伝えようと試みる。白澤来は手短に説明する絢の話を理解しようと聞いていたが、あまりにも現実離れをしているため信じようにも信じられなかった。 


「まぁ実際にやってみた方が早い。俺の言った手順で【再生】を実行してみようぜ」


 本当にそんなことが出来るのか、と半信半疑になりつつも言われた通り、骨が折れている左腕が再生していくようなイメージを浮かべ始める。

 

「…マジか」 


 すると、絢が話していた通り左腕の痛みが嘘のように消え、何の不自由もなく動かせるようになったのだ。信じられない現象に白澤は腕を大きく動かしたりして、本当に完治したのかを確かめる。 


「ここはお前の夢の中だからなー。これぐらいはかるーく出来るんだぞ?」

「聞かせてください。絢先輩は一体何者なんですか……」

 

「ドウシたんだぁァァアぁ!? 怖気づいてしょんべんでも漏らしちまったのかァぁァ!!? 白澤ラァァァぁァァアイイッ!!」


 声を遮るようにマモンが白澤来に向かって挑発をする。話す時間を与えてはくれない。白澤に「俺が何とかしてやるよ」と一言だけ伝えた朧絢は、先にリングの中へと入り込み、待ち構えているロボットの背後へと回り込んだ。

 

 白澤は絢の言葉を信じて、観客に囲まれている中央のリングへと足を踏み入れる。熱気と視線とライトが集中するリングの上は、長時間いれば立ち眩みがしてきそうなほど現実味のあるものだった。


「ラウンドワァァァアアアンンッ!! 対戦相手は【機械児のフライ】!! レディィィィィッ……ファイトゥォォオッッ!!」


 両者の準備も確認することなく試合開始のゴングが鳴る。フライと呼ばれるロボットは背中に付いているジェットを噴射させて白澤来に突進を仕掛けてきた。


「あぶねぇッ!!」 


 白澤は横へ飛んで回避をすると、すぐさま後ろを振り返りフライの様子を確認する。ジェット噴射を利用した突進はリングの紐によって受け止められていた。巨体の突進にも耐えられるということは、リングの紐はかなり丈夫なものだろう。白澤来はどのようにして太刀打ちをしようかと考えるが、鋼鉄の体には勿論生身の人間の拳が通るはずもない。


「白澤! 戦うための武器を創造するんだ!」

「そんなこと言われても…ッ!」


 フライはジェット噴射による突進を、休む暇もなくひたすらに繰り出してくる。白澤は何とか横っ飛びで回避をしていたが、これでは全く勝負がつかない。あの突進に直撃すれば間違いなく一発でノックアウトだろう。


「一か八か…やってみるしかないな…!」 


 白澤来の攻撃手段はボクシングを活かした拳による殴打。そのために必要な武器は手や足を覆うものだ。白澤はハッキリとしたイメージが湧いていなかったものの、それとなく絢の言葉通り武器を頭の中で創造しようと試みる。


「おっと! もう少しだけ一人で遊んでいてくれ!」 


 創造しようとしている白澤に突進をするフライを、朧絢は蹴り飛ばして方向転換させる。

 やはり絢の存在に気が付いていないのか、マモンや観客は見当違いの方向へ突進していくフライに向かって不満の声を上げていた。


「オオオオォォォ!? 白澤ラァァァイがナニカを創造したぞォォォオオ!!?」


 気が付けば白澤の腕と足には黒と白のガントレットとバトルブーツが纏われていた。白澤来は体が軽くなったような感覚を覚え、ステップを刻みながら拳の素振りをする。先ほどとは明らかに違う拳の速さと俊敏さ、絢は「もうそろそろ大丈夫か」と突進をするフライの邪魔をやめ、白澤に向かって


「コイツをぶち壊してやれ!」


 と右腕の親指を立てながら声を上げた。絢の邪魔が消えると、今度は真っ直ぐ白澤来の元までフライがジェット噴射で突進を仕掛けてくる。動体視力も上がっているのを感じた白澤は後方にあるリングの紐に飛び乗ると、


「|Crash and bash!《砕け散れ!》」


 上空に飛んで回避をしてから、強く握りしめた右拳をフライの頭部へと振り下ろした。鋼鉄で作られているであろう頭部はスポンジのように柔らかく押し込められ、部品や破片がリングの上に散乱する。頭部を潰されたフライは金属の擦れあう音を発しながら、一歩ずつ後退をして大きな音を立てながら背中から倒れた。

 

「ノックアウトォォオオオッッ!! 勝者はァァァアーー白澤ラァァァァイイイイ!!」


 マモンの試合判決を聞いた観客たちは大歓声を上げる。白澤の右拳はあれほど硬いものを全力で殴ったというのに、全く痛みを感じていなかった。疑問に思いながらもガントレットへと視線を向けると傷や汚れすら付いていないようだ。

 

「やるじゃねーか! 白澤!」 


 リングから出ようとする白澤の肩に朧絢が手を置いて、幾度なく褒め称える。一発ノックアウトを決めた白澤来は未だに目の前で自分が行った行動が信じられず、絢に対して「…そうですか?」と曖昧な返答しかできなかった。


「その武器はお前の"創造力"によって強さが変わるんだ。あのロボットを難なく捻りつぶせたのは、お前の方が創造力が強かったことを意味するんだぜ」

「創造力…?」

「腕相撲だったら腕の力が強ければ強いほど有利になるだろ? 創造力もそれと一緒なんだ」 

 

 フライと呼ばれるロボットは創造力によって生み出されていた。そのロボットに込められた創造力の強さが白澤来の創造力よりも下回ったため、いとも簡単に破壊することが出来たのだ。白澤からすればロボットの頭部を破壊するのは一枚の紙を握りつぶすのと同等なことだろう。


(…それに白澤のやつ、あれだけ動いたのに全然疲れてないな)


 白澤来の中で目覚めた力|底無しの体力《インフィニティ―エナジー》。これは体内に創造力がある限り、体力が尽きず息が切れることがないという能力だ。


「白澤ラァァァァイイイイ!! なかなかやるじゃねぇェェェかァァァア!?」


 マモンはリングの上で倒れているフライと呼ばれるロボットを、別のロボットたちに命令し引きずり降ろすと次なる対戦相手をリングの中へと導入した。


「…取り敢えず、倒せばいいんですよね?」 

「おう! アイツの部下のロボットたちを全部ぶっ壊してやろうぜ!」


 朧絢のその言葉を聞いた白澤来は次なる対戦相手と戦うために、一呼吸入れるともう一度リングの中へ足を踏み入れた。

 

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