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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第七章【ミクダシタイ】

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第41話【友人を見捨てられますか?】

 

『もう時間はないぞ? 早く決断するのが身のためだ』

(…玄輝は至って普段通りだが、楓は喋りもしない。もしかして楓が偽物なのか?) 


 敢えて何も喋らせない偽物を作って惑わせる作戦なのか、神凪楓は本当に喋ることすらままならないほどの重体であそこに立っているのが本物なのか。 仮説ならばいくらでも思い浮かぶが証明がどれだけ経っても出来るようにならない。


「決心はついたか? 駿」

「…本当に楓が偽物なのか?」

「本当だ。おれは嘘なんてつかねぇ」


 西村駿は残り少ない時間でようやく決心をして神凪楓の側まで近寄って銃を突きつけた。駿は最終的に神凪楓が偽物だと予測して、引き金へと手を掛ける。


「お前が偽物なんだな楓…」

「…」

「そうだ。時間がないから早く撃て」


 玄輝が西村駿に時間がないことを伝えると早く撃たせるために後押しをする。何も分からないまま引き金を引くときの人差し指はこんなにも重いのかと若干手が震えていた。間違っていれば幼馴染である神凪楓を自分の手で殺したことになる。

 

「撃てぇッ! 駿ッ!!」

「…!?」


 背後から叫ぶ玄輝の声を聞いた途端、手が勝手に動き自分の真後ろにいる木村玄輝へと銃口を向けてしまう。何が起こっているのか全く理解の出来ない西村駿は、目を見開いたまま背後を向いて軽くなった指先を動かして引き金を引き発砲した。


「今、体が勝手に動いて…」 


 木村玄輝は弾丸を撃ち込まれると煙となってその場から消え去ってしまう。その光景を見た駿は偽物が木村玄輝だったことを理解して、危うく神凪楓を撃とうとした自分に恐怖をする。撃とうとした寸前に聴こえた玄輝の声は、まるで"自分を撃て"と叫んでいるように聞こえたのだ。

 

「……」  


 偽物は全員いなくなったはずなのだが、女性の声が聞こえるわけでもなく何か周りに変化が起こるわけでもなかった。


「まさか、まだ終わっていないのか?」


 あの声に偽物をこの銃で全員撃ち抜けと言われている。

 神凪楓が偽物だとしたら木村玄輝があんな声を出すはずはない。しかし、西村駿と神凪楓以外の人物は今現在この暗闇の空間にはいないはず。


「…空気が重いぞ」

  

 カウントダウンは未だに進んでいる。それを知らせるかのように辺りの空気が一段と重くなり、何かこの世で最も恐怖するものが接近してくるような感覚だ。駿は手遅れになる前に急いで辺りを見回して、偽物となるであろう人物を探し出そうとする。だが見えない壁に遮られて移動できない。つまり選べる選択肢は、本物の可能性が高い神凪楓のみ。


(偽物はどこにいるんだ…!?)


 とにかく走り回って手探りで辺りを捜索するが、一向に偽物らしき人物は見つからない。嵌められたのか、と憶測を立てて西村駿は半分諦めそうになったが、こんな卑怯な手を使うなら最初から殺そうとしていたはず。頭の中で"偽物"という言葉を連呼して、必死に神経を張り巡らせる。


「……」 


 西村駿はある一つの疑問が頭の中に浮かんだ。それは"偽物"とは一体何なのかということ。誰が偽物なのかと聞かれたとき、いつも見ている友人とは違う面を見せたらそれを偽物だと判断していた。

 

 この空間の中での偽物を撃ち抜く。それはあやふやな存在の自分も含まれるのではないか。自分が本物かと聞かれたら本物だと答えるが、西村駿はそもそも何の質問も受けていないため偽物とも本物ともなり得る状態だ。"偽物"か"本物"かを決めるのは自分自身。

  

(この状況でもまだカウントダウンが進んでいるということは…) 


 西村駿は拳銃を自分の頭に突き付けて引き金に人差し指を掛ける。


「――残っている偽物は俺自身だ」


 そして耳元で鳴り響く発砲音と共に意識はすぐに途絶えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「……?」

「ほう、よく分かったな? 最後の偽物はお前だったということが」 


 西村駿は気が付けば暗闇の中ではなく、明るく宮殿の玉座の間のような場所に立っていた。

 視線の先には玉座に悠々と座っている銀髪の女性が駿のことを見下ろしていた。その女性は背中に黒い翼を生やし、肌の露出が激しい恰好をした妖しい雰囲気を漂わせている。


「お前が、あの声の本体か」

「そうだ。アタシがアンタを苦しめて罪のない子供と老人を殺した"悪魔"…いや"堕天使"さ」


 溜まっていた鬱憤の晴らしどころを見つけた駿は白銀の剣を構える。その女性は脚を組みながら西村駿のことを見下すような瞳で見つめていた。完全に甘く見られていると駿は剣を持っていない方の手で「掛かってこい」と言わんばかりに挑発する。   


「殺す前に教えてあげる。アタシはアンタの体を奪いに来たの」

「…体を奪うだって?」

「ああそうさ。アンタはアタシがこのユメノ世界に引きずり込んでユメ人になったんだよ」

「ユメノ世界? ユメ人? 何の話をしている」


 頭の良い西村駿でもその女性が何を言っているのか理解できず、渋い表情を浮かべていた。銀髪の女性は「馬鹿だねぇ」と嘲笑いながら玉座から立ち上がると翼を大きく羽ばたかせる。


「アタシは【傲慢を司る ルシファー】。アンタはここで無残に散る」

(コイツ、かなり強いな…) 


 座っていても薄々と力の差を感じていたが、立って戦闘態勢に入ればその力の差は歴然となる。勝算は少ないがここで素直に殺されるわけにはいかない西村駿は、剣に光を宿らせて斬撃をルシファーへと飛ばし先手を打った。

 

 気が付かぬうちに覚醒をしていた西村駿の力創造貯蔵(クリエイトストレージ)。"創造力を何かしらに溜める"ことに長けた能力であり、駿は銀の剣に創造力を溜めて斬撃を飛ばしたのだ。


「弱すぎる」


 駿なりにかなり創造力を込めた斬撃をルシファーは両翼で軽く弾き返す。両翼に少しでも傷がついていたらと西村駿は願っていたが、見る限りほぼ無傷だ。接近するのは非常に不利と考えた駿はならばと斬撃を連続でルシファーへと飛ばし続ける。


「鬱陶しいね」


 ルシファーが片手を上げてそう一言呟くと、後方に魔方陣が展開されそこから飛び出してきた紫色の斬撃が駿の斬撃を相殺した。


「ぐ…ッ!?」 


 更に仕掛けてくるように魔方陣から何十発の斬撃が飛んでくるため、西村駿は物陰に隠れてギリギリ回避しながら玉座の間を駆け抜ける。

 ルシファーはそれを見て滑稽だと鼻で笑いながら更に魔方陣を増やして追撃の手を強めていく。


(ッ!? しまった足がもつれて…)


 何とか避け続けていた駿も体力の限界により足がもつれてその場に転倒してしまう。

 そんな西村駿にルシファーは慈悲など与えるわけもなく


「くたばりな」

「ぐぅあぁ…ッ?!」 


 駿の体に斬撃を直撃させ、宮殿の支柱に叩き付けた。何かが折れる音と支柱が削れる音が聞こえ、ルシファーは満足気に玉座へと座り込んだ。


(やばい、な…)

  

 西村駿は何とか立ち上がり脇腹に手を添える。激痛が走るということは肋骨が折れてしまったらしい。斬撃一つでここまで傷だらけにされれば、駿にも勝ち目が見えてこなかった。どんなことにも挑戦するつもりで生きてきた西村駿だったが、これだけは御免被りたい。


「アスモデウスがやられたと聞いて、どれだけユメノ世界で苦戦するのかと楽しみにしていたのに…この程度かい?」

「お前はどうして俺の体を乗っ取ろうとするんだ? 何が目的だ?」


 これはあくまでも時間稼ぎに過ぎない。この危機的状況を抜け出すための思考を張り巡らせる時間。今はそれだけをより多く稼ぐことだけを考えていた。


「罪によってアンタらの世界を変えてやるのさ。アタシたち七つの大罪の力でね」

「七つの大罪…だって?」


 普段なら厨二病でも拗らせているのかと言って無視をするだろうが、このあり得ない力とあり得ない世界が存在することを知ってしまえばそれは本当なのだと信じざる負えない。

 

「アタシたち七つの大罪が現実世界へと出るには自分に合った肉体が必要なんだよ。ユメノ世界を創り出したユメ人であるアンタを、ユメノ使者のアタシが消せば、肉体へ戻る権利はアタシのものになるんだ」

「…そんなことさせるか…!」


 西村駿はサッカーボールを創り出してルシファーへと力任せに蹴り飛ばす。ルシファーはそれを片手で軽々と受け止めると、手の平の上で力も加えることなく丈夫に作られているサッカーボールを散り散りに破裂させた。


「悪いね、アタシは子供じみた遊びは嫌いなんだ。その代わり…スリルのある生と死を掛けた遊びでもしようじゃないか…!」 

「趣味が悪い奴だ…!」 


 ルシファーが翼を大きく広げて接近してきたため、駿はあばらを押さえながら剣を振るう。西村駿をおちょくるようにして飛び回るルシファーは一切攻撃を仕掛けてこないが、駿の剣がルシファーに掠るわけでもなくただ虚空を斬るだけだ。 

 

「ほらほらどうしたんだい? アタシを止めなきゃ世界もアンタも終わりだよ?」 


 天使たちを相手にしたときは身体能力の高さを活かし苦戦することなく倒すことが出来た。しかし今相手にしているルシファーは身体能力が高ければどうにかなる相手ではない。例えこの場に西村駿が五人いたとしても敵うはずのない化け物。そんな奴を相手にどうやって戦えばいいのか。今まで解いてきた問題とは比べ物にならないほどの難題だ。


(…いや、勝てる策は自分で生み出せるだろう) 


 西村駿は昔見ていた漫画を思い出し、剣を床へと思いっきり突き刺した。攻撃が当たらないこんな状況の時、その主人公はある技を使っていたのだ。それはあまりにも現実離れし過ぎていて思わず鼻で笑ってしまったがこの夢の中となれば、


「燃えろ…!!」

「この力は!?」


 ある程度は実現できる。駿が剣を床へと突き刺すと、炎が周囲を彩るようにして飛び交いルシファーへと襲い掛かる。技の名前は忘れてしまったが、この攻撃ならば避け続けるのは難しいはず。

 

(チャンスだ…!)


 炎に気を取られているルシファーの背後へと駿は回り込む。そして床を強く蹴って飛んでいるルシファーの元まで辿り着くと、剣にありったけの力を込めて、


「――ッ!!」 


 今までで最も強力な斬撃を背中に叩き込んだ。この一撃を受ければルシファーでも無傷では済まない。西村駿による渾身の一撃を相殺することはできず斬撃と共に床へと墜落していった。

 

「…無理をしたな」


 西村駿は上手く着地をすると立ち膝をつく。怪我をしている状態で無理をして体を動かしたせいで身動きが全く取れない。この一撃でルシファーを倒せたと願いたいがそれは儚いものだとすぐに知らされる。


「アンタを侮っていたよ。アタシに傷をつけるなんて」

(そう上手くいかないか…)

 

 ルシファーの背中には大きな斬り傷がつけられており、そこから赤黒い液体が溢れ出ていた。真っ赤な血の色ではなく濁ったもの。人の形をしているだけで中身は人間ではなく正真正銘の悪魔なのだと改めて実感させられた。


「アタシに傷をつけた代償は高くつくよ」


 歩み寄るルシファーに抵抗する術はもうなかった。今のですべての力を使い果たし、死を待つのみとなっている駿は体をふらつかせながらその場に立とうとしていたが、重傷を負っている体でそれは不可能な事だ。


「七つの大罪の中で最も強いアタシとやり合えたんだ。少しは誇りに思いながら死ぬんだね」


 ルシファーの傲慢さを最後に見ることになる。それだけが唯一の心残りだと西村駿が掠れた笑いが込み上げてしまっていた。

  

「最も強い? 今、お前最も強いって言ったよな?」 


 幕が閉じようかとしていたそんな時に玉座の間に響き渡る若い男性の声が聞こえてきた。その声にルシファーは若干戸惑っているが、西村駿は至って冷静にその聞き覚えのある声へと耳を傾ける。


「誰だい? 姿を見せな!」

「いいよ」


 その声を合図に宮殿の天井が突き破られ、制服を着た一人の青年が飛び降りてきた。   西村駿の近くでその青年は着地すると心配するように顔を覗き込む。


「西村、よくこいつを相手にして生きてられたな」  

「…霰か?」


 雨空霰。西村駿からすれば何故ここにいるのかと真っ先に聞きたいところだったが、霰を逃がすために危険な相手だということを伝えることにした。


「逃げろ。コイツは化け物だ」  

「…まあそれは見りゃ分かるよ。何ならこの世界は化け物しかいないだろうな」

「アンタが噂のユメ人を助ける人間とやらかい?」


 西村駿の忠告を冷静に聞いている霰を見たルシファーは口を挟むようにそんな質問をした。けれど雨空霰はその質問に返答をすることなく。


「もう一度聞くけど、お前が七つの大罪の中で最も強いんだよな?」


 逆に全く関係のない質問を投げかけた。ルシファーは「ああそうさ」と返答し、ペラペラと自慢をするように自身の強さについて話を始める。霰はしばらく聞いていたが、すぐに飽きたのか欠伸をして、


「あー…口だけで例えられる程度の強さか。期待外れだな」

「アンタ、人間の癖にアタシに対して生意気な口を利くんだね」 

「人間の癖にって。お前もあのアスモデウスと同じことを言うんだな」 

「…! アンタ、あいつのことを知って…」


 雨空霰は駿に「少し下がってろ」と指示をして、制服のズボンのポケットに手を突っ込みながらルシファーの前に立つ。

 

「さあ見せてくれよ? 最も強い、"最強"とやらの力を」

  

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