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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第七章【ミクダシタイ】

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第40話【取捨選択はできますか?】

 

 先手を打とうと西村駿に槍を片手に飛びかかったのは小柄な天使。羽を大きく使って威嚇しながら駿の体を貫こうと槍を振り下ろすが、西村駿はその槍をひらりと回避し手に持つ剣で両羽を真っ二つに斬り裂いた。


「うぎゃああぁあぁあぁあ!!?」

「おい! 全員で奴を始末しろ!!」


 リーダー格の天使が声を張り上げてそう命令をすると、次々に天使たちが動き始め手に持つ武器で西村駿を殺そうと襲い掛かってくる。天使とは思えない形相だ。そんな天使たちを駿は焦ることなく、冷静に一体ずつ剣で捌きながら対処をしていた。紫黒高等学校の不良たちを片付ける感覚、それとほぼ同じものだろう。


「何をしている!? 相手は人間たった一人だぞ!」 


 その数は五十を超えるであろう天使隊。その数で襲い掛かっても、たった一人の人間さえ仕留められないのだ。胸を張って威張り倒していたリーダー格の天使も汗を額から流し始めている。人間のどこにそんな力が…とでも言いたげな顔をしているが、駿自身にもそれは分からない。


「これで、終わりだ」


 白銀の剣が光を灯したと同時に西村駿は大きく天使たちを薙ぎ払う。薙ぎ払いから派生されるかのように漫画でしか見たことがない斬撃が飛び出し、天使たちの上半身と下半身を二つに斬り離した。


「全滅、だと?」


 目の前で起きた信じられない光景に汗水をたらしながら、一人残された隊長天使は口を開いたまま硬直する。

 自分が育て上げてきた部下たちが一瞬で殺されてしまったのだ。精神的に衝撃を受けてもおかしくなかった。


「次はお前か? 来るなら来い」


 愕然としている隊長天使のプライドを更に汚そうと試みる駿は挑発するようにして剣の剣先を向けた。天使の中でも隊長の素質があるであろうその男は、普段ならばその程度の挑発に乗るほど安い意志は持っていなかったが状況が非常に悪いため


「なめるなよ人間…!!」 


 その挑発に乗ってしまった。大剣を構える姿は先ほどとは大違いのド素人に近いものだ。西村駿はそれを目にして笑みを浮かべると、


「…お前も人間をなめるな」


 大剣を持つ天使の腕を斬り落とし、鎧を白銀の剣でいとも容易く貫いて心臓部を突き刺した。

 隊長であろう天使は情けなく口から血反吐を吐きながら呻き声を上げる。駿からすれば隊長と名乗る天使も無謀に襲い掛かってきた部下の天使たちも変わらない。


「答えろ。誰の命令で俺を消そうとした?」

「早く、くたばるんだな」 


 最後の言葉に何を言うかと思えば駿に対しての暴言だった。天使は本当に自分の想像していたものとは違うものだ。西村駿は剣を心臓部から引き抜くと、倒れていくリーダー格の天使を横目で流しながら廊下の奥を見据えた。


「この先に進むか。何か分かるかもしれないからな」


 何者かが未だに自分の命を狙っていることだけはよく分かる。天使たちも先ほどの集団以外にも存在するかもしれない。駿はいつどこから敵が姿を現してもいいように剣を構えながら廊下の奥へ奥へと歩き続ける。


「…趣味の悪い扉だ」


 真っ白な宮殿に似つかわしくない不気味な瞳が描かれた扉。まるでいつも見ているぞと言わんばかりの迫力に西村駿は息を呑みながら、扉へと手を掛けて中へ入る。入らないという選択肢はなかった。何故なら廊下の奥にはこの扉しかなかったからだ。


「何も見えない、な」 


 陽の光を遮断しているのか一寸先も見えない暗闇。西村駿はもう少し様子見をしてから進もうと考え、後戻りをしようとするがすぐそこにあったはずの帰り道は暗闇と共に消え去ってしまっていた。


(…そうか。懐中電灯でも創り出せばいいんだ)


 駿は剣を持っていない方の手に懐中電灯を創造すると、辺りを照らすためにスイッチをオンにした。しかしそこには壁も天井も無い…すべてが終わりの見えない闇として辺りを包んでいるようだ。これじゃあ明かりを手にした意味もなくなるではないか。


『怖くて進めないのか?』

「…誰だ?」


 先に進む一歩さえ踏み出せない駿を嘲笑うかのような女性の声が暗闇の中に響く。気配は辺りのどこからも感じない。まるで校内放送でも聞いているかのような気分だ。


『そんなお前にはやってもらうことがある…前を見てみろ』


 スポットライトのような光の円が二つほど視線の先で照らされる。そこには犯罪慣れをしていそうな厳つい顔の男と無垢な趣を感じさせる男がギロチン台に捕まっていた。


『そこにいる二人の男は罪を犯している。処刑すべき男を誰か答えろ』

「何がしたいんだ? そもそもお前は何者なんだ…?」 

『いいからさっさと答えな。さもなくば…』


 駿は首の後ろに金属特有の冷たい感触が伝わってくるのを感じる。口に出して回答をしなければ自分の首が切断されるのだと西村駿はすぐにそう悟った。天使たちよりも遥かに強大な力が駿を殺そうと試みているのだ。


(処刑すべき男…それは誰かっていう質問だが…)

『どうしたんだ?早く答えてみせろ』

「お前は選べとは言っていない。二人とも罪を犯しているのなら両者とも処刑すべきなんだろう?」 


 女性の声は西村駿の言った通り、"選べ"などとは一言も口にしてなかった。両者とも罪を犯しているという前提で処刑すべき男は誰なのかを聞いてきた。罪を犯している時点で両者とも処刑されるべきなのだと駿は考える。


『よく分かったな。正解は両方の男だ』


 問いに対して正解をすると、両者ともの首にギロチンが落ちて鈍い音を立てる。真っ赤な血液を首の切れ目から噴出して、身体もろともギロチン台から転がり落ち、鉄の匂いを暗闇の中に充満させた。


『次だ。まずはこれを見てみろ』


 何事もなかったかのように平然と次へと進める女性の声は、夢の中とはいえど人の命を何とも思わない残忍なものだ。西村駿はすぐそばまで死が近づいているこの状態で歯向かえず、ただ黙って次の問いかけを聞くことだけしかできない。


(……あれは)


 次に視線の先に現れたのは中世ヨーロッパで刑罰や拷問に用いられたとされる拷問具、アイアンメイデンだった。ギロチン台と同じく数は二つだ。 アイアンメイデンの腹部の扉が開いた状態でその中には人間らしきものが見える。


「助けてお兄ちゃん…!!」

「若僧! ワシを助けてくれぇ…!!」


 右側には泣きじゃくって助けを求める少年、左側には白い髭を生やした老人。それぞれがアイアンメイデンの中に入れられて、必死に西村駿へと助けを求めていたのだ。


『お前ならどちらを助ける? 子供を助けるのなら右のスイッチを、老人を助けるのなら左のスイッチを押せ』

「…どういうことだ? こんなの正解なんて…」

『ああ、ないな。どちらを選んでもお前が死ぬことはないだろう』


 西村駿は創り出された夢の中だということを心の中で自分に言い聞かせる。普通なら誰もが右のスイッチを押すだろう。あの子供は死ぬにはまだ早すぎるのだ。未来のない老人を助けるぐらいならまだ未来のある子供を助けた方が社会の為にもなる。


『ちなみにこの子供と老人は本物だ。ここで死ねば現実世界でも死ぬぞ』

「…!」 


 右側のスイッチを押そうと考えていた駿だったが、その真実を聞いたことにより思考を停止させてしまった。どうやって夢の中と現実世界をリンクさせるのかは不明だが、痛みや疲れを感じている時点でこの世界は正気の沙汰じゃない。発言の信憑性は十分に高いだろう。


 『十、九、八、七……』 

(どうする…? どちらかを選ばなければ俺が死ぬ。でも選んでしまえば誰かが死んで…) 


 カウントダウンは既に始まっていた。西村駿は震える手を押さえながら右のボタンへと手を掛ける。自分が正しい選択をしているとは思えない。だが、最良の選択だと自分の中で自負していた。

 

 言い訳のように聞こえるかもしれないが、誰でもこうしたはずだ。見ず知らずの老人が死んだところで自分には何の害もない。この状況下で正しい選択をしただけでも褒めてもらいたいぐらいだ。


「…すまない」


 駿は目を瞑りながら右のボタンを強く押した。自分を犠牲にしないという選択肢を取ったということを駿へ知らせるように老人の断末魔と肉を貫く嫌な音が耳に入る。深く考える時間はなかった、これ以上の策はない、正気を保つには自分を正当化させるしか他ならない。


「あ、ああ……」  


 少年は自分が助かったのだと安心して泣き止んでいた。西村駿は少年をすぐに助け出すために駆け寄ろうとしたが、


『――勘違いをしているようだから教えてやろう』

「何をして…!?」   


 駿が助けようとした少年の入ったアイアンメイデンが徐々に扉を閉じていく。西村駿は少年を中から引きずり出そうとしたが、間に合うはずもなく扉が閉まり、


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいた―――」 


 しばらく悲痛の声が続くと灯が消えるように何も聞こえなくなった。


『アタシは"どちらかを殺さない"…なんて言葉にした覚えはない』

「お前は、お前は何なんだ…!? こんなことをして何の意味が…」 


 駿はどこで見ているのか分からない声の主へと怒りをぶつけるようにして叫んだ。苦渋の選択を強いられて、子供だけでも助け出そうとしたのにその努力も苦しさも全て無駄にされた西村駿は怒りが収まらなかった。


『意味なんてないさ。これはただお前を苦しめることだけが目的だからな』

「この外道が…ッ!」   

『何を言われようが構わない。次の質問でお前を殺してやろう』


 次に照らされた個所は二か所だけでなく駿の前、後ろ、左、右の四か所だった。西村駿はそこに立っている人物たちを目にすると一瞬で表情を曇らせる。


「何でお前たちがここに!?」  


 前には白澤来、後ろには波川吹、右には神凪楓、左には木村玄輝が立っていたのだ。表向きで関わりの深い白澤来と波川吹、裏で関わりの深い神凪楓と木村玄輝。駿からすれば誰か一人を選び抜くことなど出来はしない。


『この中に本物と偽物がいる。偽物だと思う人物はこの銃で撃ち抜け』


 拳銃が一丁だけ暗闇の中から生み出され西村駿の足元に落とされる。西村駿は拳銃を拾い上げ、その手に感じる重みから実銃なのだと実感して自分の周りにいる友人たちへと視線を送る。


 見た目だけで判断するのは難しいはずだ。一人ずつ話を聞くことを許可しよう。時間は五分だ、偽物を全員撃ち抜かなければお前の首は斬り落とされる。


 駿は拳銃の安全装置を解除して一人ずつ話を聞くことにした。まずは正面に立っている白澤来。西村駿は白澤来の元へと近づいて銃を向ける。白澤来といえばロン毛にいつも笑顔で過ごしている楽観者。こんな状況でもヘラヘラとしていそうだが…


「オレの名前は白澤ら…」

「違うな。お前は白澤じゃない」


 話を最後まで聞く必要さえない。西村駿は拳銃の引き金を引いて白澤来を撃った。見た目だけで判断するのは難しいと女性の声は言っていたが、白澤来は今頃両腕に怪我を負って入院しているのだ。その情報だけで話を聞くまでもなく平然と立っているこの白澤来は偽物だということが分かる。


(…問題はここからだな) 


 正解だったのか白澤来の偽物が煙になって消えると、残りの波川吹、神凪楓、木村玄輝を見る。どれが偽物なのか。話を一人ずつじっくりと聞いて見極めなければならないようだ。


(先に吹からだな) 


「駿、わいは本物やで」

「…ああそうだな。お前のそのキノコヘアーを見間違えるわけがないだろ」

「そうやろ? ならわいは撃たんといてくれ」

「そうだな。ちなみにあの二人のどちらが偽物か分かるか?」

「どうなんやろ…わいにはどっちも怪しく見えるで」


 西村駿は「そうか」と乾いた返事をすると再び引き金を引いて波川吹に発砲する。 波川吹の特徴はキレやすい性格だ。キノコヘアーと煽れば口癖である「おおん!?」を口に出すはずだが、至って冷静で共感する始末。


 次に木村玄輝と神凪楓のどちらが怪しいかを聞いたとき、「どちらも怪しい」と答えたがこれもおかしい。日頃から神凪楓のことを嫌っている波川吹ならこの状況でも神凪楓を選ぶはずなのだ。これだけ証拠が揃えば疑う必要もなく銃の引き金を引くことが出来た。


(…次は玄輝か) 


 駿は関わることを避けていた木村玄輝と会話を交わすためにゆっくりと近づく。

 相も変わらず西村駿を見る目は気に入らないというような顔をしている。


「楓が偽物だ」

「…違う、玄輝は楓と下の名前で呼ばない。お前が偽物だ」


 拳銃を構えて引き金を引こうとしたが、


「よく考えてみろ。それは本当にちゃんとした理由になるのか?」

「…」

「お前の知らないところでおれと楓が関わりを持っていたかもしれないだろ?」


 玄輝が口に出したその可能性を否定することはできなかった。自分の知らないところで木村玄輝と神凪楓が関わりを持っていないと断言するには情報がかなり少ないのだ。西村駿は拳銃を降ろすと、しばらく考え先に神凪楓に話を聞くことにする。


「…」

「楓」

「……」


 声を掛けてみるが全く反応しない。返事どころか目の焦点すら合っていないのだ。

 これではヒントどころか余計に西村駿を惑わすだけで、確信を持てる証拠は何一つ得ることができない。一か八かで木村玄輝と神凪楓の片方だけ撃つという作戦もあるが、もし失敗してしまえば駿は友人を殺したことになる。


(…どうすればいい? 時間も残り少ない状況でどうやって偽物と本物を判別すれば…)

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