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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第六章『正』

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第38話『チャンスは今ですか?』

(…今日もいなかったな)


 あの事件があってから数日経ったがあれから木村玄輝と神凪楓は教室に一度も姿を現していなかった。テストも近いというのに神凪楓はともかく木村玄輝は来なければ授業で置いていかれるばかりだ。西村駿は二人の心配をしながらも夕暮れの生徒会室で東雲桜と書類を片付けていた。


「西村君? 最近疲れているように見えるけど…」

「…すまない。クラスのことでちょっと、な…」 


 木村玄輝の席に落書きをし、神凪楓の席を破壊した犯人は未だに見つからない。雨空霰曰く目星は付けられたが今はまだその時じゃないと何か意味があるような発言をしていた。

 

「わたしでよければ相談に乗るよ?」

「…大丈夫だ。東雲にこれ以上負担はかけられない」 

  

 口ではそう言っているが、実際は二年一組のクラス内問題が酷すぎることで誰にも相談が出来ないのだ。一際信頼を置けるであろう東雲桜にさえもそれは教えられない。


「…そっか。何かわたしに協力できることがあったら教えてね」


 東雲桜は少し寂しそうな表情を浮かべると書類を棚へと戻し始める。駿は心の中で「すまない東雲」と謝り、自分のすべき仕事へと取り掛かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「悪いな。こんなところに呼び出して」

「いや、全然構わないぜ。俺はいつでも暇だからな」

「お前が暇でも俺は暇じゃないんだ…」


 雨空霰は校庭の隅にひっそりと建っている物置の裏へと雫、絢、村正を呼び出していた。その理由はもちろん昨日の黒百合の件についてだ。


「昨日、黒百合玲子と少しだけ話した。アイツは思った以上に頭が回るヤツだ」

「俺さー? なーんか黒百合苦手なんだよなー…」 

「…私はあいつ嫌い」 


 早速話が逸れて黒百合玲子の悪口大会のようになりつつある二人を見兼ねた月影村正がため息を交じりの声を上げる。


「…で、どうだったんだ? 何か情報は掴めそうだったか?」

「まず一つ…アイツらは俺と雫が歳を偽造していることを知っていた」

「マジで!? おいどうすんだよこれから!」

「話を最後まで聞け…アイツらはそれを誰かに広めようとはしない。今回俺たちに接触してきたのはただ力量を計ろうとしただけだからな」


 黒百合玲子率いる五奉行は規律を乱されることを最も嫌う。編入生が二年一組に二人入ってきたと聞いて、どれほどのものなのかを試そうとしたに違いない。朧絢、月影村正との接点があると気が付かれたり、先回りをされていたことには驚いたが、自分たちが成し遂げようとしている目的の内容までには到底辿り着けていないように見えると霰は三人に説明する。

 

「互いに何も掴めず終いか…」

「そんなくよくよするなって村正! まだ時間はあるんだから!」


 肩を強めに叩く朧絢がムカついたのか村正は肘で絢の溝を突いてその場に跪かせる。こんなところで漫才を繰り広げないでくれと霰がジト目で村正の顔を見た。


「でも、これで勢力が大きく四つに分けられた」

「…四つ? 私たちと五奉行以外にも…?」 

「一つは【現実世界へと出てこようとしている七つの大罪たち】もう一つはそれを防ごうとしている【神凪楓が率いるユメ人たち】だ。今はこの二つの勢力がぶつかり合っている真っ最中…」 


 しかし神凪楓は入院し、木村玄輝は行方を暗ましているため、実質動けるのは金田信之と最近ユメ人に干渉できるようになったであろう鈴見優菜の二人だけしかいない。残る七つの大罪の悪魔は四体。二人だけで太刀打ちするなど無理に等しいはずだ。


「俺が敵対する勢力ならばこの機会を見逃さない。残った悪魔たち全員にユメ人へと介入するように指示をするだろうな」  

「ゲッ…マジかよ?」

「どうするんだ? そいつらを"見捨てるのか"、"見捨てないのか"」 

 

 見捨てるか、見捨てないか。その質問に対する答えは既に決まっていた。


「この先のことを考えれば見捨てることはできない。今回だけ手を貸してやるぞ」

「…仕方ないな」


 村正がそれを了承したのを確認すると、雨氷雫と朧絢が雨空霰へと視線を向ける。


「いいか? 残りは四体だ。一番目に来た悪魔は俺が、二番目は絢、三番目は村正、四番目は雫の順番で対処する。戦いは出来る限り素手で終わらせろ」 


 今まで投入してきた悪魔の強さを考えれば小手調べをしているように思える。三体目のアスモデウスであそこまでの強さを誇っているのならこの先に攻めてくる悪魔たちはそれ以上の強さなのは確実だ。 


「「「了解」」」


 霰の言葉に対して三人は口を揃えてそう答えると強く頷いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 時刻は深夜、西村駿は普段より疲労の溜まっている体を引きずりながら自宅へと帰宅する。親は仕事でまだ帰ってきていない。

 

(適当に何か作って食べるか…)


 早く横になりたい駿は冷凍食品を取り出して電子レンジの中へと突っ込みスイッチを入れる。三分で出来上がるのだが、その三分さえ妙に長く感じてしまう。


(今日は早めに寝るべきだな…)


 少し体調が悪いのかもしれないと西村駿は三分の間に浴室へと向かいシャワーを浴びることにする。


(…アイツ、大丈夫なのか?)


 西村駿はこんな時でさえも木村玄輝のことを心配していた。幼馴染だからという理由もあるが、行方を暗ます前に見た玄輝の姿はどこか苦しんでいるようにも見えたからだ。


(明日、玄輝の家に行ってみるか)


 テストまであと三日だ。クラスメイトとしても幼馴染としても一度は家を訪ねてみるべきだろう。駿はそう考えると髪と体を急いで洗い、シャワーで泡を流し浴室を出た。キッチンの方から電子レンジの温め終えた音が鳴り響いている。冷めないうちに食べてしまおうと駿はバスタオルで体を軽く拭くと、手短に着替え終えた。


(…少しだけ目が覚めてしまった)


 西村駿は熱々のカルボナーラを一瞬で平らげると、階段を上がって二階への自室へと向かう。ああ疲れたと独り言を呟きながらベッドへと飛び込むと不思議なことに眠気が再び襲ってくる。


【早く寝るんだ】

「…!」 


 眠気と同時にどこから声が聴こえてきたため思わず体を勢いよく起こして辺りを見回す。

 この部屋にいるのは自分ただ一人のはずなのに、駿は不気味に感じながらも気のせいということにして再びベッドへと横になった。


(疲労からの幻聴だろう。早く寝てしまおう) 


 駿はゆっくりと目を閉じて、明日すべきことを考えスケジュールを組み立てていく。しかしそのスケジュールが消えていくような感覚に襲われ、


【安心しなさい。アタシがそのスケジュールを組み立てておいてあげる】


 そんな声と共にゆっくりと意識を手放した。


「さてと…最初は俺の番だな」




 <同時刻>


「はぁ…暇だぜ」


 白澤来は動かすことができなかった両腕のうち、右腕だけ動かすことが可能になりイヤホンを耳につけて自分の大好きなEDMを聴いて時間を潰していた。心の底では学校にも行きたい、サッカーの練習をしたい…などといった欲が込み上げて白澤来は今すぐにでも体を動かして退院したかった。

 

(…気長に待つしかねぇよなぁー)


 実力テストやサッカーの試合前に内宮智花を庇った代償はかなり大きなものとなっていた。クラスを落とされる危機や、試合で足を引っ張ってしまうかもしれないハンデが白澤にとって大きな悩みとなっているのだ。


(駿に連絡してみるか) 


 この時間なら起きているであろう駿に相談しようとスマホで電話を掛ける。病院内での電話は禁止されているがバレなきゃ大丈夫だろうという軽い気持ちで画面をプッシュした。


(おかしいな) 


 西村駿はああ見えても電話はすぐに出てくれる性格のはずだが。

 白澤来はしばらく呼び出し音を聞いているが、まったく電話に出る様子がない。もしかして寝ているのかと申し訳ない気持ちになり、電話をすぐに切る。


「あー暇だな」


 暇という言葉を何度口に出したか覚えていない。病院で入院するということがどれだけ暇なのか。しかも両腕が使えない状態となればスマホさえ弄ることを禁止にされてしまう。

 

「そういや未穂姉が見舞いの品にカステラ持ってきてくれたっけ」

 

 柳未穂がお見舞いに来てくれた際に日持ちのことを考えて、フルーツカステラを持ってきてくれたことを思い出した白澤は机の上に置いてある袋を右手で取る。袋の中身を見てみると美味しそうなカステラが小包に入っていた。白澤来は感謝をしながらバナナと書かれている小包を一つ取って封を開ける。


「さすが未穂姉。美味しそうなカステラを選ぶなー!」


 一口サイズのカステラを口に入れてじっくりと堪能をすると飲み込んで水を口にする。小腹が満たされたおかげか少しだけ眠くなってきた白澤はすぐに病室のベッドへと横になり、窓の外を見た。


「アイツ、見舞いに来なかったなぁ…」


 白澤来には"白澤クスリ"という一つ下の妹がいる。白澤来とは正反対の落ち着いた性格を持ち合わせ、大人びた論理的な思考をしている妹だ。

 同じ真白高等学校に通っており、クラスは三組に所属している。

 

(んー…アイツ、何を考えているか時々分からないからな) 

 

 決して仲が悪いわけではないが、歳が上がるにつれて距離が遠くなっているような気がするのだ。自分のようにテンションを上げるようなことをしない白澤クスリに話しかけるのは少しだけ気が引ける。 


(まぁどうにかなるか。…それよりも今度、未穂姉に感謝しないと)


 月の光によって木々が星屑のように煌めき、窓の向こうに綺麗な景色を映し出す。白澤来は意識が窓に吸い込まれるような感覚を覚えながら、


【ヒャッハー!! オレ様がオマエの体を奪ってやるゼェェー!】 


 やかましい声と共に意識を失った。


「次は俺だな! よっしゃ! いっちょやってやるかー!」



 <同時刻>


「くっそ…わいやないのに…どうしてみんなわいのことを見るんや…」

 

 波川吹は自室の机に向かいながら頭を掻きむしり自分はやっていないと否定の言葉を何度も呟いていた。神凪楓ことを今の今まで触れもしなかった連中が、自分の事を視線で責め立ててくるのに対して我慢がならなかったのだ。ストレスが溜まりに溜まって好きで叩いていたドラムも最近ではストレス発散のために叩いてしまっていた。


「勉強も捗らへん…! 全部アイツのせいや…!!」 


 吹は机の上にある教科書やノートをすべて自室の壁に向かって投げ始める。怒りをぶつける場所がない、普段は大声で叫んで怒りを発散しているが今はそんな環境でもなく、発散どころかむしろ怒りが溜まっていくばかり。波川吹は手に持っているシャープペンシルを片手でへし折ると、ゴミ箱に乱雑に捨ててベッドへと仰向けになって倒れる。

 

「ああああぁぁ!!! もうほんまに腹立つッ!!」


 波川吹は現在体の中に溜まっている怒りを声に出して発散しようとしていた。

 しかし人間の体はそんなに都合のよい造りはしていないため、更に腹立たしさとストレスと苦しさが募っていくだけだ。


「もうテストなんて知らん…!! ふて寝したるわ!!」 

 

 自分を落ち着かせようと枕で自分の顔を隠すようにして目を瞑る。その時、波川吹は枕を自分自身の涙で濡らしていることに気が付いていなかった。どんな人間も怒りで悲しみを紛らわせることはできない、何故なら怒りと悲しみは同じ感情だから。怒りの感情が込み上げればどこかで悲しみの感情が浮かぶ。逆に悲しみの感情が込み上げればどこかで怒りの感情が浮かぶ。


【吾輩がその感情もろとも頂くぞ】

 

 そんな感情に躍らせれた波川吹もまた薄れゆく意識の中で何者かの声を聴いた。


「面倒だが…まあ少しぐらいは付き合ってやるよ」



 三人の悪魔が攻めてきたことでユメノ世界へ干渉するために霰、絢、村正が眠りについた。雨氷雫はそれを感じ取り、次はいつ来るかと構えていたが最後の一体はユメノ世界へと介入する様子がない。


(…私たちが待ち構えていることに気が付いて干渉するのをやめたの?)


 雨氷雫は一人残されたまま、自室のベッドで横になる。三人は今頃それぞれのユメノ世界で戦っていることだろう。


(…万が一のために準備をしておこう。援軍がいるかもしれないから)


 あの三人なら余程のことがない限り大丈夫だとは思うが念のため、と目を瞑って寝ないようにユメノ世界へと干渉する。その一歩手前まで踏みとどまり、ユメノ世界で何が起きているのかを上から観察することにした。

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