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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第六章『正』

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第37話『五奉行は何者ですか?』

「おはよー智花ちゃん!」

「あ、優菜ちゃん…もう大丈夫なの?」 

「うん。全然平気だよ」


 空きの教室へ机を運び終えた内宮智花の前に普段より元気な鈴見優菜が顔を出す。

 木村玄輝と神凪楓の席が消えていることにはまだ気が付いていない。智花は本人が自分から気が付くまで何も言わないようにしようとしていたが


「…あれ? 玄輝とガッシーは? 楓ちゃんもいないし…」

「……」

 

 すぐに教室に対する異変に気が付き、智花に尋ねてきた。内宮智花はあまり口に出したくなかったが、教えないというのも友人としてどうかと考え、重い口を開いて何があったのかを説明する。

 優菜も話を聞いている最中に「…酷いね」とやや怒りのこもった声で呟いていた。


「今は霰くんが犯人を見つけだそうとしてくれているんだけど…玄輝くんは教室を飛び出していったきり戻って来なくて…」

「どうして玄輝たちにそんなことを…夢の中で私のことを助けてくれたのに…」 

「……え?」


 内宮智花は鈴見優菜の言葉に耳を疑った。夢の中で助けてくれたのに、と空想に浸っているかのような発言をしているのだ。

 もしかしたら脳に何か障害を負ってしまっているのではないか、智花がそんな心配をしているとき


「…やぁ優菜」

「あ、ガッシー!」


 木村玄輝のことを追いかけて教室を出ていった金田信之が優菜に背後から声を掛けてきた。智花は信之に木村玄輝の行方を聞こうとしたが


「玄輝は大丈夫だったの?」

「ううん。途中で見失って…どこにいるのか分からなくなったよ」

「…玄輝も楓ちゃんも大丈夫なのかな」


 智花の頭の中に一つだけ疑問があった。それは机を壊した犯人が誰なのかではなく、鈴見優菜が金田信之や木村玄輝、神凪楓と仲が良かったのかということだ。

 教室内で滅多に話しているところを見かけていないのに加え、今まで"楓さん"と呼んでいたのが"楓ちゃん"へと変わっている。


(昨日のうちに一体何が…?)


 それは智花の知らない場所で何かあったことを意味する。しかし、智花はほぼ一日と断言していいほど寝たきりとなっていた鈴見優菜の側についていた。

 その時に見舞いへとやってきたのは西村駿や波川吹、そして父親である鈴見倉治だけだ。木村玄輝、金田信之、神凪楓の三人は一度も病室へと顔を出していない。


「智花ちゃん? どうしたの?」

「う…ううん、何でもないよ」


 自分の知らないところで何かが起きている。内宮智花はオカルト話などが苦手な性格のため、すぐに考えることを止めて西村駿に報告しようと席を立った。


「駿くん。ガッシーくんが玄輝くんを見失ったって…」

「…分かった。ありがとう」


 西村駿が怒りを露にしたのを見たとき、木村玄輝と神凪楓に何かしらの接点があることを内宮智花は察してしまった。それを理解してしまったからこそ、今の駿には声を掛けづらくなっているのだ。


「わいやない。わいはあんなこと…」

(…吹くん)


 誰も直接口にはしていないが、神凪楓の席を破壊した犯人はクラスの大半が波川吹だと疑っていた。神凪楓のことをかなり嫌っているうえ、嫌味ばかりを口にする波川吹が犯人だとしても納得がいくからだ。

 吹は周りの視線を浴びて距離を取られていることに気が付き、一人で席に座ってぼそぼそと独り言を呟いていた。


(どうしよう、このままじゃクラスが崩壊しちゃう…)


 クラス内に机や椅子に落書きしたり、破壊したりというイジメが起こればそれはたちまち校内の噂になる。それが学年トップの二年一組の教室となれば校内だけでは収まらない。三年一組の五奉行に知られれば、そこでこのクラスも立て直すことなく――終わりだろう。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆



「……」


 雨氷雫は学校終わりに一人で街灯の下を歩いていた。雨空霰は神凪楓の様子を見に行ったことで、今は別々行動をしている。


(…今日は嫌な感じだった)


 遅れて教室に来てみれば教室の空気は最悪なものだった。波川吹に向けられる疑心の視線、西村駿のピリピリとした雰囲気、内宮智花の暗い表情…それらが混ざりに混ざって居心地の悪い場所となっていた。

 その中で唯一まともだったのが、金田信之と鈴見優菜だった。表面上は心配しているものの、内面ではしっかりと根を持ち、教室の空気をものともしないように見えたのだ。

 

「…ちょっと待ちなさい」

「……」

「待ちなさいって言っているのが聞こえないの?」


 背後から聴こえてくるその声は聞き覚えがあるものだ。だからこそ雨氷雫は無視をしてその場から立ち去ろうとしたが


「無視するなんていい度胸ね」


 その人物が進行先へと立ち塞がり、歩みを無理矢理止めさせる。やっぱりかと雨氷雫は立ち塞がる五奉行の一人、松乃椿へと無表情のまま顔を向けた。


「何? 私は早く家へ帰りたい」

「あなたに聞きたいことがあるのよ」

「あなたに話すことは何もない」


 雨氷雫はキッパリそう言い切ると、違う道から帰ろうと松乃椿へ踵を返した。


「私も聞きたいことがあるんだよね~?」

 

 だが振り向いた先には柳未穂が待ち構えており、前と後ろで挟み撃ちをされてしまう。


「…聞きたいことがあるなら手短に聞いて。私は今かなり機嫌が悪いから」


 本当ならば武力行使でもしてこの状況を乗り切りたかったが、霰から「絶対に暴力沙汰を起こすな」と言われているため雫は仕方なく話を聞くことにした。


「今日はやけに教室内が静かだったじゃない? それに欠席人数も増えているっぽいけど…?」

「風邪を引いただけ。教室内が静かだったのもテストが近いから」 


 事情はすべて霰から聞いていたが、五奉行によってこのように探りを入れられるとは聞いていない。つまり雨空霰は五奉行によるこの動きを予期していなかったことになる。


「じゃあどうして来くんは家にもいないの~? 入院してるって聞いたけど~?」

「私は白澤来に興味がない。それに入院しているなんて初めて聞いた」


 柳未穂が白澤来と深い関わりがあることは知らなかった、恐らく雨空霰でさえ把握していないだろう。雨氷雫は誤魔化すために白澤と関わりがないことを話すと  


「…そうなんだ~! ならどうして昨日の夜に病院へ入っていったの~?」

(見られていた?)


 一瞬雨氷雫は自分を疑ったが周りには細心の注意を払っていた。その際に柳未穂や松乃椿の姿は一切見ていない。雫は朧絢から黒百合玲子に揺さぶりを掛けられたと報告があったことを思い出し


「病院? 私はその時間家にいたけど?」

「…本当かしら?」

「あなた達こそ、私を病院で見かけたというのは揺さぶりを掛けるための嘘でしょ?」


 図星だったのか柳未穂は「あははー…」と返答に困る様子で頬を引きつりながら笑みを浮かべていた。松乃椿は軽く舌打ちをして 


「…全く、どうして玲子はこいつに聞くよう指示をしたのかしら? こいつよりもボロを出しそうなやつらが星の数ほどいるのに…」  


 雨氷雫はその理由が何となく分かっていた。五奉行を率いる黒百合玲子は雨空霰、雨氷雫、朧絢、月影村正に繋がりがあることを見破っているうえで、実力を見極めようとしているのだ。

 雨空霰と同等な鋭い勘とずる賢い考えを持っている黒百合玲子はかなりの実力者なのだと雨氷雫は心に留めておくことにする。

 

「…話はそれだけ?」

「後はね~? あなたはもうちょっとスマイルを浮かべていた方が可愛いと思うよ~」

「余計なお世話」  


 雫は柳未穂に無愛想な伝え方をすると表情を崩すことなくその場を立ち去るように歩き始める。彼女らは振り返ることなく歩いていく無愛想で冷たい瞳を宿している雫の背後に二人の優雅な女性が憑いているように見えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「…雫も五奉行に狙われたか」


 神凪楓の病室に入ったと同時に雨氷雫から『五奉行の柳未穂と松乃椿にさっき声を掛けられた。』というメッセージが届く。それは雨空霰にとって予想していた通りの事態。

 霰は黒百合玲子の行動をすべて把握しているつもりだったが、ここで一つだけ予想外のことが起きてしまう。


「あなたが来るのを待っていましたわ」

「…黒百合玲子さん」


 この時間は既に帰宅しているはずの黒百合玲子が神凪零と神凪楓の病室で霰が来るのを待っていたのだ。不敵な笑みを浮かべている黒百合もまた行動を把握していることを霰は知らされる。

  

「なぜこの方が入院しているのかをご存じで?」

「…過労です。勉強をしすぎたんですよ」

「敬語はよろしくてよ。わたくしもあなたも"同学年"…でしょう?」


 霰が歳を偽造していることさえ黒百合玲子には分かっているようだ。ここまで来て誤魔化しはもう通用しないとでも言いたげな瞳を向けられた霰は正体を明かすことにする。


「正直侮っていたよ、黒百合。いつから俺たちが歳を偽っていると?」

「ふふっ…大したことではありませんわ。わたくしも今この瞬間まで知らなかったのですもの」

「…図ったな」 


 黒百合玲子にまんまと嵌められて失態を犯した雨空霰はため息をついた。取り敢えず霰は落ち着こうと病室にある椅子へと腰をかけて黒百合と向かい合う。絢も雫も回避してきた揺さぶりをここで掛けてくるとはかなり嫌な策士だ。


「これでもわたくし、誘導尋問は得意な方ですのよ?」

「…でも、お前はこのことを明かすつもりはないんだろ? 何か他に目的があるはずだ…例えば」


 ――"ユメノ世界"のこととか


 その言葉を聞いた黒百合玲子の顔から笑みが消えていく。常にポーカーフェイスを保っていた黒百合玲子は自分自身でもここまで表面上の顔を壊されるのは初めてだった。


「いつから気が付いていましたの? わたくしたちはボロを出した覚えはありませんわ」

「そうだな、お前たちはボロを出していない。だが、たった今気が付いたんだよ」

「…図りましたわね?」 


 愉快そうに笑みを浮かべている雨空霰の顔を黒百合玲子は苦笑いしながら睨む。仕返しをしてすっきりとした霰は神凪楓を見る。


「なら、これもすべてお前たちが?」

「ええ、わたくしたちが"神凪楓をユメ人から救い出して"あげましたの。そういう約束をしましたから」

「じゃあ何故今は見ているだけなんだ? お前たちも何が起こっているか分かっているんだろう?」 


 黒百合玲子はその問いに答えるように鞄から一枚のメモ用紙を取り出して霰に手渡す。


「わたくしたちは自分たちの手を汚したくはありませんの。それと…これを渡しておきますわ」

「…これは」


 霰が黒百合からメモ用紙を受け取ると上の隅に今日の日付とが記入され、下には一文だけが言葉が書かれていた。それは黒百合玲子からの警告なのだと雨空霰はすぐに理解する。


「わたくしたちは"制裁"をするだけ」


 黒百合玲子は霰にそれだけ伝えると病室を出て行ってしまう。黒百合の日記を受け取った雨空霰は鞄にそれを仕舞うとある一つの仮説を立てた。


「五奉行、アイツらは過去に何かがあった。神凪零が関係する何かが…」 

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