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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第六章『正』

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第35話『勉強をしていますか?』

「……少し早すぎたか?」


 木村玄輝は少し早めに二年一組の教室へ顔を出す。その理由は神凪楓を心配していたから、ユメノ世界では一度も口を交わすことがなかったことで玄輝はかなり不安に陥っていた。 

 

「早いな木村。そんなに神凪楓のことが心配だったか?」

「お前は」 


 神凪楓の席には木村玄輝を待っていたかのように雨空霰が足を組んでスマホを弄りながら座っていた。気に食わないやつの一人と朝から出会い、玄輝は明らかに不機嫌そうな顔をする。


「鈴見優菜は昨日の夜にすぐ退院して今日一日自宅で休養のため欠席だ。神凪楓は…二度と目を覚まさないかもしれないな」

「目を覚まさない? おいそれはどういうことだ?」 

「そのままの意味だ。アイツは【再生】を使い過ぎたせいで過労により体が壊されてしまった…危機一髪で病院に運び込まれたが、意識もかなり危うい状態だね」


 木村玄輝は雨空霰に詰め寄って話を詳しく聞こうとする。何よりも【再生】というユメノ世界を知らなければ知り得ることのない言葉を平然と使っていることが玄輝の癪に障った。


「何でお前が【再生】という言葉を知っている?」

「木村、残念だがお前からの質問に答える気はない。俺は"お前たち"に忠告をするためにここで待っていたんだ」

「忠告だって? それは一体…」


 雨空霰は真剣な表情を浮かべている玄輝を嘲笑いながら一言一句確実に玄輝の耳に、体に染みわたるようにこう言った。


「――雑魚が粋がるな」 

「…は?」

「お前たちを見ているとどうも背中がぞわぞわとする。アニメや漫画のように戦っていけばいつかは強くなって世界を救えるとでも思っているのか? 虫唾が走るよ。その甘い考えと非力なユメに」


 玄輝をからかうための冗談ではなく雨空霰の真意を伝える忠告。それは木村玄輝の心に強く刺さり、思わず霰の胸倉を掴んで


「お前ッ! 何が言いたいんだよ!?」

「二度とユメ人に干渉するなって言っているんだよ。お前や金田信之、神凪楓が弱すぎる」

「ふざけんなよ…! 楓が弱いだって!? アイツは諦めずに戦い続けていたんだぞ!?」   


 木村玄輝は自分が何を言われようと言い返すつもりはなかったが、神凪楓のことを悪く言われるのだけは我慢ならなかった。あれだけ楓が必死に戦ってきたことを侮辱するような発言はどうしても許せないのだ。

  

「諦めずに戦って? その結果、現実の自分は死にましただって? 自己犠牲をするのも甚だしい。弱いなら弱いなりに引っ込んでろよ」

「テメェッ…!」

「木村、俺はお前に聞いたよな? もしお前が世界を救う存在になったらどうするのかって。その時お前は「自分にはその器がない」と答えた。全くその通りだ、よく分かっているじゃないか」


 霰のその言葉に玄輝は拳を強く握って殴りかかろうとするが、手首を掴まれるとそのまま体を押されその場に転倒してしまう。


「もし、またその無謀な力で悪魔と戦おうとしたなら…俺が直々に殺してやるよ」

「…っ!!」


 倒れ込んでいる木村玄輝を見下しながら雨空霰は最後の忠告をすると、教室を出ていってしまう。一人教室に残された玄輝は教室の床に向かって自分自身の拳を何度も振り下ろす。

 

 玄輝は落ち着きを取り戻すまで自分の不甲斐なさに、甘ったるい思考に、弱い力に…怒りを込めて何度も拳を床へ叩き付けていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「…やっと体育祭の書類のまとめが終わったな」 

「うん! 西村君のおかげだよ!」


 西村駿と東雲桜はいつものように朝早く生徒会室に集まり、体育祭の資料の用意をしていた。今日も終わらないと思っていた二人は着々と作業を進めていたが、今日はすこぶる調子がよく朝のホームルームが始まる数分前に余裕をもって片づけることが出来た。


「あ、西村君。昨日は来なかったけど…何か用事があった?」

「…悪い。昨日は少し急用ができてな」


 紫黒高等学校に殴り込みへ向かったなどと流石に口に出すことはできないため、適当に急用ができたといって誤魔化すことにする。白澤来は一週間入院すれば日常生活に支障がでないほどまで回復すると医者は言っていた。

 優菜の意識も昨日の深夜に回復したと内宮智花から連絡があったため、西村駿はひとまず安心をできる心境になっていたのだ。


「そうなんだー…もしかして彼女とデートとか?」

「そんな用事だったら俺はこっちを優先する」

「そ、そうなんだ…」  


 東雲桜は少し照れながら顔を逸らした。西村駿はそんな桜を見て不思議に思いながらも、生徒会室を出て教室へと戻ろうとしたとき


「オッスオッス! 昨日は大変だったな駿!」


 生徒会室に相変わらずテンションが高い、朧絢が顔を覗かせた。


「絢先輩!」

「友達は大丈夫だったのか? 病院に運ばれ……」


 ペラペラと喋り続ける絢を西村駿は廊下へと押し出して生徒会室の扉を閉める。桜には教えるべきではないと先ほど考えたばかりなのに、陽気な絢によって軽々とばらされたらひとたまりもない。


「西村君、絢さんが今病院って」

「気のせいだ。俺を誰かと間違えて話しているんだろ」

「でも絢さんは駿君の名前を…」


 西村駿は時計を見ながら朝のホームルームが始まると理由を述べてその場から逃げ出すように生徒会室を出ていく。生徒会室を出ると廊下で絢が頭を掻きながら駿の事を待っていた。


「悪い悪いー! てっきり生徒会室に村正がいるかと思ってさー?」 

「気を付けてくださいよ絢先輩。昨日の事がバレたら学校中大騒ぎになるんですから」

「分かった分かった! ほら早く行けよ!」


 大きくハッキリと聞こえる声を上げる朧絢に駿はそう注意をすると、教室に戻るために階段の方へと歩いていく。その後姿を笑顔で見送ると絢は背後の曲がり角に向かってこう声を掛ける。


「…で、お前たちはそこでコソコソと何を見ているんだ?」

「あら? お気づきでしたの?」


 曲がり角の陰から姿を見せたのは黒百合玲子だった。朧絢はこの黒百合の存在に気が付いていたからこそ西村駿をすぐに送り出したのだ。


「立ち聞きなんて趣味が悪いじゃないか? そろそろ生徒会室に顔を出す気は…」

「ありませんわ」


 黒百合に即答をされた絢は苦笑いをしながら「そうか」と返答をする。朧絢は黒百合玲子とこれといった関わりはないが、互いに存在は知っていた。 

 黒百合は朧絢を『侮れないお調子者』と、朧絢は黒百合玲子の事を【苦手な副会長】として認識していたのだ。


「じゃあ何で立ち聞きなんてしていたんだ? 俺に何か用でも?」

「ええ、昨日は休暇を取っていらしたけど…どちらへ?」

「村正と遠くへ遊びに行っただけだ。テキトーに飯を食って、テキトーに買い物をしていたぞ」


 黒百合玲子は「そうでしたの」と納得をしたかと思えば、次に一枚の写真を胸元から取り出して絢に見せつける。


「でしたらこの写真は一体何ですの? …今の発言と矛盾していますわ」


 その写真には月影村正と朧絢が歩いている背中姿が写っているものだった。絢は一瞬だけ紫黒町にいるところを盗撮されたかと思ったがそれは間違いだということにすぐに気が付く。


「黒百合、一体何の話をしている? その写真に写っているのは俺と村正の後姿だけで、俺が話した内容と矛盾しているところなんて何一つないだろ」

「あらあら、わたくしったら…てっきりあなた方が紫黒町に出向いているのかと思って揺さぶりをかけてしまいましたわ」


 黒百合玲子は紫黒町という単語を一度も喋らず朧絢本人の口から隠していることを直接吐き出させ、証言を掴もうとしていたのだ。

 しかし朧絢はその誘導尋問に引っかかることなく受け答えをしたため、黒百合は勘が外れたと写真をしまって絢への疑いを自分の中で晴らした。 


「その性格直した方が良いぞ」

「お構いなく。わたくしはわたくしですから」


 用が済んだ黒百合玲子は朧絢に「それでは」と一礼をすると、華やかな歩き方で三年一組の教室へと帰っていった。


「…やっぱり黒百合を相手にするのは苦手だなー」


 

◇◆◇◆◇◆◇◆



「駿くん、昨日はごめんね」 

「気にするな、優菜も智花も無事だったんだ。怪我を負った白澤も一週間で退院できるらしいしな」


 教室での朝のホームルームが終わると内宮智花が西村駿に紫黒高等学校でのことを謝ってきたため、駿は気にしていないと伝え智花に罪悪感を植え付けないように対応する。


(白澤と優菜はともかく、楓も欠席か)


 今日の欠席者は三名だった。入院中の白澤来と自宅休養中の鈴見優菜はまだ分かるが神凪楓が未だに復帰してこない。疲労による体調変化と言っていたが、まだ体に疲労がたまっているのだろうか。


「実力テストに体育祭。欠席されたら困ることしかないんだけどな…」

「どないしたんや駿? そんな深刻そうな顔して」

「…欠席者が多いと思ってな」


 木村玄輝は何があったのか机に突っ伏したままだ。金田信之はそんな玄輝に声を掛けているがピクリとも反応をしていない。実力テストで点数を落としそうな二人に警告をしようと西村駿は二人の側まで近寄って


「後、一週間ちょっとで実力テストだぞ。勉強しなくていいのか?」


 ため息交じりに話しかける。一応心配をしているつもりなのだが、木村玄輝は


「…うるせぇ。話しかけんな」


 かなり不機嫌そうに西村駿に返答をする。そんな玄輝を滅多に見ない駿は首を傾げながら、何があったのかを聞こうとする。


「…どうしたんだ? 今日は普段より一段と機嫌が悪いじゃないか」

「そうなんだよ。僕が話しかけても全然反応してくれないし…」


 何か嫌な事でもあったのかもしれない、駿はそう考え実力テストに対する警告を済ませて、次に雨氷雫と話している雨空霰へと声を掛けた。


「トラはまだ体調が優れないのか?」

「見舞いに行った時、かなり体調が悪そうだったからな。実力テストまでに間に合いそうにないかもしれない」

「本当か? アイツなら余程のことがない限りクラスを落とされることはないと思うが…心配だ」


 西村駿が前に神凪楓の見舞いへ行った際は元気な様子だったため、あの時無理をさせていたのかと深く反省する。


「まあ俺がちょくちょく神凪の様子を見に行くから安心してくれ。お前も生徒会や部活で忙しそうだからな」

「…ああ、そうしてもらえると助かる」


 駿は霰に神凪の事を頼むことにし、実力テストに備えようと自分の席に着いてノートを取り出す。今回の実力テストの科目は『国語・数学・英語』だけだが、期末や中間などのテストの科目は『国語・数学・英語・化学・物理・生物・世界史・日本史・地理・倫理』に加え、芸術系統の『音楽・美術』という屈指の多さを誇る十二科目。 


 さすが国のトップである真白高等学校だ。優秀な者にだけ備わっている容量の多さを見極めようとかなりの科目を詰め込んで試してきている。


(範囲もぶっ飛んでいるな…これなら一般的な偏差値の大学入試の方が簡単だ)

   

 実力テストが三科目といえど、その範囲の広さには生徒全員が頭を悩ませる。学年順位で上位を取っている駿や桜でさえ満点を取ることは無理に等しい。


 満点を取ったことがある同じ学年の生徒は神凪楓ただ一人。去年は黒百合率いる五奉行の五人もそれぞれの得意科目で満点を取っていた。


「駿、何でこの英文は直訳するとこんな意味になるんや?」 

「これは後ろの文が肯定しているように見えているだけで、実際に訳してみると否定をしている意味になるんだ。だからこの文法は…」


 西村駿はクラスの中で神凪楓を除けば、最も学力のある生徒として教師からも一目置かれている。部活動での成績や、生徒会での実績といった幅広い活動が神凪楓よりも優れていることで推薦も奪い取れると噂されていた。


 しかし西村駿は幼馴染である神凪楓からその推薦を奪い取るなんてことはしたくないと考えているのだ。兄の神凪零の為に楓が必死に学業に励んでいたことは駿もよく知っていた。 

 だからこそ推薦の申し出を断り続けていたのだ。


「…霰」

「あー? 何だ?」

「楓の件はどうするの? 病院で入院していることがバレたら…」


 駿を見ていた雨空霰に雨氷雫が珍しく不安そうな表情を浮かべながらそう問いかける。霰は神凪楓のことは全く気にしていない様子で


「アイツは兄と一緒の病室だからな。余程のことがない限りバレないだろ」  


 神凪零の病室がいいと望んだのは神凪楓本人の意志。最初は霰も判断に迷ったが、隔離されている神凪零の病室ならば楓が入院していることもバレないだろうと考えそれを承諾した。


「…木村玄輝にあそこまで言う必要はあったの?」 

「昔のお前みたいだったからな。後先の事は考えず首を突っ込んで、挙句の果てには死にかけるなんて迷惑極まりないだろ」 

「私はあそこまで弱くない」


 木村玄輝と同じにされるのが気に食わないのか顔をむすっとさせて霰に強く口調で雫はそう言う。「はいはいそうだな」と霰は呆れるような視線を雨氷雫へ向けると、木村玄輝の方へと顔をずらした。


「…確かにお前の方が今は強いが、ああいうやつほど後々イレギュラーな存在となるんだ」

「そうなの?」


 納得がいかないような反応をする雨氷雫を他所に、雨空霰は木村玄輝に強い眼差しを向けていた。

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