IF【バッドエンドでアイサレタイ】
※こちらの物語はIFストーリーです。
「で、ここが例の城か?」
「おー…随分とデカい城だな」
月影村正と朧絢は某マウスランドでよく見かけるお姫様がいそうな城門前に辿り着いて、顔を上げながら城を眺めていた。
「霰が言うにはここにアスモデウスがいるらしいぜ」
「まぁ確かに嫌な気は感じるな。中へ入ってみるか」
二人は早速城門を潜ろうとしたとき、鎧を纏った兵士二人が村正たちの前に立ち塞がる。
「ここから先に何か御用でも?」
「この世界に住む人間の洗脳を解くために、お前たちの主を消しに来たんだ」
アスモデウスは鈴見優菜の肉体を奪った挙句、虚眼を発動し人間たちを洗脳していた。治安も規則もすべてが崩壊したこの世界はアスモデウスがいる限り、もはや立て直すことなど出来はしないのだ。
「なっ…!? そんなことはさせない!!」
兵士たちがぞろぞろと奥から出てきて、得物を構えながら村正と絢を取り囲む。朧絢は頭を掻きながら、少しだけ溜息を付いた。
「村正ー? もう少し誤魔化そうとしろよなー?」
「何を言ってもどうせ通してもらえない。それなら正直に話して強行突破した方がまだマシだ」
村正と絢は視線を交わしてタイミングを計ったと同時に、取り囲んでいる兵士たちを次々となぎ倒し始める。槍や長剣などが振り下ろされても、それらを逆に奪い取り、兵士たちに突き刺した。
「村正、女王はどこにいると思う?」
「決まってる。どうせあそこだ」
兵士たちの相手を終えた村正はこちらを見下ろせるガラス窓のある場所を指差す。絢がそこを見てみると、微かに女性が様子を確認している姿が目に入った。
「手っ取り早く始末するぞ」
「りょーかい!」
城の内部へと足を踏み入れれば、虚眼によって操られた数多くの兵士たちが襲い掛かってきたが、村正と絢は大して手負いすることなく撃退し、女王のいるであろう場所を探しながら城の中を走り回る。
「……こっちだな」
侵入者を迷わせようと企んでいるのか階段が入り組んだ城の内部は、非常に複雑に出来ていた。だが村正はその法則性からすぐに正解の道を導き出して、その方向へと走る。
「なぁ! どうして道が分かるんだよ?」
「俺だったらこの道を正解にするからだ」
絢はその返答に「はぁ……?」と理解していない様子を見せた。しかし月影村正の突き進む方向は、女王が待っているであろう最上階まで徐々に近づいているようで、壁や扉の装飾の質が一段階ずつ向上している。
「…ここがアイツのいる部屋だ」
「案外あっさりと到着したなー」
村正は一呼吸入れる間もなく、目の前にある少しだけ大きめの扉を蹴り飛ばして中へと入った。そこはやはり女王の部屋のようで、辺りの装飾品には眩しいほどの金や宝石で彩られている。
「お早いですね?」
「…鈴見優菜。いや、中身はアスモデウスか」
制服姿の鈴見優菜が玉座に腰を掛け、脚を組みながら村正たちへ視線を向ける。村正と絢はすぐにその正体に気が付き、視線を返すようにして睨み返した。
「私に何の用ですか?」
「分かっているだろ? 今からお前の権威が消えることぐらい」
アスモデウスは三拍手をして、自身の従者らしき人物を七人ほど隣の部屋から呼び出す。執事服とメイド服を纏い、目の前に並ぶ顔にはしっかりと見覚えがある。
「――駿、なのか?」
「…アイツが操っているんだろうな。あの七色の瞳で」
そこに立っているのは瞳に光を宿していない西村駿たちだった。先輩である村正たちを前にしても、武器を構えてこちらに襲い掛かってこようと段々とにじり寄ってくる。
「絢、こいつらを殺すぞ」
「待てよ。操っている本体だけ倒せば駿たちを助けられるんじゃ――」
「そんな都合のいいことをアイツがするとは思えない。狙いはそうやって自分ひとりだけを狙わせることと、俺たちが駿たちを助けようとする心があるかどうかを試すことだ」
月影村正の発言を聞いて、アスモデウスは「素晴らしい」と賞賛の声を上げた。
「私の考えを当てる人間など見たことありませんよ。あなたはかなり頭の切れる方のようだ」
「絢、やるぞ。束縛から解放してやることがアイツらにしてやれる弔いだ」
「……あぁ、分かったよ」
月影村正と朧絢は二人で顔を見合わせて頷くと、西村駿たちに接近をする。
「さぁ、殺し合いなさい」
絢は駿が手に持っている剣を紙一重で避け切り、肘打ちを腹部に食らわせた。そして追い討ちをかけるように駿が手に持っている剣を奪い取り――
「――ごめんな」
駿の心臓に突き刺した。自身の後輩である西村駿の身体が赤色に染まるのを見た絢は、目を瞑り次々と従者たちを殺していく。村正は表情を崩すことも、苦しそうな表情を見せることもなかった。慈悲を見せずに奪い取った武器で次々と従者たちを殺す。
「…お前」
一際腕の立つ従者がいると思えばその人物は神凪楓。村正はそこで初めて眉をひそめながら、楓の持つ銃剣と先ほど奪い取った大剣で鍔迫り合いをし火花を散らせた。
「助からない命にとって死は救い。そう教えてくれたのはあんただ」
村正は大剣で銃剣を押し返し、神凪楓のバランスを崩させ、
「――だから俺はあんたの教えを守る」
強く握りしめた大剣で楓の身体を斬り裂いた。力なく倒れていく楓に背を向け、大剣の矛先をアスモデウスへ向ける。
「次はお前の番だ」
周囲に見知った顔の死体が転がっている中で、朧絢と月影村正は呼吸を荒くすることもなく静かに佇んでいた。怒りも悲しみも、すべての感情を噛み殺して平然を装っているように見える。
「…あなた方は私の趣味が悪いとお思いですが、そもそもその方たちを生かしておいてほしいと私に頼み込んできたのは鈴見優菜様ご本人です」
「だったらなんだ? 俺たちが鈴見優菜の願いを守らなかったとでもいうのか?」
「ええその通りですよ。私は"生かしておいた"、というのにあなた方が全員殺してしまったのですから」
その言葉を耳にした途端、村正は手に持っている大剣をアスモデウスに向かって投擲する。向かってくる大剣をアスモデウスは首を動かし軽々と避けて、その場に立ち上がった。
「願いを守らなかったのはどっちなんだろうな…? あれで生かしておいたなんてとても思えないが?」
「悪魔と人間の"生かしておく"という考えは違いますから。私は私なりに生かしておいたつもりです」
「その理論が通じるのなら、俺たちはお前にこう言ってやる」
村正は近くに落ちている銃剣を拾い上げて、軽く振り回すと
「――ここでお前を殺す。この言葉は悪魔でも人間でも、意味が共通の言葉だろう?」
「いいえ、私たちにとって殺すという言葉は…相手に命乞いをさせるまで使いません」
「上等だ」
銃剣を構えながらアスモデウスに斬りかかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ずいぶんと派手に暴れてるな」
雨空霰は月影村正と朧絢の様子を見るためにアスモデウスが拠点としている城の近くまで来ていた。見下ろしてみれば鎧を身に着けた兵士たちが倒れており、見上げてみればいかにもボス部屋らしい場所の窓がすべて割れている。
「あー…これはやり過ぎだな」
取り敢えず、城の内部へと侵入して辺りを窺がう。
どうやら内部の兵士たちも全滅させたようだ。
「…待てッ!!」
「あー?」
背後から呼び止める声。
生き残りがいたのかと振り返ってみれば、
(子供か?)
少年がこちらにナイフを向けて立っていた。その手は一目見れば分かるほどに震えてしまっている。
「よくも、よくもみんなを…!!」
「やったのは俺じゃない。その証拠に俺の服は血で濡れていないだろ?」
「な、なんで血が付いていないからって証拠になるんだよ!?」
「考えてもみろ。この辺の死体はすべて刃物によって殺されている。つまりこいつらを殺すのには絶対に返り血を浴びないといけなくなるってことだろ?」
両の手の平を見せながら、自身の潔白を証明するついでに分かりやすいよう証拠となる理由を説明する。少年はその話を最後まで聞くとジロジロとこちらの服を眺め、返り血が付着していないことを確認した。
「…ほ、ほんとにおまえじゃないんだな」
「ああ、俺はただこの城の様子を見に来ただけ。お前はこんなところで何をやっているんだ?」
「それは――」
少年がそう言いかけた時、上の階からとてつもない衝撃が伝わってきたため、二人は天井を見上げて視線を交わした。
「女王様が…!!」
「女王?」
「うん…! 女王様の部屋から音が聞こえたから!」
村正と絢がその女王とやらと戦っているのだろう。そんなことを考えていると少年は入り組んでいる階段を一人でに登り始める。
「おい、どこへ行くんだ?」
「女王様のところ…! はやく助けてあげないと!!」
この少年は女王の部屋までの行き方を知っている、そう判断した雨空霰はその少年を脇に抱えて階段を駆け上がる。
「い、いっしょにきてくれるの!?」
「まぁな。俺がお前を運んでやるから、女王の部屋にはどっちへ行けばいいのかを道を案内しろ」
少年は一度も間違えることなく、女王の部屋まで的確に案内をした。何度もその部屋へと尋ねているからこそ、この長い入り組んだ道を覚えている。この少年は一体城で何をしていたのだろうか。
「ここだよっ!!」
最後の一段を上がり切ると、壊された扉の向こうには村正と絢が背を向けて立っていた。
「女王様ぁ!!」
少年は雨空霰の腕の中から綺麗にすり抜けて、そのまま絢と村正の元まで――
「え?」
女王の姿が見えれば、少年はその場に立ち止まった。血塗れになった服、あるべき場所にない片腕、口から赤色の液体を吐き出しながら倒れている。
「女王様、どうして?」
「逃げなさ、い」
鈴見優菜の声が少年をその場で呼び止める。
朧絢と月影村正は霰たちの存在に気が付くと、軽く手を挙げた。
「おまえたちが! みんなを殺したんだな!!」
少年は改めてナイフを構えて村正たちへと斬りかかるが、弱々しく勢いもないナイフの刃は宙を斬るだけ。村正と絢は視線で霰に「どうする?」と訴えかけてくる。
「フフフッ…! フッハハハハハ!!」
少年に何が起きているのかを説明しようとした時、女王として君臨していたアスモデウスが大笑いし始めた。
「あなた方は、私の策に嵌っていたのですよ」
「何だと?」
「確かに兵士や従者たちは私の眼の力で操っていましたが、どのように操っていたのかまでは分からないでしょう?」
戯言かと三人は無視をしようかと考えた。しかしアスモデウスはそれでもこう話を続ける。
「この城のある一室には沢山の子供たちが住んでいます。私は兵士や従者たちに世話をするようにと命じてありました」
「お前、まさか」
「そうそのまさかですよ! 子供たちは私が操ってはいない、純粋な人間。その人間たちは心優しい兵士たちに育てられ、仲睦まじい生活を送ってきた! それを壊したのは、そうあなた方なんですよ!」
アスモデウスはいつか自身が滅ぼされることを見越して、このような策を練っていた。子供たちの心を壊すために、無法者に後悔をさせるために。
「子供たちはあなた方を、この城の内部以外の人間を、信用できないでしょう!」
「こいつ、どこまでもふざけたことを――」
「アスモデウス、お前は一つ勘違いをしている」
月影村正がアスモデウスにトドメを刺そうとした瞬間に、雨空霰が声を上げて村正たちの元まで歩き出す。
「それで悪魔らしいことをしたとでも思っているのか?」
「な、何を…」
「あの時、お前にはこう言ってやるべきだったな」
雨空霰は少年の首筋に手刀を当てて気絶させ、アスモデウスを見下ろしながらハッキリとこう述べた。
「人間も悪魔も変わらない。悪魔の面しか持ち合わせていないお前たちよりも、悪魔の面も持ち合わせている人間の方が恐ろしい」
「――!!」
そして少年の持っていたナイフをアスモデウスの首筋に突き立てて、二度と喋らせまいと息の根を止める。
「お前の生まれ変わりが人間であることを祈ってるよ」
突き刺したナイフから手を離すと、月影村正と朧絢の肩を軽く叩いて小さな声でこう言った。
「俺は用事があるから先に帰っていろ」
「あ、あぁ…」
気絶している少年を担いで、部屋から出ていく雨空霰を朧絢は不思議そうに眺めていたが
「…絢、俺たちは言われた通り先に帰るぞ」
月影村正に背を押されたことで、自身も帰らざる負えなくなってしまった。階段を下り、城の外へ出るまでは会話を交わすことは一度もない。嫌でも目に入ってしまう亡骸のせいで、呼吸をすることさえ辛かった。
「おかえり」
霰の家へ辿り着くと、二人はすぐに風呂へと入り血の匂いを落とす。
雨氷雫は何があったのかを察しているのか、二人にはおかえりという言葉以外は投げかけない。三人とも別々の部屋で、ただ黙って時が過ぎるのを待っていた。
「…霰、おかえり」
「あぁ、ただいま」
数時間ぐらい経てば、雨空霰も帰ってくる。霰の着ている服は土にまみれているようだ。
「どうして服が土で汚れて――」
「子供たちを殺して埋めてきたんだろ?」
朧絢の言葉を遮るようにして、月影村正が霰の顔を見てそう尋ねる。そんなわけがない、と絢は否定をしてくれると信じて霰の表情を窺がうが、
「――ああ」
消えそうなほどか細い声で肯定をした。
絢がその答えを耳にすれば、すぐに側まで駆け寄って胸倉を掴みながら前後に大きく揺らし
「どうしてだよ!? 子供たちは何も悪くないだろ!?」
無実の子供たちを殺めたそのワケを問いただす。
月影村正は絢を止めようと肩に手を置くが、それを力強く振り払いながら雨空霰を壁際に叩き付けた。
「……自分たちを育ててくれた里親たちが人間に殺されたと知ったとき、子供たちは何を考えると思う?」
「そんなこと! 殺す理由に関係なんて――」
「人間たちへの復讐だよ。自分たちの幸せを奪った人間という存在に、ひたすら復讐心を抱き続ける」
ぽつぽつと喋り続ける霰は、絢と視線を合わることなく話をこう続けた。
「育てられていたとはいえ、人の殺し方を教わっていたかもしれない。そんな子供たちが成長すれば、俺たち人間社会で殺人を犯し、犯罪者というレッテルを貼られるだろう」
「――!」
「そうなる前に片付けるしかなかった。復讐心が膨らみに膨らんで、器を壊してしまわないよう、今のうちに殺すしかなかったんだ」
絢は雨空霰の胸倉を乱雑に離して、拳を握りしめながら背を向けた。
「…霰は汚れ役を引き受けたんだ。責めるべきじゃない」
「村正は知っていたのか? 霰が子供たちを殺そうとしていること」
「…まぁな」
月影村正は視線を逸らして、小さく頷く。
「どうして教えてくれなかったんだよ…?」
「あの場で教えたら、お前は霰を力づくで止めようとしただろ」
霰は服を整え、風呂場へと向かう。
その最中に三人に聞こえる声の大きさで、
「本当の悪魔は、俺たち人間なのかもしれないな」
そう呟いて洗面所の扉を潜っていった。残された三人は口を閉じたまま、何も喋ることが出来ない。そんな重たくも冷たい空気に包まれ、ただ呆然としていることで精一杯だった。




