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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第五章【アイサレタイ】

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第34話【家族に愛は必要ですか?】

「……」


 時刻は深夜を回り静けさに包まれた真白町の中、雨氷雫は雨空霰に頼まれ鈴見優菜たちが運ばれた病院へと足を運んでいた。病院内はナースたちが慌ただしく小走りをしており、明らかに何かが起きていることは見てとれた。


「ねえ…」

「あ、はい? どうかしましたか?」

「鈴見優菜の部屋番号を教えて」


 雫は受付のナースに鈴見優菜の部屋番号を聞き、上の階へ向かうためにエレベーターのボタンを押した。エレベーターを待っている最中にスマホへ霰からのメッセージが届き画面を確認する。


『片は付いた。俺はやる事があるからお前は鈴見優菜の安否確認を頼んだぞ』

『分かった』


 雨氷雫は霰にそう返信を返すとスマホを制服の裏ポケットにしまい、一階へ到着したエレベーターに乗り込んだ。優菜の病室がある階のボタンを押し、開いた扉を閉めようとしたとき


「すまない。私も乗せてくれ」


 灰色のスーツを着た中年の男性が雫と同じエレベーターに乗り込んできた。雫は中年の男性がエレベーターに乗り込むのを見てから、扉を閉めてエレベーターを動かし始める。


「……」


 雫はその中年の男性を背後から見ていたが、どこか焦っている様子だった。自身の家族の様態が急変したのか、交通事故にあってこの病院へと運ばれたのか…


(…この人どこかで見たことがある)


 どこで見たのかは覚えていないが、有名人なのは確かだ。雫はその男性の後姿を見つめながら誰なのかを思い出そうと考えていると目的の階へと到着する。

 扉が開くと同時にその男性は足早にその階へと降りて、病室の番号を一つずつ確認しながら行ってしまう。雨氷雫もエレベーターから降りると、病院内の地図を見ながら鈴見優菜の病室を探すことにした。


「…ここだ」


 案外降りてすぐの場所に優菜の病室はあった。スライド式のドアへと手を掛けて開こうとしたが、中から聞き覚えのある声が聞こえてきたためその手を止める。


「…優菜ちゃん!! 良かった、良かったよぉ!!」

「智花ちゃん、もしかして私が目を覚ますまでずっとここに…?」

「ごめんね、私のせいで…私のせいでこんなことになっちゃって…」 


 内宮智花の声だ。雫はすぐにそう理解できた。自分のせいだと思い込んでしまっている智花の声は今にも泣き出しそうな声で、優菜はそれに戸惑っているようだ。


「…ううん、違うよ。智花ちゃんのせいじゃない」

「でも、私が勝手なことしたからみんなや優菜ちゃんに迷惑をかけて」

「智花ちゃんは私を助けようとしてくれたんだから、迷惑なんかじゃないよ」

(この空気の中で私が病室に入るのはマズイ)


 鈴見優菜の側に内宮智花が今までずっと付き添っていたことは予想していなかった雨氷雫は、優菜とコンタクトが取れずどうしようかと考えていると、


「ここだな!」


 エレベーターの中で見かけた男性が雨氷雫の横を通り過ぎて病室の扉に手を掛けて中へと入っていく。


「優菜…!」 

「お父さん?」 


 優菜のその言葉によって男性の正体を雨氷雫は思い出す。鈴見倉治(すずみ そうじ)、鈴見グループの総帥であり世間から良い噂が立てられていない人物だ。一人娘の優菜が病院に運ばれたと聞いて、飛んで駆け付けたらしい。


「大丈夫なのか…!?」

「うん、私は全然大丈夫だけど…」

「その子は、White Strawberryに所属している」

「あ、えっと、その…」   


 優菜の父親の評判が悪いことは内宮智花も知っていた。少しだけ怯えているのか、声が小さくなりどう応答しようか迷っているようだ。


「そうか。君が優菜を学外まで連れ出して…」

「本当にごめんなさい! 私が勝手なことをしたせいで!」 

「お父さん、智花ちゃんは何も悪くない! 私が智花ちゃんを止められなかったから」


 雫は修羅場になることを予測して、扉を開く準備をしていた。厳格な父親が一体どのような手を下すか、内宮智花に暴力を振るうか、所属している事務所を武力で潰すか、雨氷雫は最悪な事態を制止しようと構えていたが、


「優菜が無事なら、それでいいんだ」

「え?」 

「すべて私が悪かったんだ。臆病だった私のせいで…」


 厳格な父親の口から出た言葉はあまりにも予想だにしていないものだった。血が繋がっている優菜でさえ、言葉を漏らし呆然としてしまっている。


「優菜、私はお前に嘘をついていた」

「お父さん? それってどういう」

「お前の母親は、事故で亡くなったんじゃない。殺されたんだ」

(殺された?) 


 雨氷雫は息を堪えながら聞き耳を立てて話を盗み聞きする。記事で見た情報では鈴見優菜の母親は不慮の事故で亡くなったと聞いたが、鈴見倉治曰くそれは違うらしい。


「私は信頼を寄せていた自身の秘書に裏切られたんだ。その秘書の正体は鈴見グループに派遣されたスパイ…迂闊だった。私だけでなく私の家族の情報諸共すべてを盗まれ――」


 殺し屋によって私の妻を亡き者にされてしまった。


「…【娘を殺されたくなければ言うことを聞け】、私はそう言われて今までこんなことをやってきたんだ」

(つまり、いつでも鈴見優菜を殺せる殺し屋がどこかに潜んでいるってこと?) 


 雫は鈴見グループの記事を見たとき悪評ばかりつかれていたのは三年前からだったことを思い出す。鈴見グループが設立されたのは数十年前、その時代に悪評などこれっぽっちもなかったことが父親の言葉の真意を明らかにした。


「じゃあ、お父さんが私に厳しくしていたのは」

「…仕方がなかったんだ。命令に背けばお前が殺されてしまうかもしれない。だから私はお前と距離を取ることにした」


 裏によって隠蔽された数々の事件が重なり続け、鈴見家は引き裂かれた。その事実を知った智花と優菜は衝撃を受け口を塞ぎながら俯いてしまう。


「どうして今まで黙っていたの? そのことを私に話してくれれば私だってお父さんに協力して…」

「口封じをされていた。もしお前に話したことがバレればお前が殺されてしまう」

「ならどうしていまさら…」 


 優菜の言葉に答えるように後ろポケットからナイフを取り出す。それを見た智花と優菜と思わず戦慄し軽く悲鳴を上げた。


「私はもう疲れた。お前が殺し屋に殺されるぐらいなら、私の手で…」

「待ってください…! 父親が娘を殺すなんて間違っています! 何か他に方法があるはずです!」 


 内宮智花が優菜の父親を止めようと腕に掴みかかるが、女子高生の力では敵うことなく振り払われてしまう。


「お父さん。私嫌だよ、死にたくない…」 

「大丈夫だ。私もすぐに後を追う。あの世で家族三人揃ってまた幸せに暮らそう」


 優菜の父親の目は完全に病み切っていた。精神を削られてきた毎日に限界を迎えていたのだ。止まることなく詰め寄ってくる父親に、


「お父さん…ッ!!」


 と優菜が力強く叫ぶと病室の扉が勢いよく開き、雨氷雫が優菜に向けられたナイフを蹴り飛ばして優菜の父親を阻止した。


「「雫さん!?」」

「君は、さっきの…」

「あなたがナイフを持っていることはエレベーターの中で分かった。何を考えているかと思えば、こんなくだらないこと?」


 雫は尻餅をついている内宮智花を立ち上がらせると、優菜の父親を睨みつける。これしか方法がない鈴見倉治は雫に邪魔をされ両手で頭を抱えて立ち膝をついた。


「私は、私はどうすればいい!? 優菜だけでも助けてやりたいのに!!」

「……?」


 雨氷雫は自身の裏ポケットでスマホが振動しているのに気が付き、取り出して画面を見てみると雨空霰から電話がかかってきていた。


「何?」

『そこに鈴見倉治はいるか? いたら電話を変わってくれ』


 雫は霰にそう言われると、スマホを無言でうなだれている優菜の父親へと手渡そうと近くまで歩み寄る。


「…何だ? 私に代われと?」 

「そう。あなたの積み重ねてきた努力が報われる時が来たのかもしれない」


 鈴見倉治は雨氷雫からスマホを受け取り、スピーカーの部分に耳を付ける。


『鈴見倉治か?』


 雨氷雫が電話に出たとき、霰の声だったものが変声器によって性別も分からないように変えられていた。


「…お前は?」

『名乗るほどの者でもない。お前に良い知らせを伝えようと思ってな』 


 優菜たちは電話越しの相手が何を話しているのか聞こえないこともあり、ただ黙って見ていることしかできない。しかし雫だけは霰が何かしら手助けになるような話をしているのだろうと察しがついていた。


『鈴見優菜を監視していた商売敵の殺し屋、そいつはもう始末した。お前が誰に何を話しても娘さんが危険に晒されることはないだろう』 

「始末だと? 一体どうやってそんなことを…」

『それともう一つ…お前の机の上に例のグループの情報を送ってある。どこを読んでも真っ黒な内容だ。これを証拠に警察でも裁判でも頼れば必ず勝てる』


 鈴見倉治は霰の言葉を聞くと通知音が鳴ったためすぐに自分のスマホを確認する。そこには送信者不明と表示され、画像が添付されているメールが届いていた。


「…これは!!」


 自分の仕事場の机の上に沢山の書類や写真が乗せられている画像を見た鈴見倉治は目を疑った。例のグループがしてきた不正の数々を示す証拠や、親族の情報…ありとあらゆるものが記載された書類が置かれているのだ。


「お前は誰なんだ…? 何故私を助ける?」

『お前を助けたんじゃない。そこにいる鈴見優菜を助けたんだ。…ともかくこれでもうお前は自由だ。この後の事は好きにしろ』


 霰は一方的にそう伝えると電話はすぐに切れた。優菜と智花は何を驚いているのか分からず、二人で顔を見合わせながら首を傾げているようだ。


「これで、私は自由? もう命令に従わなくてもいいのか?」

「さっきの電話の相手の言葉は信じてもいい。…あなたは救われたの」

「優菜! 私はやっと、やっとお前を愛することができる…!」 


 鈴見倉治が自分の娘である鈴見優菜を突然抱き寄せる。優菜はあまりにも急なことで戸惑っていたが、父親が目の前で涙を流している姿を見て何もかもが解決したのだと理解し、


「お父さん、私は大丈夫だよ。今のクラスには沢山の友達がいるから」


 そう安心させるように声を掛けた。見ることができないと思っていた家族愛を目の当たりにした智花は雨氷雫の顔を見て


「雫さん、これって…」

「鈴見グループ、もとい鈴見優菜の家庭の問題は解決した。これから先は鈴見優菜も変わることができると思う」

「それなら良かった」


 内宮智花は鈴見優菜の暗い顔を見なくてもいいのだと心が満たされる感覚を覚えて、自然と笑みを浮かべてしまっていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「前々から怪しいと思っていたが、案の定こういうことだったか…」

  

 雨空霰は鈴見グループについてかなり前から調査をしていたこともあり、何かしらの裏があることを知っていた。それが功を奏し鈴見優菜をユメ人から救うだけでなく、鈴見の家系も救うことが出来たのだ。


(次は神凪の家に行くか…)


 霰はスマホで『事は収まった』という雫のメッセージを見ると『お疲れさん。家に帰っておいてくれ』と返信を返してズボンのポケットへスマホをしまう。


「霰か?」

「ああ、西村か。どうしたんだこんな深夜に?」

「少し、な。気になることがあって」


 西村駿の恰好は制服のまま、つまりまだ家には一度も帰っていないということだ。こんな深夜まで何の用があって出歩いているのか気になった霰だったが、


「そうか。俺は今から用事があるからこれで」

 

 今は神凪楓の安否を確認するのを最優先にしたいがために気にすることもなく、歩いて神凪宅へと向かう。


(そういや…もうすぐテストだったっけ?)


 後一週間でクラス替えが掛かっている実力テストだというのに、色々と厄介ごとのせいで勉強がまともにできていない生徒が多い気がする。霰と雫は正直、勉強をしなくても余裕だったが木村玄輝や金田信之はかなり危ういのではないだろうか。


(ここだったな)


 雨空霰は早歩きで神凪楓の住んでいるマンションへと入り込み、部屋の前まで到達する。中からは物音ひとつ聞こえてこないため、霰は何か嫌なモノを感じすぐさま扉へと手を掛けたが


「鍵がかかっているのか」


 無理やりこじ開けることもできるがそれでは更にややこしい事態を招くため、右ポケットからキーピックを取り出して鍵穴を弄り回す。


「…よし」


 カチャッという解除音が聞こえてきたのを確認すると、扉をすぐに開いて部屋の中へと足を踏み入れる。中は真っ暗で足元さえ見えないため、スマホのライト機能を使いゆっくりと奥へ進んでいく。


(寝ているのか? それとも…)


 神凪楓の寝室の場所は一度来た時に把握しておいたことにより、リビングへ入ると迷うことなく右に曲がり寝室へと足を踏み入れた。


「…?」


 スマホのライトでベッドを照らすと、ベッドの上ではなく下で神凪楓が力尽きるように倒れていた。霰は神凪楓の容態を調べようと手を伸ばした瞬間


「――ッ!!」

「…何だよ? 大丈夫か?」 


 手を力強く掴み、何かを訴えかけるような視線を霰に送ってきたため若干驚きながら心配をする。しかし楓はうんともすんとも喋ることなく、ただただ強い視線を送ってくる。


「お前、まさか」


 衣服が汗によって乱れ、まともに呼吸が出来ていないように見える。それだけじゃなく、胸に耳を当てて心臓の鼓動を確認するがかなり弱々しいものだった。霰はすぐに状態を悟り、救急車を呼ぶことにする。


「いいか? 死にたくなかったら俺の言うことをよく聞け。今のお前の体は過労により体のあらゆる筋肉が痙攣して動けなくなっている状態だ。喋ることはおろか呼吸をすることさえ辛いだろう」

「――!!」 

「病院搬送まで間に合いそうにない。心肺停止を起こすだろうが一度お前を仮死状態にする」 


 霰は神凪楓の胸付近に手を置くと、心臓の大動脈の位置をしっかりと確認する。


「痙攣している筋肉に送る血液を少しの時間でも止めてしまえばまだ楽になるはずだ。タイムリミットは五分、それを過ぎればお前は何かしらの障害を負うが…」 


 神凪楓は「やりなさい」と視線で訴えかける。霰はそれを読み取り「…分かった」と了承すると手に力を込めた。


「…少しだけ死んでくれ」

「ッ?!」


 大動脈を一瞬だけ潰して、弱々しい心臓を停止させる。霰はすぐに痙攣していた神凪楓の体全体の筋肉をほぐすために脚、腕、体、首と至る所を揉んで処置を行った。


「…ここからが本番だ」 


 雨空霰は神凪楓の衣服を脱がすと鞄からAEDを取り出す。もしもの時のために霰は神凪楓の家へと向かう前に市販のものを買っていた。


「さてと、ちゃんと戻ってこいよ」


 楓の胸に電極パッドを貼り付ける。そして電気ショックを流す準備が完了してボタンを押すと


「流れたが、呼吸は戻らない」


 一定の間隔で電気ショックを心臓へと伝わらせるが、一向に息を吹き返さない。時間は3分経ち、そろそろ時間的にも限界が近く意識を取り戻さないと非常にマズイ状況となっていた。


「こうなったらやるしかないか…!」


 雨空霰は両手を神凪楓の胸へと置く。電気ショックと心臓マッサージでどうにか蘇生させようと試みようとしたのだ。


「チッ…」


 電気ショックが雨空霰の体にも流れるが、うろたえるわけにもいかないため腕を動かし心臓マッサージをする。すると、少しだけ楓の心臓がリズムを刻み始めた。


「げほッ! がはッ!!」

「いってぇなぁ。さすがに電気ショックは体に来るぞ」 


 痺れた腕を振りながら、呼吸を取り戻した楓の顔を上から覗き込む。ゆっくりと目を開いた神凪楓は霰の顔を見ると小さな声でこう呟いた。


「死ぬ、かと思ったわ…」

「まあ、死んだは死んだけどな」


 どうにか蘇生に成功した雨空霰は神凪楓の様態を再び確認してみる。完全に苦しさは消えていないものの、筋肉の痙攣が少し弱まったことにより呼吸の辛さや喋り辛さが少しだけ改善されていた。


「あんたが来なかったら、私は間違いなく死んで…」

「この様子じゃあ…お前はおよそ一か月半入院だな。あんまり無理をするなよ」

「でも私が戦わないと…またアイツらが来て…」 


 楓は言葉を言い終える前に気を失ってしまう。霰は楓の衣服を直すと、ベッドの上に運んで寝かしつけ、


「…こっから先は一時的に俺が受け持つ。神凪、お前は休んでいろ」


 既に意識を失っている楓にそう小声で囁いた。

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