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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第五章【アイサレタイ】

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第33話【救世主はだれですか?】

「あなた様は…」

「おー、何か凄い色してるなお前」

 

 壁を壊して大広間へと足を踏み入れた雨空霰は辺りを見回しながらアスモデウスへと一歩ずつ接近する。まるで観光しに来たかのように装飾品を物色している霰を見たアスモデウスは少々困惑をしていた。


「あなた様は誰ですか? いえ、そもそもどうしてそこの壁から姿を現して」

「まあ気にするなよ。俺はそこに倒れている二人とそこに立っている二人を助けに来たんだ」 

「この方たちのご友人ですか。まだ仲間がいたのですね」 


 アスモデウスは早速虚眼を扱い、雨空霰の瞳を捉えようとするが、


「何だ? 俺の顔に何か付いているか?」

「……!!」


 瞳を何十秒見つめても、雨空霰に効果がないのだ。これにはアスモデウスも驚きを隠せず眉間にしわを寄せながら、槍を生成して霰へと投げつける。


「おっと。随分と物騒なものを投げるね?」


 しかし、片手で軽く持ち手をキャッチして関係のない方向へと投げ飛ばした。アスモデウスは長年生きてきた中で視線の先にいる人間が相当危険なものだと悟り


「俺さ、まだ何もしてないんだけど」


 槍を霰の周囲に展開して、一斉に発射させた。アスモデウスはこれならば避けられないと考えていたが


「おおー…ユメノ世界っていうのはやっぱり何でもできるもんだな」

「なッ…?!」


 何が起こったのか周囲に展開されていた槍の矛先が一瞬にしてすべてアスモデウス自身に向いており、それが一斉に投げ飛ばされる。


(あの人間…! 何をして…!?)

「お前さ、今現在かなり焦ってるでしょ?」

「ぐはぁッ!?」


 気が付けば霰がアスモデウスの背後へと回り込んでおり、アスモデウスの後頭部を掴むとあり得ない馬鹿力でそのまま床へと顔面を叩き付けた。


「んー…やっぱりこいつらは偽物なのか…」

「何を訳の分からないことを…!!」


 アスモデウスは振り返りざまに槍で突き刺そうとするが、当たる寸前で霰は回避をすると回し蹴りでアスモデウスを壁際まで吹き飛ばした。


「前にも一応アスモデウスって名前の悪魔と戦ったことがあってさ。その時に会ったやつは自称本物らしいんだけど…その自称本物よりも弱いってことはあれが本物でこっちが偽物なのかなって思って」

「本物だとか偽物だとか、意味が分からないんですよ…!」


 ペラペラと嘘か真実かあやふやなことを喋り続ける霰に苛立ちを覚えたアスモデウスは、七色の光を強く発光させて雨空霰の視界を奪おうとする。


「神凪にも効かなかった目くらましが俺に効くとでも?」


 霰はその光に対して眩しさも何も感じていないようで、そのままゆっくりと前進していく。それを見たアスモデウスは徐々に焦りを感じ始めていた。


「もう一度さっきの技を見せてやるよ」


 そう言いながら雨空霰がしたのは右腕を掲げて指を鳴らすという行動だけ……たったそれだけの動作で


「ぐぅぁッ…!?」


 アスモデウスの右腕が何らかの力によって引きちぎられると、再び壁に体を強く打ち付けた。雨空霰は哀れむような眼差しで壁にへばりついているアスモデウスを見る。


「覚えているか? ここはユメノ世界…圧倒的な創造力さえ持っていれば何でもできるってことをな」

「分かりましたよ。あなた様は時間を止めたのですね?」


 一瞬で自身に向けられた周囲の槍の方向を変え、一瞬でアスモデウスの右腕を引きちぎり吹き飛ばした。そんな荒業は時を止めたとしか考えられないのだ。


「その通り。ユメノ世界といえども流石に時は止められないだろうと思ったが……創造力が強ければ案外何でもできるんだな」

「ふふ、参りました。私の降参としましょう」

「降参だって?」


 アスモデウスは右腕を元通りに修復すると、胸の前で手の平を見せながら白旗を上げる発言をした。何を企んでいるのかと霰は細心の注意を払いながら言葉を聞き返す。


「勝ち目がありませんから。私も素直に手を引くことにします」 

「…それはお前たちの仲間を裏切るということになるぞ」 

「仲間? 勘違いをしてもらっては困ります。私たちは確かに同じ七つの大罪ですが、仲間意識などこれっぽちもありません」


 雨空霰は倒れている神凪楓、鈴見優菜の様態を確認しながら余裕がなかったはずのアスモデウスを見る。何か策があるということは一目見れば誰でもわかる。しかし敢えてそれに乗ってやろうと考えた霰は、


「…ならさっさとここから消えろ。それと…もう二度とユメ人には関わるんじゃないぞ」


 警戒を解いて、アスモデウスから視線を外したその瞬間に、


「やはり人間が弱い理由は不必要な"慈悲"を持っているから――」

  

 霰の背中に赤い剣と水で生成されているであろう矢が突き刺さった。アスモデウスは考えていた策が上手くいったのかにやりと不敵な笑みを浮かべる。


「なるほどな」


 視線を背後へと向けるとそこには木村玄輝が赤い剣を持った姿で立っており、その少し離れたところでは金田信之が武器であるキーボード型の弓で水の矢を撃ち出していた。

 どうやらレヴィアタンの水を操る力、水流(ウォーターフロウ)を扱ったらしい。


「あなた様もさすがにお仲間二人の動きまでは警戒してはいなかったようですね」

「そういえば…虚眼で操れるんだったな」


 アスモデウスは自分自身に注意を向かせて、木村玄輝と金田信之を操り不意討ちができるように場所を移動させておいたのだ。この作戦で相手に損傷を与える確率は100%とアスモデウスは自負しており、勝ち筋もここからすべてプランを組み立てていた。


「……で? こんだけか?」

「…はい?」

「お前がもし仮にこれだけしか策を考えていないのなら…"拍子抜け"だ」


 人間である雨空霰になめられているアスモデウスはその言葉によって形相が変わり、木村玄輝と金田信之へ更に攻撃し続けるように虚眼で操ろうとした。


「…! 何故…? 何故命令を聞かない…!?」

「まあ落ち着けって…」 


 霰がスマホを取り出して画面をタップすると、体が光に包まれ姿を変えていく。髪が伸び、服装が変わり…光が徐々に消えていく中でそこに立っていたのは


「やっほー!」


 黒髪の長髪にブレザーの制服姿をした女子高生だった。性別だけでなく体に突き刺さっていた剣や水の矢も完全に消滅しており、これにはアスモデウスも口を開けたまま言葉を出せずにいる。


「ユメノ世界だから何でもできる。違う人物になりすますこともね」 


 スマホを持っていない手でピースをアスモデウスに向けて挑発をする霰。元ユメ人のトップの力、それを目の前で何度も見せられては紳士な対応をしていたアスモデウスも


「認めない…哀れな人間共がここまでの力を持っているだなんて…認められるわけが…」


 冷静さを失い、頭を掻きむしりながら歯ぎしりの音を立てる。女子高生に姿を変化させた霰は木村玄輝を軽く蹴り飛ばして、金田信之にぶつけると


「そろそろ目を覚ましなよ」

 

 一言だけ小さく呟いた。それを合図に木村玄輝と金田信之はアスモデウスによる虚眼の効果が切れ、頭を押さえながらその場に立つ。


「…んあ?」

「あれ…? ここはどこ?」

「もー! やっと起きたのー!?」 


 霰が二人の元まで近づくが、玄輝も信之もその女子高生が雨空霰だとは思わず「誰?」と二人揃って同じ言葉を発する。


「私はー…ほらあれだよ! ここはユメノ世界だから鈴見優菜ちゃんが生み出した存在!」


 玄輝は過去にユメノ世界で西村駿の偽物に助けられたことがあるため、すぐに納得をするが金田信之は首を傾げて何かが気になっているような素振りをしていた。


「ねぇ、君って僕と前にどこかで会ったことない?」 

「えー? 私は全然あなたのこと知らないけどー?」

「今はそんなことどうでもいい。これは、何が起きているんだ?」  


 倒れている鈴見優菜と神凪楓、そして七色に光る男性。ただならぬ光景に玄輝は霰に状況の説明を求めた。


「あそこに立っているのが色欲のアスモデウスでー、鈴見優菜ちゃんと神凪楓ちゃんはアスモデウスにやられちゃった☆」

「…! アイツが七つの大罪か…!!」

「何故ユメノ世界の記憶が残っているのですか? そのお二方は私の創り出したゲームの世界の記憶以外は消えたはずじゃ…」  

「"ユメノ世界は何でもできる"って言ったでしょ?」


 木村玄輝は剣を創り出して剣道の構えをし、金田信之もキーボード型の弓を創り出して鍵盤へ指を置いた。三対一となり、計画も全て台無しになったアスモデウスは拳を握りしめて


「もう結構です…! 体を奪うプランなどすべてどうでもいい…! 今はあなた方全員をここで消せれば私は満足です!!」

「ユメノ使者…!」


【…やっと目を覚ましたか】


 取り乱しているアスモデウスを見た玄輝はベルフェゴールを召喚すると、やれやれと手に持つ剣を赤色へと変化させて強化した。金田信之はそれを見て自分も召喚できるのか試したくなり


「ユメノ使者!」


 そう高らかに叫ぶ。すると信之の背後に水の塊が現れ、中から以前のように巨大ではないがそこそこ大きい蛇が顔を出した。


【何? ぼくを呼び出すなんて迷惑極まりないんだけど?】 

【ほう、結局お前も我と同じユメノ使者となってしまったのだな】 

【げっ、ベルじゃん。もう顔を合わせたくなかったのに…】

「…お二方…どういうおつもりですか? 人間に敗れたことは知っていましたが…その人間たちに呼び出されるとは…」 


 アスモデウスの存在に気が付いたレヴィアタンは「うわっ最悪」と声を上げ、それをベルフェゴールが「まぁよいではないか」と抑止する。奇妙な光景に玄輝と信之は苦笑いをしていた。


【済まないなアスモデウスよ。我らはどうやら元ユメ人の傘下になってしまっているようでな】

「傘下…? つまりあなた方は私たち悪魔の敵だと?」

【敵っていうかさー? この人間たちが消えたらぼくたちが消えちゃうから不可抗力ってやつー?】

「…まあいいでしょう。七つの大罪の名を汚したあなた方などどうでもいいです」 

  

 大広間の天井を埋め尽くすように槍が展開される。それを見た玄輝と信之はぎょっとして隠れられる場所を探そうとする。


【っていうかあそこで寝ているの楓ちゃんだよね!? しかも服が脱げてるじゃん! うひょーラッキー!】 


 レヴィアタンはアスモデウスなど眼中にないようで倒れている神凪楓の近くまで接近して、姿をジロジロと眺めていた。アスモデウスは陽気なレヴィアタンに無視をされたことが癪に障ったのか


「全員諸共ここで消えてください!!」


 槍を雨のように降らせ始める。ベルフェゴールは玄輝を守ろうと上に立ちはだかり、信之は水の矢で撃ち落とそうとしたが


【邪魔しないでよ!!】


 レヴィアタンが口から水を放射すると大広間の天井を覆うように壁が作られ、槍の動きがピタリと止まり塵のように消滅してしまう。


【アスモデウス、ぼくは今それどころじゃないんだ。これ以上邪魔をしたらただじゃおかないよ】

「その人間の方に余程の執着心があるようですが、残念でしたねレヴィアタン。もうその人間はほぼ死んでいるといっていいでしょう」

【はぁ? お前、楓ちゃんに何をした?】

「使い過ぎれば現実の体が死んでしまう【再生】という技を酷使させ、私の虚眼で操り自ら服を脱がせて恥ずかしい話を喋らせただけです。後は――」


 話を終える前にレヴィアタンは口を開きながらアスモデウスに噛みつこうと接近をする。噛みつきを飛び回りながら回避をするアスモデウスに向かってレヴィアタンが怒涛の声で


【ふざけるな変態野郎! ぼくはまだ名前しか聞いてないんだぞ…! ずるいじゃないか!!】

「そんなことで妬むなよ!」


 そんなことを叫んでいるが、怒るところはそこじゃないと玄輝と信之がツッコミを入れる。ベルフェゴールは西洋の剣を構えて


【我らも行くぞ。レヴィだけでは心もとない】

「了解…!」


 木村玄輝と共にアスモデウスへと接近をして斬りかかろうとする。金田信之もアスモデウスを狙うために水の矢を生成した。


「全く、しつこい方たちですね!」


 虫のように飛び回るアスモデウスを斬ろうと玄輝とベルフェゴールは息の合った連撃を繰り出すが、アスモデウスはかなり素早く動き回るため空振りするばかりだった。


【ねえ! こいつの動きを封じてくれない!? それぐらいできるでしょ!?】


 レヴィアタンが金田信之へと動きを封じるようにと呼び掛ける。そんなことができるのかは分からない信之だったが、自分の感性を信じて鍵盤に指を走らせウィリアム・バードが作曲をした【不幸なる我が身】を演奏する。


「体が動かしづらく…!?」

【貰ったぁ!】


 体の動きが鈍くなったアスモデウスを見逃すことなく、レヴィアタンが尾による叩き付けでアスモデウスを床にねじ伏せる。その隙を狙った玄輝とベルフェゴールが


【ふんっ!】

「おらぁッ!!」


 刀身が体内に深く入る型で剣を構えアスモデウスを斬り捨てた。アスモデウスは飛んで回避をしようとしたがために両脚が綺麗に落とされてしまう。


「鬱陶しいですねぇ…!」


 大広間の壁や天井の至る所に槍を突き刺したアスモデウスは、指を鳴らすと同時に七色の光を発するとそこからレーザーのようなもので玄輝たちへと攻撃を仕掛ける。


【レヴィよ。もう一度水の壁を作成してくれ】  

【わるいけど無理だね! こっちは女の子二人を守るのに必死なんだ!】


 神凪楓と鈴見優菜を背中に乗せてレーザーを回避しているレヴィアタンはベルフェゴールにそう返答をする。楓だけでなく優菜の事も助けてくれているのはレヴィアタンなりの優しさなのかもしれない。


「玄輝っ! 僕が防壁を作るから玄輝はあの槍を壊して!」 

「分かった…! ベルフェゴール! お前は天井の槍を壊してくれ! おれは自分の破壊できるところだけ破壊する!」 

【御意】


 ベルフェゴールは玄輝に指示された通り、レーザーを寸前でかわしながら発生源である槍を一本ずつ破壊する。玄輝も壁や床に刺さっている槍まで接近して剣を振りかぶった。


【ひゅー! よくやった!】


 レヴィアタンは背中に乗せている二人を金田信之の近くで降ろすと、レーザーの数が格段に減ったことで身動きが取れるようになり羽を広げているアスモデウスに向かって渾身の体当たりを放った。


【その紳士ぶっているのが前々から嫌いだったんだよ!】

「ぐぅ…!? レヴィアタン…! あなたは本当に私の邪魔しかしませんねぇ!」


 アスモデウスは体当たりを食らうと、受け身もできず天井まで高く吹き飛ばされる。ベルフェゴールは自分の元まで飛んできたアスモデウスへと西洋剣を体に突き刺し


【落ちろ】


 そのまま床まで急速に落下をし始めた。アスモデウスは抵抗もできないまま、床へ背中を強く打ち付けた後、ベルフェゴールの剣がより強く体内へと突き刺さった。


「…ッ!?」 


 この連携はアスモデウスに対しかなり効果的なものだった。その証拠にアスモデウスの体から七色ではなく白い光の塵が発せられ宙を舞っていたのだ。


「終わらせません…!!」

「ぐ…ッ!?」

「うわ…っ!!」


 アスモデウスは最後の力を振り絞り、四人全員に向けて光速に近い槍を一本撃ち出してそれぞれの腹部に突き刺すと壁際まで吹き飛ばした。


【チックショー! 動けないじゃないか!!】

【このままでは再生されるぞ】


 アスモデウスは四人が全員身動きが取れないのを確認すると、再生を行おうと全身に力を込める。玄輝や信之も【再生】を行い、何とかその場から動こうとするが槍が壁に深く刺さっているため激痛が走るだけだった。


「次の一撃で沈めてあげますよぉ…!」


【…そうそうアスモデウスくん? 君はぼくら四人だけを足止めしたけど…】


 精神を集中させているアスモデウスに近づく人物がたった一人いた。その人物は槍を持ち、ゲーム世界で勇者として戦っていた…


【最後を飾るのはぼくらじゃない……その子だよ】

「ありがとうみんな…! それと…色々とごめんね!」


 鈴見優菜だった。レヴィアタンは背中に乗せてレーザーを回避しているとき、気絶させている優菜を起こしていたのだ。レヴィアタンは時間がかかることを承知の上で状況説明を優菜にしたのだが、こういう場面に慣れているのかすぐに話を飲み込み、レヴィアタンの作戦を了承してくれた。


「何…ッ!?」 

「あなたの作ってくれたゲーム世界は本当に楽しかった…でも、私はあんな偽りの世界じゃなくて本物の世界で生きていかなきゃいけないんだ…!」


 優菜が片手に槍を持ち換える。ユメ人が強い意志を抱いた瞬間、ユメノ使者の力は弱まっていくためアスモデウスの七色の光が点滅をはじめ少しずつ消えていくようだった。


「何故です…!? 今のあの世界に何の価値があるんですか!? あなた様がよく分かっているはずです! 理不尽な運命で嫌われ者になったあなた様なら…!」

「…それが私の運命なんだよ。それをいまさら逃げたって、嘆いたって仕方がない」


 槍の矛先を説得しようと叫んでいるアスモデウスに向けながら優菜は側まで接近する。


「私ならあなた様を救えます! 今ならまだ間に合うんです! 私があなた様に力を貸せば現実世界の理不尽だって解決……」

「チートはダメだよ。それに、現実世界の理不尽さが問題なんかじゃない」


 アスモデウスに誘惑をされても戸惑うことをせず、槍をアスモデウスの心臓へと突き刺した。その表情は以前のように様々な恨みつらみを抱えているものではない。


「くるなぁぁぁぁあぁぁあああッッ!!!」


 槍を青色に光らせる。

 この力は機械的遊戯(プレイシステム)。優菜自身が今までプレイしてきたゲームに登場する奥義技や必殺技といった力を自由に扱うことができる能力だ。彼女はその能力を無意識のうちに発動していた。



「その理不尽さを私がどう考えるかが問題なんだ」



 槍が突き刺さった途端、アスモデウスの身体が氷結しその場で粉々に砕け散る。アスモデウスが消えたことにより四人に刺さっている槍は跡形もなく消え去り、身動きが取れるようになった。


【ははっ! ざまぁみろアスモデウス!】

【…これで一件落着だな】 


「ベルフェゴール、お前のおかげで助かった」

「レヴィアタンもありがとう!」


 木村玄輝と金田信之はそれぞれユメノ使者に感謝の言葉を述べると、二人ともすぐに姿を消してしまった。


「玄輝! ガッシー!」


 鈴見優菜が玄輝と信之の姿を見つけると手を振って呼び掛ける。優菜の呼ぶ声に安堵した二人は持っている武器を消すとすぐに駆け寄った。


「何とかなったな…」

「あの蛇みたいなモンスターから話は聞いたよ。二人は私を助けに来てくれたんだよね?」

「うん。そうなんだけど……」

「最初はまんまと嵌められたな…危うくあのゲームの世界に引きずり込まれるところだった」


 アスモデウスが消えた場所にユメノ結晶が浮かび上がる。玄輝は優菜にこれを破壊すれば現実世界に戻ることができると説明をすると


「そういえば、玄輝たちはどうやって虚眼から目を覚ましたの?」

 

 些細な疑問を問いかける。玄輝と信之は「そういえば…」と頭を捻らせるが何故正気に戻れたのかが思い出せずその問いかけに対する回答は出すことができなかった。


「偶然だった…のか? いや、でも何かあったような…」

「…あ! 楓ちゃんは!? ここまで運んであげてよ!」

「うん、それも話そうと思っていたんだけど…さすがにそれをすると僕と玄輝が殺される気がしてね」 


 優菜は楓が倒れている場所を見る。神凪楓は相変わらず下着姿で気絶をしている……確かにこれでは玄輝も信之も運ぶことはできない。


「ちょっと待ってて。私が制服着させてくるから」


 鈴見優菜は急いで服を着させようと楓の近くまで駆け寄っていく。着替えは優菜に任せることにした玄輝は


「お前、見たか?」

「…? 何を?」

「楓の下着姿だよ!」


 優菜と楓に背を向けている状態で信之と小声の会話をする。他愛もない話だが、今は気が抜けているのかそんな話がしたくなったのだ。


「見てないよ」

「…本当か?」

「…うん」

「お前、嘘ついているだろ? 正直に話せよ」

「…実はレヴィアタンが僕の近くまで運んでくるときにちょっとだけ」

「このやろ! この! テメェっ!」


 見たと白状した信之の首に手を掛けて、変なノリで信之の頭を叩く。そんな二人を楓を運んできた優菜は背後から見てしまう。


「二人とも何してるの?」

「あ…別に何でもないぞ」

「楓ちゃん着替えさせたからここまで運んできたよ」 


 非力な優菜でも女子高生一人を運ぶことが出来るのはユメノ世界の特権。実際、神凪楓は巨体のレヴィアタンとやり合っていたのだからその効果は絶大なのだろう。


「へえー、アスモデウスも倒したんだねー」


 大広間に声が響き渡る。その声を玄輝はよく覚えていた。


「…黒霧」 

「今回はどうだった? またその子はダウンしてるけど」


 大広間の祭壇の上に立ち、自分たちのことを見下ろす黒霧を見た玄輝は鋭い目で睨みつける。


「どうもこうもねぇよ。さっさとこのくだらない遊びをやめろ」

「あっははは! かなりご立腹かな?」 


 高笑いをする黒霧を見た木村玄輝は怒りが抑えられずにいた。黒霧のせいで周りにいる者たちが苦しんでいるのだ。


「本当はあなた達全員ゲームオーバーだったんだけどねー…ちょっと邪魔が入ったよ」

「…邪魔?」

「ううん、こっちの話だから気にしないでー。それじゃあ、次も頑張ってね!」


 黒霧は黒い霧に包まれ姿を跡形もなく消すと、辺りは静寂に包まれ唯一ユメノ結晶だけが光を照らす状態となっていた。


「玄輝、あの黒霧っていう人は…」

「アイツが七つの大罪を呼び出した張本人だ。おれやガッシーの時も今回と同様に悪魔が倒されてから姿を見せた」

「そう、なんだ…詳しい話は現実の世界で聞かせてよ」  


 優菜は槍を片手に創造すると、ユメノ結晶を破壊するために振り上げ



「ありがとう玄輝、ガッシー、楓ちゃん。私、やっと前を向いて戦っていけそうだよ」


 

 ――――曇りのない笑顔を見せると槍を振り下ろしてユメノ結晶を破壊した。



 IUST

 END





「…ふぅ、まぁなんとか助け出せた」


 本当にユメノ世界は何でもできる。木村玄輝たちの記憶操作でさえ可能にしてしまった。ユメノ世界は常識など頼りにならないらしい。


(ただ、こうなると厄介なのは)


 副管理人であるユメノ使者ではなく…ユメ人だ。ユメノ使者とユメ人の戦いではなく、ユメ人同士の戦い。これが最も厄介で最も凶悪なものとなり得るだろう。


(それと、もう一つの問題は)


 ―――神凪楓が生きているか…だ。

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