第29話【冒険は大変ですか?】
「何でお前がこの世界にいるんだよ?」
「何でって…。僕も玄輝の力になれるかなって…」
「違う、そういう意味じゃない」
玄輝が信之に聞きたいのは「どうしてユメノ世界に来ることが出来たのか」だった。ユメ人のユメノ世界へ介入できる条件を話した覚えはないのだ。【元ユメ人だということ】と【ユメノ世界での記憶があること】の条件は満たしているが、【ドリームキャッチャー】が必要だという話は微塵もしていない。
「あ、ガッシーだ」
「あ、優菜だ」
阿吽の呼吸で信之と優菜の二人が互いを発見する。勇者である優菜の登場によって人だかりが徐々に消えていく中で金田信之もピアノから手を離して伸びをしながら立ち上がった。
「また優菜さんの知り合いっスか?」
「うん。玄輝と同じ同僚みたいなものだよ」
会った時からレイタに玄輝たちの事を同僚と説明しているのは、この世界でクラスメイトという言葉は汎用されていないからだろうと玄輝は既に納得していた。少しずつゲームの世界に慣れてきているのが自分でも怖いが、慣れなければ戦うことができない。
「見たところ吟遊詩人っぽいスね」
「…レイタくん、四人目の仲間はこの人でもいいかな?」
「オレは全然いいっスよ! むしろ歓迎っス!」
ここまで積極的な優菜を見るのは初めてだった玄輝は一瞬だけレイタの方へ視線を逸らす。本当に楽しそうなのだ。きっと今までゲームと共に生きてきたことが役に立ち、唯一活躍できる場だからこそなのだろう。
「ねえ、役職を変えていこうよ玄輝」
「変えるって言われてもなぁ…正直何が強いのかよく分かんねぇ…」
「仕方ないなー。私がオススメを教えてあげるよ」
優菜に手を引かれるまま歩いていると役職を変えるための受付まで辿り着く。話しかけるように言われた玄輝はNPCの受付嬢へ声を掛ける。
『こんにちは! 役職変更をご希望ですか?』
「あ、あぁ…」
『どちらの職へと転職しますか?』
受付嬢に案内をされるとメッセージウィンドウに沢山の職業が表示される。これは優菜が創り出したユメノ世界。ゲームにこだわるだけあり、完成度も高いものとなっているようだ。
「…で、どれがオススメなんだ?」
「うーん…この世界だったら魔法戦士が一強っぽいよ。だから私は取り敢えず前衛職を全てカンストさせて攻撃力と防御力と体力を底上げしてから、魔法使いをやってるんだけど…もうすぐ魔法使いがカンストするから魔法戦士へやっと転職できるんだよね。魔法使いは前衛も後衛もできるからこれからのパーティー効率を考えれば、ガッシーは後衛でレイタくんは前衛で…今必要なのは後衛か前衛のどちらかで中衛は必要ないかなー? あ、でももしかしたらこの先の敵で中衛が必要になる可能性もあるから中衛でもいいかも。装備とか結構お金かかるし地道にクエスト消化をして装備強化をしていけば取り敢えずは大丈夫だと思うよ?」
「お、おう」
何を言っているのか理解できない玄輝は長々と説明をする優菜にドン引きして顔を引きつっていた。ほんの少しでも真面目に聞こうと思った自分が馬鹿のように思えた玄輝は、適当に剣が扱えそうな【剣士】という職を選択する。
「剣士かー! いいと思うよ! 前衛に極振りだから後衛はできないけど、その分火力と固さはかなりのものだから存分に活躍できるんじゃないかな。ガッシーや私にバフを掛けてもらえれば最大火力が3.8倍になるから相当強いよ。剣士の玄輝が盾になってくれれば盗賊のレイタくんが敵のアイテムを安全に盗むことも出来るし、レベル上げも捗るから必要不可欠の存在に……」
「優菜、もう分かった。分かったから早いところ魔王とやらを倒しに行こう」
レイタは普段通りニコニコしながら優菜の話を聞き、金田信之は訳が分からないといった表情で目が点になっていた。このままここで話していれば時間の無駄になると玄輝は魔王を倒しに行こうと考案する。
「その前にレベル上げした方がいいかもしれないっスね。ゲンキ先輩もガッシー先輩もまだレベルが低いっスから」
「うん、レイタくんの言う通りだよ。今から日が暮れるまでこの辺りでレベル上げをして、宿屋で休んでから明日出発しよう」
「おい待ってくれ…そんな時間は…」
そんな時間はない、はず。ここはユメノ世界で鈴見優菜が悪魔に狙われているのだ。日が経てば経つほど現実世界の日数が経ってしまう。
「玄輝? どうしたの? 僕たちも行かないと…」
「ガッシー、いいか? おれらの敵は魔王じゃない。優菜を狙う悪魔だ」
「うん、分かってる。でも今は優菜を守るため共に行動した方がいいでしょ?」
玄輝は信之にそう忠告をするが、それは自分に言い聞かせているようにも思えた。ゲームの世界がユメノ世界だということを忘れてしまわないか不安で仕方がないのだ。
「ところで…その頭に乗せているベレー帽は何だ?」
「これ? 玄輝や楓が何かしら特徴的なものを着けていたから僕も着けようかなって」
金田信之は頭に乗っている赤色のベレー帽を自慢するように玄輝へ見せてきたため、「ああそうか」と乾いた返答をして優菜たちの元まで歩いていく。
「ちょっと待ってよ玄輝!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふー…今日も一日疲れたっスね」
「そうだな」
結局玄輝は日が暮れるまで優菜たちと共に町の周辺で魔物狩りでレベル上げをしてしまった。最初はレベル1だった二人は、レベル68という高レベル領域に突入しその辺の雑魚ならば一撃で葬ることが可能になったのだ。
レベル上げが終わり宿屋へ戻ろうとしたとき、優菜は先に魔法戦士へ転職してくると子供のようにはしゃぎながら酒場へ走っていった。
「僕たちもかなり強くなったからね。レイタや優菜が戦い慣れていて助かったよ」
「そんなことないっスよ! ガッシー先輩のバフの影響のおかげでもあるし、優菜さんやゲンキ先輩のフォローも大きかったっスから!」
レイタ、ガッシー、玄輝の三人は優菜が戻ってくる前に先に宿屋で休みながら今日の成果を褒め称えていた。出会った時はまだレイタの事を完成度の高いNPCとして見ていた玄輝も、共に魔物狩りをしその人間味あふれる個性に心を許しつつある状態だ。
「…どうしてレイタは優菜と魔王を倒す度に出ようと思ったんだ?」
「そういえば話してなかったスね。暗い話はあまりしたくないんスけど…ゲンキ先輩やガッシー先輩には話しておきます」
レイタは重い口を開いて自分自身の過去を話し始める。玄輝とガッシーはレイタの過去の話に思わず息を呑んだ。
話によれば数週間前ほど前、レイタは小さな村で両親と共に過ごしていた幸せな日々を魔王の手によって奪われたらしい……玄輝たちもここまでは普通に聞いていたのだが、ここからが過酷なものだった。
それは魔王の送り込んだ魔物たちによって村の人々や両親が殺されていく姿を逃げることもできず最初から最後まで目の当たりにしていたこと。やっと立ち上がりその場から逃げ出したころにはレイタ以外は全員死んでいただとか…
「その後はただ復讐のために魔物を倒して強くなろうとしていました。でもまだまだ弱いオレには魔物一匹さえ倒すことができなくて…情けないことに死にかけたんス」
「その時…優菜に助けてもらったのか?」
「そうっス。オレは優菜さんに命を救ってもらいました。その時の優菜さんは復讐だけを考えているオレと違って…楽しそうに魔物を倒していたんっスよ」
それもそれで怖い話だが優菜ならゲーム関係の事を全力で楽しめるのだろうと玄輝はどこかで納得してしまう。優菜にとってはゲームだが、レイタにとってはこの世界が現実……なんとも残酷な話だ。
「そのとき気づいたんっス。復讐だけじゃ強くなれないことを…だからオレは優菜さんに仲間にしてほしいって頼んだんっスよ」
「…そんなことがあったんだね。僕たちレイタにそんな事情があったなんて知らなかったよ」
「気にしないでいいんスよ。今はこうして四人全員同じ目的で旅を出来るのが嬉しいんスから」
レイタは心からそう思っている。木村玄輝と金田信之はレイタを疑う余地などはなく、魔王を倒すという大きな目標に対する意志が更に強くなる一方だった。
「みんなー! 見てよこれー!」
「おお! 魔法戦士の装備一新してきたんスね! 似合ってますよ優菜さん!」
優菜の装備が変わっているのを目にしたレイタが場を盛り上げた後、共感してほしいのか玄輝と信之の方へ視線を送る。
「僕もその装備似合っていると思うよ!」
「まあ、流石選ばれし勇者って感じだな」
玄輝たちは明日の目的や作戦などを立てると、体を休めるためにそれぞれ各自の部屋で眠りにつくことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『オマエたちが勇者とやらか?』
「気を付けてください! コイツは魔王によって造られた手下の魔物っス!」
魔王城へ向かうために通らなければならない洞窟で玄輝たちは紫色のローブを纏った骸骨と対峙していた。レイタが言うには魔王に手を加えられた魔物…ゲームで例えるのなら一際強いとされる中ボスらしき存在だ。
「玄輝とレイタくんは攻撃して! 私とガッシーで補助に入るよ!」
「「了解」」
玄輝とレイタは優菜の指示通り、中ボスの骸骨へ剣とダガーで攻撃をする。二人とも装備を整えられレベルが上がっていることにより
『グッ…中々ヤルではないか』
「効いてるよ…! そのまま叩いて!」
それなりにダメージを与えられた。優菜が剣を掲げ、ガッシーが鍵盤で音を奏でると玄輝とレイタの体が緑色に光り出す。この呪文は【風の御加護】というもの。
効果は付与させた味方をもう1ターンだけ行動可能にさせる便利なもので、優菜は「この技がこの先最も重要視される」とゲーマーなりの勘で断言していた。
『調子に乗るなァ!』
「ッ…!?」
その行動が中ボスの逆鱗に触れたのか即座に黒魔法を唱え、頭上に暗雲を浮かべると雷を落として玄輝たちへの攻撃を開始する。
「ゲンキ先輩! 一旦退きましょう!」
(いや…このまま突っ込む!)
しかし玄輝はレイタの言葉を聞くことなく、骸骨の近くまで接近をして剣を突き刺そうとする。
「ガッシー! 私に【風の御加護】をかけて!」
「うん…!」
骸骨の体力は残り少ないが玄輝の追撃だけでは倒しきれないと優菜は判断し、信之に【風の御加護】の付与を頼むと魔法剣を取り出して玄輝のいる元へと駆け出した。
「決めるよッ!!」
「当たり前だろ…!」
最初はぎこちない戦いだった玄輝もレベル上げをしているだけで大体の動きは把握できるようになっていた。どのように動き回ればいいのか、どのようにして剣を振ればいいのか、それらはレベルが上がれば上がるほど自身の腕も一段と磨かれていくのだ。
「うおりゃああぁああぁああ!!」
玄輝は剣士の技スキル【一閃】を使用して骸骨へと斬りかかる。【一閃】は相手の急所を狙うクリティカル必中技、これも優菜にこの先必須だと言われ覚えた技だ。
『グァア…ッ!?』
「優菜! 後は頼んだぞ!」
「オッケー! 任せて!」
骸骨の種族は【アンデッド】と予測した優菜は魔法剣に有効である光属性を纏わせる。そして華麗なる剣技で骸骨に何度もダメージを与え
『バ、バカナァアーッ!』
中ボスである骸骨をその場から消滅させた。無事に倒すことができたのを確認すると優菜は魔法剣を鞘にしまう。玄輝たちも戦いが終わったことに一安心してそれぞれ武器を降ろし、トドメを刺した優菜に歓喜の声を上げた。
「優菜さんさすがっス!」
「レイタくんと玄輝がアイツの体力を削ってくれたおかげだよ」
「玄輝が一人で走り出したときは僕、ひやひやしちゃったよ」
「…何故か早く倒さないといけないと思ってな」
早く倒す必要がどこにあるのだろうか、と優菜たちは玄輝へと視線を送る。玄輝自身もよく分からないのだが、とにかく早く倒さなければいけないと突然焦りを感じてしまったのだ。
「うーん…よく分からないけどあんまり無茶しないでね? 剣士は確かに防御力が高いけど何発も耐えられるわけじゃないんだから」
「…それもそうだな。悪かった」
「倒せたんだから結果オーライっスよ! 早くこの洞窟を抜けて町まで向かいましょう!」
倒すべき目的は魔王。今のように無茶な行動をしていたら間違いなくやられていただろう。玄輝はこれから慎重な行動を心掛けるようにと強く反省し、優菜たちと洞窟を抜けることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
(アイツはまだユメ人の候補も上げられないのかしら?)
時刻は九時頃、神凪楓は自宅のリビングのソファーに座りながら本を読んで、木村玄輝からの連絡を待っていた。ユメ人を見つけるのではなくあくまでも目星を付けるだけでいい。楓はそう伝えたつもりだったのだが…
(…アイツに頼んだのが間違いだったわね)
一向に返信が返ってこないことから予測するに、悪魔が干渉しているであろうユメ人をどうにか見つけようとしているのだろう。そんな手間のかかることをされては神凪楓も頭を唸らせるしかなかった。
ピンポーン
「…!」
これからどうするかを考えようとした時、その思考を邪魔するかの如く玄関のチャイムが鳴った。昨日は西村駿たちが見舞いをしに家まで押しかけてきたうえ、泊っていくという何とも迷惑なことをされたため一瞬来客を無視をしようかと考えたが
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
「五月蠅いわね!」
あまりにもしつこくインターホンを連打する非常識行為を行ってきたことに腹が立った楓は、本をソファーに投げ捨てて玄関の扉を勢いよく開きそこに立っている人物にそう怒鳴りつけた。
「あー何だ。やっぱりいたのか」
「…あんたは」
玄関の前でインターホンを連打していた人物は前の席に座っている雨空霰だった。こんな時間に訪れてくるのも苛立たせるが、申し訳ない程度にケーキの箱を持っているのもどこか白々しい。
「お見舞いに来たから中に入れてくれ」
「嫌よ。回れ右をして帰りなさい」
「あーあ…お前が教室にいない間に起こったことでも話そうかと思ったのになー」
神凪楓が情報を欲していることを知っているのか、わざとらしく視線を上に向けて力の抜けた声を上げる。楓はそんな霰に対しての苛立ちを耐えることにし
「…分かったわ。話を聞くだけ聞いてあげるから中に入りなさい」
「サンキュー! お前と一対一で話したいこともあったんだよなー!」
行動が読めない男だ。神凪楓は雨空霰にそんな印象を抱きながらも家の中へと渋々招き入れた。




