IF【バッドエンドはネタマシイ】
※こちらの物語はIFストーリーです。本編とは関係ありません。
「…霰。あれは何?」
「俺は全知全能の神じゃないんだ。知るわけがないだろ」
雨空霰と雨氷雫の見る先には街の中に似つかわしくない西洋の城が建っていた。真白町で大量虐殺が起きていると聞いて駆け付けた二人であったが、死体はおろか血の跡すら道には残っていない。
「…子供が好きそうな城だな」
「どうするの?」
「中を確認する。中から嫌なモノを感じるからな」
そびえ立つ立派な城門を潜って雨空霰と雨氷雫は城の中へと足を踏み入れる。二人は辺りをしばらく見回して一つの結論に至った。その推論はこうだ。この城は図体こそ大きく見せてはいるがそれは何かを隠そうとするダミーであり、隠したい重要な何かはどこかにあるはずの隠し扉の先にあるというもの。
二人は城の中へとお構いなしに突き進みながら、壁を確認して隠し扉を探す。すると雨空霰は何かに気が付き雨氷雫を呼び止めて城の天井を指差した。
「…罠が仕掛けられている。むやみに探索するのは少し危険だ」
「…何が危険なの?」
「は?」
「避ければいいだけでしょ」
雨氷雫は雨空霰にそう返答をすると再び足を一歩前へと踏み出す。それを合図に天井から何百本の弓矢が雨氷雫の元に降り注ぐ。普通なら串刺しとなるはずだが、雨氷雫は降り注ぐ弓矢一本一本の軌道を読み、歩きながら避けて先へと進んだ。それを見た雨空霰は大きくため息をついて雨氷雫の後に続く。
「脳筋かよお前…」
「どういう意味?」
「頭が悪いってことだ」
雨空霰にそう言われた雨氷雫は不機嫌そうにむすっとした表情を浮かべると歩くスピードを一段階上げた。まだ罠があるかもしれないと雨空霰は雨氷雫を止めようとしたが、その努力も虚しく次の罠を起動してしまう。
「…おいおいかなり手間がかかることになってるぞ」
罠が起動し辺りの壁が破壊されると金属の鎧を纏い剣を構えた騎士たちが続々と姿を現した。雨空霰は露骨に嫌な顔をしながら雨氷雫へとどうしてくれるんだという皮肉を込めた視線を向ける。だが雨氷雫はそれをワザと無視して両手にG18Cカスタムを一丁ずつ構える。
「倒せばいいだけ」
雨氷雫は引き金を何度も引いて騎士の脳幹に狙いを定めると次々と騎士を仕留めていく。薬莢が辺りに散らばり、銃声が鳴り響くので雨空霰は耳を塞ぎながら雨氷雫から距離を取っていた。雨氷雫の利き腕は右腕だがオフハンド・トレーニングを幼少期からこなしていたこともあり、利き腕ではない左腕による銃の扱いも劣ることがないのだ。
「…終わり」
今度は火薬の匂いが充満しているので雨空霰は口を手で押さえながら辺りに倒れている騎士を一体ずつ確認する。雨氷雫は空になった弾倉を抜き取ると新しい弾倉を制服の裏ポケットから取り出してリロードをする。多くの銃は右利き用に作られているものが多いため、セフティレバーやスライドストップなどといったパーツを操作するのに骨が折れるのだ。その為、雨氷雫は自分で左利き用に改造して二丁拳銃スタイルを問題なく突き通せるようにしていた。
「…ああやっぱりか」
立ち膝をついて倒れている騎士を確認していた雨空霰が思わず声を漏らす。雨氷雫に騎士の中身を見せるように雨空霰は近くに倒れている騎士のヘルメットを外す。その下に隠れていたのはこの街に住んでいたであろう若い男性が脳幹に風穴を空けた状態で白目を向いている顔だった。
「脳幹を撃たれて倒れる人型の生き物なんて人間以外知らないからな。予想通りだったよ」
「…そう」
雨氷雫は興味がないような反応をすると、再び自身の手に持っている銃へと視線を向ける。雨空霰はその場に立ち上がると辺りをゆっくりと見回して、ある一点の壁をじーっと見つめる。その壁の先に水の音が聞こえてくるのだ。この先に何かあると見越した雨空霰はその壁まで一気に近づいて飛び蹴りを放つ。すると壁が一気に崩れて地下へと続く階段が出現した。
「…雑」
「お前にだけは言われたくないな」
二人は隠されているものを暴き出すために地下へ続く階段を下る。蜘蛛の巣が張ったり土煙が立ち込めているので雨空霰はかなり不機嫌になりながらちゃんと掃除しろよなどと愚痴を溢していた。聴こえてくる水の音が近くなりつつあるので雨氷雫は雨空霰の肩を叩いて口元に人差し指を立てる。雨空霰は雨氷雫に口パクで分かってると伝えると、階段を下りきって薄暗い地下を進み始めた。
「……?」
見えてきたのは赤色に染まった湖だった。湖の周りを歩けば三十分はかかるであろう大きな湖は異様な臭いと重い空気を発している。また汚いのかよ…と雨空霰は嫌そうに呟いてポケットからマスクを取り出して口に付けた。
「…これって」
「あ、馬鹿…! その湖絶対汚いんだから触るな…」
雨氷雫は湖の近くまで歩み寄って手を躊躇なく湖に浸けた。鉄の匂い、どろどろと粘り気のある水、何よりも普段から感じているこの生暖かさがその湖の正体を強く確信させる。血だ。この湖は血で溢れかえっている。
「人間の血液だけでこんな血の池地獄を作ったのか…? 一体何人の人間を殺せば…」
「…ねぇ。あそこにいるのは…子供?」
雨氷雫の指差す方向を見てみると高学年ぐらいの小学生らしき子供が血の湖を見つめていた。雨空霰は話を聞こうとその子供へ声をかけようとしたが、あることに気が付き寸前の所で思いとどまった。
「…雫。アイツが城主のようだぞ」
「何で分かるの?」
「服があまりにも綺麗すぎる。あの汚い通路を通ってきていない証拠だ」
すると血の湖を見つめていた子供が雨氷雫と雨空霰に気が付き、こちらへおいでよとでも言っているかのように手を振り始める。雨空霰と雨氷雫は近づくことも遠ざかることもせずただその場で手を振っている子供に視線を送るだけだった。
「ちょっとー! 僕が呼んでいるのに何で来てくれないのさ!」
全く動こうとしない二人を見た子供はご機嫌斜めな様子で雨空霰と雨氷雫の元へ走ってくる。雨空霰は一瞬だけ視線を雨氷雫へ送って注意喚起をする。雨氷雫は視線すら交わさないものの警戒するべきだということは分かっていた。
「…下手くそな演技だ。役者には到底なれそうにない」
「……アッハハ! 何? お兄さんたちは僕が嵌めようとしていたこと分かってたんだ!」
雨空霰が見下しながらそれを伝えると、子供らしからぬ高笑いをして雨空霰に触れようと手を伸ばす。しかし雨氷雫が袖に隠していたナイフで人差し指と中指を斬り落としてそれを阻止した。後退する子供に雨空霰は挑発するように背中を向ける。
「君達は絶対にここで殺してあげるよ…!!」
子供が血の湖へ飛び込むと見る見るうちに巨大蛇へと変化をし天井の壁を尾で壊す。天井が壊れ湖に大量の水が流れ込み、湖が溢れ出して雨氷雫たちの足元を濡らした。数秒も経たないうちに地下は血が混ざった水に満たされ雨氷雫と雨空霰は息を止めて水中へと潜る。
「腕と足を一本ずつ食い千切ってあげる!!」
水中の中は透明な水ではなく、血の赤色が混ざった濁水。辺りが全く見えない状態で雨氷雫と雨空霰は互いに離れて巨大な蛇の動向を窺がいながら地上への出口を探す。巨大な蛇はまず雨氷雫を狙っていた。雨氷雫の四方八方を泳いで進行を塞ぎながら徐々に移動範囲を狭めていく。
「子供の相手は苦手」
雨氷雫は焦ることもなく無表情でそれを感じ取りながら、右手にナイフを構えて、
「まずは足からだよ…!」
左足へと食らいつこうとする巨大な蛇の噛みつきを避けながら、背中へナイフをさして巨大な蛇の体へと引っ付いた。表面の鱗はとても硬くナイフの刃を通せるかは賭けだったが、一瞬で比較的柔い個所を見分けた雨氷雫は迷うことなくナイフを突き刺すことができた。
「離れろっ!」
水中の中で暴れ回ってそれを剥がそうとするが、かなり根性強い雨氷雫は平然とした表情で体に引っ付いてナイフを何度も振り下ろしていた。辺りが何も見えない水中の中だというのに雨氷雫は地上と変わらない様子で巨大な蛇を仕留めようとしているのだ。そんな雨氷雫に巨大な蛇は恐怖を抱きながら体を大きく揺らして暴れ回る。
「僕は王なんだぞ…! 命令を聞けよ!!」
そんな暴れ回っている巨大な蛇の視線の先には雨空霰が待っていたかのように、騎士が持っていた剣を構えていた。剣一本で自分を止められるはずがない、と巨大な蛇は噛みついてやろうと大口を開けてそのまま雨空霰に突進をする。
「……」
雨空霰は水の抵抗を受けていないかのように剣の素振りをする。その速さは巨大な蛇の目でさえ捉えることも出来ない。雨氷雫は前方に雨空霰がいることを確認するとナイフから手を離して、巨大な蛇の体から離れる。雨氷雫は腕利きの殺し屋として今まで生きてきた。どんな依頼も必ずこなしてきた。…しかし、そんな雨氷雫でもこなせない依頼が一つだけあったのだ。
「――え?」
――雨空霰の抹消。身体能力や知性を見せつけられると人間じゃないのではと疑ってしまうほどの化け物。そんな雨空霰を相手に雨氷雫は歯が立たないのだ。一年前に出会ってから何度も殺そうと試みたが一度も成功したこともない。失敗は成功の基と言われているが、失敗が一向に成功へ繋がる様子はない。
「なん…で…僕…が」
雨空霰は一太刀で巨大な蛇の首を斬り落として終わらせた。巨大な蛇は何が起こったのかも分からないまま切り離された体を見て痛みもないまま二度と目覚めることのない眠りへとつく。雨氷雫は終わったことを確認すると雨空霰への元へと泳いでやってくる。地上への出口を見つけた。視線でそう訴えられた雨空霰はそのまま雨氷雫の後へついていくと地上へ続く階段へと辿り着く。
「あの野郎。人の服を汚しやがって」
「…あれがこの城の主?」
「何で巨大な蛇に姿を変えられたのかは分からないが…おそらくそうだろうな」
雨空霰はハンカチで顔と眼鏡を拭きながら、雨氷雫は特に何もすることなく階段を上って隠し階段を見つけた場所へと帰ってきた。
「もう帰るぞ。家に帰って風呂に入りたいからな」
「…最上階に誰かいる」
「…余計なことにいつも気が付くよなお前は」
家に帰りたいと駄々をこねる雨空霰を連れて半ば無理矢理最上階へと続く階段を上らせる。この街の住民全員あの巨大な蛇に喰らいつくされてしまった。雨氷雫はそんな状況で生き残っているその人物が異様なほど気になっていたのだ。雨空霰はそんな雨氷雫の後に続きながら頭を掻いて、スマホを確認する。
「……危なかった。一応防水に変えておいて良かっ――」
「五月蠅い。静かにして」
最上階への扉の前まで辿り着くと、雨氷雫は雨空霰を黙らせる。扉の向こうから物音ひとつ聞こえない。だが、雨氷雫は人の気配をそこから感じていたのだ。扉を慎重に開くと顔だけ中に覗かせる。そこには誰かがいた。白いドレスに身を纏い、金髪の髪を持った雨氷雫と同じ歳らしき女性。雨空霰はその後ろ姿を見ただけで嫌な予感がし、雨氷雫の肩へと手を置く。
「……分かってる」
雨氷雫は慎重に歩を進めて白いドレスの女性へと背後から接近する。少しの呼吸音も聞こえない。まるで人形のように立っているその白いドレスの女性に違和感を感じ始めた雨氷雫は、右手の袖に隠してあるナイフをいつでも出せるようにスタンバイして
「…ねえ」
聞こえるように少し大きめに声をかけた。しかし、微動だにしない。それならばと肩に手を置いて声をかけようとすると
「雫! くるぞ!」
突然白いドレスの女性が振り向いて雫の袖に隠してあるナイフを蹴りで部屋の隅へと弾き飛ばした。雨氷雫はその場にしゃがんで足払いを仕掛ける。相手はそれを読んでいたのか軽く避けて、膝蹴りを放とうとする。
「…!?」
しかし雨空霰がいつの間にか雨氷雫の近くまで移動をしており、代わりに膝蹴りを受け流すと肘で相手の顎を的確に狙う。相手はそれをギリギリで体を逸らして避けると、背中から倒れそうになる間際に雨空霰の頬を狙って回し蹴りを放った。
「動きはいいと思うが、なんせその格好だからな」
雨空霰は回し蹴りが自分の顔に入る前に相手に接近をして首にエルボーを直撃させてそのまま地面に押さえつけた。暴れ回らないように雨氷雫は銃口を白いドレスの女性の頭部へと向ける。
「俺らは敵じゃない。変に暴れないでくれ」
「……」
「あなたは、神凪楓…?」
雨氷雫と雨空霰はその女性がクラスメイトである神凪楓だということに気が付いて驚きの表情へと変わる。そして瞳に生気が宿っていないのを見て、精神面でやられているのだと気が付いた。何が楓をここまで堕落させたのか、その要因を探り出すために雨空霰は不審な動きをしないように見張りを頼むとベッドに置いてある日記のようなものに手を伸ばして確認する。
<4月30日 天気 曇り>
夢の中であの巨大蛇に飲み込まれてからすぐに意識を失った。あのまま溶かされて死ぬ。私はそう思っていた。けれど目を覚ませば知らないベッドの上。目の前には子供がいた。ユメノ世界から現実に出てきてしまった。私は失敗してしまったのだ。抵抗できない私は言われるまま白いドレスに着替えさせられ、城の中を紹介させられた。
<5月1日 天気 曇り>
下の階が騒がしい。何が起きているのかを見に行ってみると、街の住民たちが次々と鎧をまとった騎士によって地下へと運ばれていく。騎士は私を見ると一礼して去っていく。まるで私は王妃のような扱いを受けている。その時、私は思い出した。あの蛇は現実世界へ出ることができたら私を王妃にし城を造り上げて国を作ると言っていたのだ。ああ、現実になってしまうんだ。私は最上階にある自室へと戻るとベッドへ体を埋めて自身の無力さを呪った。
<5月2日 天気 雨>
今日は同じクラスの見覚えのある顔が揃っていた。一人目はいつも通り私を毛嫌いし「裏切者」と叫び続けていた。二人目は私をただ見るだけで何も感じていないようだった。三人目は泣きながら助けを求めてきたが、すぐに地下へと連れていかれた。誰でもいい。誰でもいいからこの地獄を終わらせて。
<5月20日 天気 晴れ>
もう見たくない。もう聞きたくない。殺される姿もあの悲鳴も…毎日、毎日…気が狂いそうになる。私は王妃ではない。童謡にある囚われのお姫様。誰か助け出して…。この街が…世界が…終わってしまう。
<5月29日 天気 雨>
この状態が続いてもう何日目なのか。それさえも分からなくなってしまった。食事もとれるし、暇をつぶす本もある。たまにやってくるあの子供の相手をちゃんとすれば殺されることだってない。それでもこの城からは抜け出せない。何度も逃げ出そうと試した。けれど首輪をつけられているかのように城の先へと出ることができない。そのうち私は何もかもがどうでもよくなってしまった。
「……ユメノ世界。神凪はユメ人だったのか?」
その辺りの内容がいまいち理解が出来なかったが、何故この街がこのような状態になってしまっているのかは理解することができた雨空霰は視線を日記へと戻す。すると次のページに今日の日付が書かれている個所があった。
<6月10日 天気 晴れ>
私はもう疲れてしまった。この世界にいることも王妃として生きていくことも。堕落した私に残るものは何もない。沢山の人を見捨てた私はきっと地獄行きだろう。
―――それでもマシだ。この地獄のような現実よりも。
「雫…! 銃を降ろせ!」
最後の一文を読み終えた雨空霰はすぐに雨氷雫へそう命令する。だがその時点で既に倒れていたはずの女性は雨氷雫の向けている銃口に自らの眉間をくっ付け
「…!!」
引き金を無理矢理雨氷雫に引かせた。一発の薬莢が床に落ちると共に白いドレスが真っ赤に染まる。力なく倒れていく女性の元まで雨空霰はすぐに駆け付けて容態を見る。即死だった。自分自身の脳幹を綺麗に撃ち抜いて自殺をしていたのだ。
「…今、私に引き金を引かせるとき」
「…?」
「【ごめんなさい】って言ってた」
雨氷雫は倒れている真っ赤なドレスを身にまとった女性の死に顔を見る。安らかだった。死んだことに後悔をしていない顔。雨空霰はそれを見て嫌悪する表情を浮かべると
「生きることも死ぬことも自由だが…お前ならもう少し賢い選択が出来たんじゃないのか? …神凪楓」
もう二度と届かない助言をし、雨氷雫を引き連れて王妃の部屋を後にした。




