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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第三章【ネタマシイ】

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第17話【嫉妬は醜いんですか?】

「玄輝おはよー」

「…おはよう」


 当たり前のように玄輝と優菜が挨拶を交わしいつも通りの一日が始まる。自分の席へと着いて終わらせた宿題を取り出そうとしたとき、教室を見回しても金田信之の姿が見当たらないので後ろの席で宿題に取り掛かっている白澤に行方を尋ねる。


「白澤。ガッシーは?」

「朝から一度も見てないぞ。何かあったのか?」

「…いや、あいつが学校に来てないなんて珍しいなと思って」

「体調不良だろ。気にするな」


 あんなやせ細っていれば体調を崩しやすそうだが、玄輝は昨日の帰りの一件で信之のことが頭の中に浮かび今でも家で辛い思いをしているのではないかと心配をしていた。


「ガッシーが来てないのはトラのせいやろ」

「そんなこと言うなって吹。血管が切れるぞ」

「おおおんん!? なんやって!?」

「席に着け―」

 

 水越先生が教室へ入ってくると白澤と吹が喧嘩を止めて教室は嵐の後のような静けさへと変わる。全員が席に着くと分かるが欠席なのは金田信之だけだった。信之は滅多に休むことがないため担任の水越先生の表情も険しいものになっている。


「あーみんな。これはあまり他のクラスに広めてほしくないんだが…金田がいない理由は入院しているからなんだ」

「え? 何で入院しているんですか?」

「先生も詳しいことは親から聞いていないが…どうやら意識不明の状態(・・・・・・・)らしい」


 その担任の言葉を聞いた玄輝は息を呑み、神凪楓は動かしているペンの手を止めた。意識不明、その症状には心当たりがあるのだ。玄輝はすぐに水越先生にばれないように楓へとスマホでメッセージを送る。…まさかユメ人になってしまったのかもしれない、そんな恐ろしい憶測を立ててしまい気を紛らわせるように本を読む。


「意識不明って…事故でも起こしたんですか?」

「先生にも分からない。今はみんなで金田の意識が戻るのを祈って待つことしかできないんだ」


 玄輝はその日一日金田信之のことが頭から離れずただぼーっと外の景色を眺めることをしていた。ユメ人になっているはずがないと思い込めば思い込むほど気になってしまうのだ。ただ単に事故で意識不明になっているだけかもしれない。しかし全てを投げ出してしまいそうな金田信之を見た玄輝はユメ人になってしまう可能性だって十分あり得ると思えた。


 18:44

『アイツがユメ人になっているかを私が確認するわ。あなたは何も考えずに過ごしてなさい』


 家に帰るとそんなメッセージが神凪楓から届いた。そのメッセージを見て玄輝は少しだけ安心をしこの一件は楓に任せることにする。その後、木村玄輝は金田信之の件について大して考えることもなく夕飯を食べ、風呂へ入り、宿題をするというごく普通の生活習慣を送るとすぐに床に就いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「おはよー玄輝」

「おはよ…う…?」


 しかし次の日になると普段席に座って勉強をしている神凪楓がいなかった。試しにメッセージを飛ばしてみるが返答はない。昨日信之がユメ人なのかを確かめるというメッセージを玄輝に送っていたが、今日来ていないということは嫌な予感が的中していたことを意味する。


「どうしたんだ? こんな入り口で突っ立って」


 生徒会の仕事を終えた西村駿が教室に戻ってくると窓を見つめて呆然と玄輝が立っているので駿は背中を軽く叩いて様子を伺う。


「…いや、別に何でもねえよ」

「宿題をやり忘れたのならノートを見せてやろうか?」 

「悪いがおれはこう見えても真面目だからな。もう終わってる」


 玄輝は自分のユメノ世界で偽物の西村駿に助けてもらってからというものの、駿に対する当たりが若干弱くなっていた。命を懸けて助け出してもらったことや、目の前で殺されたことが木村玄輝の内面を変えるものとなっていたのだ。


「…そうか」


 駿の横を通り過ぎた玄輝は自分の席に着席すると、本を片手間に再び昨日の不安が込み上げてきていた。神凪楓が来ていないということは信之を目覚めさせるのに手間がかかっているということを意味する。もしかしたら【七つの大罪】なのでは…そんな予感がして瞬きを何度か繰り返した。


「よお玄輝、何だよ? そんな深刻そうな顔して」

「…別に」

「EDM聴いてこうぜ」


 頭を抱えそうなぐらい不安に陥れられている玄輝はあの馬鹿みたいにうるさい音楽を聴かされては身も蓋もないため、白澤を無視して机へ顔を伏せる。例え【七つの大罪】が相手でもこっちは何度もユメ人を救っている経験のある神凪楓だ。



「ならアイツは本物の七つの大罪? まさか、神話の中だけの話よ。現実に存在するはずが…」



 昨日の神凪楓の独り言を思い出す。玄輝は声色からして楓がかなり焦っているように聞こえたのだ。今回の事態は楓にとってもイレギュラーなこと。全てを把握しきれていないうえ、ベルフェゴールのように簡単に倒せるとは思えない。


(もしも、もしも楓が…)


 木村玄輝は神凪楓が言っていたことをふと思い出す。ユメ人の世界へ自ら干渉しその世界で死んでしまえば…もう一生目覚めることがない…楓はそう言っていたのだ。そんなリスクがあるのにも関わらず今もこうしてユメ人を救おうとしている。


「おれには…」


 一限、二限、三限と過ぎてゆく授業全てに集中ができず玄輝は一人でひたすら思考を張り巡らせ、自分がどうするべきなのかを考える。木村玄輝はここまで本気になって誰かのために頭を使って考えたのは人生で初めてだった。

  

(納得ができるまで自分で考えろ…。結論を出すまでのタイムリミットは…おそらく今日の夜までだ。) 



◇◆◇◆◇◆◇◆



「げほっ…何なのよこの世界は!?」


 ガッシーの夢の中へと干渉したまではよかったが、干渉してからが厄介なことになっていた。辺り一面水だらけなのだ。水面の上にはピアノやギター、ベースなどといった楽器に加え紙の楽譜も浮いている。密度関係なしに物体が浮いているのを見て自分のいる場所はユメノ世界だということを実感させられた。


「浸食されているの…?」


 街の面影もないただの水。楓は夢の世界へと入った瞬間から水の中に放り出され困惑して溺れかけた。だが何とか小船を創造して水面の上で呼吸を整えながら辺りを警戒をしていた。


「私が来ることを予測されていた…来ることを見越して水中の中に入り口を繋げていたのかしら?」


 辺りは一面水によって支配されている。こんなことをするのは【七つの大罪】としか考えられない。陸地一つ見えないこの状態なら既に信之は溺れ死んでいるとも考えたが、ユメ人の生命反応は未だに感じ取ることができる。楓は試しに水の中に顔を浸けて覗いてみると 


「…!」


 深い深い水の底にうっすら街らしきものが見えた。信之はあそこにいる。楓はそう確信しどうやってあの深さを潜るかを考える。生身で潜れば呼吸と水圧の関係もあり流石の楓でも体が持たない。しかもユメノ使者が邪魔をしてくればそこで終わり。それ以外の無難な手段…きっと潜水艦だ。これが一番良い手だろう。そう決めて楓が潜水艦を創造しようと目を瞑った…その時


「何?」


 近くの水面で何かが跳ねた。魚のようにも見えたがそれにしては形がおかしかった。楓は銃剣を構えながらその水面を確認するために小船の上を歩く。敵の可能性もあるため慎重に歩を進めていた。


「泡?」 


 泡が立っているので少しだけ体を乗り出してその正体を確認した瞬間


「…!?」


 小船が突然百八十度ひっくり返り楓は水の中へと何者かによって引きずり込まれていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆




「駿、部室行こうぜ」

「ああ。向かう途中で生徒会室に寄らせてくれないか」

「おう! 仕方ないから付いていってやるよ」


(もう一日が終わったのか…)


 白澤来と西村駿が鞄を片手に教室から出ていく光景を見て、木村玄輝は時刻が夕方間近を指しているのに気が付き焦りを感じ始める。玄輝は授業の時間を潰して一日考えていたが、未だにどうするか考えがまとまっていなかった。


「霰。お腹空いたから早く帰りたい」

「あー…今日はご飯作るの面倒くさいし途中で何か食べていくか」

「シュークリームがいい」 

「それはご飯に含めていいのか…?」


 雨空霰と雨氷雫はこれからの夕飯についての会話を交わしながら教室を出ていこうとしたが、帰ろうとしない玄輝の姿が目に入り二人は足を止めて木村玄輝に声を掛けることにする。

 

「家に帰らないの?」

「……俺の勝手だろ」

「そんなこと言うなよ木村。俺たちでよければ話を聞くぞ」

「お前らに話したところで何も変わらないからな。気を遣わないでくれ」  


 玄輝はこの二人にユメノ世界や七つの大罪のことを話したところで微塵も信じてはくれないと考え、鬱陶しさを込めた表情で霰と雫を追い払おうとした。


「…神凪と金田がいないことが関係するのか?」

「……!」


 何の前触れもなく的確に迷いの根源を突かれた木村玄輝は硬直してしまう。雨空霰がここまで勘が鋭いとは予想していなかったこともあり、玄輝は不気味さを感じながらも平然を保とうと試みる。


「神凪に連絡しても返信くれないんだよなー。もしかしてこの時間に"寝ている"とか…」

(…何なんだよコイツ?おれの心を読んでいるみたいに勘が良すぎる…)


 ここまでくると雨空霰がこちらの事情を全て知っているうえで自分の事をおちょくっているのではないか、と思えてきた玄輝はすぐさま席を立って鞄を手に持ち教室から出ていこうとする。


「ああ、そうだ」


 雨空霰が何かを思い出したように声を上げる。玄輝は今すぐにでもこの二人から逃げ出したい気分だったが、その言葉の先が気になり思わず足を止めてしまった。


「もし木村…お前が世界を救う存在の一つとなったら…どうする?」

「……は?」


 木村玄輝は拍子抜けしてしまう。突然何を言い出すかと思えば自分が世界を救う存在となったらどうするのかという質問をしてきたのだ。


「おれは世界を救う存在なんて大層なものにはなれないから答えられないな」

「そうか…」


 玄輝は背を向けたままその質問にあやふやな返答をすると教室から去っていった。階段を下る音が響く中で雨氷雫は雨空霰の手を握って顔を見上げる。 


「…お腹空いた」

「悪い、話が長くなった」


 雨空霰と雨氷雫も夕飯をどこかで済ませるために足早に教室を出ていき、街中を歩きながら飲食店を探すことにした。




◇◆◇◆◇◆◇◆



「よし、こいつをベッドに付けて…」

 

 木村玄輝が昨日の帰りに買ったものはドリームキャッチャーだった。金田信之と神凪楓の元に向かうためにベッドへと括り付けて、準備万端の態勢に入る。不思議なことに雨空霰と話した後、迷いが嘘のように断ち切れて一生後悔する前に助けに行こうという決意を固められたのだ。


「この面は」


 神凪楓は自分の偽物と本物を見分けさせるために制服の上に黒色のパーカーを羽織っていたことを思い出す。玄輝もユメノ世界へ向かうならば見分けがつく特徴があった方がいいと考え、部屋に飾ってあった黒色のひょっとこの面を頭に装着して制服に着替えるとベッドへと仰向けに寝転がった。


(…目を閉じて集中する)


 金田信之のユメノ世界へと繋がるように強く念じて目を瞑る。神凪楓から聞かされた他人のユメノ世界に干渉するための条件は全て達成しているのだ。


(取り敢えず楓と合流しないとな…)


 瞬く間に眠りに入る。そして空を飛ぶような感覚と共に視界に入ってきたユメノ世界…そこは


ごぼぼぼっ!?(何だよこれ!?)


 上から陽の光が差して透き通っている水の中だった。


 

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