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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第二章 『堅』

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第14話『神凪楓の説明で理解できますか?』

「…久しぶりに来たが、相変わらず耳に悪いところだな」


 鈴見優菜と道中他愛のない話をしながら歩いているといつの間にか大型ゲームセンターへ辿り着いていた。到着して早々優菜が玄輝の元を離れアーケードゲームのあるフロアへと直行する。


「楓はどこにいるのやら」


 『ゲームエデン』は大型ゲームセンターというだけあってかなりの広さ。神凪楓はどこで待つのかという詳細についてはメッセージに一切記載していなかった。つまりこの広いゲームセンターの中を歩き回って探し出さなければいけないということ。途端、木村玄輝は体が重くなり帰りたいという欲求で満たされる。


「へえ、案外早く来たのね」


 そんな時だった。夢の中で聞いたことしかないあの楓の声が背後から聞こえてきた。玄輝はハッとしてすぐに振り返る。


「…楓か? お前その服装ここのゲーセンの…」

 

 楓はこの大型ゲームセンターの店員の恰好をしていた。夢の中では平然と会話をしていたが現実でいざ顔を合わせて会話をすると緊張する。 


「ええ。ここで働かせてもらってるのよ。」

「どうしてこんなところで?」

「そんなことはどうでもいいでしょ。黙って私に着いてきなさい」


 玄輝はクレーンゲームの景品を見ながら楓の後をついていくと比較的人目の当たらないゲームエリアまで来た。そこで楓は突然立ち止まり木村玄輝と向かい合う。


「…私があなたを呼び出した理由は聞きたいことがあるからよ」

「おれに? 一体何を…」

「あの夢の世界についてよ」


 近くにあるクレーンゲームの景品の位置をずらしながら玄輝にそう尋ねる。玄輝は大体こんなことだろうと予想がついていたので大した反応もせず首を縦に振りながら返事をする。


「じゃあまず一つ目。あなたは宗教や神話系統の話は好き?」

「いや全然好きじゃないしそういう関連の話も全然知らない」

「…そう。ならあなたがユメ人になる前…何か身の回りでおかしなことが起きなかった?」 

「おかしなこと…か」


 玄輝は自分がユメ人になる前の記憶を辿って情報になるものがないか模索する。あの日はいつも通り学校へ来て授業を受けて家に帰って夕飯も食べずに寝て…


「…そうだ。おれが眠る前に声が聞こえた」

「声…?」

「確かに聞こえたんだ【ならばその体は我が貰い受けよう】っていう声が」


 その言葉を聞いた途端に神凪楓の動きがピタリと静止し、しばし会話のない静寂が続いた。そして楓は考えがまとまったのか景品をクレーンゲームの中へと戻すと顎に手を添えて


「眠る前の段階ならまだユメ人じゃないはず…それなのにアイツはあなたに干渉ができたのよ。アイツがああいう存在として出てきたのもそういう系統が好きだったからだと思っていた…けれど違ったわ」


 こんなに神妙な面持ちを見せる楓を見るのは初めてだ。玄輝はまだあの夢が続くんじゃないのか。また命を懸けて死に物狂いで戦わなければならないのか。そんな不安を覚え気を紛らわせるように近くのクレーンゲームの中に飾ってあるフィギュアへと視線を移す。


「ならアイツは本物の七つの大罪?まさか…神話だけの話のはずよ。現実に存在するはずが…」

「楓、このフィギュアの取り方を教えてくれよ」


 空気が悪くなる前にと玄輝は欲しくもない魔法少女のフィギュアの取り方で楓に話を逸らそうと試みる。楓は「え?ああそれね…」と言って店員らしくどこを狙ってアームを動かせばいいかの説明を始めた。止まることなくすらすらと説明できているということは、ここで長い期間働いているに違いない。


「…これ以上説明することは何もないわ。後は自分の力次第よ」


 楓の説明が全て終わると玄輝は財布から百円玉を取り出した。金銭面がただでさえキツイためこんな所で使いたくはなかった玄輝だったが、ここまで説明をさせておいてやらないのは失礼だと感じ、仕方なくなけなしの百円玉をクレジット投入口へと入れる。


「……話を逸らそうと好きでもないフィギュアを取ろうとしなくてもいいのに」

「ちょっ…!?」


 ボタンでアームを操作している最中に放った楓の一言に動揺した玄輝は、フィギュアの箱の真ん中を狙うはずが早く離しすぎたせいでフィギュアが置いてある二本の棒のうちの一本に掠りながらアームが降ろされる。


「…分かってたのかよお前」

「あなたが本当にこういう系統が好きだったらあの夢の世界に少しは影響が出てくるでしょう?」

「それもそうか…何か人に自分の理想する世界を見られるのは恥ずかしいな」

「安心しなさい。私が助けてきたユメ人もあなたも理想する世界はほぼ同じよ」 


 玄輝はフォローされているのか微妙な判定の一言に対して「そうか」と感謝混じりの返答をして、楓に会ったら聞こうとしていたことを思い出す。 

 

「お前はどうしておれや他のユメ人の夢の世界へ入れるんだ?」

「ユメ人に干渉する条件は三つあるのよ。【元ユメ人だということ】と【ユメノ世界での記憶があること】…そしてもう一つは【この道具を寝床に置くこと】」

 

 楓は腰につけているポーチの中からクモの巣状の目の粗い網が組み込まれ、羽やビーズなど独特の小道具で飾られているお守りのようなものを取り出して玄輝へと手渡す。


「これは…」

「一般的には【ドリームキャッチャー】と呼ばれているわね」

「このドリームキャッチャーとやらを持っていれば他人の夢の中へ入ることができるのか」

「ええそうよ」 


 『良い夢は網目の中央にある穴を通って眠っている人に運ばれてくるが、悪夢は網目に引っかかったまま夜明けと共に消え去る』と言われているらしい。


 楓曰くまずこれを利用して数多く存在するユメ人の中から、自分自身が入りたい者の夢の世界だけを強く念じる。そうすればこのドリームキャッチャーが他の夢の世界を網で留め、狙っている夢の世界だけを通し干渉させてくれるだとか… 


「…一部例外もいるけど」

「例外?」

「私をユメ人から救ってくれた人達よ。その人達のことをよく覚えてはいないけど…どんな状況でもドリームキャッチャー無しで的確に狙ったユメ人と干渉できていたわ」 


 楓も自分と同様に一度はユメ人になっていることに気がついた玄輝は少しだけ親近感が湧いていた。あの神凪楓さえ現実から一度逃げていたのだ。


「で、どうしてよりによってあなたなんかがその干渉できる能力を持ってしまったのかだけど…」

「…もしかしておれはいま貶されているのか?」

「これだけは言えるわ。あなたは絶対にユメ人に干渉したら駄目よ」

「あんな危険な目に遭うのならこっちからも願い下げだ」


 その返答を聞いた神凪楓は何に驚いたのか一瞬だけ腑抜けた顔になると、すぐに「それならいいのよ」と言って木村玄輝に背中を向けた。


「それよりも…問題はあなたの夢の中に出てきた七つの大罪についてよ。黒霧が本当にユメ人を利用して悪魔に体を乗っ取らせようとしているのなら…狙われたユメ人が消される前にアイツらを止めなければならないわ」

「止めるって…どうやって?」

「同じように夢の中でアイツらを仕留めればいいのよ」


 神凪楓は簡単そうに言っているが、相手はあの七つの大罪かもしれない凶悪な悪魔。簡単に倒せるとは思えない玄輝は表情で楓に無理だと訴える。


「夢の世界でなら唯一対等に戦える。けれど現実に出てこられたら私たちは太刀打ちができなくなってこの現実世界は終わりよ」 


 玄輝は思い出した。確かに夢の世界でベルフェゴールと戦ったとき、何度も殴られたりして重傷を負ったが死ぬことはなく、戦うための武器も自分の思い通りに出すことができたことを。夢の世界だからこそ自分が思うように戦うことができ、抵抗することができたのだ。


「私はアイツらを止める。だから私が突然いなくなったとしてもこの事を他言するのはやめなさい」

「…お前一人でどうにかできるものなのか?」

「さあ? 残り六体がどんな奴らなのか…後は狙われたユメ人の意志の強さにもよるわ」

「意志の強さ…?」  

「ユメ人が意志を強く持てばユメノ使者の力を弱らせることができる。現にあなたはそれを一度体感しているはずよ」


 夢の世界で戦っている偽西村駿を見て"不安に思う"とベルフェゴールの剣捌きが速くなっていた。逆に自分が強く"意志を持って"戦いに挑めばベルフェゴールの剣捌きは偽物の駿との交戦時よりも遅くなっていたのだ。【ユメ人の意志によってユメノ使者の強さが変わる】楓の言う通りその夢の世界を創り出しているユメ人の意志は大きく影響してくる。


「これがアイツらにとって大きな弱点ね。厄介な悪魔たちがユメノ使者という立場になれば勝算はかなり上がるわ」

「どうしてこんな話を俺にするんだ…?」

「…気分よ気分」

「やっぱり俺は特別…みたいな?」

「慢心してんじゃないわよ」


 神凪楓にユメノ世界の時と同じように額へでこぴんをされる。吹き飛ばされることはないがそれなりに協力で玄輝は額を思わず押さえる。


「お前なぁ…!」

「悪かったわねー」


 楓は反省を全く感じない謝り方をするとクレーンゲームの台の下を鍵で開いてサービススイッチを押しプレイ回数を一回増やした。そして「やりなさい」と促すように玄輝を見る。玄輝は本当にやっていいのかと躊躇をしていると


「店員の私が邪魔をしたからお詫びの一回。ほら取りなさいよ」


 業務的な理由を述べて玄輝に無理矢理やらせるような状況へと誘う。仕方がなく玄輝はボタンを押してアームを動かして再度箱の真ん中を狙う。


「…これでどうだ?」 


 楓に言われた狙うべき場所へとアームを設置することができた。アームはぎこちなくフィギュアの箱を掴むとそのまま持ち上がり


「完璧ね」


 落下して棒と棒の隙間へと滑り落ちた。景品獲得を表すファンファーレのような音楽が同じ種類の台から何度も流れ辺りを騒がしくする。玄輝がフィギュアを獲得口から取り出すと楓が景品を入れる袋を手渡した。フィギュアは魔法少女カリンというタイトルを全面に押し出しているアニメ系のもの。家に飾っていたら勘違いされる。


「良かったわね。実質百円でこれを取れて」

「お前、嫌がらせの為に取りやすいようにしたのか…?」

「さあ?」


 楓のとぼけた反応を見てこれは一杯食わされたと後悔をする。そんな玄輝に楓は仕事が残っているからと言い残して人が盛んなエリアへと行ってしまった。片手にフィギュアの入った袋を持って家に帰るためにゲームセンターの出口へ向かって歩き出す。


(本当に楓は大丈夫なのか?)


 玄輝は歩きながら楓から聞いた話を振り返ってみる。本当に悪魔たちが人間の体を乗っ取ろうとしている。そんな話をされて半信半疑だったがあの世界で当の本人と戦ってしまっては疑う余地もなかった。警察にこの事を話して対処してもらおうなんて考えても信用はしてくれない。



 ――そう…この話を知る者は実際に見て聞いた玄輝と楓だけ。



「あれー? 玄輝も帰るの」

「…優菜か」 


 玄輝は即座に片手に持っているフィギュアの入った袋を鞄で隠すようにする。優菜は気づいていないようでスマホの画面を見ながら玄輝の横について一緒に歩き始めた。


「お前ってここによく来るのか?」

「うんーまあね。気分かな」


 それなら楓がここで働いていることも知っているのだろうか。そんな疑問が頭に浮かんだが、もし聞いて知らなかった場合は自分が流した情報を優菜が拡散しそうなので敢えて聞かないでおく。時刻はもうすぐ夕方。日が沈み街全体が明かりによって照らされる時間帯だ。この真白町はそれなりに都会よりのため賑やかな街となっている。


「それと楓さんがここで働いているし」

「…って知ってるんかい!?」


 玄輝は思わず声を出して鈴見優菜にツッコミを入れる。その反応を見た優菜はクスッと笑うと近くにそびえ立つビルを見上げて


「みんなは私がこのビルみたいに高く見えるのかな」

「…は? 急にどうしたんだよ?」


 何かを思いつめるような表情を浮かべていたため、玄輝は苦笑いをしながら心配をしていると優菜は玄輝へと視線を移す。


「…ううん。何でもない」


 鈴見優菜は何かを言いたげな顔をしていたが、玄輝はそれ以上言及することはできず二人の間に沈黙が続いてしまう。


「今日はありがと。また明日」


 優菜は億はかかるであろうマンションに住んでいた。最新式のセキュリティーが施され、部屋の間取りも広い。下手をしたらプールもあるのかもしれない。そんな次元の違う場所に住んでいる鈴見優菜は一部の生徒からゲーマーなお嬢様と呼ばれている。

 

「…じゃあな」


 玄輝はマンションの入り口を通過していく優菜に手を振り返して後姿を見送るとスマホの画面を確認する。 


「あいつ、返信ぐらい寄越せよな」


 一限が終わった後に少しだけ金田信之の心配をした玄輝は『最近この曲めっちゃ好きなんだけど』という音楽の話題に関するメッセージを送っていたのだが、いまだに返信はなく既読すらつけられていなかった。


(…何なんだよアイツ。普段はアホなくせに何でこういう時に限って深く考え込むんだよ)


 携帯も確認できないほど深く病んでいるとしたら想像以上にメンタルが弱い。仲良くしていた木村玄輝も信之がそこまで精神的不安定な人柄だということは知らなかった 


「…あれ、これって?」


 考え事をしている最中に賑やかな街中でひっそりと佇む小物を売り出している店が目に入る。いつもなら

 

 目移りするものは一切ないが"ある物"が目に入りその場で立ち止まってそれを見物してしまった。


「これ…買うべきなのか」


 財布の中身が決して裕福ではない玄輝は苦闘する。値段は五千円。小物にしては値段がかなり高い。


「お兄さん…これが気になっているのかい?」


 購入するかどうかを検討している玄輝は年老いた店主に声を掛けられ、「ええ、まぁ…」と曖昧な返答をする。


「物好きなお客さんだねぇ。これを買おうとしているお客さんを見るのは生きていてあんたで八人目だよ」

「そうなんですか…」 

「中々売れなくてねぇ。どうだい? もし買うのなら二千円引きするよ」

「え? いいんですか?」

「お客さんぐらいしかいないからねぇ。買おうか迷ってくれるお客さんは」


 それならばと玄輝は財布からきっちり三千円を取り出して店主の老婆に手渡して、購入した物を鞄の中へと入れた。


「ありがとね~…」


 掠れるような老婆の声を聞くと、お礼代わりに軽くお辞儀をして家へと帰宅することにした。

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