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【完結】夢ノ雫 ~Dream Drop Out~  作者: 小桜 丸
第十五章『冬』

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第99話『クリスマスの前日は何をしますか?』

 雨空霰たちは宣言した通り、次の日に学校を自主退学をした。


 家庭の事情という話で片付けられたが、それは嘘だということを玄輝たちは知っている。試しにスマートフォンで連絡を飛ばしてみても、ブロックをされているのかまったくメッセージが返ってこないのだ。住んでいる家へ訪ねてみても、空き家となっているのかまったく反応しなかった。


「ねぇみんな。今度、私の家でクリスマスパーティーをしない?」


 やや暗い雰囲気に包まれた玄輝たちを盛り上げようとしたのは鈴見優菜だった。冬の醍醐味でもあるクリスマス、その日に皆で集まって騒ごうという提案を玄輝たちに持ちかけてくる。


「おっ、いいな! オレは賛成だぜ!」

 

 その提案にまず白澤来がいつも通りの笑顔を周囲に見せつけながら、手を上げて大賛成をした。


「気分が紛れるから私も賛成かな」

「わいも賛成やな」

 

 智花、吹、というように次々と賛成という言葉を上げる中で一人だけ黙ったままの人物がいる。


「……玄輝はどうするの?」


 木村玄輝。彼だけは賛成や反対という言葉を発することなく、ただひたすらに黙って何かを考えているようだった。


「霰たちのことが気になるのはみんな一緒だ。だからこそ全員で騒いだほうが楽しいと思うぞ」

「それは分かっている。だけど、何か引っ掛かるんだよ」

「そんなもやもやしていたら、暗い性格を直せないだろ! もっとこう明るく行こうぜ!」


 白澤来が木村玄輝にいつものウザがらみをする。これにはさすがに玄輝も耐えられず、思い切り振り払った。


「分かったから離れろよ! おれも参加すればいいんだろ!」 

「いいねぇ! 一緒に楽しもうぜ!」 


 そしてあっという間に時は過ぎ、クリスマスパーティーを開催する二十五日の前日、二十四日となる。その日に木村玄輝は朝方に冬休みの宿題を進め終えて、当日に控えたプレゼント交換の為にニュアンスへと訪れていた。


「プレゼント交換っつっても、何を買えばいいんだ…?」


 適当に『冬のプレゼントにピッタリ!』という設置されたコーナーへと足を運んで、どれをプレゼントにしようかを考える。


(シャンプーや洗剤とかか?)


 日常性に長けているものならば誰にでも喜ばれると思い、高級そうなシャンプーセットを候補として、頭の片隅に置いておく。そもそもあのメンバーで皆が喜ぶものを考えるのがかなり難しい。


(女性も男性も喜ぶもの。そんなものあるのかよ?)


 マフラーや手袋が飾られている売り場に何気なく足を運んだ。男性でも女性でも寒さは絶対に感じる。ならば、防寒具としてこのような類を買ってプレゼントをすれば、クリスマスらしさも需要性もあるのではなかろうか。


(…これなんかどうだ?)


 試しにすぐ近くにあったマフラーを手に取ってみる。しかし柄がどうも女性っぽい。これでは男に当たったときに外れとなってしまう。かと言って無地なものを選んでしまえば、女性陣が使いにくいものになる。


(どうしたものかな)

 

 深く考えれば考えるほど埒が明かないため、一人で頭を悩ませていると視界の隅で見覚えのある姿が手袋を手に取りながら値札を見ていた。


「……!」

  

 その人物は月影村正。大人の男性らしい白色のコートを身に纏って、何かを探しているようだった。


「村正…」

「…何だお前か」


 村正は木村玄輝に声を掛けられると一瞬だけ身構える。しかし玄輝だと分かった途端、すぐに警戒を解いた。 


「なぁ、お前たちは大丈夫なのか?」

「大丈夫に決まっている。お前は俺たちが死にかけているとでも思ったのか」


 四色の蓮と出会うのは二週間ぶり。行方が知れぬままもう二度と出会えないかと不安に思っていたが、どうやら運が良かったらしく、丁度買い物に来ている月影村正と出会えた。 


「あれから連絡も取れないし、心配するに決まっているだろ」 

「俺たちはお前たちのことを心配していなかったけどな」


 村正は持っていた手袋を元あった場所に戻し、


「少し話がある。今から時間はあるか?」


 近くにあるニュアンス付属の喫茶店を見た。


「話って?」

「大事な話だ。手短には終わらないほどのな」

「…分かった」


 木村玄輝と月影村正はプレゼントコーナーを後にして、その喫茶店へと入店する。店員に禁煙席がいいと要望を伝え、案内された席はちょうど外の景色が見える窓際。外では仕事に明け暮れる社会人や、子供と遊びに来ている親子連れの人たちで賑わっている。


「エスプレッソ一つ」

「あぁえっと…カフェオレで」

「かしこまりました。エスプレッソとカフェオレをおひとつですね。すぐにお持ちします」


 二人は席に着くと店員に飲み物を注文する。村正がここまでしたい話とは一体何なのか、玄輝は妙にそわそわしていると、

 

「単刀直入にお前に聞く。神凪楓のことをどう思っている?」

「…は?」


 突然の問いかけとその内容に思わず腑抜けた声を上げてしまった。神凪楓のことをどう思っているか、そのような質問は夏休み中にコンビニで出会った智花から聞かれたような記憶がある。


「もっと明快にしてやる。神凪楓を大切にできるかできないか。それを答えてくれ」

「…どうしてそんなこと聞くんだよ?」

「それは――」

「こちらエスプレッソとカフェオレですー」  


 言葉を遮るようにして店員のウェイトレスがカフェオレとエスプレッソを机の上に運んだ。村正は咳ばらいをして喉の調子を整えながら、エスプレッソを一口すする。玄輝もカフェオレのカップを口に付けて、村正の言葉を待つことにした。


「あいつを孤独にしたくないからだ」

「…孤独にしたくない? どういうことだよ?」


 どういう事情があるのかと尋ねてみれば、村正は案外あっさりと自身の過去をこう語る。


「俺の世界では、神凪楓が師匠だったんだよ。ここまで強くなれたのも、冷静に物事を測れるようになったのも、すべて神凪楓という人物がいてくれたからだ」


 災厄の日によって龍神たちへ抵抗するためには力を付ける必要があった。月影村正も、朧絢も、雨氷雫も、雨空霰もここまで力を付けてくれた師匠と呼べる存在がいたのだ。その人物たちは全員玄輝たちの世界にも実在する者。


「だが結末は知っている通り、生き残ったのは俺たち四人だけ。俺の知っている神凪楓は、死んだんだ」

「だけど別人なんだろ? この世界の楓とお前の世界の楓は」

「…だからこそ、せめてこの世界の神凪楓は幸せに生きて欲しい。それが俺に出来るアイツへの手向けだと思うんだ」


 月影村正はこの世界の神凪楓が弟子にしてほしいと頭を下げてきたとき、自分自身が頭を下げていたころを思い出していた。本来ならばそのような願いなど聞き入れるはずもなかったが、何の因果なのか今度は真逆の立場で頭を下げられたことで、やむを得ず承諾していたのだ。


「木村玄輝、お前があいつを幸せにしてやってくれ」

「どうしておれが? 西村駿に任せればいいじゃないか」

「…あいつには心に決めた人物がいる。お前にもそれが分かるはずだ」

 

 きっとその人物は東雲桜。西村駿は黒霧の一件以来、下の名前で呼ぶようになったうえ、共に行動することが多くなっていた。生真面目な性格上、本当に守るべき相手を見つけたからだろう。


「駿を除けば神凪楓との付き合いが最も長いのはお前だ」

「いや、おれには楓を幸せにはできない。それこそ好きじゃないと――」

「お前は自覚していないだけであいつのことを好いている。勉強会の日にそれを確信した」

 

 月影村正は迷うことなく、神凪楓のことを好いていると言い切った。玄輝は今までにそんなことを気にしたことがない。いや、戦いばかりで気にすることさえ出来なかったのかもしれない。神凪楓は良き友人であり、自分を助けてくれた恩人。そうとしか意識していなかったのだ。


「だったら、お前が幸せにしてやればいいだろ」

「…俺にはその資格がない。それに俺はあいつを幸せにできる自信がないんだ」


 村正のこのような姿を見るのは初めてだった。四色の蓮の一角として健在する彼が、こうやって自信を失い悩みを抱えているということは、冗談ではなく本音で話しているのに違いない。


「だからお前に頼みたい」

「……」


 すぐに答えを出せるはずがなかった。前提で神凪楓がこちらのことを好いているかさえも分からない。そんな状態で幸せにしてやってくれと頼まれても返答のしようがないだろう。


「…これが大事な話だ。時間を取らせて悪かったな」


 月影村正はエスプレッソを飲み干して、会計札を手に取る。

 

「これぐらい奢ってやる。…じゃあな、風邪は引くなよ」

 

 玄輝はレジへと歩いていく村正へ別れの挨拶を伝えられずに、そのまま呆然とカフェオレのカップを見つめていた。そして気が付いたころには一時間が経過していたことで、大きく深呼吸をしてその場を後にする。


(…おれは、どうすればいいんだよ)


 大きな壁が目の前に現れてしまったことで、プレゼント決める最中も何度か溜息が出る。戦いではなく、恋沙汰。最も苦手な問題に直面した木村玄輝は、何度も頭を抱えてしまったのだった。

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