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家族仲良し大作戦その3


「お母様…!?」

「ああ奥様!丁度いいところに!」

「私たち、聞いてほしい事があるのです!」

「「少しそこに座っていただけませんか?」」


それは質問の形をとっていたが、完全に脅しだった。

なぜなら殺気が隠しきれていない。気配というものにまったく敏感でないわたくしにも、背後に立ち上る黒いオーラが見えるようだった。


そこからはもはや二人の独壇場だった。

心の中にあるわたくしへの対応の変化についていけなかったところをひたすら抉る。

しかも反論できないよう、すべて正論を言い続けた。


お父様、お母様、執事長の顔面は次第に青くなってきており、見ているこっちが倒れないかと冷や汗をかいた。

二人をわたくしが窘めても、二人は怒りが収まらない様子だった。


そう、状況は打破されている。悪化という方向に進むことによって。


「そもそも、何も知らない無垢な子供に我儘を許し続けたら、それを我儘と思わないのは当たり前でしょう!貴女様方が我儘を我儘でないとその身をもって教えていたのです!」


「お嬢様は言えばちゃんとわかってくださる御方なのです!それなのにお嬢様の人生歪めてそのまま放置!?片腹痛いのです。教育の本を百冊暗記してください。」


「ふ、二人とも…?わたくしも悪かったのだから」

「「お嬢様は甘すぎます!」」


もはやどうしようもなくなってしまった。

反論する要素すら全く見つからないその正論にお父様たちは何も言えない。


「このままだともう一度同じことを繰り返すでしょう!」

「妹君はいかように育てているのです?」

「の…」

「「の?」」

「のびのびと、天真爛漫に…」

「「マナーと礼儀と常識教えなかったのですか。」」


ここまで来てもう二人は怒りを超越したようで、呆れを全身で表現していた。


「馬鹿なのですか。」

「うぐぅ!!」

「違うぞ妹よ。馬鹿なんだ。」

「断定!?」

「確かにそうなのです!」

「賛同!?」


もう完全に罵倒となった中、ようやく雰囲気が多少和らいで、『もうすぐ終わり』と感じ取れてわたくしは詰めていた息をゆっくりはきだす。

それはお父様たちも同様のようで、安堵の気配が伝わってきた。

…が、


「そこで安堵するということは、反省なさっておられないのですね。」

「ここで一旦お嬢様と家族水入らずでお話しするのです。」

「「くれぐれもお嬢様を傷つけないように。」」


(………は!?)


わたくしは驚いた。理由は簡単。


(この場でお父様とお母様と話せと…!?)


展開についていけなかったからだ。

お父様とお母様もついていけなかったようで目を白黒させているし、

執事長も頭上に疑問符を浮かべ固まっていたからか二人に無理やり連れていかれている。

そして、わたくしとお父様とお母様だけが取り残された。


「「「……」」」


だれも話を切り出せれなかった。

わたくしは、今までとは違う接し方が分からなくって(いままで:我儘)

目を逸らしていた。


「…ディーナリズ。」

「…はい。」

「マナーは、誰に、教わったんだ?」

「…わたくしの専属の二人が。」

「執事とメイドが教師とでも?本当かしら?」

「本当です!わたくしの傍には二人以外いなかったのですから、そうに決まっているでしょう!」


叫んで、直後失敗したと理解する。

かぞくを馬鹿にされたことが嫌で、ついやってしまった。

恐る恐る視線を向けてみたら、怒った顔…ではなかった。


(あれ…?)


「自分より、身分が低い者から、プライドの高かったお前が教わった…?」

「あなたは不満じゃなかったの!?」

「…何故不満を持たねばなかったのですか?二人はわたくしの家族です。胸を張って言えます。彼らはこんなにすごいんだって。」


目をこぼれんばかりに見開いたお父様とお母様。

何か言おうとしているようだが、声になっていない。

パクパクと口を動かし続けている。


「お前は!身分が下の者に当たり散らしていたじゃないか!」

「お父様。」


急に立ち上がり怒鳴るお父様。

お母様も驚いた様子で、「旦那様!?」と声を上げる。

対しわたくしは無感動にこう言った。


「だって、教えてくださらなかったではありませんか。『従者に当たり散らしてはいけない』と。お父様は『ならあいつは解雇しよう。』しか言わなかったではありませんか。子供は親を見てそだつのですよ。」

「……ぁ。」


これは完全に二人の受け売りだ。


「かまって欲しかったから、叱って欲しかったから、教えて欲しかったから、当たり散らしました。それについては謝罪いたします。

でも、一つだけ。彼らはわたくしの家族です。身分が下の者なんて言わないでください。」

「ディーナリズ。わたくしたちもあなたの家族なのですよ。」


本当に家族と思われているか、わたくしには分からなかった。

愛されているとは思っていなかったから。

そう、割り切っていた。割り切っていた、諦めていた。

でもなぜか、そう言ってくれたのがうれしかった。


「そうですね。しかしお母様、わたくしにはもう彼らの方が大切なのです。全部を与えてくれたから。」

「……」


けどあたたかな言葉はかけられない。

意地を張っていたから。

家族は二人だけでいいという意地。


「あなた方がわたくしにくださったのは、愛情ではなく甘えです。それは、わたくしが欲しいものではありませんでした。」

「…すまない。」

「ごめんなさい。」

「謝罪はいりません。…こちらこそごめんなさい。」

「「ディーナリズ…!!」


しかし彼らの望みだから、和解しないと。

自分に言い訳をした。

そうして、本当に小さな声で謝った。

…すると、感極まったように名前を呼ばれて抱き着かれた。


「!?」


「すまない…すまない!彼らの言うとおりだ。何も知らないのに成長できるわけがない…だが、そんなことすら分からず間違えたのは我々の方だった。」

「ごめんなさい。ごめんなさいね。あなたをそんな風に育てた挙句に、義務すら放棄した愚かなわたくしたちを許して頂戴。」

「お父様?お母様?」


困惑するわたくし。

愛情を注がれていたのは三歳までで、幼いころだからか記憶は朧げ。

二人の愛情の注ぎ方はこんな風に包み込む感じではなく、隣に並んで引っ張るという感じだったから、慣れていない。

ぎこちないそれ(愛情)が『親としての愛情』だということに、おそばせながら気づく。

ああ…


(わたくしは結局、親の愛情を求めていたのね…)


腕をそっと、両親の背中に回す。

そのまましばらく、わたくしたちは無言で抱き合っていた。



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