ピクニックその3
「「さて!次の質問の返答です!」」
「ごめんなざい。ぢょっとまっで。」
二人は切り替えが早かった。
シリアスな雰囲気が一瞬で崩れ、ほんわかとした雰囲気に変わる。
だがしかし、わたくしはそんなに切り替えが早くないので、まだズビズビと鼻を鳴らしていた。
「大丈夫ですかお嬢様。」
「ほら、落ち着いてほしいのです。」
二人はわたくしをあやし始める。
『慰める』ではなく、『あやす』だ。
前世の記憶があるわけじゃないのに、その経験から精神年齢が高かった二人は、前世の記憶が戻る前のわたくし、つまり子供をあやしていた。
そして訳十五分後、ようやく泣き止んだ私に、バスケットから出したサンドイッチを昼食として渡して話を再開した。
「好きな物ですか…食べ物なら、ハンバーグが好きです。」
「私は…甘い野菜です。サツマイモとかカボチャとかトマトとか。」
「嫌いなものはキノコ類です。」
「苦いのと辛いの苦手なのです。」
「案外子供っぽいところもあるのね。安心したわ。」
好きな物も嫌いなものも子供っぽかった。
大人びた二人の年相応の一面を観れて、この時わたくしは確かに安堵した。
さっきまで二人は大人っぽかったから、近くにいる二人の自分が知っている面が本当なのか分からなくなったのが不安だったんだと思う。
ちなみにサンドイッチを食べ、二人の境遇の話を思い出している時、境遇の悲惨さに隠れて影が薄くなっていたとあるワードに、
(………ん?)
と、わたくしは疑問を抱き…
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
腹から大声を出して叫んだ。
右を振り向き、二人をまじまじと見つめる。
二人は叫び声に驚いたようで、
目を見開きサンドイッチを取り落としそうになっているセヤと、
反射的に耳を塞いだせいでサンドイッチを落として悲壮な顔を浮かべるセフィドは、
当時も珍しいと思った。
(成長した現在にはもう見られないから、忘れないよう脳裏にしっかり焼き付けておくことにする)
「あ、ああ…あああああ!」
「ど、どうしたのですお嬢様!?」
「だ、大丈夫ですか!?一体何が!?」
「あ、あなたたち!双子じゃなかったの!?」
「「………はい?」」
わたくしはてっきり、セヤとセフィドを双子と思っていた。
前々から、わたくしは二人をよく似た兄妹と述べていたと思う。
それは、内面に限ったことではなかったのだ。
まず、中性的な風貌の六、七歳を思い浮かべてほしい。
六、七歳の子供はまだ性差がでていないし、男女で身長もあまり変わらない。
つまり、二人はほぼほぼ同じ姿をしていて、目立った違いは髪と服だけである。
二人が同じカツラをかぶって、同じ服を着たらわたくしもあまり見分けがつかない。
(結局眼の色で分かるけれど)
そこまでそっくりな二人が双子じゃないなんて、
意外どころではなかった。
「お嬢様、僕たちは年子です。十か月半ほど僕が先に生まれました。」
「じゃないと私たち、どっちが兄なのか姉なのか分からないです。」
「え、えええぇぇぇ…」
つい気の抜けた声をもらしてしまう。
固定観念がぶっ壊された気分だ。というか実際ぶっ壊れた。
今のわたくしが聞いたら、
「ふむふむ。やはりテンプレブレイカーだな。」
とでもボケてみせるが、
当時のわたくしは
「ずっと双子だと思っていたわ…何だかどっと疲れた…。」
もう何といえばいいか、
考えるのをやめてしまった。
「お嬢様、はい。」
「…? なにこれ。」
「クッキーです。一度作ったでしょう。」
「…なんでクッキー?」
一瞬二人が読心か予知が出来るかと疑った。
最初のわたくしが考えた要望がクッキーだったからだ。
だがそれは全く違ったことが、この後すぐ分かった。
「帰り道もあるんですから、糖分補給したほうがいいですよ。」
「結構ここにいますから、そろそろ帰らないといけないのです。」
「「でもその前に…」」
「ご要望は何でしょうか!」
「何なのですか!」
鞭と飴がいっぺんに来た。
帰り道…行きと違って下りだから楽そうだけれど、それでも運動不足(以下略)な令嬢にはつらい。
ズーンと沈みそうな気持をクッキーと要望権で中和し、糖分で動き始めた頭をフル活用して要望を考える。
そうやってひねり出したのが、
「…これからもわたくしと一緒にいて頂戴。」
一切飾りのない、私の本心だった。
二人はキョトンと首をかしげ、その後少しずつ嬉しそうに表情が変わっていき
「「もちろんです。お嬢様。」」
口をそろえてそう言った。
そして案外うきうきとしながら下山したのだった。