ピクニックその2
「じゃあ、ご要望と質問はありますか?」
「え?どうして?」
「ここまでくる度です。今回も含まれるのです。」
「そうだったの!?」
「「そうなんです。」」
そうらしい。
要望と、質問…
何があるかと考え、思ったことは、『前作ってくれたクッキーがまた食べたい』だった。
当時絶賛反抗期中だったわたくしは、
「わたくしがそんな貧相なものを食べる訳ないでしょう!」
と怒鳴り、二人が部屋から出て行ったあと、テーブルに置いて行ったものをぱっと見食べたと分からない位だけ、こっそり食べた。
それがとても美味しかったのである。
とは言えども、一回拒否したものだからこそ、言い出しづらい事この上なく。
よって、先に質問をすることにした。
「じゃあ、二人の境遇、好きな物、嫌いな物を教えて頂戴。」
「「質問、承りました!」」
「まず境遇から。」
「ええ。手短に頼むわ。」
ここでのこの発言は照れ隠しである。
言った後に後悔した。
…微笑まし気にしていた二人にはばれていたようだけど。
「私たちは、アロー公爵領の隣の、シーリング子爵領の小さな山村出身なのです。
いつも貧しくって、助け合いながら暮らしていたのです。」
「その村のとある平凡な一家に、五男が生まれました。祝福されて生まれた五男は、しかし気味悪がられました。なぜなら、親とは似ても似つかない、それどころか閉鎖され、よそ者のいない村の中の誰も持っていない髪色だったからです。」
「夫は妻に村人以外との浮気を疑ったのです。しかし妻は二年程前から村から出ていないし、三年前から村に他の人は来ていなかったのです。
妻は浮気をしていなかったのに、変な髪色の子が生まれたことを気味悪がって、五男に近寄らなったのです。そして夫には浮気をしていないと態度で示すことにしたのです。」
「多少ギクシャクしたものの、妻を信じることにした夫。そして五男が生まれてすぐに、また子供を授かりました。新たな命によって、五男以外の家族はまた仲良くなり、理想の一家は次生まれてくる子に五男の分の愛情を注ぐことにして、五男をなかったことにしました。」
「そして五男が生まれて一年たたない頃、四女は生まれたのです。望まれて生まれた四女は、しかしのけ者にさたのです。だって、親とも、村の誰とも似ていない、閉鎖された村ではありえない髪色だったからなのです。」
「五男に続き四女までおかしな子が生まれたことに、夫婦はとても怯えました。自分たちが呪われているのでは、とおもったのです。けどお祓いに行くにしても、貧しい村の大家族がお布施なんて払えるわけがありません。
よってその不安定な精神状態を安定させるため、自分たちが呪われているではなく、五男と四女が呪われていると、忌み子だと思うようになりました。」
「殺すのも怖いと思った夫婦は最低限のご飯と水だけあたえ、五男と四女を納屋に放り込んだのです。他の子どもたちにも『あれはあなたたちの弟と妹じゃない。恐ろしい忌み子だ』
と教え、兄や姉は五男と四女を虐めるようになったのです。貧しい暮らしに苦しんでいた兄や姉はストレスのはけ口として五男と四女を扱ったのです。」
「貧困に苦しんでいたのは一家だけじゃありません。その村全体です。一家の五男と四女への扱いを見た村人たちは、村全体で五男と四女を忌み子としました。夫婦も異議を唱えませんでした。皆やっている。自分たちは悪くない。と思い込みたかったんでしょう。」
「それから五男と四女の生活はもっと苦しくなったのです。虐めは増え、仕事も増え、成長しているのに変わらぬ食事の量。それでも二人だけで助け合って生きていたのです。」
「その後飢饉が起きました。そこで村は弱者を切り捨てました。五男と四女は捨てられてしまいます。しかしそれは、五男と四女にとって最大の幸運でした。虐めが無くなり、自分たちで獲物を捕ればおなかいっぱい食べられる。山を移動しながら、二人は幸福に過ごしました。」
「しかもまだ幸運が続きます。とある山で、狩りに来ていた旦那様とバッタリ遭遇。旦那様御一考が手をこまねいていた獲物を目の前で五男と四女が狩り、そのままスカウトされたのです。」
「「そうして五男と四女は幸せになりました。めでたしめでたし。」」
……
……………
悲惨、過ぎる。
わたくしはその時、呆然としていました。
もはや泣くことすらできません。
だって、頭が受け入れようとしなかったんですもの。
怖がられ、恐れられ、腫れ物にされ、虐められ、捨てられる?
どうして……?
「どうして笑っていられるの…?」
二人はめでたしめでたしと、それはもう嬉しそうに言ったのです。
自身が幸福だと、微塵も疑わない顔で。
二人は幸せそうに笑って、こう答えました。
「だって、よく考えてくださいお嬢様。」
「私たち、旦那様にもお嬢様にも逢うことが出来たのです。」
「僕たちは幸せです。だって…」
「「 僕たち/私たち は今、心の底から幸せを実感できていますから。」」
それは、とても晴れ晴れとした顔で。
恨みも妬みもなく、幸せであることをかみしめた顔で。
誰より優しそうな顔で、嬉しそうな顔で。
やっと頭が追いつき、顔を歪め、大きな涙をぼろぼろとこぼすわたくしに、二人はハンカチを差し出しました。しかし、涙を拭うことはしませんでした。
その代わり、大人びた、というより大人顔負けなほどの穏やかな表情でこういったのです。
「お嬢様、お幸せにおなりください。」
「他者から見たら不幸だとしても、自分が幸せと思えれば、それは紛れもない幸せなのです。」
「僕たちは幸せになれました。」
「だから、私たちを幸せにしてくれた皆さんを、私たちは幸せにしたいのです。」
「「どうか 僕たち/私たち の為に幸せになったくださいな」」
涙腺が決壊した。
大切な人たちがわたくしの幸せを願ってくれることが嬉しかった。
『嫌なことを思い出させたわね』と、謝ることすらできないのが悔しかった。
幸せになりたいと思った。
この時、ゲームの設定が、また一つ壊れた。