ピクニックその1
二人に名前を付けた後、今までとは違う日常が待っていた。
簡単に言えば、遠慮が無くなった。
「お嬢様!散歩行きましょう!今はまだふくよかですが、そのままだと太ましくなってしまいますよ!」
「お嬢様!ちゃんと勉強するのです!デビューまでに知識を蓄えましょう!私もお手伝いしますから!」
やってなかった事を取り返す。
確かに重要だ。
だが、パッと始められるものでもなくって…。
「お嬢様!他の令嬢から遅れているのですから、ここから巻き返さなければ!」
「お嬢様!実際行動にする必要があるのです!」
「お嬢様!」
「お嬢様!」
…というわけで今、ピクニックに来ております。
「家の裏にこんなところがあったのね。」
「いいところでしょう。」
「わたしたちの秘密の場所なのです。」
ちなみにここまでの道は完全に山道。
二人はひょいひょいと身軽に進んでいたけれど、私は最初から最後まで肩で息をしていた。運動不足な肥満気味令嬢に山登りはきつかった。
二人は心配そうに振り返るけれど、手は貸してくれなかった。
この時にはもうダイエットが始まっていたみたい。
「ここまで来たので、休憩にしましょう。」
「シート引いたのでこっちにどうぞなのです。」
「ありがとう。」
シートに寝そべって一休み。
「……つかれた…。」
「甘い!甘々ですよお嬢様!」
「甘々なのです!」
「…え?」
「これから一週間に一度、ここまで歩きますよ!」
「ええ!?」
「大丈夫です。荷物は私たちが持つのです!」
「でも、嫌よ疲れるもの。今もへとへと。」
「ダメですお嬢様。社交界ではずっと立ってたりもして疲れますよ。今の内から体力を付けておかないと。」
「令嬢に筋肉はいらないです。でも体力はいるのです。」
ずいっと顔を近づけて、真剣な表情で語り続ける二人。
「もし挨拶周りの途中、体調不良ならともかく体力切れで座り込むなんてことになったら、他の令嬢から馬鹿にされてしまうかもしれません。」
「それに、背筋が伸びている方がきれいに見えるのです。」
「難しい事です。しかしそれだからこそ評価されます。」
「背筋を評価してくれた人は、努力を見つけれる有能な人の可能性が高いのです。」
ひたすら運動したら起こりうるいい事を私に語る二人。
傍から聞いたら馬鹿にしているような内容も含まれているが、二人は本当にわたくしの為になるだろうと、真剣に言っている。
その表情からも雰囲気からも、今まで一緒に過ごしてきた経験からも、わたくしへの気遣いに溢れていることが分かって、聞いているうちに断れなくなってしまった。
が、素直にうなずくにも、二人といることで改善されつつある、しかし当時まだ全然凝り固まっていたプライドの所為でフリーズした。
その沈黙をどう捉えたのか、二人は顔を見合わせ、うなずき合い
今度は違うアプローチをしてきた。
「ではこうしましょう。ここまでくる度に一回、お嬢様のご要望にお応えいたします。」
「さらに、質問には3回答えるオマケ付き。」
「「お嬢様!これならどうですか?」」
振り返って今考えたら、『ネット販売か!』とツッコミそうになる。
対価(運動する)に対して商品(要望、質問に応える)を買っているわけだ。
当時のわたくしはネット販売なんて知らないけれど、拙い知識で、二人が取引をしようとしていることだけは解った。
そこで自分に、(これは取引、これは取引)と思い込ませることで、
「………うん。」
「「ありがとうございます!」」
ようやく返事が出来たのだった。
この時、悪役令嬢の肥満設定が壊れました。