ディーナリズ・アローの誕生会その2
「皆様、本日は我ら、アロー家の長女、ディーナリズの誕生パーティーへ来てくださって、ありがとうございます。」
「どうぞ楽しんでいってくださいね。」
お父様がわたくしとお母様を、
セヤがあの子のエスコートをして入場したパーティー会場。
舞台の上で、お父様とお母様が口上を述べる。
そしてお父様が私の背を軽く押し、前に出ることを促す。お母様もあの子の背を押す。
わたくしは前に出て、緊張を飲み込み挨拶をする。
「皆様、初めまして。ディーナリズ・アローと申します。」
なるべく美しく見せるよう、体幹を意識してカーテシーをする。
いつもより華美な髪飾りに取り付けられた装飾が、さらりと視線の端で動く。
「本日は、わたくしの誕生パーティーを訪れてくださり、誠にありがとうございます。どうぞ、気楽にお楽しみください。」
背筋を伸ばせ
人前だからって委縮するな。堂々とした振る舞いは、わたくしの得意技だったでしょう。
「同時に本日デビューする、妹のイヴァンカです。イヴァンカ、ご挨拶を。」
セヤが自然な動作であの子を前へ誘導する。
セヤは動かず、あの子がわたくしの隣に並ぶ。
「初めまして。イヴァンカ・アローです。皆様、お姉さまのお祝いに来てくださり、ありがとうございます。」
変わらずの愛らしい雰囲気を持ち、動作は少しつたないものの、カーテシーを行う。
「これからよろしくお願いいたします!」
緊張の為か語尾が強まったものの、まあ悪くはないだろう。最高だったとも言い切れないが。
わたくしは両親の隣まで下がる。
それに気づいたあの子も慌てて下がる。
「では、パーティーを始めましょう!乾杯!」
お父様が高らかに宣言し、会場にいる貴族たちがパートナーとグラスのふちを合わせ始める。
オーケストラが音楽を奏で始め、会場がざわめきを取り戻す。
そんな中、わたくしたちは壇上から動かず、貴族たちの挨拶を受けていた。
「初めましてディーナリズ様。わたくしは――――」
「初めまして、私は――――」
同じような挨拶が延々と続く。
貴族としては、大貴族の令嬢たるわたくしや妹に繋がりを付けられれば最高だ。
そうしていたら、あることに気づいた。
お父様を優先する人と、わたくし達を優先する人…
恐らく多少なりとも気に入られていると思っている人は、できるだけお父様とのつながりを強めようとしているのだろう。
そうじゃない人は、次世代に期待している。息子・娘・甥・姪果ては親戚の子という曖昧に紹介された人も。
しかしあくまで挨拶だ。時間はあまりとられない。
問題はこの後、挨拶が終わった後だ。
「2人共、付いてきなさい。」
「「はい。」」
お父様がきちんと挨拶せねばならないと思った人に、子供であるわたくしたちを改めて紹介しに行く。
そしてさっき来た人たちの中で、真っ先に挨拶すべきなのは…
「本日はお越しいただきありがとうございます。陛下、第一王子殿下。」
王家の皆様だ。
わたくしとイヴァンカはまだ後ろで待機する。
「ああ。デイン、先のパーティー以来だな。」
「本日は招待ありがとう。アロー侯爵。」
恐らく気安いであろう挨拶だ。
だが、他の貴族との対応を見たことのないわたくしには、これがいい対応なのか、悪い対応なのか、全く分からない。ただ緊張だけが募っていく。
「娘のディーナリズとイヴァンカです。」
「初めまして。陛下、殿下。」
「は、初めまして。」
改めて礼をする。
イヴァンカも緊張こそしたものの、きちんと礼ができたようだ。
陛下は軽く目を細め、優しく声をかけてくださる。
「ディーナリズ嬢、イヴァンカ嬢、デビューおめでとう。」
「「ありがとうございます。」」
「これからパーティーで息子たちに会うこともあるだろう。良ければ気軽に話しかけてやってくれ。ああ、もちろん私に話しかけても構わない。」
「え? いいんですか?」
「光栄ですわ、陛下。ね、イヴァンカ」
「あ、はい!光栄です!」
思わぬ発言に失言ぎりぎりの発言をしたイヴァンカを誘導する。
『いいんですか』は駄目だろう。妥協しても『よいのですか』『よろしいのですか』が最低限である。
殿下の目まで細くなった。これはどういう感情なの?
「では、二人のデビューを祝って。」
殿下が音頭を取りグラスを軽く前に持ってくる。
お父様はともかく、わたくし達はグラスを持ってないので従者を呼んで…いつの間にそこにいたのかしらセフィド。
セフィドから貰ったグラスをもって、カチンとグラスを合わせた。
そのまま一口飲む…おいしい。わたくしの好みの味ね。
それからお父様と陛下がたは他愛ない話を続け、時々わたくしたちに話題を振る。
それに対してイヴァンカの言動を不敬にならないよう誘導しつつ答えなくてはならない。デビューしたばかりのわたくしがするようなことじゃないでしょう…
「では、今後も娘らともどもよろしくお願いいたします。」
「「失礼します」」
いつの間にか、ということもなく集中していたらやっと会話が終わったようで、ようやく話が終わりを迎えた。
グラスを片手に持っているので、左手でドレスをちょこんとつまんで礼を行う。
にこやかに笑うお二方。どこか警戒心を抱きづらいそれが余計に警戒をあおる。
とはいえども、対応を悪くするなんてことはあってはならないので、思うだけに留める。
さあ、パーティーはまだ続く。
ノウセスト、イステスト、ウェステストの方々もいるのだから、一瞬たりとも気は抜けないわ。




