ディーナリズ・アローの誕生会その1
そのままとんでデビューの日
昨日届いたドレスはギリギリごちゃごちゃにならない限界まで飾りを盛った、そこそこに趣味の悪いものだった。兄妹がキレた。
多すぎる装飾品をお抱えの針子に取り払ってもらい、ドレスと一緒に届いた髪飾りに合わせて装飾を付けなおす。足りないものは作って足してもらったようだ。
よって、相当手が加えられているものの、本職と大差ない立派なドレスができた。
「よくお似合いなのです、お嬢様。」
そういうのはセフィドだ。
いつものメイド服は一旦収めて、装飾の細かく豪華なものを着ている。パーティーへの準備はばっちりだ。
いつも胸元を飾っていた白のリボンタイも、レース素材の控えめなジャボに、恐らく私に合わせたであろう鮮やかな赤の留め具に変わっている。
肩程までの髪はきっちりと帽子に収められていて、黒い部分はグラデーション部分を含め見えなくなっている。
「微調整は必要ですか?」
そう尋ねてきたのはセヤだ。
しかし、セヤの格好はセフィドと違う意味で普通じゃない。
貴族令息が着るような盛装をまとい、化粧でできる限り人相を変えている。
眉を書き、猫目気味の目を切れ目にし、肌の色を全体的に濃くする。
陰影をつけ彫りを深く見せ、できるだけ本人とかけ離す。
私に合わせた、けれど私とは少し違う深い赤のコートに黄色のアスコットタイ。城の半ズボンに丈の高い靴下を合わせ、ブーツを履いている。
特徴的な髪はかつらをすっぽりかぶって隠している。カツラの色は一般的な金髪だ。断じてピンクブロンドではない。
なぜこの格好をしているかというと、あの子が原因だ。
急に参加が決定したあの子のエスコート役がおらず、私の教師を行っていたことで作法を知っているセヤが急遽駆り出されたのだ。
入退場ではあの子のエスコートをするらしいが、その後は私のサポートとあの子の世話を行ったり来たりするそうで、なかなかに忙しくなりそうだ。
ちなみにセヤはあの子のエスコートをしようとしたお父様を『主役であり後継ぎであるお嬢様に対する義務を解っていますか?』と言って黙らせ、お父様のわたくしへのエスコートを勝ち取った。
「大丈夫なのです。兄上が一緒に降りますから。」
「目上である四大公爵家の知識も頭に叩き込んでいます。安心してください。」
二人は緊張でガッチガチな私の気を紛らわそうと、明るく発言する。
※解説:四大公爵家。四大公爵家、国家の誕生からある四つの公爵家で、ノウセスト、サウセスト、イステスト、ウェステストの四家。
ただし、サウセスト公爵家は百年以上前の飢饉の際、生活を維持するため無理な徴税を行い革命に遭った。しかし、民が革命を起こした土地なのでだれも欲しがらず、最寄りの侯爵家のアロー家が王命で統治した。
サウセストの末裔は生きているとの噂があるが、眉唾物で誰も信じていない。
「私もできるだけ手伝うのです。」
「立場的に難しいけどな。」
「兄上羨ましい…」
パーティー会場を動き回り給仕を行うセフィドはわたくしにずっと付き添うのは不可能だ。
悔しいと全身で主張している。あたらしいメイド服に皺をつけそうになってセヤに止められた。
「お嬢様、兄上、私はそろそろ最終調整に行ってくるのです。」
「あらもうそんな時間?」
と、急にセフィドが声をかけてきた。
窓の外を見れば、日もそこそこ沈んでいる。
セヤも夕焼けを目に映している。
ここで、ふと思った。
セヤの鈍い赤の瞳は、夕焼け色によってより美しくなっていた。
セフィドの鈍い青の瞳は、夕焼け色が混じって神秘的になっていた。
二人の瞳は鈍い色だから、光によってより輝いて見える。
―――この価値にどれだけの人が気付くのだろうか。
そう思った瞬間、2人に瞳から夕焼けは消えてこっちを見た。
「では、お先に失礼します。」
「お嬢様はお化粧をいたしましょう。」
美しい夕焼けを見て感慨に浸っていた(様に見えた)瞬間がなかったように、いつも通りの切り替えの早さで行動を開始した。
一礼し部屋を出ていくセフィド
ドレッサーの前の椅子を引くセヤ
鈍い瞳は緊張と気遣いを宿している。
(この瞳にも、十二分に価値があるわね。)
ドアの向こうに消えていったセフィドと、メイク道具を並べ手袋を外すセヤをみて…
きっとわたくしは上機嫌に笑っているだろう。
***
ざわめく屋敷
大きな屋敷
忙しく走り回る従者たち
訪れる着飾った紳士淑女
ほら、そろそろ始まりだ
ほら、もうすぐ主役がやってくる
準備はいいかい?
忘れ物は無い?
楽しい時間が始まるよ
どうか楽しんで行ってね
さあさあ皆様拍手の用意を
さあさあ皆様ダンスの準備を
片手にグラスを!
パートナーの手をとって!
はじめよう
はじめよう
八年ぶりのパーティーだ!
主のためのパーティーだ




