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家族仲良し大作戦、第二段階その9,

どうしよう…

どうやってこの中に入ればいいの…?

この和やかに談笑している家族っぽい雰囲気の中にどうやって混じればいいの…?

ああ、なんで台本がないのかしら!助けて二人とも!!


扉の前で立ち往生しながら後ろを振り返る。

セヤとセフィドがこちらの様子を見て、口をぱくぱくと動かして何かを伝えようとしているが、わたくしに読唇術は使えない。

すると二人はどこかへ行き、何かを持ってきた。

一枚の木の板に粗い目の紙、安そうなインクとペン。

要するに筆記用具だ。

セヤはさらさらと書き心地もよくないであろう紙とペンで何かを書いてこちらに見せる。


『頑張ってください』


何のアドバイスにもなっていない…

確かに頑張らなきゃいけないのだけれども!

すると不満が顔に出ていたのか、また文字を書き始めた。


『中にいるのが僕たちだと思ってください』


なるほど、家族が仲良く話しているから私も混ざりたいと思えと。

嫌でもちょっと難易度が高いわね、一緒に来てくれないかしら?

ええ駄目なのよね、分かっているわ。

分かっているからそんな『信じていますお嬢様!』とでも言いたげな目をやめて頂戴、地味に退路がふさがれていくから。

いえ、わざとなの?もしかしてわざとなの?


いいわよ!やってやるわよ!

その代わり後で私のお願いをそれぞれ三つずつ聞いてもらうわよ!


ドアノブに手をかけ、出来るだけ自然な動作で引き開ける。

後ろにいたはずの二人は、いつの間にか消えていた。

そこにいるのはお父様とお母様、そしてあの子

円卓のあの子の向かい側には空席が一つ。


「遅参、申し訳ありません。ただいま参りましたわ。」

「あら、やっと来たのねディーナリズ。」

「おや、準備万端だね。」

「ええ!似合っていますか?」

「とてもよく似合うわ。」


出来るだけ笑いながら声をかける。

そんな緊張しながら行われた会話はとても自然な世間話。

そして、あの子が生まれてから行われたことのない会話だ。

現にあの子は目をぱちくりとさせている。

そんな中私は素知らぬふりで着席する。


「全員揃ったし、晩餐会を始めようか。」


そうお父様がいい、執事長が合図する。

メイドたちが前菜を持って入ってくる。

もちろん皿の数は四つだ。


「では食前の祈りを。」


家長の合図に合わせ、わたくしとお母様は手を組む。

遅れてあの子も手を組む。

この国の文化は食前に祈りをささげるが、それは無言で行う。それぞれ別の事を祈るのだ。通常時は食材や作ってくれた人への感謝をささげるそうだが、学校に通うときになれば試験合格を祈る、とセヤに教わった。


「さあ、頂こう。」


っと、いつの間にか祈りが終わっていた。

眼を開け手をほどきフォークを手に取る。

そして、少しぎくしゃくした晩餐が始まった。


最初は誰も話し出せなかった。

わたくしはいつも話なんてしなかったので、わたくしを巻き込んだ話をするのが難しいのだ。ここはわたくしが一肌脱がなければ。


「遅くなってしまったけれど、お誕生日おめでとうイヴァンカ。」

「---!あ、ありがとうございます。」


まずい、これだとここで会話が切れる。


「わたくし、最近はよく外にピクニックに行くのよ。今度機会があれば一緒に行きましょうよ。」

「…はい、そうですね。」


え、話題選び間違えたかしら?

これでもわたくし我慢したのよ?

二人と一緒の時間減らす選択して頑張ったのよ?


「そうね、それ以外にもいっぱいお出かけしましょう?お揃いの服とか、興味ない?どんな意匠が似合うかしら。」


最高のアシストですお母様!


「私としては女の子らしいものを着てほしいな。」

「もう、あなたはそればっかりなんですから。」

「…っ、ぁ、あの!」


そして今まで黙っていたあの子はいかにも可愛らしい様子で口を挟んだ。


「わ、わたしっお姉さまの好きな物がいいです!」


ほんとに可愛らしい。これが演技だったらすごい。

動作一つ一つが人に好かれる可愛らしいもので、気が緩む。

しかし、人聞きでも狂気的な一面を知っている私からしたら恐怖を覚えるものである。

そんなことはおくびにも出さないけれど。


「ありがとう。でもわたくしだって、女の子らしいものは好きなのよ?」

「‥‥‥!すみません!」


ああああ!

責めてるわけじゃないの!

思いっきり頭を下げないで!居心地悪い!

わたくしメイドたちとあまり仲良くないの!すごい目で睨んでくるの!

セヤ!セフィド!助けて!


「そういえばイヴァンカ、もうすぐディーナリズの誕生パーティーがあるけれど、お前も出席するかい?」


‥‥‥


「そうね。一緒にデビューしたらどう?イヴァンカには少し早いかもだけれど。」


……………


「お姉さまと一緒にデビュー?でもわたし、みな様の前に出て話す自信なんてないわ。」

「大丈夫だ。お前ならできる。」

「わたくし達だっているのよ。安心して。ああ!嫌ならいいのよ?」

「いえ、嫌だなんて全然…!」


‥‥‥‥‥‥‥‥え?


私を除いて話が進む。

え?デビューするの?私と一緒に?

なぜかあの子も乗り気なのだけれども、えぇ?


「でも、ドレスも何も用意していないですし…」


あら、全く持って真っ当な意見。

どうして社交なんてしたことのないあの子が、パーティーにいつも言っているはずのお父様やお母様より常識的なの?

お父様とお母様、子育てには絶対的に向いてないのがこんなところでくっきり浮かんでくるとは思わなかった。


「大丈夫だ。ディーナリズの誕生日で注文した時、せっかくだからと一緒に注文しておいた。まさかこんなところで使うとは思っていなかったがな!」


がっはっはと豪快に笑うお父様。

しかしなんだそれは、丁度いいからドレス作っちゃおう♡で購入していたの?

夜会用のドレスを?


「お、お父さま!それはわたしもデビューする予定だったという事ですか!?」


思わず声を荒げるあの子。


「まさか、そんなわけなかろう。ただ私が着飾ったイヴァンカを見たいと思ってな。」


デレデレとした表情で当然のように答えるお父様。

さすがに引く…


「じゃあイヴァンカ、挨拶の仕方だけ覚えましょうか。マナーもできているし、あなたはまだ幼いのだから多少のミスは許されるわ。」

「もちろん私たちもカバーする、きっと大丈夫さ。」


夫婦の息がぴったりなこと。

優しげな表情で娘を見つめるその瞳には、確かな愛情が宿っている。

だが、いかんせん状況が悪いとしか言いようがない。


「なら…一緒にやってもいいでしょうか?お姉さま。」


ほらこうなった。

良くないとは言えない。いや、拒否する権利はわたくしにあるのだが、やりずらい。

拒否できない雰囲気というものが自然に形成されている。


「頑張りましょうね。」

「はい!」


結局許可してしまった。

頑張らなければ…あの子が失敗しないように。

和気あいあいと進む食事。

デザートのときにわたくしが飾り付けを担当したと伝えたら嬉しそうな顔をして、誕生日プレゼントも高価なお父様の物や同じ店のお母様の物より、わたくしの物を喜んだ。

この誕生会の計画は成功したといってもいいだろう。でも…


それより憂鬱な物に憂鬱さが増えてしまって、個人的には失敗だ。


幸いだったのは、他愛ない話をするわたくしとお父様、お母様を見つめていた視線に一瞬持った違和感が、それから見分けられるようになった狂気的な視線が、計画の最後で一気に減衰して今ではあまり見られない事だろうか。


…っしかし!

無いわけではないのよ!気づいちゃったから怖いのよ!

なんでデビューまで一緒にしなきゃあいけないの!?

セヤ!セフィド!助けて!



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