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家族仲良し大作戦、第二段階その6


「「お帰りなさいませ。お嬢様、奥様。」」


家でわたくしたちを迎えたのは、セヤとセフィドだった。

いつも浮かべていた微笑みは、悪戯っぽい笑みになっている。

その様子から思うに、『仕込み』は終わったのだろうか。


「ただいま。セヤ、セフィド。仕込みとやらは終わったのかしら?」

「大体は終わりました。」

「八割は終わりました。」


やはりそうか。

なら、残りの二割は当日しかできない事なのだろうか。


「「次はお嬢様の、妹君の誕生日に着るドレスを決めます。」」


違った。わたくしがいなかったからできない事だった。

というよりそれなら…


「お父様やお母様の衣装は決めないのかしら?」

「「管轄外です。」」


管轄外…

確かに二人はわたくし専属だけれども、言い方があるんじゃあなかろうか。

そう思ったのはわたくしだけでないようで、


「ちょっと。アロー家の主は旦那様、女主人はわたくしよ。この子の見本となるよう、礼儀はちゃんとなさい。」


少し強めの口調でお母様が二人を諫める。

でもお母様、使用人が主人のお手本になってもいいんですか?

それもはや貴族じゃあありません?

すると二人は、


「「申し訳ありません奥様。最低限気をつけます。」」


あくまでも最低限以上の敬意を払う気はないようだ。


「お嬢様!明日お嬢様の誕生日の衣装が届くそうです。」

「妹君の誕生日の衣装は注文する時間もないので、お針子さんに編集(アレンジ)してもらうのです。」

編集(アレンジ)するドレスはどれにいたしますか?」


二人はあくまでお母様に義務的で、わたくしに友好的。

二人が恩義があるのはお父様で、お母様はほぼ無関係だった。しかもその状態からわたくしの育児放棄に至ったから、緩和するものもなく、角が付く態度になるのはやむを得ない。


お母様は育児放棄の尻拭いをさせた自覚があるので、あまり二人に強く出られないみたい。じゃないと、貴族として普通の家庭で育ったお母様は使用人をねぎらうことも当然するけれど、使用人に軽んじられるのを嫌う。

クビは流石に言わないけれど、不敬が続けば減給位はするはずだ。

…なお、わたくしはその様子で使用人への接し方を曲解&誤解した。


「…もういいわ。屋敷に入りましょう。」

「「はい。奥様。」」

「はい。お母様。」


お母様は二人のことは一旦諦めたようだ。

わたくし達に家に入るよう促し、屋敷内で出迎えたメイドに話しかけ、そのまま去っていった。


「ではお嬢様。」

「私たちも参りましょう。」


わたくしも促されて、移動を開始する。

二人は移動中、世間話のように話しだす。


「「お嬢様のドレス選びは急務です。」」


「なら勝手に選べばよかったのに。」


「「いえ!お嬢様のご意向を 僕たち/私たち は優先いたします!」」


「………そう。」


この簡潔な返答は、はっきり言うと照れ隠しだ。

ちゃんと伝わっているはず…伝わっているわよね?

あ、伝わっているわねその顔は。

そこで部屋についたので、セヤが扉を開ける。

そこには机上にたたまれたドレスが四つ並んでいた。


「お部屋によさげな物を並べておりますので、お好きな物をお選びください。」

「けれど、直して使うので、改良してよい物を選んでいただきたいのです。」

「そうね…」


並べられているドレスは

・赤基調にレースがたくさんついたもの。

・白基調にピンクの大きなリボンが特徴の物。

・黄色基調で花柄の記事を多く重ねた物。

・水色基調で全体的にふんわりしている物。


上から華やかなドレス、可愛らしいドレス、上品なドレス、清楚なドレス。

本当にお気に入りのドレスはなく、かつ普段着より少し華やかなことから、吟味されて選ばれたことが分かる。


「赤以外、わたくしに似合うかしら?」

「大丈夫です。ばっちり似合います。」

「不安なら直すのです。」


最初のドレスは全体的に赤くなるが、わたくしに似合うことが立証されているドレスだが、それ以外が不安である。

可愛らしい物は、キツイ顔立ちなわたくしに合うのか?

上品な物は、苛烈なイメージのあるわたくしに合うのか?

清楚な物は、赤と水色なんてわたくしの色と合うのか?

‥‥‥不安だ。


「直すといっても時間がないでしょう。あまり変えない方がいいわよね。なら安全策として赤にしましょう。」

「いいのですか?」

「問題ないわ。」

「なら調整の為、一回着てほしいのです。」

「わかったわ。」

「兄上は出てってくれなのです!」

「いや出るけど敬語!わすれないように!」


口調を注意されつつ、セフィドはセヤを部屋から追い出す。

そういえば、セフィドの『なのです』口調は可愛いけど、なんでそうなったのかしら?


「ねえセフィド」

「はい!どうしましたかお嬢様?」


赤いドレスを持ち後ろのボタンと、コルセット風の編み上げのリボンをほどきながら、振り返って返事をするセフィド。


「あなたの『なのです』口調はどこからきたの?」

「私の口調?」


虚を突かれたような顔をして、わたくしの言葉を繰り返す。

それから表情はだんだん苦笑に変わっていく。

――なお、ドレスの準備は着々と進められている。


「これは、口調矯正の際、間違えて覚えちゃったのが取れなくなっちゃったのです。普通に敬語で話すことも出来るのですが、こっちが染みついちゃってるので、お客様等がいない時はこちらのままでしゃべりたいのです。」


それから話されたことを簡略化すると…

なんでも、最初わたくしと会う前の二人は、敬語どころか言葉も片言か雑かで、この屋敷で言葉や読み書きを覚えたらしい。その際、『なんです』を『なのです』と聞き違え、さらに一回聞いただけで習得してしまったため、むしろ直せなくなったとか。

その後覚えることができたが、ちゃんとしなければ、と思っているとき以外は、ついこっちを使ってしまうのだという。



セフィドにその話を聞きながら着替え、話が終わるころに丁度着付けも終わらせて姿見の前に立つ。


「兄上、終わりました。」

「ああ、そうか。」


セヤを呼ぶセフィド。だがその声はわたくしの耳に届かなかった。


(ダイエット、頑張ろう…。)


セヤはかつて、『今はまだふくよかですが、そのままだと太ましくなってしまいますよ!』とわたくしを諭したが、本当だった。

ていうか最初から滅茶苦茶太っていたのだろう。

週1ピクニックで動くようになったのに太い。ただ太い。

全体的に太っているからむしろギリギリ見苦しくないのでは?という状態。全く嬉しくない。


「髪型はどういたしましょう?」


そんなわたくしの内心を知ってか知らずか、セヤが問う。

今のわたくしの髪形は、横髪を縦巻きロール、後ろ髪をツインテール。

すごく強いくせ毛なので、後ろ髪は巻かなくても重量感たっぷり。

ツインテールなので横幅も増える。



セヤを見る。

最近伸びてきた髪は肩程まで。括らず後ろに流しているきれいなストレート。

セフィドを見る。

 セヤより長い髪は背中の中程まで。ポニーテールできれいなストレート。


‥‥‥羨ましい。切実に。


「この髪、ストレートにならないかしら…」

「? なぜ?」

「貴方たちが羨ましいわ。くせ毛だと太って見えそう。」

「そんなことないのです!」

「ありがとう…」


セフィドの髪をしつらえる(セッティング)時、どれほどの時間がいるのだろうか。

わたくしの髪は、いつも二十分を優に超えるだろう。

二人も、くせ毛を梳かして括るのにとても苦労していた。


「…髪は流しましょう。括る必要はないわ。」


「「はい。かしこまりました。」」


令嬢として、髪を切るわけにもいかないし…


「ではカチューシャかリボン、髪飾りバレッタあとは―」

「ドレスに合わせないといけないのです。」


髪をストレートに変えることなどできないし…


「赤で統一は流石にな」

「やっぱり白にするのですか?」




――今となっては、前世の記憶からストレートにする方法も創れるだろうが、当時はどっちにしろ、捕らぬ狸の皮算用なのだった。



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