家族仲良し大作戦、第二段階その5
「慣れませんわ。こういうの。」
「慣れなきゃだめよ。あなたはアロー家の娘なのだから。」
帰りの馬車の中、独り言を言う。
お母様は柔らかな態度を少し弱めて、わたくしにそう宣告する。
「わたくしの教師は二人ですから、価値観に平民らしさが混ざってしまうのは仕方ないと思いませんか?」
わたくしに貴族としてのマナー・礼儀・教養・etc…を教えたのは、セヤとセフィドだ。
お母様も短い期間の間に、わたくしの言う『二人』はセヤとセフィドと分かっているので、これで伝わる。
お母様はその顔に後悔を滲ませつつ、それでも言葉を紡ぎ続ける。
「そうね。わたくし達は彼らを責められないし、むしろ感謝しているわよ。でも、社交界でその価値観は、いい方向に向いたりしないわ。
デビューはもう割り切るとするけれど…教師も付けなくちゃ。」
一旦言葉を切り、片手を頬にあて、
「平民らしさが浮かんでしまうと、揚げ足をとられてしまうわ。」
と、困ったように告げた。
元々二人が『家族仲良し大作戦』なんて始めたのは、わたくしが家での影響力が無くなり、令嬢としてやっていけなくなるのを危惧した結果だ。
その為、二人的には何より望んだであろう展開だ。
けど、二人を馬鹿にされた気がして、釈然としない思いが広がるのはどうしようもない。
するとお母様は、急に苦笑の表情を浮かべる。
どうやら顔に出ていたらしい。
「それでもその平民らしさを直すだけで済むなんて、教育を受けていなかったあなたには最高の環境よね。所作もマナーもお手本のよう。
あの双子には頭が上がらないわ。」
「……」
「? どうしたの?」
賛同の声をあげようとしたわたくしは、お母様の最後の言葉に黙り込む。
「お母様、二人は双子じゃありません。」
「………は?」
眼を見開くお母様。
こういうところで血のつながりを感じるとは。
「二人は年子です。ものすごくそっくりですが。」
「ええ…あんなにそっくりなのに。」
「わたくしもそう思いますわ。」
そっくりな年子の兄妹。
性差が出てくるまで、髪や目以外では見分けられないと思える二人。
誰もが驚くと思われるその事実に、
「けれどなぜ行動までそっくり…」
「それを言うなら二人は…」
馬車の中の時間を使いつぶすほど語り合ってしまい、
気が付いたら家に到着していたのだった。




