九十六 学生、一計を案じる
「あ、貴方から誘ってくれるなんて珍しいわね」
「ははは。たまにはね」
めちゃくちゃ嬉しそうな様子のウラルと、今胃に穴が開いている最中だと思われるユークレインが一緒に食堂で昼食を取っている様子を、彼らの視界に移らない所で眺めながら、ユークレインの棒演技でどこまでウラルから情報を引き出せるのかと俺はハラハラしつつ、彼らの近くで耳をそばだてていた。
「こ、この前、第三王子と一緒に居るところをルシウスが見たって言っていたから」
俺はスコットとウラルが会っていたことをユークレインに話し、「もしかしたらウラル、王子に心変わりしたんじゃないか」と言って、「今度聞いてみたら。例えば、昼食に誘うとか」とユークレインに言っておいたのだ。まさか、ここまで上手くいくとは。
「だ、大丈夫だから。本当に大した話はしてないの。ほら、私一応公爵家の娘だから、第三王子とも面識はあるわけで。偶然お互いが一人でいる時に廊下ですれ違ったものだから、つい天気の話なんかをしてしまったの。だから、貴方が疑うようなことなんてこれっぽっちもないから。本当よ。本当」
ウラルのやつ、ものすごく否定しているぞ。ここまで否定されると寧ろ疑いたくなるレベルだな。
「疑う?っていうのはよくわかんないんだけど、もしウラルが俺以外の人を好きになったのなら、俺ははっきりと言って欲しいんだ。・・・・・・ほら、君の婚約者という噂が出回っているわけだから、君に迷惑をかけてしまうかもしれないし」
違うだろユークレイン。自分が迷惑しているって心が叫びたがっているんだろ。どんだけ別れたいオーラ出してるんだよ。
「迷惑だなんてとんでもない。むしろその噂私がな・・・・・・、何度も聞いて寧ろありがたいと思っているくらいなのよ。だから気にしないで。本当に、第三王子とは何も無かったから。本当に本当よ」
恋する乙女はてんぱるって本当なんだな。ここまでポンコツな言い訳をするとは。むしろ信じてあげないユークレインの方がひどすぎじゃないか。・・・・・・いや、一度疑いを持つと、どうしても人を信じることが出来なくなると聞くし。
「だったら、第三王子と何を話したのか、俺に教えてくれよ」
「・・・・・・本当に天気の話よ。・・・・・・でも、ルーシ領の天気の話だけど」
「ルーシ領の? ここからどれだけ離れていると思っているんだ。わかるわけないじゃないか!?」
「王子はね、私の家の情報収集力と情報伝達力を探りたかったのよ。理由は全く話さなかったけど、恐らく自分の所の偵察部隊に不満を持ってしまったんでしょうね」
なるほど。第三王子はマクマホンと仲が悪くなったと。
「何でそこまでわかるんだよ」
「それは・・・・・・、勘、というのもあるわ。でも、部下が食材を腐らせたとも言っていたし」
何だその怪しさぷんぷんの隠語はよう。食材を腐らせた? もしかしてドラゴンの死骸の話か? 王城にあるのか? あんな巨大なものが。一体どうやって運んだ? 召喚魔法か? ドラゴンと契約したっていうのか?
頭の中にいくつもの疑問符が浮かぶ中、どうしても第三王子との仲を疑ってしまうユークレインが、ついムキになったのか「だったら俺が好きだって証拠を見せてくれよ」などと言い出してしまった。
ねえユークレイン君。それ好きな相手が別の男と一緒に居たのを見た人間の台詞だからね。もしかして君、本当はウラルのこと好きなの? ツンデレなの? 君達ツンデレとヤンデレとカップルなの?
「・・・・・・わかったわ」
消え入りそうな声で、ウラルは呟いた。
───────彼女の唇が、彼の唇に重ねられた。
えっ? え!? ここ食堂だぞ!?
俺が慌てて周囲を確認すると、俺以外にも何人の生徒がその瞬間を目撃してしまったようだ。
ウラルは顔を真っ赤にして、その場から逃げるように立ち去った。対して、ユークレインはその場に立ち尽くしていた。
まだ、感覚が現実に追いついていないような、そんな様子だった。
・・・・・・こいつは、恋に落ちてしまったのやも知れぬ。
いつぞやのユークレインの「無理無理」発言。あれは、一種のフラグであったのかもしれない。
ナオミに食堂での出来事を話すと、彼女は「エモッ」と言って騒ぎだしてしまった。ねえ君、一応授業中なんだけど。
そうは言っても、今年の「魔道具作製」の授業は基本実習だ。実際に魔道具を開発する段階に入っているのだ。
俺は顕微鏡で石英の構造を観察して、その結晶の構造をスケッチしていたが、ナオミの大声に思わず手を止めてしまった。
「ウラルちゃんてゲームだとヒロインに対する当たりが本当に強くて、怖い印象しかなかったんだけど。えっ!? そんなに可愛い子だったの?」
「まあ疑うなら、その時他に多くの生徒が食堂にいたから、彼らに訊いてみるといいよ」
「え~絶対訊く絶対訊く」
その辺にしておきなさい。教師が困っているじゃないか。すいません、二年目もうるさくなっちゃって。
しかし、随分と機嫌がいいな。今なら、何でもほいほい話してくれそうだ。
「話変わるけど、ゲームに死体を操る魔法とか出てきたの?」
「出てきたよ。ネクロマンサーって敵が死霊術とかいうのを使ってきたの。ゾンビみたいなのを死体から作るんだよ。でも不思議なことに、魔法じゃないんだって」
魔法じゃない? 一体どういうことだ?
「死霊術は、生き物の死体を魔道具にするやり方の一つなんですよ」
話を聞いていた教師がそう言った。
「生き物の死体を自分の魔力で満たして、風魔法で操る。発動する魔法自体はただの風魔法ですし、魔力を詰めるのは魔法以前の問題。だから、死霊術は魔法とは考えられず、魔道具使用の方法論の一つとされているのです」
へえ、そんなことが。
教師に礼を言いつつ、俺はふと考える。それって、ドラゴンの死体を操って暴れさせる気満々やん。
そこで、はっと思いつく。敵にドラゴンの死体を操らせて、それを狩って功績とすればいいんじゃなかろうか。
俺は授業後、早速スルビヤに相談しに向かった。
スルビヤに了承を受け、セバスチャンに確認を取ったところ「ご自由に」と言われた。俺達は休みの日を狙い、バルカン家継承順位第一位の人物が王都に訪れるのを二人で待っていた。
王都には多くの人が往来しており、たくさん行き交う馬車の中からどうやって目的の馬車を見付けるのかと思っていると、家同時の紋様があしらわれているのだとスルビヤが教えてくれた。
「・・・・・・そう言えば、スルビヤはどうして魔法学園に通っているんだ。こんな所にいない方が、功績ってやつを稼げるんじゃないのか?」
「・・・・・・前当主の遺言何だ。必ず魔法学園に通う様にって。でないと、継承権は渡さないって」
そんな遺言までしていたのか。それを聞くと、遺言を残した人物に、子孫を殺しあわせようとする意図があったとは到底思えなかった。
やがて、目当ての馬車が俺達の許に近付いてきた。
中から、一人の麗人が降りてきた。
アテネ・アーレス・エラダ・バルカン。バルカン家の継承レースで、候補者中唯一の伯爵位を持つ人物だ。




