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九十一 学生、山の主に遭う

「しかしまあ、とりあえず上目指せ、なんて随分とふわふわした依頼だよなぁ」

 デクは妙に顔をにやつかせながら俺に言ってきた。

「山の頂上にある、ということはわかっているんだけど」

「そんな不確かな情報でよく山に登ろうと思ったもんだ」

 以前エイブが闘っていた破壊光線を吐くオオカミがいるような場所だ。正直、どんな化物がいるのかわかったものではない。

「・・・・・・と、噂をすれば」

 デクが指差した方を見ると、クマがいた。人間なら豆粒の様に見える距離で、クマであるとはっきりと分かった。

 クマがこちらに駆けてくる。近付くにつれ、その異常さがわかる。

 身を囲む木々と肩を並べる程の大きさのクマ。でかい。確実に五メートル以上はあるだろう。こんな怖いクマに出会ったら、いつもなら一目散に逃げ出していることだろう。

「早く逃げましょうよ!」

「大丈夫だ。見てな」

 すると、ウマの上でのんびりしていたお嬢さんが、俺達とクマの間で仁王立ちをした。余程優れた魔法使いなのだろうかと思ってみるが、少女は一向に魔法を使う気配が無い。その間にもクマはぐんぐんこちらに近付き、今や目と鼻の先だ。

「やばいですよ! 魔法使わないと─────ほら」

 少女に飛び掛かったクマは、鮮やかに宙を舞った。まるで前世テレビで見た新体操の床の選手の様に、空中で何回も身を捻って地面に着地した。・・・・・・いな、墜落した。

 少女は天に向かって、高々と拳を掲げていた。

 強いって物理の方かよ!



「そう言えば、お嬢さんのお名前は?」

「・・・・・・」

「ルナって呼んでやってくれ」

 先程うっかり「ゴリラみたいですね」と言ったきり、お嬢さんは一切口を聞いてくれなくなった。いや、こんなバトル漫画みたいな展開になったら思わず言っちゃうだろ。

「ルナさんの怪力は、魔法なんですか?」

「ああ。身体能力を強化する魔法ってことはわかってる。自分以外の人間にも使えるらしいぞ。ただし、原理の方はさっぱりみたいだ。俺も魔法学園に通っていた口ではあるが、全く見当がつかん」

 現役生でもわからんのだから仕方ないさ。

 ルナは再び、ウマの上でのんびりしていた。あの華奢な肉体から、一体どれほどの力が生み出されたのか。全く恐ろしい。

「・・・・・・二人は、どうして一緒に行動を?」

「俺があいつを拾ったんだ。本当にそれだけ」

 デクの顔から隠し事をしている雰囲気は読み取れない。どちらかというと、ウマの上で寝っ転がっているお嬢さんの方が気まずそうにしている。

 家を飛び出したんだろうなあ。あの力について何か言われたのかもしれない。俺は魔力が全くない為に親に捨てられることになったが、ルナは力があり過ぎる為に自らかもしくは誰かのせいで家を出て行かなくを得なくなったのかも。そうすると、真逆の存在でありながら似たような境遇にみまわれている彼女に、少しだけ同情した。

 それから何度か魔獣が出たが、ルナさんが一撃で吹っ飛ばして全て解決した。ボーパルバニーも、雷のオオカミも、巨大なクマも、皆一瞬で彼方へと飛んでいった。

 パワーインフレが過ぎんだろ! 何このドラゴンボールみたいな展開。バトル漫画始まっちゃった? それともギャグマンガ?

「ルナさんて、もしかしてドラゴンも倒せたりは」

「さすがに無理よ。普通わかるでしょ」

 ですよね。いや、さすがに。あのラスボス感。どう足掻いても絶望って感じのドラゴンを倒す方法なんてあるわけねえよ。

 ふうと胸を撫でおろしながら前に進み、気付けば俺達はあっさりと山の頂上付近に着いた。そこには露骨に怪しげな洞窟があり、中に広がる暗闇の先に何かがいるような気がした。

「あそこはドラゴンの住処だ。絶対に近付くなよ」

 ですよね~。

 ドラゴン。俺は過去の記憶を思い出す。俺の目の前で思い出の花畑を焼き尽くした、あの恐ろしくも美しい竜。あんなやばい生き物とはもう二度と関わり合いを持ちたくないと、俺は心の底から思っていた。

 俺達は洞窟を無視して頂上を目指して進行を再開した。


 瞬間、洞窟の中から炎が飛び出し、俺の僅か横を通り抜けて後方の木々を焼いた。


「馬鹿な! 今は休眠しているはずだ。何故活動している!」

「きっと寝ぼけているんですよ! 早く離れましょう」

 俺が二人の背中を押して洞窟からできるだけ離れようとすると、中から空間を引き裂くような咆哮が轟いた。

「やはり活動を再開しているのか!? 至急連絡しないと」

「まだわかりませんよ。いびきかも」

「そんなこと言っている場合じゃないだろ」

 デクの真剣な表情を見て、俺は思わず舌打ちをしたくなった。

「・・・・・・俺が見てきます。二人はここに」

 出来るだけ身を低くかがめ、匍匐前進の様な格好で洞窟の入り口に近付き、いつ炎が飛んできても素早く顔を引っ込められるように、恐る恐る洞窟の中を覗いた。

 そこには、かつて花畑を燃やした赤い竜が、そして、かつてその竜を恐れ身動き一つとれなくなっていた俺の友人がいた。

「エイブ!」

 彼はたった一人で、ドラゴンと殺し合いを繰り広げていたのだ。

 咄嗟にポケットから黄金の笛を取り出して吹こうとして、直ぐに気が付く。広くかつ天井にドラゴンが抜けられるほどの大きさの穴が開いているとは言え、岩に囲まれた洞窟の中。明らかにジブリールにとっては動きづらそうだ。

見るからに固そうなドラゴンの皮膚を、ジブリールの爪と雖も一撃で貫けるとは思えなかった。それはつまり、ヒット&アウェイをしなくてはならないことを意味している。

しかし、燃えるものが何もないはずの岩の上をなぞるだけで火を起こすドラゴンの火炎放射は、徐々に徐々にエイブの行動範囲を奪っていった。彼は魔法で火を消していたが、もしこんな所にジブリールを放りこんだら一瞬で焼き尽くされてしまう。

「ルナさん! 中にいる冒険者に力を分けてあげられませんか?」

「何言ってんの。中で闘っている奴がいても無視よ。私は死にたくない」

「デク!」

「・・・・・・確か、お前の友人、何だっけ? 今回ばかりは、助けられないぜ」

「そうですか」

 俺は二人が協力してくれないと見るや、直ぐに洞窟の中に飛び込んだ。デクの呼び止める声が、聞こえたような気がした。

 ドラゴンは俺に気が付くと、『業火』を髣髴とさせる灼熱の吐息を俺に吐き出した。俺はそれを難なく避けると、ドラゴンの体の上に乗る。

「ラック!」

 デクの叫び声が聞こえた。

「エイブ! 俺が注意を引き付けておくから、その内に攻撃しろ!」

「邪魔すんな! こいつは僕が一人で殺すんだ!」

 直撃は無いものの、エイブの服は所々熱で溶け、露出した皮膚は熱で赤くなっていた。全身切り傷擦り傷だらけで、荒い呼吸から疲労の色が伺える。

「だったら逃げろよ! その様子じゃ勝てないぞ!」

「黙れよ!」

 その叫びは、決定的な隙となった。ドラゴンが振り抜いた尻尾がエイブを弾き飛ばした。

「エイブ!」

 俺はドラゴンの背から飛び降り、親友の許へと駆け寄った。

「魔法で防いだ。まだいける」

「直ぐに立ててないだろ! 逃げるぞ!」

 俺は暴れるエイブを無理やり抱え出口に走り出した。しかし、ドラゴンは翼をはためかせ、俺達の前に先回りしていた。


 ─────しまった!


 赤く光るドラゴンの口元を見て己の死を覚悟したが、瞬間入り口を塞いでいた竜の体がふわりと宙に浮き、人が一人通れるくらいの隙間が空いた。

「早くしなさい!」

 見ると、デクとルナがドラゴンを持ち上げていた。恐らく、ルナは木偶にも身体能力を強化する魔法をかけているのだろう。

 ドラゴンはデクとルナに気付いて彼らに攻撃しようとするが、その前に二人を押し倒すような形で、俺はエイブを引きづったまま洞窟を飛び出した。

 しかし、ドラゴンの怒りは収まらないのか、横着して頭しか外に出ない入り口から顔を出してきた。

 その顔にエイブが風の魔法を放ち、洞窟の奥深くまで押し戻す。

「ラック! 何で邪魔したんだ!」

「どう見ても劣勢だっただろ!」

「俺には一撃必殺の魔法があるんだよ!」

「だったら何でそれを直ぐには使わなかったんだ!」

「それは、魔力が、足りなくて」

「じゃあ、助けてあげる」

 ポンっとルナが両手をエイブの両肩に置く。エイブは自分の体を不思議そうにまじまじと眺めていた。

「魔力が、あふれてくる」

 身体能力強化の魔法には、魔力まで増強する効果があるのだろうか。

 エイブが、洞窟に向けて、その先にいるドラゴンに向けて両手を突き出した。

〈包め〉

 瞬間、ドラゴンの全身を大きな半透明の結界が覆った。

〈吐き出せ〉

 洞窟から大量の風が流れてくる。内部で暖められた空気による熱風は、呼吸しようとすると喉を焼こうとしてくるかのようだった。

 その数瞬後、ドラゴンは突然破裂して、全身から血を吹き出して、洞窟の中に倒れた。



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