八十四 学生、予定調和を覗く
朝、共に食事をしたロンの様子は、まさしく上の空、というべきものだった。事情を知る俺はともかく、以前ナオミの時に同様の姿を見たのだろう、レンもロンの身に起こったことをある程度察していた。
しかし、相手が問題だ。問題過ぎる。どうしてロンは叶わぬ恋ばかりに惹かれてしまうのだろうか。・・・・・・俺も人のこと言えないが。
今回のことも俺が原因とは言えなくもないので、ロンに対して多少の罪悪感が生まれてしまった。いや、恋に落ちたのはロン本人の問題ではあるのだが。
俺は胃がキリキリと痛みだすのを感じつつ、次の行動に移った。
今日は第三王子のルートが順調に進んでいるのなら、ヘレナとスコットが三日ぶりの再会を果たす日となる。場所は庭園。またも昼寝しているスコットをヘレナが見つけるのだ。
食事の後直ぐに学園長室に行ってマクマホンの報告を済ませ、イズミルが取っている授業に忍び込んで、彼の交友関係を観察していた。
イズミルはどうやら、ほとんど周囲と関りを持っていないようだった。周囲が避けているというよりも、本人が関りを持とうとしていない様子であった。
そもそも、スコットと関りを持つのに、どうして入学式から半年も経ったパーティーの場を選んだのだろうか。王家に近付きたいのならば、入学時点で直ぐに会いに行けばいいはずだ。まさか半年も王子の存在に気付かない、ということも無いだろう。・・・・・・いや、人と関わらないようにしていればそれもまたあり得るのだろうか。
もしかすると、本人の意思ではなくアナトリア伯爵家の意志で動いている、ということなのだろうか。嫌がっている内に引くに引けない所まで来てしまい、仕方なくパーティーの時に第三王子と接触することになってしまったということか。
テュルキイェ家の内部の情報を知る手段を俺はもっていない。最悪、イズミルの部屋にでも侵入すべきなのだろうか。
昼休み。予定通り、第三王子とヒロインは再会した。
乙女ゲーム的には、花が咲き誇るきれいな庭園で王子と運命の再会を果たす、というとてもロマンチックな場面であるはずなのだが、あまりにも予定調和過ぎたのか、俺の中にはほとんど感動というものが生まれなかった。
いや、昼ドラみたいな展開やヤンデレとか叶わぬ恋とかいった精神を削ってくる感じの事態にばかり触れていたために、ザ・予定調和の展開に安心しきって結果心が揺れなかったんだなきっと。
やはり予定調和は最高だぜ。主人公にしか救えない登場人物とか本当に出さないでほしい。選ばれなかったらそいつどうなるの? 死ぬの?
マルセイジュに多大なる同情をしつつ、俺は第三王子とヒロインの恋路を見守った。髪にキスとかほんとイケメンだな王子。お前らまだ会うの二回目だろうよ。何が「気に入った。お前は俺のものだ」だよ。そんな台詞普通ドン引きされるだけだよ。ただしイケメンに限る台詞だよ。
このイベントの後、ヒロインは第三王子攻略ルートに進むことになる。念のため図書館でのヘレナとユークレインの出会いを妨害すれば、後は夏休みの手前まで特に心配するような事態にはならないだろう。
いやあ、予定調和最高だな。末永くお幸せに。
しかし、第三王子様はヒロインが同じ王家の血を引いているってことに気付いていないのかね。あれか? アニメで赤や青や緑や黄色の登場人物たちが普通に高校生している感じで、色の認識がアバウトなパターンか? でもエルトリアは俺の瞳の色を指摘していたぞ。
ヒロインが赤面しながら庭園を去っていった。第三王子はふっとイケメンの笑いを漏らした。うーん、イケメン。
俺もそろそろお暇しようかと思った瞬間、スコットのすぐそばに光の粒子が現れ、気付けばマントで体を覆い、フードで顔を隠した人物が立っていた。
その姿は、いやという程に見覚えがあった。
「まだ昼だぞ。こんな所に現れて大丈夫か?」
スコットがフードの人物に尋ねた。
「王子とヘレナ様の他に、庭園近辺に反応はありませんでした」
「この前捕まりかけたと聞いたが?」
「シモン・ロマの魔法によって空間に固定されられてしまいましたが、ルシウス・イタロスは私に追いつくことが出来ませんでした。既にシモン・ロマは王都から出て行ったので、もはや捕まる心配はありません」
「俺は、お前の正体が知られていることに問題があると言っているんだ。少しは恰好に工夫して、変装でもしたらどうだ?」
「詳細はわかりませんが、ルシウス・イタロスは魔法で私の記憶がアーカヴィーヴァ・サマリノから消えていると知っていたために、私とイタロス家の別荘消失事件を結び付けたと考えられます。故に、この身が割れているわけではないと推測できます。
また、このマントはフードを取らない限り顔が見えないようになっている魔道具です。顔が知られている心配はありません。もし恰好を変えてしまったら顔を見られる危険が生まれてしまいますし、それに、王子に私と認識してもらえなくなってしまいます」
「まあ、それもそうだな」
ははは、とスコットは爽やかな笑顔を浮かべた。
「それで、何の用だ?」
「予言者が、運命が変わったと言い出しまして」
「運命が変わるだと? 予言者が? こいつは傑作だ。自分で未来を見たと言っておきながら、不都合が生じれば運命が変わった、ときた。エデン神がちょっかいでも入れたのか?」
「本来、ヘレナ様は王子を含め、六名の運命の人とこの魔法学園で出会うことになっていたそうです。しかし、現在三名分の出会いが無くなってしまったらしく」
「未来は不確定ということだ。元々、予言者の言うことなど信じていなかったのだから、今更運命が変わったところでどうということもない」
「ですが、他の者の運命が変わったということは、ヘレナ様と王子を結ぶ運命も」
「──────俺は、欲しいものは必ず手に入れる。女も、王位も、だ。それに、あれはもう、俺のものだ。運命などに構うものか。・・・・・・もう帰れ」
「御意に」
そう言うと、フードの男は光に包まれて、やがて消えた。
そう、フードの「男」だ。間違いなく、やつはマクマホンだ。
第三王子のスコットとマクマホンは繋がっている。この事実は、セバスチャンに報告すべきなのだろうか。もし天網が国の直属の組織なら、俺はその場でセバスチャンに消されるかもしれない。しかし、昨夜の話を聞く限り、天網はセバスチャンがリンゴちゃんに面白い話をする為だけに作った組織の様に思えてしまう。というか、リンゴちゃんが「リンゴちゃん」って名乗ったのって、セバス「チャン」に掛けているのか? セバスちゃん?
・・・・・・まあ冗談はさておき、こいつはやばい展開になってきやがった。
俺は第三王子に気付かれぬよう、こっそりと庭園を抜け出した。




